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ベクトル加法

\(n\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、それらの対応する成分どうしを足すことにより得られる\(\mathbb{R} ^{n}\)の点を、\begin{equation*}x+y=\left( x_{1}+y_{1},\cdots ,x_{n}+y_{n}\right)
\end{equation*}で表記し、これを\(x\)と\(y\)のベクトル和(vector sum)や(sum)などと呼びます。左辺の\(+\)はベクトル和を表す記号であり、右辺の\(+\)は\(\mathbb{R} \)上の加法を表す記号であることに注意してください。両者を同じ記号を用いて表記するため注意が必要です。

点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、実数空間\(\mathbb{R} \)が加法\(+\)について閉じていることからベクトル和\(x+y\)のそれぞれの成分\(x_{i}+y_{i}\)が1つの実数として定まることが保証されるため、\(x+y\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)の1つの点として定まることが保証されます。したがって、\(\mathbb{R} ^{n}\)の点を成分とするそれぞれの順序対\(\left( x,y\right) \)に対して、\(\mathbb{R} ^{n}\)の点であるベクトル和\(x+y\)を定める二項演算\(+\)が定義可能です。これをベクトル加法(vector addition)と呼びます。\(\mathbb{R} ^{n}\)はベクトル加法\(+\)について閉じています。\(\left( x,y\right) \)に対して\(+\)を適用することを、\(x\)と\(y\)を足す(add)と言います。

例(ベクトル加法)
\(1\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、それらのベクトル和は、\begin{equation*}x+y=x+y
\end{equation*}となります。ただし、左辺の\(+\)はベクトル加法を表す記号であり、右辺の\(+\)は実数どうしの加法を表す記号です。つまり、\(1\)次元空間においてベクトル加法と加法は一致します。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}1+4 &=&5 \\
\left( -1\right) +8 &=&7 \\
\frac{4}{5}+\frac{1}{10} &=&\frac{9}{10}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

例(ベクトル加法)
\(2\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{2}\)を任意に選んだとき、それらのベクトル和は、\begin{equation*}x+y=\left( x_{1}+y_{1},x_{2}+y_{2}\right)
\end{equation*}となります。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}
\left( 1,2\right) +\left( 3,1\right) &=&\left( 1+3,2+1\right) =\left(
4,3\right) \\
\left( -1,7\right) +\left( 3,2\right) &=&\left( \left( -1\right)
+3,7+2\right) =\left( 2,9\right) \\
\left( \frac{2}{3},-1\right) +\left( -\frac{1}{2},-2\right) &=&\left( \frac{2}{3}+\left( -\frac{1}{2}\right) ,\left( -1\right) +\left( -2\right) \right)
=\left( \frac{1}{6},-3\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

例(ベクトル加法)
\(3\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{3}\)を任意に選んだとき、それらのベクトル和は、\begin{equation*}x+y=\left( x_{1}+y_{1},x_{2}+y_{2},x_{3}+y_{3}\right)
\end{equation*}となります。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}
\left( 1,2,3\right) +\left( 3,4,5\right) &=&\left( 1+3,2+4,3+5\right)
=\left( 4,6,8\right) \\
\left( -1,4,2\right) +\left( 0,1,-7\right) &=&\left( -1+0,4+1,2+\left(
-7\right) \right) =\left( -1,5,-5\right) \\
\left( \frac{1}{2},\frac{1}{3},\frac{1}{4}\right) +\left( 0,-2,-\frac{1}{2}\right) &=&\left( \frac{1}{2}+0,\frac{1}{3}+\left( -2\right) ,\frac{1}{4}+\left( -\frac{1}{2}\right) \right) =\left( \frac{1}{2},-\frac{5}{3},-\frac{1}{4}\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

ベクトル加法は同一の空間に属する2つの点に対してのみ定義されます。異なる空間に属する点どうしにベクトル加法を適用することはできません。

例(ベクトル加法)
\(2\)次元空間の点\(x\in \mathbb{R} ^{2}\)と\(3\)次元空間の点\(y\in \mathbb{R} ^{3}\)をそれぞれ任意に選んだとき、これらは異なる空間に属する点であるため、これらのベクトル加法\(x+y\)は定義されません。

 

ベクトル加法の結合律

\(\mathbb{R} \)上の加法と同様、\(\mathbb{R} ^{n}\)上のベクトル加法もまた結合律(associative law)を満たします。

命題(ベクトル加法の結合律)
\(\mathbb{R} ^{n}\)上に定義されたベクトル加法\(+\)は、\begin{equation*}\left( V_{1}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}:(x+y)+z=x+(y+z)
\end{equation*}を満たす。

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ゼロベクトル(ベクトル加法単位元)

実数空間\(\mathbb{R} \)の加法単位元であるゼロ\(0\)を用いて、\begin{equation*}0=\left( 0,\cdots ,0\right)
\end{equation*}と定義される\(\mathbb{R} ^{n}\)の点をゼロベクトル(zero vector)と呼びます。ただし、左辺の\(0\)はゼロベクトルを表す記号であり、右辺の\(0\)はゼロです。つまり、ゼロベクトルとはすべての成分がゼロであるような\(\mathbb{R} ^{n}\)上の点です。多くの場合、ゼロベクトルを\(\boldsymbol{0}\)で表記し、ゼロを\(0\)で表記するのですが、本稿では両者をともに\(0\)で表記するため注意してください。

ゼロが加法に関する単位元であるように、ゼロベクトルはベクトル加法に関する単位元です。

命題(ベクトル加法単位元)
\(\mathbb{R} ^{n}\)上に定義されたベクトル加法\(+\)は、\begin{equation*}\left( V_{2}\right) \ \exists 0\in \mathbb{R} ^{n},\ \forall x\in \mathbb{R} ^{n}:x+0=x
\end{equation*}を満たす。

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\(\mathbb{R} \)の加法単位元\(0\)は一意的であるため、\(0\)を成分として持つベクトルとして定義されるゼロベクトルもまた一意的です。

命題(ゼロベクトルの一意性)
\(\mathbb{R} ^{n}\)におけるゼロベクトル\(0\)は一意的である。

 

逆ベクトル(ベクトル加法逆元)

点\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、それに対して、\begin{equation*}-x=\left( -x_{1},\cdots ,-x_{n}\right)
\end{equation*}と定義される\(\mathbb{R} ^{n}\)の点を\(x\)の逆ベクトル(inverse vector)や負ベクトル(negative vector)などと呼びます。ただし、左辺の\(-x\)は\(\mathbb{R} ^{n}\)の点\(x\)の逆ベクトルを表す記号であり、右辺の\(-x_{i}\)は実数\(x_{i}\)の加法逆元を表す記号です。両者を同じ記号を用いて表記するため注意してください。

実数\(x\)の負数\(-x\)が加法に関する\(x\)の逆元であるように、ベクトル\(x\)の逆ベクトルはベクトル加法に関する\(x\)の逆元です。

命題(逆ベクトル)
\(\mathbb{R} ^{n}\)上に定義されたベクトル加法\(+\)は、\begin{equation*}\left( V_{3}\right) \ \forall x\in \mathbb{R} ^{n},\ \exists -x\in \mathbb{R} ^{n}:x+(-x)=0
\end{equation*}を満たす。

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それぞれの実数\(x_{i}\)に対してその加法逆元\(-x_{i}\)は一意的に定まるため、それぞれのベクトル\(x\)に対してその逆ベクトル\(-x\)は一意的に定まります。

命題(逆ベクトルの一意性)
点\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、その逆ベクトル\(-x\in \mathbb{R} ^{n}\)は一意的である。

 

ベクトル加法の交換律

\(\mathbb{R} \)上の加法と同様、\(\mathbb{R} ^{n}\)上のベクトル加法もまた交換律(commutative law)を満たします。

命題(ベクトル加法の交換律)
\(\mathbb{R} ^{n}\)上に定義されたベクトル加法\(+\)は、\begin{equation*}\left( V_{4}\right) \ \forall x,y,\in \mathbb{R} ^{n}:x+y=y+x
\end{equation*}を満たす。

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可換群としての\(n\)次元空間

ベクトル加法\(+\)が\(\left(V_{1}\right) \)を満たすことは、\(\mathbb{R} ^{n}\)が\(+\)に関して半群(semigroup)であることを意味します。また、ベクトル加法\(+\)が\(\left(V_{1}\right) \)と\(\left( V_{2}\right) \)を満たすことは、\(\mathbb{R} ^{n}\)が\(+\)に関してモノイド(monoid)であることを意味します。また、ベクトル加法\(+\)が\(\left( V_{1}\right) ,\left( V_{2}\right) \)に加えて\(\left( V_{3}\right) \)を満たすことは、\(\mathbb{R} ^{n}\)が\(+\)に関して(group)であることを意味します。さらに、ベクトル加法\(+\)が\(\left( V_{1}\right),\left( V_{2}\right) ,\left( V_{3}\right) \)に加えて\(\left( V_{4}\right) \)を満たすことは、\(\mathbb{R} ^{n}\)が\(+\)に関して可換群(commutative group)またはアーベル群(abelian group)であることを意味します。

命題(ベクトル加法と可換群)
\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)はベクトル加法\(+\)に関して可換群である。すなわち、\begin{eqnarray*}&&\left( V_{1}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}:(x+y)+z=x+(y+z) \\
&&\left( V_{2}\right) \ \exists 0\in \mathbb{R} ^{n},\ \forall x\in \mathbb{R} ^{n}:x+0=x \\
&&\left( V_{3}\right) \ \forall x\in \mathbb{R} ^{n},\ \exists -x\in \mathbb{R} ^{n}:x+(-x)=0 \\
&&\left( V_{4}\right) \ \forall x,y,\in \mathbb{R} ^{n}:x+y=y+x
\end{eqnarray*}が成り立つ。

 

逆ベクトルの逆ベクトル

点\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、その逆ベクトル\(-x\)もまた\(\mathbb{R} ^{n}\)の点であるため、さらにその逆ベクトル\(-\left( -x\right) \)が存在し、これもまた\(\mathbb{R} ^{n}\)の点です。しかも、\begin{equation*}-\left( -x\right) =x
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(\mathbb{R} ^{n}\)の点の逆ベクトルの逆ベクトルはもとの点と一致します。

命題(逆ベクトルの逆ベクトル)
\(n\)次元空間の点\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}-\left( -x\right) =x
\end{equation*}が成り立つ。

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ゼロベクトルの逆ベクトル

ゼロベクトル\(0\)は\(\mathbb{R} ^{n}\)の点であるため、その逆ベクトル\(-0\)もまた\(\mathbb{R} ^{n}\)の点です。しかも、\begin{equation*}-0=0
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、ゼロベクトルの逆ベクトルはゼロベクトルです。

命題(ゼロベクトルの逆ベクトル)
\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)におけるゼロベクトル\(0\)について、\begin{equation*}-0=0
\end{equation*}が成り立つ。

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演習問題

問題(ベクトル加法)
点\(x,y,z\in \mathbb{R} ^{3}\)がそれぞれ、\begin{eqnarray*}x &=&\left( 2,-7,1\right) \\
y &=&\left( -3,0,4\right) \\
z &=&\left( 0,5,-8\right)
\end{eqnarray*}として与えられているとき、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ x+y \\
&&\left( b\right) \ y+z \\
&&\left( c\right) \ x+\left( -z\right) \\
&&\left( d\right) \ -\left( -z\right) +\left( -x\right) +y
\end{eqnarray*}をそれぞれ求めてください。

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問題(ベクトル加法)
任意の点\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)について、\begin{equation*}-\left( -\left( -x\right) \right) =-x
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。

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問題(ベクトル加法の簡約法則)
点\(x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}\)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}x+y=x+z\Rightarrow y=z
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。これをベクトル加法に関する簡約法則(cancellation law)と呼びます。

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次回はベクトル減法と呼ばれる演算について解説します。

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