最大値・最小値
実数体\(\mathbb{R}\)上に定義された大小関係\(\leq \)は全順序としての公理を満たすものとします。\(\mathbb{R}\)の空でない部分集合\(A\)について、そのある要素\(a\)が\(A\)の任意の実数以上である場合には、つまり、\begin{equation*}
\exists a\in A,\ \forall x\in A:x\leq a
\end{equation*}が成り立つならば、\(a\)を\(A\)の最大値(maximum value)や最大元(maximum element)などと呼び、そのことを、\begin{equation*}
\max A=a
\end{equation*}で表します。つまり、\(\max A\)は集合\(A\)の最大値を表す記号です。ちなみに、\(A\)の要素である\(a\)が\(A\)の最大値でないことは、\begin{equation*}
\exists x\in A:\lnot \left( x\leq a\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味しますが、\(\leq \)が全順序であることから、これは、\begin{equation*}
\exists x\in A:a<x
\end{equation*}と言い換え可能です。つまり、\(A\)の要素である\(a\)に対して、それよりも大きな\(A\)の要素が存在する場合、\(a\)は\(A\)の最大値ではありません。
\end{equation*}と定義される\(\mathbb{R} \)の部分集合です。\(0\in \mathbb{R} _{-}\)より\(\mathbb{R} _{-}\)は非空です。なおかつ、\begin{equation*}
\forall x\in \mathbb{R} _{-}:x\leq 0
\end{equation*}が成り立ちますが、これは、\begin{equation*}
\max \mathbb{R} _{-}=0
\end{equation*}であることを意味します。
\(\mathbb{R}\)の空でない部分集合\(A\)について、そのある要素\(a\)が\(A\)の任意の実数以下である場合には、つまり、\begin{equation*}
\exists a\in A,\ \forall x\in A:a\leq x
\end{equation*}が成り立つならば、\(a\)を\(A\)の最小値(minimum value)や最小元(minimum element)などと呼び、そのことを、\begin{equation*}
\min A=a
\end{equation*}で表します。つまり、\(\min A\)は集合\(A\)の最小値を表す記号です。ちなみに、\(A\)の要素である\(a\)が\(A\)の最大値でないことは、\begin{equation*}
\exists x\in A:\lnot \left( a\leq x\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味しますが、\(\leq \)が全順序であることから、これは、\begin{equation*}
\exists x\in A:x<a
\end{equation*}と言い換え可能です。つまり、\(A\)の要素である\(a\)に対して、それよりも小さな\(A\)の要素が存在する場合、\(a\)は\(A\)の最小値ではありません。
\end{equation*}と定義される\(\mathbb{R} \)の部分集合です。\(0\in \mathbb{R} _{+}\)より\(\mathbb{R} _{+}\)は非空です。なおかつ、\begin{equation*}
\forall x\in \mathbb{R} _{+}:0\leq x
\end{equation*}が成り立ちますが、これは、\begin{equation*}
\min \mathbb{R} _{+}=0
\end{equation*}であることを意味します。
定義より、\(\mathbb{R}\)の部分集合\(A\)の最大値や最小値はいずれも\(A\)の要素でなければなりません。
A=\left\{ x\in
\mathbb{R}\ |\ a\leq x\leq b\right\}
\end{equation*}という\(\mathbb{R}\)の部分集合を定義します。\(a,b\)は\(A\)の要素であるため、\(A\)は非空です。\(b\)は\(A\)の要素であるとともに、任意の実数\(x\in A\)に対して\(x\leq b\)が成り立つため、\begin{equation*}
\max A=b
\end{equation*}が成り立ちます。同様に考えると、\begin{equation*}
\min A=a
\end{equation*}が成り立ちます。
A=\left\{ a\right\}
\end{equation*}という\(\mathbb{R}\)の部分集合を定義します。\(a\in A\)であるため、\(A\)は非空です。\(a\)は\(A\)の要素であるとともに、\(\leq \)の反射律より\(a\leq a\)が成り立つため、\begin{equation*}
\max A=a
\end{equation*}が成り立ちます。同様に考えると、\begin{equation*}
\min A=a
\end{equation*}が成り立ちます。
最大値や最小値は存在するとは限らない
以下の例が示唆するように、\(\mathbb{R}\)の非空な部分集合に対して、その最大値や最小値は存在するとは限りません。
A=\left\{ x\in \mathbb{R}\ |\ a<x<b\right\}
\end{equation*}という\(\mathbb{R}\)の部分集合を定義します。これに対して\(\max A\)が存在するものと仮定します。最大値の定義より\(\max A\in A\)ですが、これは、\begin{equation}
a < \max A < b \quad\cdots (1)
\end{equation}が成り立つことを意味します。\(\max A\)と\(b\)はともに実数であるため、有理数の稠密性より、\begin{equation}
\max A < x < b \quad\cdots (2)
\end{equation}を満たす有理数\(x\)が存在します。有理数は実数であるため、この\(x\)は実数です。\(\left( 1\right) ,\left( 2\right) \)と\(<\)の推移律より\(a<x<b\)すなわち\(x\in A\)が成り立ちます。つまり、\(\max A\)よりも大きい\(A\)の要素\(x\)が存在しますが、これは\(\max A\)が\(A\)の最大値であることと矛盾します。したがって\(\max A\)は存在しません。同様にして、\(\min A\)が存在しないことも示されます。
最大値や最小値の一意性
\(\mathbb{R}\)の部分集合には最大値や最小値は存在するとは限りませんが、存在する場合にはそれぞれ一意的に定まります。そのことを示すために、\(\mathbb{R}\)の非空な部分集合\(A\)について\(\max A\)が存在するとき、\(A\)の要素である異なる実数\(a,b\)がともに\(\max A\)と一致するものと仮定して矛盾を導きます。
仮定より\(a=\max A\)です。最大値の定義より、\(a\)は\(A\)の要素である\(b\)以上です。つまり\(b\leq a\)が成り立ちます。同じく仮定より\(b=\max A\)です。最大値の定義より、\(b\)は\(A\)の要素である\(a\)以上です。つまり\(a\leq b\)が成り立ちます。すると\(\leq \)の反対称律より\(a=b\)が成り立ちますが、これは\(a\not=b\)と矛盾します。したがって、\(\max A\)が存在する場合には一意的です。最小値についても同様です。
&&(a)\ \max A\text{が存在するならば、それは一意的である。} \\
&&\left( b\right) \ \min A\text{が存在するならば、それは一意的である。}
\end{eqnarray*}
極大値・極小値
\(\mathbb{R}\)の空でない部分集合\(A\)について、そのある要素\(a\)よりも大きい要素が\(A\)の中に存在しないならば、つまり、\begin{equation*}
\exists a\in A,\ \forall x\in A:\lnot \left( a<x\right)
\end{equation*}が成り立つならば、\(a\)を\(A\)の極大値(maximal value)や極大元(maximal element)などと呼びます。狭義大小関係\(<\)の定義より、\begin{eqnarray*}
\lnot \left( a<x\right) &\Leftrightarrow &\lnot \left( a\leq x\wedge
a\not=x\right) \quad \because <\text{の定義} \\
&\Leftrightarrow &\lnot \left( a\leq x\right) \vee \left( a=x\right) \quad
\because \text{ド・モルガンの法則} \\
&\Leftrightarrow &a\leq x\rightarrow a=x\quad \because \rightarrow \text{の定義}
\end{eqnarray*}という同値変形が可能であるため、\(a\)が\(A\)の極限値であることの定義を、\begin{equation*}
\exists a\in A,\ \forall x\in A:\left( a\leq x\Rightarrow x=a\right)
\end{equation*}と表現することもできます。
\(\mathbb{R}\)の空でない部分集合\(A\)について、そのある要素\(a\)よりも小さい要素が\(A\)の中に存在しないならば、つまり、\begin{equation*}
\exists a\in A,\ \forall x\in A:\lnot \left( x<a\right)
\end{equation*}が成り立つならば、\(a\)を\(A\)の極小値(minimal value)や極小元(minimal element)などと呼びます。狭義大小関係\(<\)の定義より、\begin{eqnarray*}
\lnot \left( x<a\right) &\Leftrightarrow &\lnot \left( x\leq a\wedge
x\not=a\right) \quad \because <\text{の定義} \\
&\Leftrightarrow &\lnot \left( x\leq a\right) \vee \left( x=a\right) \quad
\because \text{ド・モルガンの法則} \\
&\Leftrightarrow &x\leq a\rightarrow x=a\quad \because \rightarrow \text{の定義}
\end{eqnarray*}という同値変形が可能であるため、\(a\)が\(A\)の極小値であることの定義を、\begin{equation*}
\exists a\in A,\ \forall x\in A:\left( x\leq a\Rightarrow x=a\right)
\end{equation*}と表現することもできます。
A=\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ a\leq x\leq b\right\}
\end{equation*}という\(\mathbb{R}\)の部分集合を定義します。\(a,b\)は\(A\)の要素であるため、\(A\)は非空です。\(A\)の極大値の候補として\(b\in A\)をとります。\(b\leq x\)を満たす\(x\in A\)を任意に選びます。\(x\in A\)より\(x\leq b\)が成立するため、これと\(b\leq x\)に大小関係\(\leq \)の反対称律を適用することにより\(x=b\)を得ます。したがって、\(b\)は\(A\)の極大値です。同様にして、\(a\)が\(A\)の極小値であることが示されます。
\(\mathbb{R}\)の空でない部分集合\(A\)について、その最大値\(\max A\)が存在するものとします。\(\max A\leq x\)を満たす\(x\in A\)を任意に選びます。\(x\in A\)より\(x\leq \max A\)が成立するため、これと\(\max A\leq x\)に大小関係\(\leq \)の反対称律を適用することにより\(\max A=x\)を得ます。\(A\)の最大値は\(x\)の極大値でもあります。逆に、\(A\)の極大値は\(A\)の最大値であることもまた示されます(演習問題にします)。したがって、最大値と極大値は概念として一致します。
最小値と極小値の間にも同様の関係が成り立ちます。
上の命題より、\(\mathbb{R}\)の部分集合の最大値や最小値などの概念が与えられているとき、極大値や極小値などの概念について考える必要はありません。
次回は実数の部分集合の上界や下界について解説します。
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