\(\mathbb{R}\)上の演算\(+,\cdot \)と大小関係\(\leq \)が順序体としての公理に加えて連続性の公理を満たすことは、\(\mathbb{R}\)が完備な順序体であることを意味します。

連続性の公理

公理とは理論体系を作り上げていく際の出発点として設けられる命題のことですが、公理を定める際のルールは存在せず、それがきちんと定式化されてさえいれば、分析家は好きな命題を公理と定めた上で議論を始めることができます。しかし、数学における公理は多くの場合、考察対象について既に広く知られた事実を反映する形で構築します。実際、これまで\(\mathbb{R}\)上の演算\(+,\cdot \)や順序\(\leq\)に関して設けた以下の公理群は、初等数学において学んだ実数どうしの加法、乗法、大小関係の性質として広く知られているものを定式化した命題になっています。\begin{eqnarray*}
&&\left( A\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x+y\right) +z=x+\left( y+z\right) \\
&&\left( B\right) \ \exists 0\in \mathbb{R},\ \forall x\in \mathbb{R}:x+0=0+x=x \\
&&\left( C\right) \ \forall x\in \mathbb{R},\ \exists -x\in \mathbb{R}:x+\left( -x\right) =\left( -x\right) +x=0 \\
&&\left( D\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:x+y=y+x \\
&&\left( E\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x\cdot y\right) \cdot z=x\cdot \left( y\cdot z\right) \\
&&\left( F\right) \ \exists 1\in \mathbb{R},\ \forall x\in \mathbb{R}:x\cdot 1=1\cdot x=x \\
&&\left( G\right) \ \forall x\in \mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} ,\ \exists x^{-1}\in \mathbb{R}:x\cdot x^{-1}=x^{-1}\cdot x=1 \\
&&\left( H\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:x\cdot y=y\cdot x \\
&&\left( I\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:x\cdot (y+z)=x\cdot y+x\cdot z \\
&&\left( J\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x+y\right) \cdot z=x\cdot z+y\cdot z \\
&&\left( K\right) \ 0\not=1 \\
&&\left( L\right) \ \forall x\in \mathbb{R}:x\leq x \\
&&\left( M\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:[(x\leq y\ \wedge \ y\leq x)\ \Rightarrow \ x=y] \\
&&\left( N\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:[(x\leq y\ \wedge \ y\leq z)\ \Rightarrow \ x\leq z] \\
&&\left( O\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:(x\leq y\ \vee \ y\leq x) \\
&&\left( P\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x\leq y\ \Rightarrow \ x+z\leq y+z\right) \\
&&\left( Q\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:\left[ \left( 0\leq x\ \wedge \ 0\leq y\right) \ \Rightarrow \ 0\leq x\cdot
y\right] \end{eqnarray*}

とは言え、以上の公理群が表現する内容は実数の集合\(\mathbb{R}\)上に定義された\(+,\cdot ,\leq \)に固有の性質ではなく、例えば有理数の集合\(\mathbb{Q}\)上に定義された\(+,\cdot ,\leq \)もまた同様の性質を満たします。他方で、以下の公理\begin{equation*}
\left( R\right) \
\mathbb{R}\text{の任意の非空な部分集合}A\text{について、}A\text{が上に有界ならば}\sup A\text{が存在する。}
\end{equation*}は数の集合の中でも\(\mathbb{R}\)に固有の性質です。これを定式化すると、\begin{equation*}
\left( R\right) \ \forall A\subset \mathbb{R}:\left[ \left( A\not=\phi \ \wedge \ U\left( A\right) \not=\phi \right) \ \Rightarrow \ \exists \sup A\right] \end{equation*}となります。これを連続性の公理(axiom of continuity)や完備性の公理(completeness axiom)などと呼びます。

実際、例えば有理数の集合\(\mathbb{Q}\)上に定義された\(+,\cdot ,\leq \)は上の公理\(\left( R\right) \)に相当する命題を満たしません。そのことを示すために、以下のような\(\mathbb{Q}\)の部分集合\begin{equation*}
A=\left\{ x\in \mathbb{Q}\ |\ x^{2}\leq 2\right\} =\{x\in \mathbb{Q}\ |\ -\sqrt{2}\leq x\leq \sqrt{2}\}
\end{equation*}について考えます。\(A\)は明らかに上に有界ですが、\(\sup A\)は存在しません。\(\sup A=\sqrt{2}\)としたいところですが、\(A\)の上限は\(\mathbb{Q}\)の要素すなわち有理数ですから、無理数である\(\sqrt{2}\)は\(A\)の上限になり得ないからです。そこで、\(\sqrt{2}\)よりも大きい有理数の中で最小のものを探そうとしても、\(\sqrt{2}\)よりも大きく、かつ、\(\sqrt{2}\)にいくらでも近い有理数が存在するため、結局、\(\sup A\)を確定することはできません。したがって\(\mathbb{Q}\)に関して\(\left( R\right) \)は成り立ちません。

 

実数の集合は加法・乗法・大小関係に関する完備な順序体

\(\mathbb{R}\)上の大小関係\(\leq \)が全順序としての性質に相当する\(\left( L\right) \)から\(\left( O\right) \)までの公理に加えて連続性の公理\(\left( R\right) \)を満たすことは、\(\mathbb{R}\)が完備な全順序(complete total ordering)であることを意味します。

\(\mathbb{R}\)上の演算\(+,\cdot \)と大小関係\(\leq \)が順序体としての性質に相当する\(\left( A\right) \)から\(\left( Q\right) \)までの公理に加えて連続性の公理\(\left( R\right) \)を満たすことは、\(\mathbb{R}\)が完備な順序体(complete ordered field)であることを意味します。

 

下限性質による連続性の表現

\(\mathbb{R}\)が完備な順序体であることを規定する公理群から以下の命題を示すことができます。

命題(下限性質)
\(\mathbb{R}\)上に定義された演算\(+,\cdot \)と大小関係\(\leq \)が完備な順序体であるとき、すなわち\(\left( A\right) \)から\(\left( R\right) \)までの公理が成り立つとき、\begin{equation*}
\left( R^{\prime }\right) \
\mathbb{R}\text{の非空な部分集合}A\text{について、}A\text{が下に有界ならば}\inf A\text{が存在する。}
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\left( R^{\prime }\right) \quad \forall A\subset \mathbb{R}:\left[ \left( A\not=\phi \ \wedge \ L\left( A\right) \not=\phi \right) \
\Rightarrow \ \exists \sup A\right] \end{equation*}が成り立つ。
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上の命題は、\(\mathbb{R}\)における演算\(+,\cdot \)と大小関係\(\leq \)が\(\left( A\right) \)から\(\left( R\right) \)までの公理を満たす場合には性質\(\left( R^{\prime }\right) \)もまた成り立つことを主張しています。一方、\(\mathbb{R}\)を特徴付ける公理として、\(\left( A\right) \)から\(\left( Q\right) \)までの公理に加えて\(\left( R\right) \)の代わりに\(\left( R^{\prime }\right) \)を採用したらどうなるでしょうか。この問いに関しては以下の命題が成り立ちます。

命題(下限性質による連続性の表現)
\(\mathbb{R}\)上に定義された演算\(+,\cdot \)と大小関係\(\leq \)が\(\left( A\right) \)から\(\left( Q\right) \)までの公理に加えて下限性質\(\left( R^{\prime }\right) \)を満たすとき、公理\(\left( R\right) \)に相当する性質が成り立つ。
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以上の議論を踏まえると,\(\mathbb{R}\)を特徴付ける公理としては,\(\left( A\right) \)から\(\left( Q\right) \)に加えて,\(\left( R\right) \)の代わりに\(\left( R^{\prime }\right) \)を採用してもかまいません。言い換えると、完備性の公理として上限性質\(\left( R\right) \)の代わりに下限性質\(\left( R^{\prime }\right) \)を採用できます。

次回はデデキントの切断と呼ばれる概念を用いて実数の連続性を表現します。
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