入れ子構造の閉区間列
以下の3つの性質を満たす実数空間\(\mathbb{R} \)上の区間列\(\left\{ I_{n}\right\} \)について考えます。
1つ目の性質は、この区間列のすべての項が有界な閉区間であるということです。つまり、この区間列の一般項\(I_{n}\)は、\(a_{n}<b_{n}\)を満たす実数\(a_{n},b_{n}\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{eqnarray*}I_{n} &=&\left[ a_{n},b_{n}\right] \\
&=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ a_{n}\leq x\leq b_{n}\right\}
\end{eqnarray*}と定義されます。
2つ目の性質は、この区間列\(\left\{ I_{n}\right\} \)が単調減少列であることです。つまり、\begin{equation*}\forall n\in \mathbb{N} :I_{n}\supset I_{n+1}
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
I_{1}\supset I_{2}\supset I_{3}\supset \cdots
\end{equation*}が成り立つということです。
3つ目の性質は、この区間列\(\left\{ I_{n}\right\} \)を構成する区間の長さに関するものです。この区間列の一般項は、\begin{equation*}I_{n}=\left[ a_{n},b_{n}\right]
\end{equation*}ですが、この区間\(I_{n}\)の長さは端点どうしの差\begin{equation*}b_{n}-a_{n}
\end{equation*}として定義されます。以上を踏まえた上で、区間列\(\left\{ I_{n}\right\} \)を構成する個々の区間の長さが、\(n\)が限りなく大きくなるにつれて\(0\)へ収束する場合を想定します。つまり、\begin{equation*}\lim_{n\rightarrow \infty }\left( b_{n}-a_{n}\right) =0
\end{equation*}を満たす区間列\(\left\{I_{n}\right\} \)を考察対象とするということです。
以上の3つの性質を満たす区間列を入れ子構造の閉区間列(nested sequence of closed intervals)と呼ぶこととします。
I_{n}\right\} \text{の定義} \\
&\supset &\left[ -\frac{1}{n+1},\frac{1}{n+1}\right] \\
&=&I_{n+1}\quad \because \left\{ I_{n}\right\} \text{の定義}
\end{eqnarray*}が成り立つため、この区間列は単調減少列です。さらに、\begin{eqnarray*}
\lim_{n\rightarrow \infty }\left[ \frac{1}{n}-\left( -\frac{1}{n}\right) \right] &=&\lim_{n\rightarrow \infty }\left( \frac{2}{n}\right) \\
&=&0
\end{eqnarray*}が成り立ちます。したがって、この区間列は入れ子構造の閉区間列です。
I_{n}\right\} \text{の定義} \\
&\supset &\left[ 0,\frac{1}{2\left( n+1\right) ^{2}}\right] \\
&=&I_{n+1}\quad \because \left\{ I_{n}\right\} \text{の定義}
\end{eqnarray*}が成り立つため、この区間列は単調減少列です。さらに、\begin{eqnarray*}
\lim_{n\rightarrow \infty }\left( \frac{1}{2n^{2}}-0\right)
&=&\lim_{n\rightarrow \infty }\left( \frac{1}{2n^{2}}\right) \\
&=&0
\end{eqnarray*}が成り立ちます。したがって、この区間列は入れ子構造の閉区間列です。
カントールの縮小区間定理
カントールの縮小区間定理(Cantor’s nested interval theorem)とは、入れ子構造の閉区間列\(\left\{ I_{n}\right\} \)が与えられたとき、その共通部分は空集合ではないという命題、すなわち、\begin{equation*}\bigcap\limits_{n=1}^{\infty }I_{n}\not=\phi
\end{equation*}が成り立つという命題です。つまり、入れ子構造の閉区間列\(\left\{ I_{n}\right\} \)に対しては、その要素であるすべての区間\(I_{1},I_{2},\cdots \)に属する実数が必ず存在します。しかも、そのような実数は常に1つだけ存在するとともに、その実数を具体的に特定することもできます。カントールの縮小区間定理はカントールの共通部分定理(Cantor’s intersection theorem)やカントールの区間縮小法の原理などと呼ばれることもあります。証明では実数の連続性(単調有界数列の収束定理)を利用します。
I_{1}\supset I_{2}\supset I_{3}\supset \cdots
\end{equation*}が成り立ち、さらに、\begin{equation*}
\lim_{n\rightarrow \infty }\left( b_{n}-a_{n}\right) =0
\end{equation*}が成り立つものとする。以上の性質を満たす区間列\(\left\{ I_{n}\right\} \)について、\begin{equation*}\bigcap\limits_{n=1}^{\infty }I_{n}\not=\phi
\end{equation*}が成り立つ。しかも、この共通部分は1点集合であり、その唯一の要素は、\begin{equation*}
\lim\limits_{n\rightarrow \infty }a_{n}\ \left( =\lim\limits_{n\rightarrow
\infty }b_{n}\right)
\end{equation*}と一致する。
\lim_{n\rightarrow \infty }\left( -\frac{1}{n}\right) =\lim_{n\rightarrow
\infty }\left( \frac{1}{n}\right) =0
\end{equation*}と一致します。つまり、\begin{equation*}
\bigcap\limits_{n=1}^{\infty }I_{n}=\left\{ 0\right\}
\end{equation*}が成り立つということです。
\lim_{n\rightarrow \infty }0=\lim_{n\rightarrow \infty }\left( \frac{1}{2n^{2}}\right) =0
\end{equation*}と一致します。つまり、\begin{equation*}
\bigcap\limits_{n=1}^{\infty }I_{n}=\left\{ 0\right\}
\end{equation*}が成り立つということです。
カントールの縮小区間定理が要求する条件の吟味
カントール縮小区間定理は区間列に対して3つの条件を要求しています。1つ目はその区間列が有界な閉区間列であること、2つ目は単調減少列であること、そして3つ目は区間の長さが\(0\)へ収束することです。これらの条件はいずれも必須なのでしょうか。
以下の例が示唆するように、区間列の共通部分が1点集合になることを保証する際には、それが閉区間列であるという条件を外すことはできません。つまり、区間列が閉区間列でない場合、その共通部分は1点集合になるとは限らないということです。
\end{equation*}として与えられているものとします。任意の\(n\in \mathbb{N} \)について、\(I_{n}\)は有界な開区間であり、閉区間ではありません。したがって、この区間列は入れ子構造の閉区間列ではありません。ちなみに、番号\(n\in \mathbb{N} \)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}I_{n} &=&\left( 0,\frac{1}{n}\right) \quad \because \left\{ I_{n}\right\}
\text{の定義} \\
&\supset &\left( 0,\frac{1}{n+1}\right) \\
&=&I_{n+1}\quad \because \left\{ I_{n}\right\} \text{の定義}
\end{eqnarray*}が成り立つため、この区間列は単調減少列であるとともに、\begin{eqnarray*}
\lim_{n\rightarrow \infty }\left( \frac{1}{n}-0\right) &=&\lim_{n\rightarrow
\infty }\left( \frac{1}{n}\right) \\
&=&0
\end{eqnarray*}が成り立ちます。したがって、この区間列はカントールの縮小区間定理が要求する条件のうち、閉区間列であるという条件だけを満たしていません。さらに、この区間列の共通部分は、\begin{equation*}
\bigcap\limits_{n=1}^{\infty }I_{n}=\phi
\end{equation*}となり(演習問題にします)、これは1点集合ではありません。
ちなみに、任意の開区間列の共通部分が1点集合にならないわけではありません。単調減少であるとともに、区間の長さが\(0\)へ収束する開区間列の中には、その共通部分が1点集合になるものも存在します(演習問題にします)。
以下の例が示唆するように、区間列の共通部分が1点集合になることを保証する際には、区間の長さが\(0\)に収束するという条件を外すことはできません。
I_{n}\right\} \text{の定義} \\
&\supset &\left[ -1-\frac{1}{n+1},1+\frac{1}{n+1}\right] \\
&=&I_{n+1}\quad \because \left\{ I_{n}\right\} \text{の定義}
\end{eqnarray*}が成り立つため、この区間列は単調減少列です。一方、\begin{eqnarray*}
\lim_{n\rightarrow \infty }\left[ \left( 1+\frac{1}{n}\right) -\left( -1-\frac{1}{n}\right) \right] &=&\lim_{n\rightarrow \infty }\left( 2+\frac{2}{n}\right) \\
&=&\lim_{n\rightarrow \infty }2+\lim_{n\rightarrow \infty }\left( \frac{2}{n}\right) \\
&=&2+0 \\
&=&2
\end{eqnarray*}となります。したがって、この区間列はカントールの縮小区間定理が要求する条件のうち、区間の長さが\(0\)に収束するいう条件だけを満たしていません。さらに、この区間列の共通部分は、\begin{equation*}\bigcap\limits_{n=1}^{\infty }I_{n}=\left[ -1,1\right] \end{equation*}となりますが、これは1点集合ではありません。
演習問題
\end{equation*}として与えられているものとします。このとき、\begin{equation*}
\bigcap\limits_{n=1}^{\infty }I_{n}=\phi
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。
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