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実数の定義

実数の狭義大小関係

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実数の大小関係

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狭義大小関係

実数体\(\mathbb{R} \)上には大小関係\(\leq \)が定義されており、これは全順序としての公理を満たすものとします。このとき、任意の実数\(x,y\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}x<y\Leftrightarrow \left( x\leq y\wedge x\not=y\right)
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} \)上の新たな二項関係\(<\)を定義します。これを狭義大小関係(strict magnitude relation)と呼びます。つまり、実数\(x,y\)について、\(x\)が\(y\)以下であるとともに\(x\)が\(y\)とは異なる場合、そしてその場合にのみ\(x<y\)が成り立つものと定義するということです。実数\(x,y\)に対して\(x<y\)が成り立つとき、\(x\)は\(y\)より小さい(less)とか、\(y\)は\(x\)より大きい(greater)などと言います。

狭義大小関係\(<\)の逆関係を\(>\)と表記します。つまり、任意の実数\(x,y\in \mathbb{R} \)について、\begin{equation*}x>y\Leftrightarrow y<x
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} \)上の二項関係\(>\)を定義します。実数\(x,y\)について、\(x\)が\(y\)より大きいことを\(x>y\)と表記してもよいものと定めるということです。

狭義大小関係\(<\)は大小関係\(\leq \)から間接的に定義されており、\(<\)に関する性質は\(\leq \)に関する公理から導かれてはじめて正しいものとして認められます。以降では、\(<\)に関する基本的な性質を\(\leq \)の公理から導きます。

 

狭義大小関係の非対称律

\(x<y\)を満たす実数\(x,y\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、大小関係\(\leq \)の公理より、\(y<x\)が成り立たないこと、すなわち、\begin{equation*}\lnot \left( y<x\right)
\end{equation*}が成り立つことが示されます。つまり、実数\(x,y\)について、\(x\)が\(y\)より小さい場合、\(y\)は\(x\)よりも小さくないことが保証されます。これを狭義大小関係に関する非対称律(asymmetric law)と呼びます。

命題(狭義大小関係の非対称律)
\(\mathbb{R} \)上の狭義大小関係\(<\)は、\begin{equation*}\forall x,y\in \mathbb{R} :\left[ x<y\Rightarrow \lnot \left( y<x\right) \right] \end{equation*}を満たす。

証明

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狭義大小関係の推移律

\(x<y\)と\(y<z\)を満たす実数\(x,y,z\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、大小関係\(\leq \)の公理より、\begin{equation*}x<z
\end{equation*}が成り立つことが示されます。つまり、実数\(x,y\)について、\(x\)よりも\(y\)の方が大きく、さらに\(z\)が\(y\)よりも大きい場合には、\(z\)が\(x\)よりも大きいことが保証されます。これを狭義大小関係に関する推移律(transitive law)と呼びます。

命題(狭義大小関係の推移律)
\(\mathbb{R} \)上の狭義大小関係\(<\)は、\begin{equation*}\forall x,y,z\in \mathbb{R} :\left[ \left( x<y\wedge y<z\right) \Rightarrow x<z\right] \end{equation*}を満たす。

証明

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\(\mathbb{R} \)上に定義された狭義大小関係\(<\)が非反射律と推移律を満たすことは、\(<\)が\(\mathbb{R} \)上の狭義順序(strictordering)であり、それらの組\(\left( \mathbb{R} ,<\right) \)が狭義順序集合(strict ordering set)であることを意味します。

 

狭義大小関係の非反射律

繰り返しになりますが、狭義大小関係\(<\)の非対称律とは、\begin{equation*}\forall x,y\in \mathbb{R} :\left[ x<y\Rightarrow \lnot \left( y<x\right) \right] \end{equation*}が成り立つことを意味します。上の命題において\(x\)と\(y\)は任意であるため\(y=x\)とすると、\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} :\left[ x<x\Rightarrow \lnot \left( x<x\right) \right] \end{equation*}を得ます。したがって、\(x<x\)が成り立つものと仮定すると\(\lnot \left( x<x\right) \)が成り立ち矛盾であるため、背理法より\(x<x\)が成り立たないこと、すなわち、\begin{equation*}\lnot \left( x<x\right)
\end{equation*}が成り立つことが示されました。つまり、任意の実数\(x\)について、それは\(x\)自身より小さくはなく、\(x\)自身より大きくもないことが保証されます。これを狭義大小関係に関する非反射律(antireflexive law)と呼びます。

命題(狭義大小関係の非反射律)
\(\mathbb{R} \)上の狭義大小関係\(<\)は、\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} :\lnot \left( x<x\right)
\end{equation*}を満たす。

狭義大小関係\(<\)の非対称律から非反射律を導きましたが、推移律を踏まえると、逆に非反射律から非対称律を導くことができます。つまり、狭義大小関係\(<\)に関して、非対称律と非反射律は必要十分です。

命題(非対称律と非反射律の関係)
\(\mathbb{R} \)上の狭義大小関係\(<\)に関して、非対称律が成り立つことと非反射律が成り立つことは必要十分である。
証明

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狭義大小関係の三分律

狭義大小関係\(<\)は\(\mathbb{R} \)上の二項関係であるため、実数\(x,y\in \mathbb{R} \)をそれぞれ任意に選んだとき、\(x<y\)や\(y<x\)や\(x=y\)などの命題はそれぞれ真か偽のどちらか一方です。したがって、論理的な可能性として以下の命題\begin{equation*}\lnot \left( x<y\right) \wedge \lnot \left( y<x\right) \wedge \left(
x\not=y\right)
\end{equation*}が成立するケースを考慮する必要があります。この場合、\(<\)を用いて\(x\)と\(y\)の大小を判定できないことになります。しかし、実際には上のケースは起こり得ず、上の命題の否定に相当する、\begin{equation*}x<y\vee y<x\vee x=y
\end{equation*}が任意の\(x,y\)に対して成立することが示されるため、結局、\(<\)を用いて任意の2つの実数\(x,y\)どうしの大小を判定できるということになります。以上の性質を\(<\)に関する三分律(trichotomy law)と呼びます。

命題(狭義大小関係の三分律)
\(\mathbb{R} \)上の狭義大小関係\(<\)は、\begin{equation*}\forall x,y\in \mathbb{R} :\left( x<y\vee y<x\vee x=y\right)
\end{equation*}を満たす。

証明

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\(\mathbb{R} \)上に定義された狭義大小関係\(<\)が非反射律と推移律に加えて三分律を満たすことは、\(<\)が\(\mathbb{R} \)上の狭義全順序(strict total ordering)であり、それらの組\(\left( \mathbb{R} ,<\right) \)が狭義全順序集合(strict total ordering set)であることを意味します。

繰り返しになりますが、狭義大小関係\(<\)の三分律とは、\begin{equation*}\forall x,y\in \mathbb{R} :\left( x<y\vee y<x\vee x=y\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。つまり、実数\(x,y\)を任意に選んだとき、\(x<y\)と\(y<x\)と\(x=y\)の中の少なくとも1つが成り立つということです。少なくとも1つが成り立つという表現は、その中の複数が同時に成り立つ可能性を排除していません。しかし、先の命題の証明から明らかであるように、実際には\(x<y\)と\(y<x\)と\(x=y\)の中の2つ以上が同時に起こることはなく、その中の1つだけが成り立ちます。

命題(実数の比較)
実数\(x,y\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\begin{equation*}x<y,\quad y<x,\quad x=y
\end{equation*}の中のいずれか1つ、そして1つだけが成り立つ。

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実数の符号

実数\(x\)を任意に選んだとき、それが\(0<x\)を満たす場合、この実数\(x\)は(positive)であると言います。逆に、\(x<0\)を満たす場合、実数\(x\)は(negative)であると言います。すべての正の実数からなる集合、すべての負の実数からなる集合をそれぞれ、\begin{eqnarray*}\mathbb{R} _{++} &=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ 0<x\right\} \\\mathbb{R} _{−−} &=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ x<0\right\} \end{eqnarray*}と表記します。先に示した狭義大小関係\(<\)の性質を利用すると、\(0\)とは異なるそれぞれの実数は\(\mathbb{R} _{++}\)と\(\mathbb{R} _{−−}\)のどちらか一方の要素であるとともに、\(0\)はどちらの要素でもないことが示されます。

命題(実数の符号)
\(\mathbb{R} \)上の狭義大小関係\(<\)に関して、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ 0\not\in \mathbb{R} _{++}\cup \mathbb{R} _{−−} \\
&&\left( b\right) \ \forall x\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} :x\in \mathbb{R} _{++}\veebar x\in \mathbb{R} _{−−}
\end{eqnarray*}が成り立つ。

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演習問題

問題(大小関係と狭義大小関係の関係)
実数\(x,y\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}\left( a\right) \ x &<&y\Leftrightarrow \lnot \left( y\leq x\right) \\
\left( b\right) \ x &\leq &y\Leftrightarrow \lnot \left( y<x\right)
\end{eqnarray*}が成り立つことを証明してください。

証明

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問題(大小関係と狭義大小関係の関係)
実数\(x,y\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\begin{equation*}x\leq y\Leftrightarrow (x<y\vee x=y)
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。

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問題(大小関係と狭義大小関係の関係)
実数\(x,y\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}\left( b\right) \ \left( x<y\wedge y\leq z\right) &\Rightarrow &x<z \\
\left( b\right) \ \left( x\leq y\wedge y<z\right) &\Rightarrow &x<z
\end{eqnarray*}が成り立つことを証明してください。

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