n次元空間上に狭義順序と呼ばれる二項関係を定義した上で、その基本的な性質を確認します。
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狭義順序

\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の点からなる任意の順序対\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{n}\times \mathbb{R} ^{n}\)に対して、\begin{equation*}
x<y\Leftrightarrow \left( x\leq y\wedge x\not=y\right)
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} ^{n}\)上の新たな二項関係\(<\)を定義します。これを狭義順序(strict ordering)と呼びます。\(x<y\)が成り立つ場合、\(x\)は\(y\)より小さい(lessl)とか、\(y\)は\(x\)より大きい(greater)などと表現します。

点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)かつ\(y=\left( y_{1},\cdots ,y_{n}\right) \)です。\(\mathbb{R} ^{n}\)上の順序\(\leq \)は、\begin{equation*}
x\leq y\Leftrightarrow \forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :x_{i}\leq
y_{i}
\end{equation*}を満たすものとして定義されるため、これと狭義順序\(<\)の定義を踏まえると、\(x<y\)が成り立つこととは、\begin{eqnarray*}
\forall i &\in &\left\{ 1,\cdots ,n\right\} :x_{i}\leq y_{i} \\
\exists &\in &\left\{ 1,\cdots ,n\right\} :x_{i}\not=y_{i}
\end{eqnarray*}がともに成り立つこと、さらに言い換えると、\begin{eqnarray*}
\forall i &\in &\left\{ 1,\cdots ,n\right\} :x_{i}\leq y_{i} \\
\exists i &\in &\left\{ 1,\cdots ,n\right\} :x_{i}<y_{i}
\end{eqnarray*}がともに成り立つことを意味します。以上を踏まえると、\(\mathbb{R} ^{n}\)上の狭義順序\(<\)を、\begin{equation*}
x<y\Leftrightarrow y-x\in
\mathbb{R} _{+}^{n}\backslash \left\{ 0\right\}
\end{equation*}を満たすものとして定義できます。つまり、ベクトル差\(y-x\)がゼロベクトルではない非負ベクトルであるとき、そしてその場合にのみ\(x<y\)が成り立つということです。

狭義順序\(<\)の逆関係を\(>\)で表記します。つまり、\(\mathbb{R} ^{n}\)の点からなる順序対\(\left( x,y\right) \)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
x>y\Leftrightarrow y<x
\end{equation*}を満たすものとして\(>\)を定義するということです。つまり、\(x\)が\(y\)より大きいことを\(x>y\)と表記することもできるということです。

例(狭義順序)
\(1\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} \)を任意に選びます。このとき、\begin{equation*}
x<y\Leftrightarrow x<y
\end{equation*}という関係が成り立ちます。ただし、左側の\(<\)は\(\mathbb{R} \)上の狭義順序を、右側の\(<\)は\(\mathbb{R} \)上の狭義大小関係を表す記号です。つまり、1次元空間において、狭義順序と狭義大小関係は等しくなります。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}
1 &<&4 \\
-1 &<&8 \\
\frac{1}{10} &<&\frac{4}{5}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
例(狭義順序)
\(2\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{2}\)を任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},x_{2}\right) \)かつ\(y=\left( y_{1},y_{2}\right) \)です。このとき、\begin{equation*}
x<y\Leftrightarrow \left( \forall i\in \left\{ 1,2\right\} :x_{i}\leq
y_{i}\right) \wedge \left( \exists i\in \left\{ 1,2\right\}
:x_{i}<y_{i}\right)
\end{equation*}となります。ただし、左側の\(<\)は\(\mathbb{R} ^{2}\)上の狭義順序を、右側の\(\leq \)や\(<\)は\(\mathbb{R} \)上の大小関係や狭義大小関係を表す記号です。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}
\left( 1,2\right) &<&\left( 1,3\right) \\
\left( -1,7\right) &<&\left( 3,2\right) \\
\left( -\frac{1}{2},-2\right) &<&\left( \frac{2}{3},-1\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
例(狭義順序)
\(3\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{3}\)を任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) \)かつ\(y=\left( y_{1},y_{2},y_{3}\right) \)です。このとき、\begin{equation*}
x<y\Leftrightarrow \left( \forall i\in \left\{ 1,2,3\right\} :x_{i}\leq
y_{i}\right) \wedge \left( \exists i\in \left\{ 1,2,3\right\}
:x_{i}<y_{i}\right)
\end{equation*}となります。ただし、左側の\(<\)は\(\mathbb{R} ^{3}\)上の狭義順序を、右側の\(\leq \)や\(<\)は\(\mathbb{R} \)上の大小関係や狭義大小関係を表す記号です。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}
\left( 1,2,3\right) &<&\left( 3,4,5\right) \\
\left( -1,4,2\right) &<&\left( 0,4,7\right) \\
\left( \frac{1}{2},-2,-\frac{1}{2}\right) &<&\left( 0,2,\frac{1}{4}\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)かつ\(y=\left( y_{1},\cdots ,y_{n}\right) \)です。このとき、\begin{equation*}
x\ll y\Leftrightarrow \forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :x_{i}<y_{i}
\end{equation*}を満たすような\(\mathbb{R} ^{n}\)上の二項関係\(\ll \)を定義することもあります。定義より、\(x\ll y\)であることは\(x<y\)を含意しますが、逆に、\(x<y\)のときには\(x\ll y\)であるとは限りません。また、\begin{equation*}
x\ll y\Leftrightarrow y-x\in
\mathbb{R} _{++}^{n}
\end{equation*}という関係が成り立ちます。つまり、ベクトル差\(y-x\)が正のベクトルであるとき、そしてその場合にのみ\(x\ll y\)が成り立つということです。

 

狭義順序の基本性質

点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選びます。\(x<y\)が成り立つ場合、逆に\(y<x\)は成り立たないことを示します。具体的には、\(x<y\)と\(y<x\)がともに成り立つものと仮定すると、\begin{eqnarray*}
\left( x<y\wedge y<x\right) &\Leftrightarrow &\left( x\leq y\wedge
x\not=y\right) \wedge \left( y\leq x\wedge y\not=x\right) \quad \because <\text{の定義} \\
&\Leftrightarrow &\left( x\leq y\wedge y\leq x\right) \wedge \left(
x\not=y\wedge y\not=x\right) \quad \because \wedge \text{の交換律} \\
&\Leftrightarrow &\left( x\leq y\wedge y\leq x\right) \wedge x\not=y\quad
\because \wedge \text{のベキ等律} \\
&\Rightarrow &x=y\wedge x\not=y\quad \because \leq \text{の反対称律} \\
&\Leftrightarrow &\bot \quad \because \bot \text{は恒偽式}
\end{eqnarray*}となります。したがって、\(x<y\)が成り立つ場合には\(y<x\)は成り立ちません。得られた結果を定式化すると、\begin{equation*}
\forall x,y\in
\mathbb{R} :\left[ x<y\Rightarrow \lnot \left( y<x\right) \right] \end{equation*}となりますが、これを\(<\)に関する非対称律(asymmetric law)と呼びます。つまり、点\(x,y\)について、\(x\)が\(y\)より小さい場合、\(y\)は\(x\)よりも小さくないことが保証されます。

命題(狭義順序の非対称律)
\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に定義された狭義順序\(<\)は以下の性質を満たす。\begin{equation*}
\left( S_{1}\right) \ \forall x,y\in
\mathbb{R} ^{n}:\left[ x<y\Rightarrow \lnot \left( y<x\right) \right] \end{equation*}
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上の命題において\(y=x\)とおくと、以下の命題\begin{equation*}
\forall x\in
\mathbb{R} ^{n}:\lnot \left( x<x\right)
\end{equation*}が導かれます。(演習問題にします)。これを\(<\)に関する非反射律(antireflexive law)と呼びます。つまり、点\(x\)を任意に選んだとき、それは\(x\)自身より小さくはなく、\(x\)自身より大きくもありません。

命題(狭義順序の非反射律)
\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に定義された狭義順序\(<\)は以下の性質を満たす。\begin{equation*}
\left( S_{2}\right) \ \forall x\in
\mathbb{R} ^{n}:\lnot \left( x<x\right)
\end{equation*}
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点\(x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選びます。\(x<y\)と\(y<z\)がともに成り立つ場合、\(x<z\)が成り立つことを示します。具体的には、\(x<y\)と\(y<z\)がともに成り立つ場合、\begin{eqnarray*}
\left( x<y\wedge y<z\right) &\Leftrightarrow &\left( x\leq y\wedge
x\not=y\right) \wedge \left( y\leq z\wedge y\not=z\right) \quad \because <\text{の定義} \\
&\Leftrightarrow &\left( x\leq y\wedge y\leq z\right) \wedge \left(
x\not=y\wedge y\not=z\right) \quad \because \wedge \text{の交換律} \\
&\Rightarrow &x\leq z\wedge \left( x\not=y\wedge y\not=z\right) \quad
\because \leq \text{の推移律} \\
&\Rightarrow &x\leq z
\end{eqnarray*}すなわち\(x\leq z\)が成り立ちます。また、\(x<y\)と\(y<z\)から\(x\not=z\)を導くこともできます(演習問題にします)。\(x\leq z\)かつ\(x\not=z\)であるとき、\(<\)の定義より\(x<z\)が成り立ちます。得られた結果を定式化すると、\begin{equation*}
\forall x,y,z\in
\mathbb{R} ^{n}:\left[ \left( x<y\wedge y<z\right) \Rightarrow x<z\right] \end{equation*}となりますが、これを\(<\)に関する推移律(transitive law)と呼びます。つまり、点\(x,y,z\)について、\(x\)よりも\(y\)の方が大きく、さらに\(z\)が\(y\)よりも大きい場合には、\(z\)が\(x\)よりも大きいことが保証されます。

命題(狭義順序の推移律)
\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に定義された狭義順序\(<\)は以下の性質を満たす。\begin{equation*}
\left( S_{3}\right) \ \forall x,y,z\in
\mathbb{R} ^{n}:\left[ \left( x<y\wedge y<z\right) \Rightarrow x<z\right] \end{equation*}
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\(\mathbb{R} ^{n}\)上の順序\(<\)が\(\left( S_{1}\right) \)から\(\left( S_{3}\right) \)までの性質を満たすことは、\(\mathbb{R} ^{n}\)が狭義順序集合(strict ordered set)であることを意味します。狭義順序集合を\(\left( \mathbb{R} ^{n},<\right) \)と表記しますが、狭義順序集合について言及していることが文脈から明らかである場合には、これをシンプルに\(\mathbb{R} ^{n}\)で表します。

命題(狭義順序集合としての(n)次元空間)
\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)は狭義順序集合である。
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\(1\)次元空間\(\mathbb{R} \)上の狭義順序\(<\)は狭義大小関係と実質的に等しいため、非対称律、非反射律、推移律に加えて、三分律(trichotomy law)と呼ばれる以下の性質\begin{equation*}
\forall x,y\in \mathbb{R} :\left( x<y\vee y<x\vee x=y\right)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、狭義大小関係\(<\)のもとでは\(\mathbb{R} \)の任意の2つの点が比較可能です。これは1次元空間\(\mathbb{R} \)が狭義全順序集合であることを意味します。

一方、\(2\)次元以上の空間\(\mathbb{R} ^{n}\)に関しては、そこに定義された狭義順序\(\leq \)は三分律を満たしません。実際、\(\mathbb{R} ^{n}\)の要素である以下の2つの点\begin{eqnarray*}
x &=&\left( 1,0,\cdots ,0\right) \\
y &=&\left( 0,\cdots ,0,1\right)
\end{eqnarray*}に注目したとき、\(\mathbb{R} ^{n}\)における狭義順序\(<\)のもとでは\(x<y\)と\(y<x\)と\(x=y\)の中のいずれも成り立ちません。\(n\geq 2\)の場合、\(\mathbb{R} ^{n}\)は狭義全順序集合ではないということです。

 

点の符号

点\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)とゼロベクトル\(0\in \mathbb{R} ^{n}\)の間に\(0<x\)が成り立つ場合、\(x\)は(positive)であると言います。一方、\(x<0\)が成り立つ場合、\(x\)は(negative)であると言います。\(\mathbb{R} ^{n}\)の点の中でも、すべての正な点からなる集合を\(\mathbb{R} _{++}^{n}\)で表し、すべての負な点からなる集合を\(\mathbb{R} _{−−}^{n}\)で表します。つまり、\begin{align*}
\mathbb{R} _{++}^{n}& =\left\{ x\in
\mathbb{R} ^{n}\ |\ x>0\right\} \\
\mathbb{R} _{−−}^{n}& =\left\{ x\in
\mathbb{R} ^{n}\ |\ x<0\right\}
\end{align*}です。

狭義順序\(<\)の非反射律よりゼロベクトル\(0\in \mathbb{R} ^{n}\)については\(\lnot \left( 0<0\right) \)が成り立つため、\(\mathbb{R} _{++}^{n}\)と\(\mathbb{R} _{−−}^{n}\)の定義より、\(0\not\in \mathbb{R} _{++}^{n}\)と\(0\not\in \mathbb{R} _{−−}^{n}\)がともに成り立ちます。

命題(点の符号)
\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に定義された狭義順序\(<\)のもとでは、\begin{equation*}
0\in
\mathbb{R} _{++}^{n}\cup
\mathbb{R} _{−−}^{n}
\end{equation*}が成り立つ。
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順序と狭義順序の関係

\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上の順序\(\leq \)が与えられたとき、任意の順序対\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{n}\times \mathbb{R} ^{n}\)に対して、\begin{equation*}
x<y\Leftrightarrow \left( x\leq y\wedge x\not=y\right)
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} ^{n}\)上の狭義順序\(<\)を定義しましたが、反面、\begin{equation*}
x\leq y\Leftrightarrow (x<y\vee x=y)
\end{equation*}という関係も成り立つため(演習問題にします)、狭義順序\(<\)を用いて順序\(\leq \)を特徴づけることも可能です。つまり、点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)について、\(x\leq y\)が成り立つことは\(x<y\)と\(x=y\)の少なくとも一方が成り立つことを意味します。

命題(順序と狭義順序の関係)
\(n\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)をそれぞれ任意に選ぶと、\begin{equation*}
x\leq y\Leftrightarrow (x<y\vee x=y)
\end{equation*}が成り立つ。
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\(x<y\)かつ\(y\leq z\)を満たす点\(x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選びます。\(x<y\)は\(x\leq y\)を含意するため、これと\(y\leq z\)に対して\(\leq \)の推移律を適用することにより\(x\leq z\)を得ます。加えて\(x\not=z\)であることも示されるため(演習問題にします)、\(<\)の定義より\(x<z\)が成り立ちます。\(x\leq y\)かつ\(y<z\)を満たす点\(x,y,z\)に対して\(x<z\)が成り立つことも示されます。これは\(\leq \)と\(<\)の双方が関係する推移律です。

命題(順序と狭義順序の関係)
\(n\)次元空間の点\(x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}\)をそれぞれ任意に選ぶと、\begin{eqnarray*}
\left( a\right) \ \left( x<y\wedge y\leq z\right) &\Rightarrow &x<z \\
\left( b\right) \ \left( x\leq y\wedge y<z\right) &\Rightarrow &x<z
\end{eqnarray*}が成り立つ。
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次回は実順序ベクトル空間について学びます。

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