実数を特徴づける公理として、それが加法と乗法、そして大小関係について全順序体であるものと定めました。しかし、こうした性質は有理数についても成立します。数としての実数を特徴づける性質は連続性です。連続性をデデキントの切断と呼ばれる概念を用いて解説します。

実数の公理系

公理主義的実数論の立場のもと、実数空間\(\mathbb{R}\)上に加法\(+\)および乗法\(\cdot \)と呼ばれる二項演算と、大小関係\(\leq \)と呼ばれる二項関係を定義した上で、これらが満たすべき性質を公理として定めました。実数の公理について簡単に振り返りましょう。

まず、\(\left( \mathbb{R},+,\cdot \right) \)は体としての性質を満たすものと定めました。

公理(体としての実数空間)
\(\mathbb{R}\)は加法\(+\)と乗法\(\cdot \)に関する体である。すなわち、\begin{eqnarray*}
&&\left( R_{1}\right) \ \forall x,y,z\in
\mathbb{R}:\left( x+y\right) +z=x+\left( y+z\right) \\
&&\left( R_{2}\right) \ \exists 0\in
\mathbb{R},\ \forall x\in
\mathbb{R}:x+0=x \\
&&\left( R_{3}\right) \ \forall x\in
\mathbb{R},\ \exists -x\in
\mathbb{R}:x+\left( -x\right) =0 \\
&&\left( R_{4}\right) \ \forall x,y\in
\mathbb{R}:x+y=y+x \\
&&\left( R_{5}\right) \ \forall x,y,z\in
\mathbb{R}:\left( x\cdot y\right) \cdot z=x\cdot \left( y\cdot z\right) \\
&&\left( R_{6}\right) \ \exists 1\in
\mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} ,\ \forall x\in
\mathbb{R}:x\cdot 1=x \\
&&\left( R_{7}\right) \ \forall x\in
\mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} ,\ \exists x^{-1}\in
\mathbb{R}:x\cdot x^{-1}=1 \\
&&\left( R_{8}\right) \ \forall x,y\in
\mathbb{R}:x\cdot y=y\cdot x \\
&&\left( R_{9}\right) \ \forall x,y,z\in
\mathbb{R}:\left( x+y\right) \cdot z=x\cdot z+y\cdot z
\end{eqnarray*}を公理として定める。

また、\(\left( \mathbb{R},\leq \right) \)は全順序集合としての性質を満たすものと定めました。

公理(全順序集合としての実数空間)
\(\mathbb{R}\)は大小関係\(\leq \)に関する全順序集合である。すなわち、\begin{eqnarray*}
&&\left( R_{10}\right) \ \forall x\in
\mathbb{R}:x\leq x \\
&&\left( R_{11}\right) \ \forall x,y\in
\mathbb{R}:[(x\leq y\ \wedge \ y\leq x)\ \Rightarrow \ x=y] \\
&&\left( R_{12}\right) \ \forall x,y,z\in
\mathbb{R}:\left[ \left( x\leq y\ \wedge \ y\leq z\right) \ \Rightarrow \ x\leq z\right] \\
&&\left( R_{13}\right) \ \forall x,y\in
\mathbb{R}:\left( x\leq y\ \vee \ y\leq x\right)
\end{eqnarray*}を公理として定める。

さらに、\(\left( \mathbb{R},+,\cdot ,\leq \right) \)は全順序体としての性質を満たすものと定めました。

公理(順序体としての実数空間)
\(\mathbb{R}\)は演算\(+,\cdot \)と大小関係\(\leq \)に関する全順序体である。すなわち、\(\left( R_{1}\right) \)から\(\left( R_{13}\right) \)までの公理に加えて、\begin{eqnarray*}
&&\left( R_{14}\right) \ \forall x,y,z\in
\mathbb{R}:\left( x\leq y\ \Rightarrow \ x+z\leq y+z\right) \\
&&\left( R_{15}\right) \ \forall x,y\in
\mathbb{R}:\left[ \left( 0\leq x\ \wedge \ 0\leq y\right) \ \Rightarrow \ 0\leq x\cdot
y\right] \end{eqnarray*}を公理として定める。

\(\mathbb{R}\)に対して設けた公理は以上ですべてです。とは言え、\(\left( R_{1}\right) \)から\(\left( R_{15}\right) \)までの公理は\(\mathbb{R}\)上に定義された\(+,\cdot ,\leq \)に固有の性質ではありません。\(\mathbb{R}\)の部分集合である有理数空間\(\mathbb{Q}\)上に定義された\(+,\cdot ,\leq \)もまた同様の性質を満たします。では、\(\mathbb{R}\)において成立するが\(\mathbb{Q}\)において成立しないような性質は存在するのでしょうか。言い換えると、数集合としての\(\mathbb{R}\)を特徴づけるような何らかの性質は存在するのでしょうか。仮にそのような性質が存在するのであれば、それを実数の公理として加えることにより、本当の意味での「実数の公理系」が完成します。以下ではそのような性質について考察します。

 

有理数の稠密性

有理数について簡単に復習しましょう。有理数とは整数\(z\)と自然数\(n\)を用いて分数\(\frac{z}{n}\)の形で定義される数のことです。つまり、\begin{equation*}
\mathbb{Q}=\left\{ \frac{z}{n}\ |\ z\in \mathbb{Z} \wedge n\in \mathbb{N} \right\}
\end{equation*}です。2つの有理数\(\frac{z_{1}}{n_{1}},\frac{z_{2}}{n_{2}}\)が等しいこととは、\begin{equation*}
\frac{z_{1}}{n_{1}}=\frac{z_{2}}{n_{2}}\Leftrightarrow z_{1}\cdot
n_{2}=z_{2}\cdot n_{2}
\end{equation*}が成り立つこととして定義されます。例えば、\(\frac{1}{2}\)と\(\frac{2}{4}\)については\(1\cdot 4=2\cdot 2\)が成り立つため、上の定義のもと、これらは等しい有理数とみなされます。つまり、約分したときに同じ数になる有理数どうしを区別せず、それらを同一の有理数とみなすということです。

有理数は数直線を用いて視覚的に表現できます。下図のように1本の直線を引き、その直線上に1つの点を定め、その点の座標を\(0\)と定めます。この点を原点と呼びます。原点の右側に新たに1つの点を定め、その点の座標を\(1\)と定めます。\(n\)を自然数、\(z\)を正の整数とします。原点と座標\(1\)の点の間の距離を\(n\)等分すれば\(\frac{1}{n}\)という距離の単位が得られます。その上で、原点の右側にあり、なおかつ原点からの距離が\(\frac{1}{n}\)の\(z\)倍であるような点の座標を\(\frac{z}{n}\)と定めます。また、原点の左側にあり、なおかつ原点からの距離が\(\frac{1}{n}\)の\(z\)倍であるような点の座標と\(-\frac{z}{n}\)と定めます。

図:有理数と数直線
図:有理数と数直線

約分したときに同じ数になる有理数を同一の有理数とみなすとき、こうして得られる数直線上のそれぞれの点には有理数の座標が1つずつ対応しています。つまり、数直線上の異なる点には異なる有理数がそれぞれ対応し、逆に、異なる有理数には数直線上の異なる点がそれぞれ対応するということです。言い換えると、有理数\(x,y\)について、\(x=y\)が成り立つことと、座標\(x\)の点と座標\(y\)の点が同じ点であることは必要十分です。また、\(x<y\)が成り立つことは、座標\(x\)の点が座標\(y\)の点よりも左側にあることを意味します。\(x\leq y\)が成り立つことは\(x<y\)と\(x=y\)の少なくとも一方が成り立つことを意味します。有理数の座標が与えられた点を有理点と呼ぶこととします。また、座標が\(x\)であるような有理点を有理点\(x\)と呼ぶこととします。

繰り返しになりますが、それぞれの有理数\(\frac{z}{n}\)を数直線上の点として表現する際には、\(1\)の長さを\(n\)等分して得られる\(\frac{1}{n}\)ごとの目盛りが基準になります。この\(\frac{1}{n}\)もまた有理数であり、数直線上の点として表すことができます。\(n\)として大きな自然数を採用するほど\(\frac{1}{n}\)の目盛りは小さくなります。自然数には上限がないため、\(\frac{1}{n}\)の目盛りをいくらでも小さくすることができます。したがって、数直線上には有理点が隙間なく並んでいるはずです。このことを指して、有理点は数直線上に稠密(dense)に分布していると言います。

以上のことを代数的に確認することもできます。\(x<y\)を満たす有理数\(x,y\)を任意に選びます。\(x\)と\(y\)が限りなく近い有理数であるならば、数直線上においても2つの有理点\(x,y\)は限りなく近い場所にあるはずです。しかしここで\(\frac{x+y}{2}\)という数について考えます。有理数は四則演算について閉じているため\(\frac{x+y}{2}\)もまた有理数です。しかも、\begin{equation*}
x<\frac{x+y}{2}<y
\end{equation*}という関係が成り立つため、有理点\(\frac{x+y}{2}\)は数直線上において2つの有理点\(x,y\)の間にあります。これは、どんなに近い2つの有理点の間にも別の有理点があることを示唆しています。数直線上には有理点がびっしりと詰まっているということです。言い換えると、どんなに近い2つの有理数の間にも別の有理数が存在します。

 

有理数の不連続性

有理数を整数\(z\)と自然数\(n\)の比\(\frac{z}{n}\)として定義した以上、整数と自然数の比として表すことができないような数について思い巡らすのは自然のなりゆきです。整数\(z\)と自然数の比\(\frac{z}{n}\)として表現できない数を無理数(irrational number)と呼びます。古代ギリシアにおいて、ピタゴラスは無理数が存在することを証明しました。具体的には、一辺の長さが\(1\)の正方形の斜辺の長さを\(x\)で表すとき、ピタゴラスの定理より、\(x^{2}=1^{2}+1^{2}\)すなわち、\begin{equation}
x^{2}=2 \tag{11}
\end{equation}が成り立ちますが、ピタゴラスは\(\left( 1\right) \)を満たす正の数\(x\)が有理数でないこと、すなわち無理数であることを証明しました。\(\left( 1\right) \)を満たす正の数\(x\)を\(\sqrt{2}\)で表すこととします。

図:有理数と数直線
図:有理数と数直線

では、この無理数\(\sqrt{2}\)は数直線上のどこにあるのでしょうか。\(\sqrt{2}\)は有理数ではないため、\(\frac{1}{n}\)の目盛りを基準に数直線上での位置を確定することができません。つまり、仮に座標\(\sqrt{2}\)の点が数直線上にあるならば、それは有理点ではありません。その一方で、\(\sqrt{2}\)は一辺の長さが\(1\)の正方形の斜辺の長さに相当する数であるため、数直線上において座標\(1\)の点よりも右側にある何らかの点として表現できるはずです。つまり、座標が無理数\(\sqrt{2}\)であるような点(これを無理点と呼ぶことにします)が数直線上には存在します。数直線上には有理点が稠密に分布しているとともに、数直線上にはいかなる有理点とも異なる無理点\(\sqrt{2}\)が存在するということは、限りなく近い2つの有理点の間に無理点\(\sqrt{2}\)が存在することを意味します。

以上の議論は\(\sqrt{2}\)という無理数に注目したものですが、無理数は無数に存在し、さらに、数直線上においてどんなに近い場所にある有理点の間にも無理点が存在します。数直線上には有理点がびっしりと詰まっていることを先に指摘しましたが、任意の2つの有理点の間に無理点が必ず存在するということは、有理点だけでは数直線は隙間だらけだということになります。その隙間を埋めているのが無理点です。以下ではこのことをデデキントの切断(Dedekind cut)と呼ばれる概念を用いて厳密に表現します。

 

有理数の切断と有理数の不連続性

繰り返しになりますが、有理数と有理点は1対1で対応しているため、数直線上にあるすべての有理点からなる集合とすべての有理数からなる集合\(\mathbb{Q}\)と同一視できます。\(\mathbb{Q}\)のデデキントの切断とは、\(\mathbb{Q}\)を以下の条件\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ A\cup B=\mathbb{Q}\\
&&\left( b\right) \ A\cap B=\phi \\
&&\left( c\right) \ A\not=\phi \ \\
&&\left( d\right) \ B\not=\phi \\
&&\left( e\right) \ \forall a,b\in
\mathbb{Q}:\left[ \left( a\in A\wedge b\in B\right) \Rightarrow a<b\right] \end{eqnarray*}を満たす2つの部分集合\(A,B\)に分けたときの\(A\)と\(B\)の対のことであり、これを\(\left\langle A,B\right\rangle \)と表記します。\(\left( a\right) \)から\(\left( d\right) \)までの条件は、\(\mathbb{Q}\)を空集合ではない2つの集合\(A,B\)に分割したものが\(\left\langle A,B\right\rangle \)であることを意味し、条件\(\left( e\right) \)は、\(B\)の任意の要素が\(A\)の任意の要素よりも大きいことを意味します。

図:有理数の切断
図:有理数の切断

\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)を数直線を用いて表現したものが上の図です。図においてそれぞれの目盛りは有理点を表しています。\(A,B\)はともに有理点からなる非空な集合ですが、\(\mathbb{Q}\)の切断の定義より、それぞれの有理点は\(A,B\)のどちらか一方に属するとともに、\(A\)に属する任意の有理点は、\(B\)に属する任意の有理点よりも左側にあります。図中の点\(P\)は\(A\)と\(B\)を分離する境界点であり、その座標を\(p\)で表します。仮に数直線上に有理点しか存在しないのであれば、\(P\)もまた有理点であり、その座標\(p\)は有理数であるはずです。しかし、先の議論が示唆するように、実際には、有理点だけでは数直線は隙間だらけであり、\(P\)が有理点でないという事態が起こり得ます。このことを以下で厳密に確認しましょう。

\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)が与えられたとき、論理的には以下の 4 通り\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \max A\text{と}\min B\text{がともに存在する} \\
&&\left( b\right) \ \max A\text{は存在するが}\min B\text{は存在しない} \\
&&\left( c\right) \ \max A\text{は存在しないが}\min B\text{は存在する} \\
&&\left( d\right) \ \max A\text{と}\min B\text{がともに存在しない}
\end{eqnarray*}の可能性が考えられます。ただし、\(\max A\)すなわち\(A\)の最大値とは、\begin{equation*}
\forall a\in A:a\leq \max A
\end{equation*}を満たす\(A\)の要素であり、\(\min B\)すなわち\(B\)の最小値とは、\begin{equation*}
\forall b\in B:\min B\leq b
\end{equation*}を満たす\(B\)の要素です。\(\mathbb{Q}\)の非空な部分集合\(A,B\)に対して\(\max A\)や\(\min B\)は存在するとは限りませんが、存在する場合にはそれぞれ一意的です。以上を踏まえた上で、以下では\(\left( a\right) \)から\(\left( d\right) \)までのそれぞれの場合について考えます。

\(\left( a\right) \)の場合、すなわち\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)について\(\max A\)と\(\min B\)がともに存在する場合について考えます。最大値の定義より\(\max A\)は\(A\)の要素であり、最小値の定義より\(\min B\)は\(B\)の要素です。すると切断の定義より、\begin{equation*}
\max A<\max B
\end{equation*}が成り立ちます。\(A,B\)はいずれも有理数の集合であるため、それらの要素である\(\max A\)と\(\max B\)もまた有理数です。有理数は四則演算について閉じているため\(\frac{\max A+\max B}{2}\)も有理数であり、なおかつ、\begin{equation*}
\max A<\frac{\max A+\max B}{2}<\max A
\end{equation*}が成り立ちます。このとき、最大値の定義より\(\frac{\max A+\max B}{2}\)は\(A\)の要素ではなく、最小値の定義より\(\frac{\max A+\max B}{2}\)は\(B\)の要素ではありません。つまり、\(A\)と\(B\)のいずれの要素でもない有理数\(\frac{\max A+\max B}{2}\)が存在することになり、これは切断の定義と矛盾します。したがって、\(\left( a\right) \)の場合は実際には起こり得ません。

\(\left( b\right) \)の場合、すなわち\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)について\(\max A\)は存在するが\(\min B\)が存在しない場合について考えます。仮に数直線上に有理点しか存在しないのであれば、\(A\)と\(B\)の境界である点\(P\)もまた有理点であり、その座標\(p\)は有理数です。すると切断の定義より、\(p\)は\(A\)と\(B\)のどちらか一方に属します。\(P\)は\(A\)と\(B\)の境界の点であるため、\(p\in A\)かつ\(p\not\in B\)である場合には、\begin{eqnarray*}
A &=&\left\{ x\in
\mathbb{Q}\ |\ x\leq p\right\} \\
B &=&\left\{ x\in
\mathbb{Q}\ |\ p<x\right\}
\end{eqnarray*}となります。このとき\(\max A=p\)である一方で、\(\min B\)は存在しません。実際、\(\min B\)が存在するものと仮定する場合、最小値の定義より\(\min B\)は有理数ですが、これと有理数\(p\)について\(\frac{p+\min B}{2}\)という数を考えると、有理数は四則演算について閉じていることから、\(\frac{p+\min B}{2}\)もまた有理数です。しかも、\begin{equation*}
p<\frac{p+\min B}{2}<\min B
\end{equation*}が成り立つことから、\(\frac{p+\min B}{2}\)は\(\min B\)よりも小さく、なおかつ\(B\)に属する有理数となり、これは\(\min B\)が\(B\)の最小値であることと矛盾します。一方、\(p\not\in A\)かつ\(p\in B\)の場合には、\begin{eqnarray*}
A &=&\left\{ x\in
\mathbb{Q}\ |\ x<p\right\} \\ B &=&\left\{ x\in \mathbb{Q}\ |\ p\leq x\right\} \end{eqnarray*}となりますが、この場合には\(\min B=p\)となり、これは\(\min B\)が存在しないことと矛盾です。議論を整理しましょう。\(\max A\)は存在するが\(\min B\)が存在しない場合、\(P\)の座標\(p\)は\(\max A\)と一致します。しかも\(\mathbb{Q}\)の部分集合\(A\)の最大値が存在する場合には一意的であるため、\(p\)もまた一意的です。この\(p\)を\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)が定義する有理数と呼びます。

例(有理数の切断から定義される有理数)
\(\mathbb{Q}\)の部分集合\(A,B\)を、\begin{eqnarray*} A &=&\left\{ x\in \mathbb{Q}\ |\ x\leq \frac{1}{2}\right\} \\ B &=&\left\{ x\in \mathbb{Q}\ |\ x>\frac{1}{2}\right\}
\end{eqnarray*}とそれぞれ定義します。このとき、\(\left\langle A,B\right\rangle \)は\(\mathbb{Q}\)の分割であるとともに、\(\max A=\frac{1}{2}\)であり、\(\min B\)は存在しません(演習問題とします)。したがって、この切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)から定義される有理数は\(\frac{1}{2}\)です。

\(\left( c\right) \)の場合、すなわち\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)について\(\min B\)は存在するが\(\max A\)が存在しない場合については、\(\left( b\right) \)の場合と同様の形で考えることにより、\(A\)と\(B\)の境界である点\(P\)の座標は\(\min B\)と一致することが示されます。しかも\(\mathbb{Q}\)の部分集合\(B\)最小値が存在する場合には一意的であるため、\(p\)もまた一意的です。この\(p\)を\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)が定義する有理数と呼びます。

例(有理数の切断から定義される有理数)
\(\mathbb{Q}\)の部分集合\(A,B\)を、\begin{eqnarray*}
A &=&\left\{ x\in
\mathbb{Q}\ |\ x<-\frac{1}{3}\right\} \\
B &=&\left\{ x\in
\mathbb{Q}\ |\ x\geq -\frac{1}{3}\right\}
\end{eqnarray*}とそれぞれ定義します。このとき、\(\left\langle A,B\right\rangle \)は\(\mathbb{Q}\)の分割であるとともに、\(\min B=-\frac{1}{3}\)であり、\(\max A\)は存在しません(演習問題とします)。したがって、この切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)から定義される有理数は\(-\frac{1}{3}\)です。

\(\left( d\right) \)の場合、すなわち\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)について\(\max A\)と\(\min B\)がともに存在しない場合について考えます。仮に数直線上に有理点しか存在しないのであれば、\(A\)と\(B\)の境界である点\(P\)もまた有理点であり、その座標\(p\)は有理数です。すると切断の定義より、\(p\)は\(A\)と\(B\)のどちらか一方に属します。\(P\)は\(A\)と\(B\)の境界の点であるため、\(p\in A\)かつ\(p\not\in B\)である場合には、\begin{eqnarray*}
A &=&\left\{ x\in
\mathbb{Q}\ |\ x\leq p\right\} \\
B &=&\left\{ x\in
\mathbb{Q}\ |\ p<x\right\}
\end{eqnarray*}となりますが、この場合には\(\max A=p\)となり、これは\(\max A\)が存在しないことと矛盾です。一方、\(p\not\in A\)かつ\(p\in B\)である場合には、\begin{eqnarray*}
A &=&\left\{ x\in
\mathbb{Q}\ |\ x<p\right\} \\
B &=&\left\{ x\in
\mathbb{Q}\ |\ p\leq x\right\}
\end{eqnarray*}となりますが、この場合には\(\min B=p\)となり、これは\(\min B\)が存在しないことと矛盾です。したがって、この場合、\(P\)は有理点ではありません。

以上の議論から明らかになったように、\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)について\(\max A\)と\(\min B\)がともに存在しない場合には、\(A\)と\(B\)の境界である点\(P\)は有理点ではなく、ゆえにその座標\(p\)は有理数ではありません。つまり、この\(p\)は以下の条件\begin{equation*}
\forall a\in A,\ \forall b\in B:a<p<b
\end{equation*}を満たす有理数ではない数であり、これを\(\left\langle A,B\right\rangle \)から定義される無理数と呼びます。有理点が数直線上に稠密に分布しているという事実を利用すると、\(\mathbb{Q}\)のそれぞれの切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)から定義される無理数は1つずつであることが示されます(演習問題にします)。

例(有理数の切断から定義される無理数)
\(\mathbb{Q} \)の部分集合\(A,B\)を、\begin{eqnarray*}
A &=&\left\{ x\in
\mathbb{Q} \ |\ x^{2}<2\vee x\leq 0\right\} \\ B &=&\left\{ x\in \mathbb{Q} \ |\ x^{2}\geq 2\wedge x>0\right\}
\end{eqnarray*}とそれぞれ定義します。このとき、\(\left\langle A,B\right\rangle \)は\(\mathbb{Q} \)の切断であるとともに、\(\max A\)と\(\min B\)はともに存在しません(演習問題にします)。この切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)から定義される無理数\(x\)が満たすべき条件は、\begin{equation*}
\lnot \left( x^{2}<2\vee x\leq 0\right) \wedge \lnot \left( x^{2}\geq 2\wedge x>0\right)
\end{equation*}であり、これを同値変形すると、\begin{equation*}
x^{2}=2\wedge x>0
\end{equation*}となります。このような無理数\(x\)を\(\sqrt{2}\)で表します。
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有理数の切断による実数の定義

有理数と無理数の全体を実数と呼び、実数の全体を\(\mathbb{R}\)で表しますが、これまでの議論を踏まえると、\(\mathbb{R}\)を有理数の切断を用いて定義することができます。\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)が与えられたとき、論理的には以下の 4 通り\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \max A\text{と}\min B\text{がともに存在する} \\
&&\left( b\right) \ \max A\text{は存在するが}\min B\text{は存在しない} \\
&&\left( c\right) \ \max A\text{は存在しないが}\min B\text{は存在する} \\
&&\left( d\right) \ \max A\text{と}\min B\text{がともに存在しない}
\end{eqnarray*}が存在します。ただし、先に明らかにしたように、\(\left( a\right) \)の場合は起こり得ません。

\(\left( b\right) \)もしくは\(\left( c\right) \)を満たす\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)から有理数が1つずつ定義されます。具体的には、\(\left( b\right) \)を満たす\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)から定義される有理数は\(\max A\)であり、\(\left( c\right) \)を満たす\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)から定義される有理数は\(\min B\)です。逆に、有理数\(q\in \mathbb{Q}\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}
A &=&\left\{ x\in
\mathbb{Q}\ |\ x\leq q\right\} \\
B &=&\left\{ x\in
\mathbb{Q}\ |\ q<x\right\}
\end{eqnarray*}とすれば\(\left( b\right) \)を満たす\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)が得られ、\begin{eqnarray*}
A &=&\left\{ x\in
\mathbb{Q}\ |\ x<q\right\} \\
B &=&\left\{ x\in
\mathbb{Q}\ |\ q\leq x\right\}
\end{eqnarray*}とすれば\(\left( c\right) \)を満たす\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)が得られます。したがって、有理数集合\(\mathbb{Q}\)を、\(\left( b\right) \)と\(\left( c\right) \)のどちらか一方を満たす\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)からなる集合と定義することもできます。

\(\left( d\right) \)を満たす\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)から無理数が1つずつ定義されます。具体的には、\(\left( d\right) \)を満たす\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)を任意に選んだとき、それに対して、\begin{equation*}
\forall a\in A,\ \forall b\in B:a<p<b
\end{equation*}を満たす一意的な数\(p\)として無理数は定義されます。したがって、すべての無理数からなる集合を、\(\left( d\right) \)を満たす\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)からなる集合と定義することもできます。

実数集合\(\mathbb{R}\)とはすべての有理数と無理数からなる集合ですが、以上を踏まえると、これを、\(\left( b\right) ,\left( c\right) ,\left( d\right) \)の中のどれか一つを満たす\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)からなる集合と定義することもできます。つまり、実数という概念は有理数の切断から定義できるということです。

 

実数の切断と実数の連続性

実数集合\(\mathbb{R}\)に対しても、\(\mathbb{Q}\)の場合と同じように、そのデデキント切断を定義します。すなわち、\(\mathbb{R}\)のデデキント切断とは、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ A\cup B=\mathbb{R}\\
&&\left( b\right) \ A\cap B=\phi \\
&&\left( c\right) \ A\not=\phi \ \\
&&\left( d\right) \ B\not=\phi \\
&&\left( e\right) \ \forall a,b\in
\mathbb{R}:\left[ \left( a\in A\wedge b\in B\right) \Rightarrow a<b\right] \end{eqnarray*}を満たす2つの部分集合\(A,B\)に分けたときの\(A\)と\(B\)の対のことであり、これを\(\left\langle A,B\right\rangle \)と表記します。\(\left( a\right) \)から\(\left( d\right) \)までの条件は、\(\mathbb{R}\)を空集合ではない2つの集合\(A,B\)に分割したものが\(\left\langle A,B\right\rangle \)であることを意味し、条件\(\left( e\right) \)は、\(B\)の任意の要素が\(A\)の任意の要素よりも大きいことを意味します。

\(\mathbb{R}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)が与えられたとき、論理的には以下の 4 通り\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \max A\text{と}\min B\text{がともに存在する} \\
&&\left( b\right) \ \max A\text{は存在するが}\min B\text{は存在しない} \\
&&\left( c\right) \ \max A\text{は存在しないが}\min B\text{は存在する} \\
&&\left( d\right) \ \max A\text{と}\min B\text{がともに存在しない}
\end{eqnarray*}が存在します。\(\mathbb{Q}\)の切断の場合と同様の議論により、\(\left( a\right) \)の場合は起こり得ないことが示されます。また、\(\left( b\right) \)や\(\left( c\right) \)の場合にも、\(\mathbb{Q}\)の切断の場合と同様の議論により、\(\mathbb{R}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)から実数が1つずつ定まることが示されます。具体的には、\(\left( b\right) \)を満たす\(\mathbb{R}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)から定義される実数は\(\max A\)であり、\(\left( c\right) \)を満たす\(\mathbb{R}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)から定義される実数は\(\min B\)です。重要なのは\(\left( d\right) \)を満たす\(\mathbb{R}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)です。\(\left( d\right) \)を満たす\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)の場合、\(A\)と\(B\)のいずれにも属さない数が存在するため、それを無理数として定義しました。一方、すべての無理数を\(\mathbb{Q}\)に加えて得られるのが\(\mathbb{R}\)であるため、それぞれの実数は\(A\)と\(B\)のいずれかに属することが保証されます。つまり、\(\left( d\right) \)を満たす\(\mathbb{R}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)は存在しないということです(演習問題にします)。

命題(実数の切断)
\(\mathbb{R}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)を任意に選んだとき、以下のどちらか一方が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \max A\text{は存在するが}\min B\text{は存在しない} \\
&&\left( b\right) \ \max A\text{は存在しないが}\min B\text{は存在する}
\end{eqnarray*}
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実数の連続性の公理

繰り返しになりますが、有理点は数直線上に稠密に分布していますが、実際には、数直線上には有理点ではない点が存在しており、有理点だけでは数直線は隙間だらけです。言い換えると、\(\mathbb{Q}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)によって定まる数直線上の境界点\(P\)は有理点であるとは限らないため、そのような点\(P\)の座標\(p\)を無理数として定義しました。こうして得られる無理数を\(\mathbb{Q}\)に加えて得られるのが\(\mathbb{R}\)であるため、数直線上の点の中に実数座標の与えられていない点は存在しません。つまり、実数を座標とする点は数直線上に連続に分布しており、その意味において実数の間には隙間が存在しません。このような性質を\(\mathbb{R}\)の連続性(continuity)と呼びます。言い換えると、\(\mathbb{R}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)によって定まる数直線上の境界点\(P\)には必ず実数の座標が与えられているため、これは\(A\)と\(B\)のどちらか一方に属することが保証されるため、先の命題が成り立ちます。したがって、先の命題によって\(\mathbb{R}\)の連続性を定義することもできます。

公理主義的実数論では、先の命題を実数を特徴づける公理として採用します。これを連続性の公理(axiom of continuity)や完備性の公理(completeness axiom)などと呼びます。

公理(連続性の公理)
\(\mathbb{R}\)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \max A\text{は存在するが}\min B\text{は存在しない} \\
&&\left( b\right) \ \max A\text{は存在しないが}\min B\text{は存在する}
\end{eqnarray*}のどちらか一方が成り立つことを公理として定める。

\(\mathbb{R}\)上に定義された大小関係\(\leq \)が全順序としての性質に相当する\(\left( R_{10}\right) \)から\(\left( R_{13}\right) \)までの公理に加えて連続性の公理\(\left( R_{16}\right) \)を満たすことは、\(\mathbb{R}\)が\(\leq \)に関して完備な全順序(complete total ordering)であることを意味します。また、\(\mathbb{R}\)上に定義された演算\(+,\cdot \)と大小関係\(\leq \)が全順序体としての性質に相当する\(\left( R_{1}\right) \)から\(\left( R_{15}\right) \)までの公理に加えて連続性の公理\(\left( R_{16}\right) \)を満たすことは、\(\mathbb{R}\)が完備な全順序体(complete totally ordered field)であることを意味します。このような完備な全順序体を正式には\(\left( \mathbb{R},+,\cdot ,\leq \right) \)と表記しますが、議論の対象が\(\left( \mathbb{R},+,\cdot ,\leq \right) \)であることが文脈から明らかである場合には、これをシンプルに\(\mathbb{R}\)で表すこともできます。\(\mathbb{R}\)に関する公理は以上ですべてです。つまり、公理主義的実数論において、\(\mathbb{R}\)は完備な全順序体として定義されます。

次回は実数の連続性の公理を別の命題として表現します。

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