アルキメデスの性質

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アルキメデスの性質

\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとします。\(\mathbb{R} \)の加法単位元\(0\)と乗法単位元\(1\)の間には\(0<1\)が成り立つため、狭義大小関係\(<\)に関する加法律より、\begin{equation*}
0+1<1+1
\end{equation*}を得ます。加法単位元の定義より左辺は\(1\)です。\(\mathbb{R} \)は加法について閉じているため、右辺の\(1+1\)も実数です。そこでこれを\(2\)と表記するのであれば、\begin{equation*}
1<2
\end{equation*}を得ます。これと\(0<1\)に対して再び\(<\)に関する加法律を適用することにより、\begin{equation*}
1+1<2+1
\end{equation*}を得ます。左辺は\(2\)です。\(\mathbb{R} \)は加法について閉じているため、右辺の\(2+1\)も実数です。そこでこれを\(3\)と表記するのであれば、\begin{equation*}
2<3
\end{equation*}を得ます。このようなプロセスを続けることにより、すべての自然数からなる集合\begin{equation*}\mathbb{N} =\left\{ 1,2,3,\cdots \right\}
\end{equation*}を構成することができます。定義より、\begin{equation*}
1<2<3<\cdots
\end{equation*}という関係が成り立ちます。

\(\mathbb{N} \)は\(\mathbb{R} \)の非空な部分集合であるため、その有界性を議論できます。\(\mathbb{N} \)は明らかに下に有界であり、\(\mathbb{N} \)の下界からなる集合は、\begin{equation*}
L\left( \mathbb{N} \right) =\left\{ x\in
\mathbb{R} \ |\ x\leq 1\right\}
\end{equation*}です。したがって、\(\mathbb{N} \)の下限は、\begin{equation*}
\inf \mathbb{N} =\max L\left( \mathbb{N} \right) =1
\end{equation*}となります。では、\(\mathbb{N} \)は上に有界でしょうか。\(\mathbb{N} \)の要素である自然数\(1,2,3,\cdots \)はいくらでも大きくなり続けるため、\(\mathbb{N} \)が上に有界でないことは直感的には自明です。これをアルキメデスの性質(Archimedean Property)やアルキメデスの原理(Archimedean Principle)などと呼びます。ただ、アルキメデスの性質を厳密に証明するためには\(\mathbb{R} \)の連続性が必要になります。

命題(アルキメデスの性質)
\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとする。このとき、\(\mathbb{N} \)は上に有界ではない。
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証明のスケッチは以下の通りです。\(\mathbb{N} \)が上に有界であるものと仮定します。このとき、\(\mathbb{R} \)の連続性より\(\sup \mathbb{N} \)に相当する実数が存在します。\(\sup \mathbb{N} \)は\(\mathbb{N} \)の上界の1つであるため、\begin{equation}
\forall n\in \mathbb{N} :n\leq \sup \mathbb{N} \tag{1}
\end{equation}が成り立ちます。また、\(\sup \mathbb{N} \)は\(\mathbb{N} \)の上界の中でも最小であるため、\(\sup \mathbb{N} \)よりも小さい\(\sup \mathbb{N} -1\)は\(\mathbb{N} \)の上界ではなく、\begin{equation*}
\exists m\in \mathbb{N} :\sup \mathbb{N} -1<m
\end{equation*}が成り立ちます。この自然数\(m\)については、\begin{equation*}
\sup \mathbb{N} <m+1
\end{equation*}が導かれますが(確認してください)、\(m+1\)もまた自然数であるため、これは\(\left( 1\right) \)と矛盾します。したがって\(\mathbb{N} \)は上に有界ではありません。

 

任意の実数よりも大きい自然数の存在

アルキメデスの性質とは\(\mathbb{N} \)が上に有界でないという主張ですが、これを厳密に定式化しましょう。\(\mathbb{N} \)が上に有界であることとは、\begin{equation*}
\exists x\in
\mathbb{R} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :n\leq x
\end{equation*}が成り立つことを意味します。上の命題中の\(x\)が\(\mathbb{N} \)の上界です。したがって、\(\mathbb{N} \)が上に有界でないこととは、上の命題の否定である、\begin{equation*}
\forall x\in
\mathbb{R} ,\ \exists n\in \mathbb{N} :\lnot \left( n\leq x\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。ただ、大小関係\(\leq \)は全順序であるため、\(\lnot \left( n\leq x\right) \)は\(n>x\)と必要十分です。したがって上の命題を、\begin{equation*}
\forall x\in
\mathbb{R} ,\ \exists n\in \mathbb{N} :x<n
\end{equation*}と言い換えることができます。

命題(アルキメデスの性質の言い換え)
\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとする。このとき、以下の2つの命題は必要十分である。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \mathbb{N} \text{は上に有界ではない} \\
&&\left( b\right) \ \forall x\in
\mathbb{R} ,\ \exists n\in \mathbb{N} :x<n
\end{eqnarray*}
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つまり、アルキメデスの性質とは、任意の実数に対して、それよりも大きい自然数が必ず存在することを意味します。

 

正の実数を繰り返し加える

正の実数\(x,y\)をそれぞれ任意に選びます。\(x\)は正であるため、その乗法逆元\(x^{-1}\)が存在します。\(\mathbb{R} \)は乗法について閉じているため、\(y\cdot x^{-1}\)すなわち\(\frac{y}{x}\)が存在します。アルキメデスの性質より\(\mathbb{N} \)は上に有界ではないため\(\frac{y}{x}\)は\(\mathbb{N} \)の上界ではありません。したがって、\begin{equation*}
\exists n\in \mathbb{N} :\frac{y}{x}<n
\end{equation*}が成り立ちます。このとき、\begin{equation*}
\exists n\in \mathbb{N} :y<n\cdot x \end{equation*}が得られます(確認してください)。つまり、正の実数\(x,y\)が任意に与えられたとき、\(x\)を繰り返し加えていけばいつかは\(y\)を超えることができます。

命題(実数を繰り返し加える)
\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとする。このとき、以下が成り立つ。\begin{equation*} \forall x>0,\ \forall y>0,\ \exists n\in \mathbb{N} :y<n\cdot x \end{equation*}
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逆に、上の命題からアルキメデスの性質を導くこともできます。実際、上の命題において\(x=1\)とおけば、\begin{equation*} \forall y>0,\ \exists n\in \mathbb{N} :y<n
\end{equation*}を得ます。\(y\leq 0\)を満たす任意の実数\(y\)については、例えば、自然数\(1\)が\(y<1\)を満たします。以上を総合すると、\begin{equation*}
\forall y\in
\mathbb{R} ,\ \exists n\in \mathbb{N} :y<n
\end{equation*}を得ます。この命題がアルキメデスの性質の一つの表現であることは先に指摘した通りです。

したがって、上の命題もまたアルキメデスの性質と必要十分です。

命題(アルキメデスの性質の言い換え)
\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとする。このとき、以下の3つの命題はお互いに必要十分である。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \mathbb{N} \text{は上に有界ではない} \\
&&\left( b\right) \ \forall x\in \mathbb{R} ,\ \exists n\in \mathbb{N} :x<n \\
&&\left( c\right) \ \forall x>0,\ \forall y>0,\ \exists n\in \mathbb{N} :y<n\cdot x
\end{eqnarray*}
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任意の正の実数よりも小さい有理数

正の実数\(\varepsilon \)を任意に選ぶと、その乗法逆元\(\varepsilon ^{-1}\)すなわち\(\frac{1}{\varepsilon }\)が存在します。\(\varepsilon ^{-1}\)は実数であるため、アルキメデスの性質より、それより大きい自然数\(n\)が存在します。つまり、\(\varepsilon ^{-1}<n\)が成り立ちます。乗法逆元の符号に関する命題より、\(\varepsilon >0\)と\(\varepsilon ^{-1}>0\)は必要十分です。また、任意の自然数は正であるため\(n>0\)です。以上より、乗法逆元の比較に関する命題を適用すると、\begin{equation*}
n^{-1}<\left( \varepsilon ^{-1}\right) ^{-1}
\end{equation*}を得ますが、これは、\begin{equation*}
\frac{1}{n}<\varepsilon \end{equation*}へと変形可能です(確認してください)。つまり、どれほど小さい正の実数\(\varepsilon \)を選んだ場合でも、それより小さい有理数\(\frac{1}{n}\)が必ず存在するということです。

命題(任意の正の実数よりも小さい有理数)
\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとする。このとき、以下が成り立つ。\begin{equation*} \forall \varepsilon >0,\ \exists n\in \mathbb{N} :\frac{1}{n}<\varepsilon
\end{equation*}
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逆に、上の命題からアルキメデスの性質を導くこともできます。正の実数\(x,y\)をそれぞれ任意に選びます。\(y\)は正であるため乗法逆元\(y^{-1}\)が存在します。\(\mathbb{R} \)は乗法について閉じているため\(x\cdot y^{-1}\)もまた実数です。すると上の命題より、\begin{equation*}
\frac{1}{n}<x\cdot y^{-1} \end{equation*}を満たす自然数が存在します。\(n>0\)であるため、\begin{equation*}
n\cdot \frac{1}{n}<n\cdot \left( x\cdot y^{-1}\right)
\end{equation*}を得ます。除法の定義より\(n^{-1}=\frac{1}{n}\)であることと乗法逆元の定義より左辺は\(1\)です。したがって、\begin{equation*}
1<n\cdot \left( x\cdot y^{-1}\right)
\end{equation*}を得ます。したがって、両辺に\(y\)をかければ、\begin{equation*}
y<n\cdot x
\end{equation*}を得るため(確認してください)、アルキメデスの性質が導かれました。

したがって、上の命題もまたアルキメデスの性質と必要十分です。

命題(アルキメデスの性質の言い換え)
\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとする。このとき、以下の4つの命題はお互いに必要十分である。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \mathbb{N} \text{は上に有界ではない} \\
&&\left( b\right) \ \forall x\in
\mathbb{R} ,\ \exists n\in \mathbb{N} :x<n \\
&&\left( c\right) \ \forall x>0,\ \forall y>0,\ \exists n\in \mathbb{N} :y<n\cdot x \\
&&\left( d\right) \ \forall \varepsilon >0,\ \exists n\in \mathbb{N} :\frac{1}{n}<\varepsilon
\end{eqnarray*}
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実数は整数によって挟まれる

自然集合\(\mathbb{N} =\left\{ 1,2,3,\cdots \right\} \)が与えられたとき、それに加法単位元\(0\)と、\(\mathbb{N} \)のそれぞれの要素の加法逆元\(-1,-2,-3,\cdots \)を加えれば、すべての整数からなる集合\begin{equation*}\mathbb{Z}=\left\{ \cdots ,-3,-2,-1,0,1,2,3,\cdots \right\}
\end{equation*}が得られます。任意の自然数は整数であるため\(\mathbb{N} \subset \mathbb{Z}\)が成り立ちます。

実数\(x\)を任意に選ぶと、アルキメデスの性質より\(x<n\)を満たす自然数\(n\)が存在します。\(x\)の加法逆元\(-x\)もまた実数であるため、やはりアルキメデスの性質より\(-x<m\)を満たす自然数\(m\)が存在しますが、これは\(x>-m\)と必要十分です。以上より、\begin{equation*}
-m<x<n
\end{equation*}となります。\(-m\)と\(n\)はいずれも整数です。つまり、実数が任意に与えられたとき、それよりも大きい整数と、それよりも小さい整数がともに存在します。

命題(実数は整数によって挟まれる)
\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとする。このとき、以下が成り立つ。\begin{equation*}
\forall x\in
\mathbb{R} ,\ \exists z_{1},z_{2}\in \mathbb{Z}:z_{1}<x<z_{2}
\end{equation*}
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逆に、上の命題からアルキメデスの性質を導くこともできます。実数\(x\)を任意に選ぶと、上の命題より、\begin{equation*}
z_{1}<x<z_{2} \end{equation*}を満たす整数\(z_{1},z_{2}\)が存在します。\(z_{2}>0\)の場合、\(z_{2}\)は\(x\)よりも大きい自然数に他なりません。\(z_{2}=0\)の場合、\(x<0\)と\(0<1\)より\(x<1\)が成り立つため、\(1\)は\(x\)よりも大きい自然数です。\(z_{2}<0\)の場合には\(0<-z_{2}\)であるため\(z_{2}<-z_{2}\)を得ます。さらにこれと\(x<z_{2}\)より\(x<-z_{2}\)を得るため、\(-z_{2}\)は\(x\)よりも大きい自然数です。いずれの場合にも\(x\)よりも大きな自然数が存在するため、アルキメデスの性質が導かれました。

したがって、上の命題もまたアルキメデスの性質と必要十分です。

命題(アルキメデスの性質の言い換え)
\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとする。このとき、以下の5つの命題はお互いに必要十分である。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \mathbb{N} \text{は上に有界ではない} \\
&&\left( b\right) \ \forall x\in
\mathbb{R} ,\ \exists n\in \mathbb{N} :x<n \\
&&\left( c\right) \ \forall x>0,\ \forall y>0,\ \exists n\in \mathbb{N} :y<n\cdot x \\
&&\left( d\right) \ \forall \varepsilon >0,\ \exists n\in \mathbb{N} :\frac{1}{n}<\varepsilon \\
&&\left( e\right) \ \forall x\in
\mathbb{R} ,\ \exists z_{1},z_{2}\in \mathbb{Z}:z_{1}<x<z_{2}
\end{eqnarray*}
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実数の整数部分(ガウス記号)と床関数

アルキメデスの性質は様々な形で表現できることが明らかになりました。その中の1つは、\begin{equation*}
\forall x\in
\mathbb{R} ,\ \exists z_{1},z_{2}\in \mathbb{Z}:z_{1}<x<z_{2}
\end{equation*}であり、これは、実数\(x\)を任意に選んだとき、それを挟む2つの整数\(z_{1},z_{2}\)の存在を保証しています。アルキメデスの性質を利用すると、上の命題を精緻化した以下の命題を導くことができます(演習問題にします)。

命題(実数の整数部分)

\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとする。このとき、\begin{equation*}
\forall x\in
\mathbb{R} ,\ \exists !z\in \mathbb{Z}:z\leq x<z+1
\end{equation*}が成り立つ。ただし、\(\exists !\)は「一意的に存在する」ことを表す記号である。

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それぞれの実数\(x\)に対して、上の命題中の条件\(z\leq x<z+1\)を満たす整数\(z\)を\(\left[ x\right] \)で表記します。つまり、それぞれの実数\(x\)に対して、\begin{equation*}
\left[ x\right] \leq x<\left[ x\right] +1
\end{equation*}を満たす整数として\(\left[ x\right] \)を定義するということです。\(\left[ x\right] \leq x\)より、\(\left[ x\right] \)は\(x\)を超えない整数です。\(\left[ x\right] \)の次の整数は\(\left[ x\right] +1\)ですが、\(x<\left[ x\right] +1\)より、これは\(x\)を超えてしまいます。したがって、\(\left[ x\right] \)は実数\(x\)を超えない整数の中で最大のものです。これを\(x\)の整数部分(integer part)と呼びます。整数部分を表記するカッコ\(\left[ \ \right] \)を日本ではガウス記号と呼びます。

上の命題より、それぞれの実数\(x\in \mathbb{R} \)に対してその整数部分\(\left[ x\right] \in \mathbb{Z}\)が1つずつ存在することが保証されるため、\begin{equation*}
f\left( x\right) =\left[ x\right] \end{equation*}を満たす関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{Z}\)が定義可能です。これを床関数(floor function)や最大整数関数(greatest integer function)などと呼びます。

次回は有理数の稠密性について学びます

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