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DEFINITION OF REAL NUMBER

アルキメデスの性質

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アルキメデスの性質

公理主義的実数論の立場のもと、実数空間\(\mathbb{R} \)におけるすべての帰納的集合からなる集合族\(\left\{ A_{\lambda }\right\} _{\lambda \in \Lambda }\)に対して、\begin{equation*}\mathbb{N} =\bigcap\limits_{\lambda \in \Lambda }A_{\lambda }\end{equation*}を満たすものとして自然数集合\(\mathbb{N} \)を定義しました。加えて、\(\mathbb{N} \)の要素である個々の自然数に、\begin{equation*}\mathbb{N} =\left\{ 1,2,3,4,5,6,\cdots \right\} \end{equation*}などの名称をつけた上で、これらの間に、\begin{equation*}
1<2<3<4<5<6<\cdots
\end{equation*}という関係が成立することを確認しました。

さて、\(\mathbb{N} \)は\(\mathbb{R} \)の非空な部分集合であるため、その有界性を議論できます。まず、実数の公理より、\begin{equation*}0<1
\end{equation*}が導かれますが、これと\(\mathbb{N} \)の定義より、\(0\)は任意の自然数よりも小さい実数です。したがって、\(\mathbb{N} \)は下に有界です。\(\mathbb{N} \)のすべての下界からなる集合は、\begin{equation*}L\left( \mathbb{N} \right) =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ x\leq 1\right\}
\end{equation*}であり、\(\mathbb{N} \)の下限は、\begin{equation*}\inf \mathbb{N} =\max L\left( \mathbb{N} \right) =1
\end{equation*}となります。では、\(\mathbb{N} \)は上に有界でしょうか。\(\mathbb{N} \)の要素である自然数\(1,2,3,\cdots \)はいくらでも大きくなり続けるため、\(\mathbb{N} \)が上に有界でないことは直感的には自明です。これをアルキメデスの性質(Archimedean Property)やアルキメデスの原理(Archimedean Principle)などと呼びます。ただ、アルキメデスの性質を厳密に証明するためには\(\mathbb{R} \)の連続性が必要になります。

命題(アルキメデスの性質)
\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとする。このとき、\(\mathbb{N} \)は上に有界ではない。
証明

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任意の実数よりも大きい自然数の存在

アルキメデスの性質とは\(\mathbb{N} \)が上に有界でないという主張ですが、これを厳密に定式化しましょう。\(\mathbb{N} \)が上に有界であることとは、\begin{equation*}\exists x\in \mathbb{R} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :n\leq x
\end{equation*}が成り立つことを意味します。上の命題中の\(x\)が\(\mathbb{N} \)の上界です。したがって、\(\mathbb{N} \)が上に有界でないこととは、上の命題の否定である、\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} ,\ \exists n\in \mathbb{N} :\lnot \left( n\leq x\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。ただ、大小関係\(\leq \)は全順序であるため、\(\lnot \left( n\leq x\right) \)は\(n>x\)と必要十分です。したがって上の命題を、\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} ,\ \exists n\in \mathbb{N} :x<n
\end{equation*}と言い換えることができます。つまり、アルキメデスの性質とは、任意の実数に対してそれよりも大きい自然数が必ず存在するという命題として理解可能です。

命題(アルキメデスの性質の言い換え)
\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとする。このとき、\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} ,\ \exists n\in \mathbb{N} :x<n
\end{equation*}が成り立つことはアルキメデスの性質が成り立つための必要十分条件である。

 

正の実数を繰り返し加える

正の実数\(x,y\)をそれぞれ任意に選びます。\(x\)は\(0\)とは異なる実数であるため、乗法逆元の定義より\(x^{-1}\)もまた実数であることが保証されます。\(\mathbb{R} \)は乗法について閉じているため\(y\cdot x^{-1}\)すなわち\(\frac{y}{x}\)が存在します。アルキメデスの性質より\(\mathbb{N} \)は上に有界ではないため\(\frac{y}{x}\)は\(\mathbb{N} \)の上界ではありません。したがって、\begin{equation*}\exists n\in \mathbb{N} :\frac{y}{x}<n
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\exists n\in \mathbb{N} :y<n\cdot x
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、正の実数\(x,y\)が任意に与えられたとき、\(x\)を繰り返し加えていけばいつかは\(y\)を超えることができます。逆に、上の命題からアルキメデスの性質を導くこともできます(演習問題にします)。

命題(実数を繰り返し加える)
\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとする。このとき、\begin{equation*}\forall x>0\ \forall y>0,\ \exists n\in \mathbb{N} :y<n\cdot x
\end{equation*}が成り立つことはアルキメデスの性質が成り立つための必要十分条件である。
証明

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任意の正の実数よりも小さい有理数

正の実数\(\varepsilon \)を任意に選ぶと、\(\varepsilon \)は\(0\)とは異なる実数であるため、乗法逆元の定義より\(\varepsilon ^{-1}\)が実数であることが保証されます。するとアルキメデスの性質より、\(\varepsilon ^{-1}<n\)を満たす自然数\(n\in \mathbb{N} \)が存在します。乗法逆元の符号に関する命題より\(\varepsilon >0\)と\(\varepsilon ^{-1}>0\)は必要十分です。また、任意の自然数は正であるため\(n>0\)です。以上より、乗法逆元の比較に関する命題を適用すると、\begin{equation*}n^{-1}<\left( \varepsilon ^{-1}\right) ^{-1}
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\frac{1}{n}<\varepsilon
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、どれほど小さい正の実数\(\varepsilon \)を選んだ場合でも、それより小さい有理数\(\frac{1}{n}\)が必ず存在するということです。逆に、上の命題からアルキメデスの性質を導くこともできます(演習問題にします)。

命題(任意の正の実数よりも小さい有理数)
\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとする。このとき、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \exists n\in \mathbb{N} :\frac{1}{n}<\varepsilon
\end{equation*}が成り立つことはアルキメデスの性質が成り立つための必要十分条件である。
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実数は整数によって挟まれる

自然集合\(\mathbb{N} =\left\{ 1,2,3,\cdots \right\} \)が与えられたとき、それに加法単位元\(0\)と、\(\mathbb{N} \)のそれぞれの要素の加法逆元\(-1,-2,-3,\cdots \)を加えれば、すべての整数からなる集合\begin{equation*}\mathbb{Z} =\left\{ \cdots ,-3,-2,-1,0,1,2,3,\cdots \right\}\end{equation*}が得られます。任意の自然数は整数であるため\(\mathbb{N} \subset \mathbb{Z} \)が成り立ちます。

実数\(x\)を任意に選ぶと、アルキメデスの性質より\(x<n\)を満たす自然数\(n\)が存在します。加法逆元の定義より\(-x\)が実数であることが保証されるため、アルキメデスの性質より\(-x<m\)を満たす自然数\(m\)が存在しますが、これは\(x>-m\)と必要十分です。以上より、\begin{equation*}-m<x<n
\end{equation*}となります。\(-m\)と\(n\)はいずれも整数です。つまり、実数が任意に与えられたとき、それよりも大きい整数と、それよりも小さい整数がともに存在します。逆に、上の命題からアルキメデスの性質を導くこともできます(演習問題にします)。

命題(実数は整数によって挟まれる)
\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとする。このとき、\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} ,\ \exists z_{1},z_{2}\in \mathbb{Z} :z_{1}<x<z_{2}
\end{equation*}が成り立つことはアルキメデスの性質が成り立つための必要十分条件である。
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これまでの議論の結論を整理しましょう。アルキメデスの性質は以下のような様々な形に言い換え可能です。

命題(アルキメデスの性質の言い換え)
\(\mathbb{R} \)は実数の公理を満たすものとする。このとき、以下の5つの命題はお互いに必要十分である。\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \mathbb{N} \text{は上に有界ではない} \\
&&\left( b\right) \ \forall x\in \mathbb{R} ,\ \exists n\in \mathbb{N} :x<n \\
&&\left( c\right) \ \forall x>0,\ \forall y>0,\ \exists n\in \mathbb{N} :y<n\cdot x \\
&&\left( d\right) \ \forall \varepsilon >0,\ \exists n\in \mathbb{N} :\frac{1}{n}<\varepsilon \\
&&\left( e\right) \ \forall x\in \mathbb{R} ,\ \exists z_{1},z_{2}\in \mathbb{Z} :z_{1}<x<z_{2}
\end{eqnarray*}

次回は数学的帰納法の原理について解説します。

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