指数が整数である場合の実数の累乗
実数\(a\in \mathbb{R} \)と自然数\(n\in \mathbb{N} \)が与えられたとき、底が\(a\)で指数が\(n\)であるような累乗を、\begin{equation*}a^{n}=\overset{n\text{個}}{\overbrace{a\times \cdots \times a}}
\end{equation*}と定義した上で、これが指数法則などの性質を満たすことを示しました。では、指数を自然数\(n\in \mathbb{N} \)から整数\(z\in \mathbb{Z} \)へ拡張した場合の累乗\begin{equation*}a^{z}
\end{equation*}をどのように定義すればよいでしょうか。
以降では、底\(a\)は非ゼロの実数であるものとします。指数\(z\)が正の整数である場合には\(z\)は自然数に他ならず、したがって、この場合の累乗\(a^{z}\)の定義としては自然数指数の累乗の定義を引き続き採用します。つまり、\(a\not=0\)かつ\(z>0\)の場合の累乗を、\begin{equation*}a^{z}=\overset{z\text{個}}{\overbrace{a\times \cdots \times a}}
\end{equation*}と定義します。実数集合\(\mathbb{R} \)は乗法について閉じているため、この場合には\(a^{z}\)は必ず1つの実数として定まります。
続いて、指数\(z\)がゼロである場合の累乗\(a^{0}\)について考えます。指数が自然数である場合の累乗に関する指数法則より、\(m>n\)を満たす自然数\(m,n\in \mathbb{N} \)を任意に選ぶと、\begin{equation}\frac{a^{m}}{a^{n}}=a^{m-n} \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立ちますが、\(m=n\)を満たす自然数\(m,n\)に対しても\(\left( 1\right) \)が成り立つものと指数法則を拡張するのであれば、\begin{eqnarray*}1 &=&\frac{a^{m}}{a^{n}}\quad \because m=n \\
&=&a^{m-n}\quad \because \left( 1\right) \\
&=&a^{0}\quad \because m=n
\end{eqnarray*}を得ます。そこで、\(a\not=0\)かつ\(z=0\)である場合の累乗を、\begin{equation*}a^{0}=1
\end{equation*}と定義します。
最後に、指数\(z\)が負の整数である場合の累乗\(a^{z}\)について考えます。負の整数\(z\)は何らかの自然数\(n\)を用いて\(z=-n\)と表現できるため、この場合には、\begin{equation*}a^{z}=a^{-n}
\end{equation*}と表現できます。指数が自然数である場合の累乗に関する指数法則より、\(m>n\)を満たす自然数\(m,n\in \mathbb{N} \)を任意に選ぶと、\begin{equation}\frac{a^{m}}{a^{n}}=a^{m-n} \quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立ちますが、\(m=0\)に対しても\(\left( 2\right) \)が成り立つものと指数法則を拡張するのであれば、\begin{eqnarray*}\frac{1}{a^{-z}} &=&\frac{1}{a^{n}}\quad \because z=-n \\
&=&\frac{a^{0}}{a^{n}}\quad \because a^{0}=1 \\
&=&a^{0-n}\quad \because \left( 2\right) \\
&=&a^{-n} \\
&=&a^{z}\quad \because z=-n
\end{eqnarray*}となります。そこで、\(a\not=0\)かつ\(z<0\)の場合の累乗を、\begin{equation*}a^{z}=\frac{1}{a^{-z}}
\end{equation*}と定義します。\(a\not=0\)かつ\(-z\in \mathbb{N} \)より\(a^{-z}\not=0\)です。実数集合\(\mathbb{R} \)は除法について閉じているため(ゼロで割ることを除く)、この場合には\(\frac{1}{a^{-z}}\)すなわち\(a^{z}\)は必ず1つの実数として定まります。
結論をまとめます。非ゼロの実数\(a\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)と整数\(z\in \mathbb{Z} \)を任意に選んだとき、底が\(a\)であり指数が\(z\)であるような累乗は、\begin{equation*}a^{z}=\left\{
\begin{array}{cc}
a^{z} & \left( if\ z>0\right) \\
1 & \left( if\ z=0\right) \\
\dfrac{1}{a^{-z}} & \left( if\ z<0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}と定義されます。
底\(a\)がゼロの場合には、整数\(z\in \mathbb{Z} \)を非負に限定した上で、\begin{equation*}0^{z}=\left\{
\begin{array}{cc}
0 & \left( if\ z>0\right) \\
1 & \left( if\ z=0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}となります。
1^{-2} &=&\frac{1}{1^{2}}=\frac{1}{1\cdot 1}=1 \\
1^{-1} &=&\frac{1}{1^{1}}=\frac{1}{1}=1 \\
1^{0} &=&1 \\
1^{1} &=&1 \\
1^{2} &=&1\cdot 1=1 \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
2^{-2} &=&\frac{1}{2^{2}}=\frac{1}{2\cdot 2}=\frac{1}{4} \\
2^{-1} &=&\frac{1}{2^{1}}=\frac{1}{2} \\
2^{0} &=&1 \\
2^{1} &=&1 \\
2^{2} &=&2\cdot 2=2 \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
10^{-2} &=&\frac{1}{10^{2}}=\frac{1}{10\cdot 10}=\frac{1}{100} \\
10^{-1} &=&\frac{1}{10^{1}}=\frac{1}{10} \\
10^{0} &=&1 \\
10^{1} &=&10 \\
10^{2} &=&10\cdot 10=100 \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
\left( -1\right) ^{-2} &=&\frac{1}{\left( -1\right) ^{2}}=\frac{1}{\left(
-1\right) \cdot \left( -1\right) }=1 \\
\left( -1\right) ^{-1} &=&\frac{1}{\left( -1\right) ^{1}}=\frac{1}{-1}=-1 \\
\left( -1\right) ^{0} &=&1 \\
\left( -1\right) ^{1} &=&-1 \\
\left( -1\right) ^{2} &=&\left( -1\right) \cdot \left( -1\right) =1 \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}
\left( \frac{1}{10}\right) ^{-2} &=&\frac{1}{\left( \frac{1}{10}\right) ^{2}}=\frac{1}{\frac{1}{10}\cdot \frac{1}{10}}=100 \\
\left( \frac{1}{10}\right) ^{-1} &=&\frac{1}{\left( \frac{1}{10}\right) ^{1}}=10 \\
\left( \frac{1}{10}\right) ^{0} &=&1 \\
\left( \frac{1}{10}\right) ^{1} &=&\frac{1}{10} \\
\left( \frac{1}{10}\right) ^{2} &=&\frac{1}{10}\cdot \frac{1}{10}=\frac{1}{100} \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
2.99792458\times 10^{8}
\end{equation*}です。電子の質量(kg)は、\begin{equation*}
9.1093897\times 10^{-31}
\end{equation*}です。アリの平均体重(g)は、\begin{equation*}
6\times 10^{-3}
\end{equation*}です。オスのシロサイの平均体重(kg)は、\begin{equation*}
2.3\times 10^{3}
\end{equation*}です。このような表記方法を指数表記(exponential notation)と呼びます。
累乗の符号
非ゼロの実数\(a\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)と整数\(z\in \mathbb{Z} \)が与えられたとき、\begin{equation*}a^{z}\not=0
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、非ゼロの実数の累乗は非ゼロです。
\end{equation*}が成り立つ。
正の実数\(a>0\)と整数\(z\in \mathbb{Z} \)が与えられたとき、\begin{equation*}a^{z}>0
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、正の実数の整数乗は正の実数です。
\end{equation*}が成り立つ。
負の整数乗の解釈
非ゼロの実数\(a\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)が与えられたとき、\begin{equation*}a^{-1}=\frac{1}{a}
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(a\)の\(-1\)乗は\(a\)の乗法逆元である\(a\)の逆数\(\frac{1}{a}\)と一致します。
\end{equation*}が成り立つ。
非ゼロの実数\(a\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)と自然数\(n\in \mathbb{N} \)が与えられたとき、以下の関係\begin{equation*}a^{-n}=\left( \frac{1}{a}\right) ^{n}=\left( a^{n}\right) ^{-1}
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(a\)の\(-n\)乗は\(a\)の逆数の\(n\)乗や、\(a\)の\(n\)乗の\(-1\)乗と一致します。
\end{equation*}が成り立つ。
底を共有する累乗の積
非ゼロの実数\(a\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)と整数\(z_{1},z_{2}\in \mathbb{Z} \)が与えられたとき、以下の関係\begin{equation*}a^{z_{1}}\cdot a^{z_{2}}=a^{z_{1}+z_{2}}
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、底\(a\)を共有する\(a^{z_{1}},a^{z_{2}}\)が与えられたとき、それらの積\(a^{z_{1}}\cdot a^{z_{2}}\)を求めるためには指数どうしの和\(z_{1}+z_{2}\)をとり、それを指数とする累乗\(a^{z_{1}+z_{2}}\)をとればよいということです。「累乗の積」に関する問題は「指数の和」に関する問題へと帰着させられます。
\end{equation*}が成り立つ。
2^{-3}\cdot 2^{2} &=&2^{-3+2}=2^{-1} \\
3^{-4}\cdot 3^{-2} &=&3^{-4-2}=3^{-6} \\
\left( -2\right) ^{2}\cdot \left( -2\right) ^{-3} &=&\left( -2\right)
^{2-3}=\left( -2\right) ^{-1} \\
\left( \frac{2}{3}\right) ^{2}\cdot \left( \frac{2}{3}\right) ^{-4}
&=&\left( \frac{2}{3}\right) ^{2-4}=\left( \frac{2}{3}\right) ^{-2}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
底を共有する累乗の商
非ゼロの実数\(a\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)と整数\(z_{1},z_{2}\in \mathbb{Z} \)が与えられたとき、以下の関係\begin{equation*}\frac{a^{z_{1}}}{a^{z_{2}}}=a^{z_{1}-z_{2}}
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、底\(a\)を共有する累乗\(a^{z_{1}},a^{z_{1}}\)が与えられたとき、それらの商\(\frac{a^{z_{1}}}{a^{z_{2}}}\)を求めるためには指数どうしの差\(z_{1}-z_{2}\)をとり、それを指数とする累乗\(a^{z_{1}-z_{2}}\)をとればよいということです。「累乗の商」に関する問題は「指数の差」に関する問題へと帰着させられます。
\end{equation*}が成り立つ。
\frac{2^{3}}{2^{-2}} &=&2^{3-\left( -2\right) }=2^{5} \\
\frac{3^{-4}}{2^{-2}} &=&3^{\left( -3\right) -\left( -2\right) }=3^{-1} \\
\frac{\left( -2\right) ^{3}}{\left( -2\right) ^{-4}} &=&\left( -2\right)
^{3-\left( -4\right) }=\left( -2\right) ^{7} \\
\left( \frac{2}{3}\right) ^{-4}/\left( \frac{2}{3}\right) ^{2} &=&\left(
\frac{2}{3}\right) ^{-4-2}=\left( \frac{2}{3}\right) ^{-6}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
累乗の累乗
非ゼロの実数\(a\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)と整数\(z_{1},z_{2}\in \mathbb{Z} \)が与えられたとき、以下の関係\begin{equation*}\left( a^{z_{1}}\right) ^{z_{2}}=a^{z_{1}z_{2}}
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、累乗\(a^{z_{1}}\)が与えられたとき、さらにその累乗\(\left( a^{z_{1}}\right) ^{z_{2}}\)を求めるためには指数どうしの積\(z_{1}z_{2}\)をとり、それを指数とする累乗\(a^{z_{1}z_{2}}\)をとればよいということです。「累乗の累乗」に関する問題は「累乗の積」に関する問題へと帰着させられます。
\end{equation*}が成り立つ。
\left( 2^{3}\right) ^{-2} &=&2^{3\left( -2\right) }=2^{-6} \\
\left( 3^{-2}\right) ^{4} &=&3^{\left( -2\right) \cdot 4}=3^{-8} \\
\left( \left( -2\right) ^{2}\right) ^{-3} &=&\left( -2\right) ^{2\left(
-3\right) }=\left( -2\right) ^{-6} \\
\left( \left( \frac{2}{3}\right) ^{-2}\right) ^{-4} &=&\left( \frac{2}{3}\right) ^{\left( -2\right) \left( -4\right) }=\left( \frac{2}{3}\right) ^{8}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
積の累乗
非ゼロの実数\(a,b\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)と整数\(z\in \mathbb{Z} \)が与えられたとき、以下の関係\begin{equation*}\left( ab\right) ^{z}=a^{z}b^{z}
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、非ゼロの実数\(a,b\)が与えられたとき、それらの積の累乗\(\left(ab\right) ^{z}\)を求めるためには、\(a\)の累乗\(a^{z}\)と\(b\)の累乗\(b^{z}\)をそれぞれとり、それらの積をとればよいということです。「積の累乗」に関する問題は「累乗の積」に関する問題へと帰着させられます。
\end{equation*}が成り立つ。
\left( 2\cdot 3\right) ^{2} &=&2^{2}\cdot 3^{2} \\
\left( 3\cdot 2\right) ^{-4} &=&3^{-4}\cdot 2^{-4} \\
\left( \left( -2\right) \cdot 3\right) ^{2} &=&\left( -2\right) ^{2}\cdot
3^{2} \\
\left( \frac{2}{3}\cdot \frac{2}{5}\right) ^{-5} &=&\left( \frac{2}{3}\right) ^{-5}\cdot \left( \frac{2}{5}\right) ^{-5}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
商の累乗
実数\(a\in \mathbb{R} \)と非ゼロの実数\(b\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)および整数\(z\in \mathbb{Z} \)が与えられたとき、以下の関係\begin{equation*}\left( \frac{a}{b}\right) ^{z}=\frac{a^{z}}{b^{z}}
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、実数\(a,b\)が与えられたとき、それらの商の累乗\(\left( \frac{a}{b}\right) ^{z}\)を求めるためには、\(a\)の累乗\(a^{z}\)と\(b\)の累乗\(b^{z}\)をそれぞれとり、それらの商をとればよいということです。「商の累乗」に関する問題は「累乗の商」に関する問題へと帰着させられます。
\end{equation*}が成り立つ。
\left( \frac{2}{3}\right) ^{2} &=&\frac{2^{2}}{3^{2}} \\
\left( \frac{3}{2}\right) ^{-4} &=&\frac{3^{-4}}{2^{-4}} \\
\left( \frac{-2}{3}\right) ^{2} &=&\frac{\left( -2\right) ^{2}}{3^{2}}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
累乗の比較
底を共有する累乗の大小関係に関して以下が成り立ちます。
\end{equation*}が成り立ち、\(1>a>0\)の場合には、\begin{equation*}z_{1}>z_{2}\Leftrightarrow a^{z_{1}}<a^{z_{2}}
\end{equation*}が成り立つ。
2^{-2} &<&2^{2} \\
1^{-2} &<&2^{2} \\
\left( \frac{1}{2}\right) ^{2} &<&\left( \frac{1}{2}\right) ^{-2}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
累乗と底の関係
累乗の比較に関する先の命題を用いることにより以下が導かれます。
正の実数\(a>0\)と整数\(z_{1},z_{2}\in \mathbb{Z} \)を任意に選んだとき、以下の関係\begin{equation*}a^{z_{1}}=a^{z_{2}}\Leftrightarrow z_{1}=z_{2}
\end{equation*}が成り立つ。
演習問題
- \(3^{-3}\)
- \(11^{0}\)
- \(\frac{3^{-2}}{8^{-3}}\)
- \(\left( 1^{-3}\right) ^{6}\)
- \(\left[ 17^{10}\right] ^{-30}\cdot \left[ 17^{30}\right] ^{-10}\)
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