実数全順序体

公理主義的実数論においては、実数集合は加法、乗法、大小関係に関して全順序体であることを公理として定めます。実数に関するあらゆる命題はそれらの公理から証明されてはじめて正しいものとして認められます。

実数全順序体

公理主義的実数論の立場のもと、実数空間\(\mathbb{R}\)上に加法\(+\)および乗法\(\cdot \)と呼ばれる二項演算と、大小関係\(\leq \)と呼ばれる二項関係を定義した上で、これらが満たすべき性質を公理として定めました。

演算\(+,\cdot \)に関する公理は以下の通りです。

公理(演算に関する公理)
\(\mathbb{R}\)は加法\(+\)と乗法\(\cdot \)に関する体である。すなわち、\begin{eqnarray*}
&&\left( R_{1}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x+y\right) +z=x+\left( y+z\right) \\
&&\left( R_{2}\right) \ \exists 0\in \mathbb{R},\ \forall x\in \mathbb{R}:x+0=x \\
&&\left( R_{3}\right) \ \forall x\in \mathbb{R},\ \exists -x\in \mathbb{R}:x+\left( -x\right) =0 \\
&&\left( R_{4}\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:x+y=y+x \\
&&\left( R_{5}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x\cdot y\right) \cdot z=x\cdot \left( y\cdot z\right) \\
&&\left( R_{6}\right) \ \exists 1\in \mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} ,\ \forall x\in \mathbb{R}:x\cdot 1=x \\
&&\left( R_{7}\right) \ \forall x\in \mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} ,\ \exists x^{-1}\in \mathbb{R}:x\cdot x^{-1}=1 \\
&&\left( R_{8}\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:x\cdot y=y\cdot x \\
&&\left( R_{9}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x+y\right) \cdot z=x\cdot z+y\cdot z
\end{eqnarray*}を公理として定める。

大小関係\(\leq \)に関する公理は以下の通りです。

公理(大小関係に関する公理)
\(\mathbb{R}\)は大小関係\(\leq \)に全順序集合である。すなわち、\begin{eqnarray*}
&&\left( R_{10}\right) \ \forall x\in \mathbb{R}:x\leq x \\
&&\left( R_{11}\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:[(x\leq y\ \wedge \ y\leq x)\ \Rightarrow \ x=y] \\
&&\left( R_{12}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left[ \left( x\leq y\ \wedge \ y\leq z\right) \ \Rightarrow \ x\leq z\right] \\
&&\left( R_{13}\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:\left( x\leq y\ \vee \ y\leq x\right)
\end{eqnarray*}を公理として定める。

公理主義的実数論のもとでは、以上に加えて、演算\(+,\cdot \)と大小関係\(\leq \)の関係を規定する公理を定めます。1つ目は、\begin{equation*}
\left( R_{14}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x\leq y\Rightarrow x+z\leq y+z\right)
\end{equation*}というものであり、これを加法律(addition law)と呼びます。つまり、実数\(x,y,z\)について、\(y\)が\(x\)以上であるならば、両者に\(z\)を足しても大小関係が保存されるということです。

演算\(+,\cdot \)と大小関係\(\leq \)の関係を規定する2つ目の公理は、\begin{equation*}
\left( R_{15}\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:\left[ \left( 0\leq x\wedge 0\leq y\right) \Rightarrow 0\leq x\cdot y\right] \end{equation*}というものであり、これを乗法律(multiplication law)と呼びます。つまり、非負の実数どうしの積もまた非負になるということです。

演算\(+,\cdot \)の性質を規定する\(\left( R_{1}\right) \)から\(\left( R_{9}\right) \)までの公理と、大小関係\(\leq \)の性質を規定する\(\left( R_{10}\right) \)から\(\left( R_{13}\right)\)までの公理に加えて、演算\(+,\cdot \)と大小関係\(\leq \)の関係を規定する\(\left( R_{14}\right) \)と\(\left( R_{15}\right) \)を公理として認めることとは、\(\mathbb{R}\)が演算\(+,\cdot \)と大小関係\(\leq \)に関する全順序体(totally ordered field)であることを意味します。このような全順序体を特に実数の全順序体(totally ordered fied of real numbers)と呼びます。実数全順序体を\(\left( \mathbb{R},+,\cdot ,\leq \right) \)で表しますが、実数全順序体について言及していることが文脈から明らかである場合には、実数全順序体を\(\mathbb{R}\)で表すこともできます。

公理(順序体としての実数空間)
\(\mathbb{R}\)は加法\(+\)と乗法\(\cdot \)と大小関係\(\leq \)に関して全順序体である。すなわち、\(\left( R_{1}\right) \)から\(\left( R_{15}\right) \)までを公理として定める。

 

狭義大小関係と演算の関係

公理主義のもとで実数について考えるということは、実数の公理だけを議論の前提として認めることを意味します。つまり、実数空間上に定義された加法、乗法、大小関係などに関する命題はいずれも実数の公理から導かれてはじめて正しいものとして認められます。狭義大小関係\(<\)は大小関係\(\leq \)から間接的に定義される概念であり、\(<\)に関する命題もまた実数の公理から証明する必要があります。すでに示したのは以下の性質です。

命題(狭義大小関係の性質)
\(\mathbb{R}\)上の狭義大小関係\(<\)は以下の性質を満たす。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:\left[ x<y\Rightarrow \lnot \left( y<x\right) \right] \\
&&\left( b\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left[ \left( x<y\wedge y<z\right) \Rightarrow x<z\right] \\
&&\left( c\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:\left( x<y\vee y<x\vee x=y\right)
\end{eqnarray*}
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\(\left( a\right) \)は非対称律、\(\left( b\right) \)は推移律、\(\left( c\right) \)は三分律です。狭義大小関係\(<\)が\(\left( a\right) ,\left( b\right) \)を満たすことは\(\left( \mathbb{R},<\right) \)が順序集合であることを意味し、\(\left( a\right) ,\left( b\right) \)に加えて\(\left( c\right) \)を満たすことは\(\left( \mathbb{R},<\right) \)が全順序集合であることを意味します。

以上は狭義大小関係\(<\)が単独で満たす性質です。では、狭義大小関係\(<\)と加法\(+\)や乗法\(\cdot \)などの間にはどのような関係が成り立つのでしょうか。

実数の公理の1つである加法律において大小関係\(\leq \)を狭義大小関係\(<\)に置き換えると、\begin{equation*}
\forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x<y\Rightarrow x+z<y+z\right)
\end{equation*}を得ます。つまり、実数\(x,y,z\)について、\(y\)が\(x\)よりも大きければ、両者に\(z\)を足しても大小関係が保存されるという主張です。この命題が成り立つことは実数の公理から証明可能です(演習問題にします)。これを狭義大小関係に関する加法律と呼ぶことにします。

実数の公理の1つである乗法律において大小関係\(\leq \)を狭義大小関係\(<\)に置き換えると、\begin{equation*}
\forall x,y\in \mathbb{R}:\left[ \left( 0<x\wedge 0<y\right) \Rightarrow 0<x\cdot y\right] \end{equation*}を得ます。つまり、実数\(x,y\)について、\(x\)と\(y\)がともに正であれば、それらの積もまた正であるという主張です。この命題が成り立つこともまた実数の公理から証明可能です。(演習問題にします)。これを狭義大小関係に関する乗法律と呼ぶことにします。

命題(狭義大小関係と演算の関係)
\(\mathbb{R}\)上の狭義大小関係\(<\)は以下の性質を満たす。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x<y\Rightarrow x+z<y+z\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:\left[ \left( 0<x\wedge 0<y\right) \Rightarrow 0<x\cdot y\right] \end{eqnarray*}
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狭義大小関係\(<\)が非対称律、推移律、三分律を満たすことに加えて、\(<\)と加法\(+\)および乗法\(\cdot \)の間に狭義大小関係に関する加法律と乗法律が成り立つことは、\(\left( \mathbb{R},+,\cdot ,<\right) \)が全順序体であることを意味します。

 

加法単位元と乗法単位元の比較

実数\(x\)を任意に選びます。\(\leq \)の完備律より、これと実数\(0\)の間には\(x\geq 0\)と\(x\leq 0\)の少なくとも一方が成り立ちます。\(x\geq 0\)が成り立つ場合、乗法律より、\begin{equation*}
x\cdot x\geq 0\cdot x
\end{equation*}を得ます。加法単位元\(0\)と実数の積は\(0\)であるため、これは、\begin{equation*}
x\cdot x\geq 0
\end{equation*}と言い換え可能です。\(x\leq 0\)が成り立つ場合にも\(x\cdot x\geq 0\)であることが示されます(演習問題にします)。したがって、同じ実数どうしの積は非負です。

命題(累乗の符号)
実数\(x\in \mathbb{R}\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
x\cdot x\geq 0
\end{equation*}が成り立つ。
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乗法単位元\(1\)は実数であるため、上の命題より、\begin{equation*}
1\cdot 1\geq 0
\end{equation*}が成り立ちます。乗法単位元の定義より左辺は\(1\)です。したがって、\begin{equation*}
1\geq 0
\end{equation*}を得ます。さらに、実数の公理より\(1\not=0\)です。ゆえに\(<\)の定義より\(1>0\)となります。

命題(加法単位元と乗法単位元の比較)
乗法単位元\(1\)は加法単位元\(0\)よりも大きい。すなわち、\begin{equation*}
0<1
\end{equation*}が成り立つ。
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加法逆元の符号

非負の実数\(x\geq 0\)を任意に選びます。加法逆元の定義より\(-x\)もまた実数です。すると、加法律より、\begin{equation*}
x+\left( -x\right) \geq 0+\left( -x\right)
\end{equation*}を得ます。加法逆元の定義より左辺は\(0\)に、加法単位元の定義より右辺は\(-x\)に一致するため、\begin{equation*}
0\geq -x
\end{equation*}を得ます。逆に、\(0\geq -x\)から\(x\geq 0\)を導くこともできます(演習問題にします)。したがって、\(x\)が非負の実数であることと\(-x\)が非正の実数であることは必要十分です。

狭義大小関係\(<\)についても同様の関係が成り立ちます。つまり、\(x\)が正の実数であることと\(-x\)が負の実数であることは必要十分です(演習問題にします)。

命題(加法逆元の符号)
実数\(x\in \mathbb{R}\)を任意に選んだとき、以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
\left( a\right) \ x &\geq &0\Leftrightarrow -x\leq 0 \\
\left( b\right) \ x &>&0\Leftrightarrow -x<0
\end{eqnarray*}
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加法逆元の比較

\(x\leq y\)を満たす実数\(x,y\)を任意に選びます。加法逆元の定義より\(-x\)や\(-y\)もまた実数です。\(\mathbb{R}\)は加法について閉じているため\(\left( -x\right) +\left( -y\right) \)もまた実数です。すると、加法律より、\begin{equation*}
x+\left[ \left( -x\right) +\left( -y\right) \right] \leq y+\left[ \left(
-x\right) +\left( -y\right) \right] \end{equation*}を得ます。加法に関する結合律と加法逆元の定義、加法単位元の定義などにより左辺は\(-y\)と一致します。また、加法に関する交換律と結合律、加法逆元の定義と加法単位元の定義などにより右辺は\(-x\)に一致します。したがって、\begin{equation*}
-y\leq -x
\end{equation*}を得ます。逆に、\(-y\leq -x\)から\(x\leq y\)を導くこともできます(演習問題にします)。したがって、\(y\)が\(x\)以上であることと\(-x\)が\(-y\)以上であることは必要十分です。

狭義大小関係\(<\)についても同様の関係が成り立ちます。つまり、\(y\)が\(x\)よりも大きいことと\(-x\)が\(-y\)よりも大きいことは必要十分です。

命題(加法逆元の比較)
実数\(x,y\in \mathbb{R}\)をそれぞれ任意に選んだとき、以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
\left( a\right) \ x &\leq &y\Leftrightarrow -y\leq -x \\
\left( b\right) \ x &<&y\Leftrightarrow -y<-x
\end{eqnarray*}
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和の符号

非負の実数\(x,y\geq 0\)をそれぞれ任意に選びます。\(x\geq 0\)であることと\(y\)が実数であるという事実を踏まえると、加法律より、\begin{equation*}
x+y\geq 0+y
\end{equation*}を得ます。加法単位元の定義より右辺は\(0\)と一致するため、\begin{equation*}
x+y\geq y
\end{equation*}を得ます。これと\(y\geq 0\)に対して\(\geq \)の推移律を適用すると、\begin{equation*}
x+y\geq 0
\end{equation*}を得ます。つまり、非負の実数どうしの和は非負です。

正の実数どうしの和や、非負の実数と正の実数の和についても同様の関係が成り立ちます。つまり、正の実数と非負の実数の和は正であり、正の実数どうしの和は正です。

命題(和の符号)
実数\(x,y\in \mathbb{R}\)をそれぞれ任意に選んだとき、以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \left( 0\leq x\wedge 0\leq y\right) \Rightarrow 0\leq x+y
\\
&&\left( b\right) \ \left( 0<x\wedge 0\leq y\right) \Rightarrow 0<x+y \\
&&\left( c\right) \ \left( 0<x\wedge 0<y\right) \Rightarrow 0<x+y
\end{eqnarray*}
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上の命題において不等号の向きを逆にすると以下の命題を得ますが、これもまた成り立ちます。

命題(和の符号)
実数\(x,y\in \mathbb{R}\)をそれぞれ任意に選んだとき、以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \left( x\leq 0\wedge y\leq 0\right) \Rightarrow x+y\leq 0
\\
&&\left( b\right) \ \left( x<0\wedge y\leq 0\right) \Rightarrow x+y<0 \\
&&\left( c\right) \ \left( x<0\wedge y<0\right) \Rightarrow x+y<0
\end{eqnarray*}などが成り立つ。
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差の符号

\(x\leq y\)を満たす実数\(x,y\)を任意に選びます。加法逆元の定義より\(-x\)もまた実数です。すると加法律より、\begin{equation*}
x+\left( -x\right) \leq y+\left( -x\right)
\end{equation*}を得ます。加法逆元の定義より左辺は\(0\)と一致し、減法の定義より右辺は\(y-x\)と一致するため、\begin{equation*}
0\leq y-x
\end{equation*}を得ます。逆に、\(0\leq y-x\)から\(x\leq y\)を導くこともできます(演習問題にします)。つまり、\(y\)が\(x\)以上であることと差\(y-x\)が非負であることは必要十分です。

狭義大小関係\(<\)についても同様の関係が成り立ちます。つまり、\(y\)が\(x\)より大きいことと\(y-x\)が正であることは必要十分です。

命題(差の符号)
実数\(x,y\in \mathbb{R}\)をそれぞれ任意に選んだとき、以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ x\leq y\Leftrightarrow 0\leq y-x \\
&&\left( b\right) \ x<y\Leftrightarrow 0<y-x
\end{eqnarray*}
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和の比較

\(w\leq x\)と\(y\leq z\)を満たす実数\(w,x,y,z\)を任意に選びます。\(y\)は実数であるため、これと\(w\leq x\)に加法律を適用すると、\begin{equation}
w+y\leq x+y \tag{1}
\end{equation}を得ます。また、\(x\)は実数であるため、これと\(y\leq z\)に加法律を適用すると、\begin{equation*}
y+x\leq z+x
\end{equation*}を得ます。加法に関する交換律を用いると、\begin{equation}
x+y\leq x+z \tag{2}
\end{equation}となります。\(\left( 1\right) \)と\(\left( 2\right) \)が成り立つとき、\(\leq \)の推移律より、\begin{equation*}
w+y\leq w+z
\end{equation*}を得ます。つまり、\(x\)が\(w\)以上で\(z\)が\(y\)以上であるとき、\(x\)と\(z\)の和は\(w\)と\(y\)の和以上になります。

\(w\leq x\)と\(y<z\)を満たす実数\(w,x,y,z\)についても同様の関係が成り立ちます。つまり、\(x\)が\(w\)以上で\(z\)が\(y\)よりも大きいとき、\(x\)と\(z\)の和は\(w\)と\(y\)の和よりも大きくなります。

\(w<x\)と\(y<z\)を満たす実数\(w,x,y,z\)についても同様です。つまり、\(x\)が\(w\)よりも大きく\(z\)が\(y\)よりも大きいとき、\(x\)と\(z\)の和は\(w\)と\(y\)の和よりも大きくなります。

命題(和の比較)
実数\(w,x,y,z\in \mathbb{R}\)をそれぞれ任意に選んだとき、以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \left( w\leq x\wedge y\leq z\right) \Rightarrow w+y\leq
x+z \\
&&\left( b\right) \ \left( w\leq x\wedge y<z\right) \Rightarrow w+y<x+z \\
&&\left( c\right) \ \left( w<x\wedge y<z\right) \Rightarrow w+y<x+z
\end{eqnarray*}
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乗法逆元の符号

正の実数\(x>0\)を任意に選びます。乗法逆元の定義より\(x^{-1}\)もまた実数であるため、これと実数\(0\)の間には\(x^{-1}<0\)または\(x^{-1}=0\)または\(x^{-1}>0\)の中の1つが成立します。仮に\(x^{-1}<0\)の場合、これと\(x>0\)に乗法律を適用すると、\begin{equation*}
x^{-1}\cdot x<0\cdot x
\end{equation*}を得ます。乗法逆元の定義より左辺は\(1\)に、加法単位元と実数の積は\(0\)であることから右辺は\(0\)に一致するため、\begin{equation*}
1<0
\end{equation*}を得ます。これは先に示した\(1>0\)と矛盾です。したがって\(x^{-1}<0\)は成り立ちません。続いて、仮に\(x^{-1}=0\)の場合、\begin{eqnarray*}
1 &=&x\cdot x^{-1}\quad \because \text{乗法逆元の定義} \\
&=&x\cdot 0\quad \because x^{-1}=0 \\
&=&0\quad \because \text{実数と}0\text{の積は}0
\end{eqnarray*}すなわち\(1=0\)となり、これは実数の公理と矛盾です。したがって\(x^{-1}=0\)も成り立ちません。ゆえに\(x^{-1}>0\)であることが示されました。逆に、\(x^{-1}>0\)から\(x>0\)を導くこともできます。つまり、実数が正であることと、その実数の乗法逆元が正であることは必要十分です。

同様にして、実数が負であることと、その実数の乗法逆元が負であることが必要十分であることも示すことができます。

命題(乗法逆元の符号)
実数\(x\in \mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} \)を任意に選んだとき、以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
\left( a\right) \ x &>&0\Leftrightarrow x^{-1}>0 \\
\left( b\right) \ x &<&0\Leftrightarrow x^{-1}<0
\end{eqnarray*}
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乗法逆元の比較

\(x\leq y\)を満たす正の実数$x,y
\(をそれぞれ任意に選びます。\)x>0\(かつ\)y>0\(ですが、先の命題よりこれは\)x^{-1}>0\(かつ\)y^{-1}>0\(と必要十分です。すると\)<$に関する乗法律より、\begin{equation*}
x^{-1}\cdot y^{-1}>0\cdot y^{-1}
\end{equation*}を得ます。加法単位元\(0\)と任意の実数の積は\(0\)であるため、右辺は\(0\)です。ゆえに、\begin{equation*}
x^{-1}\cdot y^{-1}>0
\end{equation*}を得ます。先に示した差の符号に関する命題より、\(x\leq y\)と\(0\leq y-x\)は必要十分です。これと上の不等式に\(<\)に関する乗法律を適用すると、\begin{equation*}
0\cdot \left( x^{-1}\cdot y^{-1}\right) \leq \left( y-x\right) \cdot \left(
x^{-1}\cdot y^{-1}\right)
\end{equation*}を得ます。\(0\)と任意の実数の積は\(0\)であるため左辺は\(0\)です。右辺については、\begin{eqnarray*}
\left( y-x\right) \cdot \left( x^{-1}\cdot y^{-1}\right) &=&\left( y+\left(
-x\right) \right) \cdot \left( x^{-1}\cdot y^{-1}\right) \quad \because
\text{差の定義} \\
&=&y\cdot \left( x^{-1}\cdot y^{-1}\right) +\left( -x\right) \cdot \left(
x^{-1}\cdot y^{-1}\right) \quad \because \text{分配律} \\
&=&\left( y\cdot y^{-1}\right) \cdot x^{-1}+\left( \left( -x\right) \cdot
x^{-1}\right) \cdot y^{-1}\quad \because \text{乗法の交換律、結合律} \\
&=&\left( y\cdot y^{-1}\right) \cdot x^{-1}+\left( -\left( x\cdot
x^{-1}\right) \right) \cdot y^{-1}\quad \because \text{加法逆元との積} \\
&=&1\cdot x^{-1}+\left( -1\right) \cdot y^{-1}\quad \because \text{乗法逆元の定義} \\
&=&1\cdot x^{-1}+\left( -\left( 1\cdot y^{-1}\right) \right) \quad \because
\text{加法逆元との積} \\
&=&x^{-1}+\left( -\left( y^{-1}\right) \right) \quad \because \text{乗法単位元の定義} \\
&=&x^{-1}-y^{-1}
\end{eqnarray*}となるため、先の不等式は\(0\leq x^{-1}-y^{-1}\)となります。差の符号に関する命題より、これは\begin{equation*}
x^{-1}\leq y^{-1}
\end{equation*}と必要十分です。つまり、正の実数\(x,y\)について、\(y\)が\(x\)以上ならば\(x^{-1}\)は\(y^{-1}\)以上です。

狭義大小関係\(<\)についても同様の関係が成り立ちます。つまり、正の実数\(x,y\)について、\(y\)が\(x\)より大きければ\(x^{-1}\)は\(y^{-1}\)より大きくなります。

命題(乗法逆元の比較)
実数\(x,y\in \mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} \)をそれぞれ任意に選んだとき、以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \left( 0<x\wedge 0<y\wedge x\leq y\right) \Rightarrow
y^{-1}\leq x^{-1} \\
&&\left( b\right) \ \left( 0<x\wedge 0<y\wedge x<y\right) \Rightarrow
y^{-1}<x^{-1}
\end{eqnarray*}
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積の符号

大小関係\(\leq \)と乗法\(\cdot \)の間には、以下の乗法律\begin{equation*}
\forall x,y\in \mathbb{R}:\left[ \left( 0\leq x\wedge 0\leq y\right) \Rightarrow 0\leq x\cdot y\right] \end{equation*}が成り立つことを公理として定めました。また、狭義大小関係\(<\)に関する乗法律\begin{equation*}
\forall x,y\in \mathbb{R}:\left[ \left( 0<x\wedge 0<y\right) \Rightarrow 0<x\cdot y\right] \end{equation*}が成り立つことを実数の公理から示しました。では、符号の異なる実数どうしの積についてどのようなことが言えるでしょうか。

\(x\geq 0\)かつ\(y\leq 0\)であるような実数\(x,y\)を任意に選びます。加法逆元の符号に関する命題より、\(y\leq 0\)は\(-y\geq 0\)と必要十分です。これと\(x\geq 0\)に乗法律を適用すると、\begin{equation*}
x\cdot \left( -y\right) \geq 0\cdot \left( -y\right)
\end{equation*}を得ます。加法逆元との積に関する命題より左辺は\(-\left( x\cdot y\right) \)と一致し、加法単位元\(0\)と任意の実数の積は\(0\)であることから右辺は\(0\)と一致します。したがって、\begin{equation*}
-\left( x\cdot y\right) \geq 0
\end{equation*}を得ますが、加法逆元の符号に関する命題より、これは、\begin{equation*}
x\cdot y\leq 0
\end{equation*}と必要十分です。つまり、非負の実数と非正の実数の積は非正です。

同様に、正の実数と非正の実数の積が非正であることや、正の実数と負の実数の積が負であることを示すことができます(演習問題にします)。

命題(積の符号)
実数\(x,y\in \mathbb{R}\)をそれぞれ任意に選んだとき、以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \left( 0\leq x\wedge y\leq 0\right) \Rightarrow x\cdot
y\leq 0 \\
&&\left( b\right) \ \left( 0<x\wedge y\leq 0\right) \Rightarrow x\cdot y\leq
0 \\
&&\left( c\right) \ \left( 0<x\wedge y<y\right) \Rightarrow x\cdot y<0
\end{eqnarray*}
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積の比較

\(x\leq y\)かつ\(z\geq 0\)を満たす実数\(x,y,z\)を任意に選びます。差の符号に関する命題より、\(x\leq y\)は\(y-x\geq 0\)と必要十分です。これと\(z\geq 0\)に加法律を適用すると、\begin{equation*}
\left( y-x\right) \cdot z\geq 0\cdot z
\end{equation*}を得ます。加法単位元\(0\)と任意の実数の積は\(0\)であるため、右辺は\(0\)です。左辺に関しては、\begin{eqnarray*}
\left( y-x\right) \cdot z &=&\left( y+\left( -x\right) \right) \cdot z\quad
\because \text{減法の定義} \\
&=&y\cdot z+\left( -x\right) \cdot z\quad \because \text{分配律} \\
&=&y\cdot z+\left( -\left( x\cdot z\right) \right) \quad \because \text{加法逆元との積} \\
&=&y\cdot z-x\cdot z\quad \because \text{減法の定義}
\end{eqnarray*}となります。ゆえに先の不等式は\(y\cdot z-x\cdot z\geq 0\)となりますが、差の符号に関する命題より、これは、\begin{equation*}
y\cdot z\geq x\cdot z
\end{equation*}と必要十分です。つまり、\(y\geq x\)が成り立つとき、両辺に同じ非負の実数\(z\)をかけても大小関係は維持されます。

狭義の大小関係\(<\)についても同様の命題が成り立ちます。つまり、\(y>x\)が成り立つとき、両辺に同じ正の実数\(z\)をかけても大小関係は維持されます。

一方、不等式の両辺にかける実数が非正もしくは負の実数である場合には、不等号の向きが逆になります。

命題(積の比較)
実数\(x,y,z\in \mathbb{R}\)をそれぞれ任意に選んだとき、以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \left( x\leq y\wedge 0\leq z\right) \Rightarrow x\cdot
z\leq y\cdot z \\
&&\left( b\right) \ \left( x<y\wedge 0<z\right) \Rightarrow x\cdot z<y\cdot z
\\
&&\left( c\right) \ \left( x\leq y\wedge z\leq 0\right) \Rightarrow y\cdot
z\leq x\cdot z \\
&&\left( d\right) \ \left( x<y\wedge 0<z\right) \Rightarrow y\cdot z<x\cdot z
\end{eqnarray*}
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次回から実数の連続性について解説します。

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