WIIS

数列

有界単調数列と実数の連続性

目次

Mailで保存
Xで共有

実数の連続性についての復習

実数の公理系は\(\mathbb{R} \)が全順序体であることを規定する公理と\(\mathbb{R} \)の連続性を規定する公理に分類されます。特に、実数の連続性を特徴づける公理としてデデキントの公理を採用しました。

公理(連続性の公理)
\(\mathbb{R} \)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \max A\text{は存在するが}\min B\text{は存在しない} \\
&&\left( b\right) \ \max A\text{は存在しないが}\min B\text{は存在する}
\end{eqnarray*}のどちらか一方が成り立つことを公理として定める。

\(\mathbb{R} \)の全順序体としての公理を認めるとき、デデキントの公理は上限性質と必要十分であることを示しました。ただし、上限性質とは以下のような命題です。

命題(上限性質)
\(\mathbb{R} \)の非空な部分集合\(A\)が上に有界である場合、その上限\(\sup A\)に相当する有限な実数が存在する。

加えて、\(\mathbb{R} \)の全順序体としての公理を認める場合には、上限性質と下限性質は必要十分であることを示しました。ただし、下限性質とは以下のような命題です。

命題(下限性質)
\(\mathbb{R} \)の非空な部分集合\(A\)が下に有界である場合、その下限\(\inf A\)に相当する有限な実数が存在する。

したがって、下限性質とデデキントの公理もまた必要十分になります。以上の議論を踏まえると以下を得ます。

命題(連続性の公理)
\(\mathbb{R} \)が全順序体としての公理を満たすものとする。このとき、以下の3つの命題はお互いに必要十分である。\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \text{デデキントの公理} \\
&&\left( b\right) \ \text{上限性質} \\
&&\left( c\right) \ \text{下限性質}
\end{eqnarray*}

つまり、\(\mathbb{R} \)の連続性を規定する公理としてデデキントの公理、上限性質、そして下限性質の中のどれを採用しても問題ないこということです。以下では、単調増加数列の収束定理を用いて実数の連続性を表現することもできることを解説します。

 

上に有界な単調増加数列の収束定理と実数の連続性

実数の連続性の中でも上限性質を採用した場合、上に有界な単調増加数列は必ず収束することを示しました。具体的には、数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)が単調増加かつ上に有界である場合、そのすべての項からなる集合\begin{equation*}A=\left\{ x_{n}\in \mathbb{R} \ |\ n\in \mathbb{N} \right\}
\end{equation*}は上に有界であるため、上限性質より上限\(\sup A\)に相当する有限な実数が存在しますが、この上限こそが数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の極限であることを示しました。つまり、\begin{equation*}\lim_{n\rightarrow \infty }x_{n}=\sup A
\end{equation*}が成り立つということです。これを上に有界な単調増加数列の収束定理と呼ぶこととします。

命題(上に有界な単調増加数列の収束定理)
\(\mathbb{R} \)が全順序体としての公理を満たすものとする。加えて、\(\mathbb{R} \)は上限性質を満たすものとする。このとき、上に有界な単調増加数列の収束定理が成り立つ。

実は、上の命題とは逆に、上に有界な単調増加数列の収束定理を公理として認めたとき、そこから上限性質を導くことができます。

命題(上限性質)
\(\mathbb{R} \)が全順序体としての公理を満たすものとする。加えて、上に有界な単調増加数列の収束定理が成り立つものとする。このとき、上限性質が成り立つ。
証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

以上の2つの命題より、上に有界な単調増加数列の収束定理と上限性質は必要十分であることが明らかになりました。

命題(上に有界な単調増加数列の収束定理と実数の連続性)
\(\mathbb{R} \)が全順序体としての公理を満たすものとする。このとき、上限性質と上に有界な単調増加数列の収束定理は必要十分である。

 

実数の連続性の公理としての下に有界な単調減少数列の収束定理

下に有界な単調減少数列の収束定理と下限性質の間にも同様の関係が成り立ちます。

実数の連続性の中でも下限性質を採用した場合、下に有界な単調減少数列は必ず収束することを示しました。具体的には、数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)が単調減少かつ下に有界である場合、そのすべての項からなる集合\begin{equation*}A=\left\{ x_{n}\in \mathbb{R} \ |\ n\in \mathbb{N} \right\}
\end{equation*}は下に有界であるため、下限性質より下限\(\inf A\)に相当する有限な実数が存在しますが、この下限こそが数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の極限であることを示しました。つまり、\begin{equation*}\lim_{n\rightarrow \infty }x_{n}=\inf A
\end{equation*}が成り立つということです。これを下に有界な単調減少数列の収束定理と呼ぶこととします。

命題(下に有界な単調減少数列の収束定理)
\(\mathbb{R} \)が全順序体としての公理を満たすものとする。加えて、\(\mathbb{R} \)は下限性質を満たすものとする。このとき、下に有界な単調減少数列の収束定理が成り立つ。

上の命題とは逆に、下に有界な単調減少数列の収束定理を公理として認めたとき、そこから下限性質を導くことができます。証明は先の命題と同様です。

命題(下限性質)
\(\mathbb{R} \)が全順序体としての公理を満たすものとする。加えて、下に有界な単調減少数列の収束定理が成り立つものとする。このとき、下限性質が成り立つ。

以上の2つの命題より、下に有界な単調減少数列の収束定理と下限性質は必要十分であることが明らかになりました。

命題(下に有界な単調減少数列の収束定理と実数の連続性)
\(\mathbb{R} \)が全順序体としての公理を満たすものとする。このとき、下限性質と下に有界な単調減少数列の収束定理は必要十分である。

 

実数の連続性

上限性質や下限性質は実数の連続性を規定する公理として位置付けられますが、これまでの議論から明らかになったように、上限性質は上に有界な単調増加数列の収束定理と必要十分であり、下限性質は下に有界な単調減少数列の収束定理と必要十分です。したがって、実数の連続性は以下のような様々な形で表現可能であることが明らかになりました。

命題(連続性の公理)
\(\mathbb{R} \)が全順序体としての公理を満たすものとする。このとき、以下の5つの命題はお互いに必要十分である。\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \text{デデキントの公理} \\
&&\left( b\right) \ \text{上限性質} \\
&&\left( c\right) \ \text{下限性質} \\
&&\left( d\right) \ \text{上に有界な単調増加数列の収束定理} \\
&&\left( e\right) \ \text{下に有界な単調減少数列の収束定理}
\end{eqnarray*}

つまり、\(\mathbb{R} \)の連続性を規定する公理として上の5つの命題の中のどれを採用しても問題ないこということです。

有界単調数列の収束定理によって\(\mathbb{R} \)の連続性が表現できるのであれば、連続性を満たさない\(\mathbb{Q} \)は有界単調数列の収束定理を満たさないはずです。つまり、有理数を項とする上に有界な単調増加数列は有限な有理数に収束するとは限らず、同様に、有理数を項とする下に有界な単調増加数列は有限な有理数に収束するとは限らないということです。実際、これは正しい主張です。

例(有理数の非連続性)
無理数\(\sqrt{2}\)は以下の非循環小数\begin{equation*}\sqrt{2}=1.41421356\cdots
\end{equation*}として表現されます。そこで、数列\(\left\{x_{n}\right\} \)を、\begin{eqnarray*}x_{1} &=&1 \\
x_{2} &=&1.4 \\
x_{3} &=&1.41 \\
x_{4} &=&1.4142 \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}と定義します。この数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の任意の項は有限小数であるため有理数です。加えて、\(\left\{ x_{n}\right\} \)は明らかに上に有界な単調増加数列です。その一方で、この数列\(\left\{x_{n}\right\} \)の極限は無理数\(\sqrt{2}\)であり(演習問題)、この極限は有理数ではありません。このような数列\(\left\{x_{n}\right\} \)が存在することは、\(\mathbb{Q} \)上では上に有界な単調増加数列の収束定理が成り立たないことを意味します。

 

演習問題

問題(有理数の非連続性)
無理数\(\sqrt{2}\)は以下の非循環小数\begin{equation*}\sqrt{2}=1.41421356\cdots
\end{equation*}として表現されます。そこで、数列\(\left\{x_{n}\right\} \)を、\begin{eqnarray*}x_{1} &=&1 \\
x_{2} &=&1.4 \\
x_{3} &=&1.41 \\
x_{4} &=&1.4142 \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}と定義します。この数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)を用いて、\(\mathbb{Q} \)が上に有界な単調増加数列の収束定理を満たさないことを示してください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(無理数へ収束する有理数列)
無理数\(x\in \mathbb{R} \backslash \mathbb{Q} \)を任意に選びます。このとき、有理数を項とする上に有界な単調増加数列で、なおかつ無理数\(x\)へ収束するものが常に存在することを示してください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(有理数の非連続性)
ネイピア数\(e\)は無理数であるとともに、以下のような無限級数\begin{eqnarray*}e &=&1+\frac{1}{1!}+\frac{1}{2!}+\frac{1}{3!}+\cdots \\
&=&\sum_{k=0}^{\infty }\frac{1}{k!}
\end{eqnarray*}として表すことができます。以上の事実を利用した上で、\(\mathbb{Q} \)が上に有界な単調増加数列の収束定理を満たさないことを示してください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

関連知識

Mailで保存
Xで共有

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです

会員登録

有料のプレミアム会員であれば、質問やコメントの投稿と閲覧、プレミアムコンテンツ(命題の証明や演習問題とその解答)へのアクセスなどが可能になります。

ワイズのユーザーは年齢・性別・学歴・社会的立場などとは関係なく「学ぶ人」として対等であり、お互いを人格として尊重することが求められます。ユーザーが快適かつ安心して「学ぶ」ことに集中できる環境を整備するため、広告やスパム投稿、他のユーザーを貶めたり威圧する発言、学んでいる内容とは関係のない不毛な議論などはブロックすることになっています。詳細はガイドラインをご覧ください。

誤字脱字、リンク切れ、内容の誤りを発見した場合にはコメントに投稿するのではなく、以下のフォームからご連絡をお願い致します。

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録