除法と呼ばれる二項演算は乗法から間接的に定義されます。除法に関する性質もまた、乗法の性質を規定する公理から証明されてはじめて正しいものとして認められます。
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除法

\(x\in \mathbb{R}\)と\(y\in \mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} \)をそれぞれ任意に選んだ上で、実数を値として取る変数\(z\in \mathbb{R}\)に関する方程式\begin{equation}
y\cdot z=x \tag{1}
\end{equation}を考えます。\(y\)は\(0\)ではない実数であるため、その乗法逆元\(y^{-1}\)に相当する実数が存在します。また、\(\mathbb{R}\)は乗法について閉じているため、\(x\cdot y^{-1}\)もまた実数です。そこで、方程式\(\left( 1\right) \)の解の候補として実数\(z=x\cdot y^{-1}\)を考えると、\begin{align*}
y\cdot z& =y\cdot \left( x\cdot y^{-1}\right) \quad \because z=x\cdot y^{-1}
\\
& =y\cdot \left( y^{-1}\cdot x\right) \quad \because \ \text{乗法の交換律} \\
& =\left( y\cdot y^{-1}\right) \cdot x\quad \because \ \text{乗法の結合律} \\
& =1\cdot x\quad \because \ \text{乗法逆元の定義} \\
& =x\quad \because \ \text{乗法単位元の定義}
\end{align*}となるため、\(x\cdot y^{-1}\)が方程式\(\left( 1\right) \)の解であることが示されました。

さらに、方程式\(\left( 1\right) \)の解が一意的であることを示すために、これが異なる2つの解\(z,z^{\prime }\)を持つものと仮定します。このとき\(y\cdot z=x\)と\(y\cdot z^{\prime }=x\)が成り立ちます。すると\(y\cdot z=y\cdot z^{\prime }\)が成り立ちますが、乗法に関する簡約法則より、\(z=z^{\prime }\)となります。これは\(z\)と\(z^{\prime }\)が異なるという事実と矛盾するため、方程式\(\left( 1\right) \)の解は一意的です。

命題(除法の根拠)
\(x\in \mathbb{R}\)と\(y\in \mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} \)をそれぞれ任意に選んだとき、方程式\(y\cdot z=x\)は一意的な解\(z=x\cdot y^{-1}\in \mathbb{R}\)を持つ。
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上の命題より、乗法\(\cdot \)が与えられたとき、実数\(x\)と\(0\)ではない実数\(y\)からなるそれぞれの順序対\(\left( x,y\right) \)に対して、方程式\(y\cdot z=x\)の一意的な解に相当する実数\(x\cdot y^{-1}\)を定める\(\mathbb{R}\)上の二項演算が定義可能です。これを除法(division)と呼び、その演算子を\(/:\mathbb{R}\times \mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} \rightarrow \mathbb{R}\)で表します。さらに、除法\(/\)が\(\left( x,y\right) \)に対して定める実数\(x\cdot y^{-1}\)を\(x/y\)や\(\frac{x}{y}\)などで表し、これを\(x\)と\(y\)の(quotient)と呼びます。また、\(\left( x,y\right) \)に対して\(/\)を適用することを、\(x\)を\(y\)で割る(devide)と呼びます。

 

乗法単位元との除法

実数\(x\in \mathbb{R}\)を任意に選んだとき、それと乗法単位元\(1\)の除法は、\begin{equation*}
\frac{x}{1}=x\cdot 1^{-1}
\end{equation*}と定義されます。以前に示したように乗法に関する簡約法則より\(1^{-1}=1\)が導かれるため、\begin{equation*}
\frac{x}{1}=x\cdot 1
\end{equation*}を得ます。さらに、乗法単位元の定義より\(x\cdot 1=x\)であるため、\begin{equation*}
\frac{x}{1}=x
\end{equation*}を得ます。つまり、実数を乗法単位元で割っても変化は起こりません。

命題(乗法単位元との除法)
実数\(x\in \mathbb{R}\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
\frac{x}{1}=x
\end{equation*}が成り立つ。
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同様にして、以下を導くことができます。

命題(乗法単位元との減法)
実数\(x\in \mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} \)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
\frac{1}{x}=x^{-1}
\end{equation*}が成り立つ。
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積や商の乗法逆元

実数\(x,y\in \mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} \)を任意に選んだ上で、それらの積の乗法逆元\(\left( xy\right) ^{-1}\)について、\begin{equation*}
\left( xy\right) ^{-1}=x^{-1}y^{-1}
\end{equation*}が成り立つことを示します。乗法逆元の定義より、これは、\begin{equation*}
\left( xy\right) \cdot \left( x^{-1}y^{-1}\right) =1
\end{equation*}と言い換え可能です。これを示すことが目標になります。実際、\begin{eqnarray*}
\left( xy\right) \cdot \left( x^{-1}y^{-1}\right) &=&\left( x\cdot
x^{-1}\right) \cdot \left( y\cdot y^{-1}\right) \quad \because \text{乗法の結合律と交換律} \\
&=&1\cdot 1\quad \because \text{乗法逆元の定義} \\
&=&1\quad \because \text{乗法単位元の定義}
\end{eqnarray*}となるため、目標は達成されました。

命題(積の乗法逆元)
実数\(x,y\in \mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} \)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
\left( xy\right) ^{-1}=x^{-1}y^{-1}
\end{equation*}が成り立つ。
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同様にして、以下を導くことができます。

命題(商の乗法逆元)
実数\(x,y\in \mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} \)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
\left( \frac{x}{y}\right) ^{-1}=\frac{y}{x}
\end{equation*}が成り立つ。
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次回は加法と除法の関係を規定する公理について解説します。

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