実数の公理を満たす実数空間 R が与えられたとき、n 個の R の直積集合を n 次元空間と呼びます。これは実数の n-組(成分が実数であるようなn次元ベクトル)をすべて集めてできる集合です。
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実数空間

公理主義的実数論の立場のもと、実数空間\(\mathbb{R} \)上に加法\(+\)および乗法\(\cdot \)と呼ばれる二項演算と、大小関係\(\leq \)と呼ばれる二項関係を定義した上で、これらが満たすべき性質を公理として定めました。実数の公理について簡単に振り返ります。

まず、\(\left( \mathbb{R} ,+,\cdot \right) \)は体としての性質を満たすものと定めました。

公理(体としての実数空間)
\(\mathbb{R} \)は加法\(+\)と乗法\(\cdot \)に関する体である。すなわち、\begin{eqnarray*}
&&\left( R_{1}\right) \ \forall x,y,z\in
\mathbb{R} :\left( x+y\right) +z=x+\left( y+z\right) \\
&&\left( R_{2}\right) \ \exists 0\in
\mathbb{R} ,\ \forall x\in
\mathbb{R} :x+0=x \\
&&\left( R_{3}\right) \ \forall x\in
\mathbb{R} ,\ \exists -x\in
\mathbb{R} :x+\left( -x\right) =0 \\
&&\left( R_{4}\right) \ \forall x,y\in
\mathbb{R} :x+y=y+x \\
&&\left( R_{5}\right) \ \forall x,y,z\in
\mathbb{R} :\left( x\cdot y\right) \cdot z=x\cdot \left( y\cdot z\right) \\
&&\left( R_{6}\right) \ \exists 1\in
\mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} ,\ \forall x\in
\mathbb{R} :x\cdot 1=x \\
&&\left( R_{7}\right) \ \forall x\in
\mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} ,\ \exists x^{-1}\in
\mathbb{R} :x\cdot x^{-1}=1 \\
&&\left( R_{8}\right) \ \forall x,y\in
\mathbb{R} :x\cdot y=y\cdot x \\
&&\left( R_{9}\right) \ \forall x,y,z\in
\mathbb{R} :\left( x+y\right) \cdot z=x\cdot z+y\cdot z
\end{eqnarray*}を公理として定める。

また、\(\left( \mathbb{R} ,\leq \right) \)は全順序集合としての性質を満たすものと定めました。

公理(全順序集合としての実数空間)
\(\mathbb{R} \)は大小関係\(\leq \)に関する全順序集合である。すなわち、\begin{eqnarray*}
&&\left( R_{10}\right) \ \forall x\in
\mathbb{R} :x\leq x \\
&&\left( R_{11}\right) \ \forall x,y\in
\mathbb{R} :[(x\leq y\ \wedge \ y\leq x)\ \Rightarrow \ x=y] \\
&&\left( R_{12}\right) \ \forall x,y,z\in
\mathbb{R} :\left[ \left( x\leq y\ \wedge \ y\leq z\right) \ \Rightarrow \ x\leq z\right] \\
&&\left( R_{13}\right) \ \forall x,y\in
\mathbb{R} :\left( x\leq y\ \vee \ y\leq x\right)
\end{eqnarray*}を公理として定める。

さらに、\(\left( \mathbb{R} ,+,\cdot ,\leq \right) \)は全順序体としての性質を満たすものと定めました。

公理(順序体としての実数空間)
\(\mathbb{R} \)は演算\(+,\cdot \)と大小関係\(\leq \)に関する全順序体である。すなわち、\(\left( R_{1}\right) \)から\(\left( R_{13}\right) \)までの公理に加えて、\begin{eqnarray*}
&&\left( R_{14}\right) \ \forall x,y,z\in
\mathbb{R} :\left( x\leq y\ \Rightarrow \ x+z\leq y+z\right) \\
&&\left( R_{15}\right) \ \forall x,y\in
\mathbb{R} :\left[ \left( 0\leq x\ \wedge \ 0\leq y\right) \ \Rightarrow \ 0\leq x\cdot
y\right] \end{eqnarray*}

最後に、\(\left( \mathbb{R} ,\leq \right) \)は連続性の公理を満たすものと定めました。

公理(連続性の公理)
\(\mathbb{R} \)の切断\(\left\langle A,B\right\rangle \)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \max A\text{は存在するが}\min B\text{は存在しない} \\
&&\left( b\right) \ \max A\text{は存在しないが}\min B\text{は存在する}
\end{eqnarray*}のどちらか一方が成り立つことを公理として定める。

\(\mathbb{R} \)上に定義された大小関係\(\leq \)が全順序としての性質に相当する\(\left( R_{10}\right) \)から\(\left( R_{13}\right) \)までの公理に加えて連続性の公理を満たすことは、\(\mathbb{R} \)が\(\leq \)に関して完備な全順序であることを意味します。また、\(\mathbb{R} \)上に定義された演算\(+,\cdot \)と大小関係\(\leq \)が全順序体としての性質に相当する\(\left( R_{1}\right) \)から\(\left( R_{15}\right) \)までの公理に加えて連続性の公理\(\left( R_{16}\right) \)を満たすことは、\(\mathbb{R} \)が完備な全順序体であることを意味します。このような完備な全順序体を正式には\(\left( \mathbb{R} ,+,\cdot ,\leq \right) \)と表記しますが、議論の対象が\(\left( \mathbb{R} ,+,\cdot ,\leq \right) \)であることが文脈から明らかである場合には、これをシンプルに\(\mathbb{R} \)で表すこともできます。\(\mathbb{R} \)に関する公理は以上ですべてです。つまり、公理主義的実数論において、\(\mathbb{R} \)は完備な全順序体として定義されます。

 

\(n\)次元空間

実数空間\(\mathbb{R} \)は完備な全順序体としての公理を満たすものとします。その上で、有限\(n\)個の\(\mathbb{R} \)の直積集合を、\begin{equation*}
\mathbb{R} ^{n}=\{(x_{1},\cdots ,x_{n})\ |\ \forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\}
:x_{i}\in
\mathbb{R} \}
\end{equation*}で表記し、これを\(n\)次元空間(\(n\)-dimensional space)と呼びます。\(\mathbb{R} ^{n}\)のそれぞれの要素は実数の\(n\)組\begin{equation*}
x=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right)
\end{equation*}であり、これを\(\mathbb{R} ^{n}\)の(point)やベクトル(vector)、もしくは行ベクトル(row vector)などと呼びます。点\(x\)を構成するそれぞれの実数\(x_{i}\ \left( i=1,\cdots ,n\right) \)を\(x\)の成分(component)や座標(coordinate)などと呼びます。点\(x\)の成分を縦に並べて、\begin{equation*}
x=\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
\vdots \\
x_{n}\end{array}\right)
\end{equation*}と表記することもできます。これを列ベクトル(column vector)と呼びます。行ベクトルと列ベクトルは厳密には区別されるべき概念ですが、以降では特に断りのない限りにおいて、両者は交換可能であるものとします。

例((n)次元空間)
\(1\)次元空間\(\mathbb{R} ^{1}\)の点は実数であるため、\begin{equation*}
\mathbb{R} ^{1}=\mathbb{R} \end{equation*}となります。したがって、\begin{eqnarray*}
1 &\in &\mathbb{R} ^{1} \\
-3 &\in &\mathbb{R} ^{1} \\
\frac{1}{3} &\in &\mathbb{R} ^{1}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。\(\mathbb{R} ^{1}\)の点は数直線上の点として描写することができます。
例((n)次元空間)
\(2\)次元空間\(\mathbb{R} ^{2}\)の点は実数を成分とする2次元ベクトルであるため、\begin{equation*}
\mathbb{R} ^{2}=\{\left( x_{1},x_{2}\right) \ |\ x_{1}\in
\mathbb{R} ,\ x_{2}\in
\mathbb{R} \}
\end{equation*}となります。したがって、\begin{eqnarray*}
\left( 1,2\right) &\in &\mathbb{R} ^{2} \\
\left( -3,1\right) &\in &\mathbb{R} ^{2} \\
\left( \frac{1}{2},-7\right) &\in &\mathbb{R} ^{2}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。\(\mathbb{R} ^{2}\)の点は平面上の点として描写することができます。
例((n)次元空間)
\(3\)次元空間\(\mathbb{R} ^{3}\)の点は実数を成分とする2次元ベクトルであるため、\begin{equation*}
\mathbb{R} ^{3}=\{\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) \ |\ x_{1}\in
\mathbb{R} ,\ x_{2}\in
\mathbb{R} ,\ x_{3}\in
\mathbb{R} \}
\end{equation*}となります。したがって、\begin{eqnarray*}
\left( 1,0,2\right) &\in &\mathbb{R} ^{3} \\
\left( 1,-3,4\right) &\in &\mathbb{R} ^{3} \\
\left( \frac{1}{3},-8,-\frac{2}{3}\right) &\in &\mathbb{R} ^{3}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。\(\mathbb{R} ^{3}\)の点は平面上の点として描写することができます。

 

等しい点

2つの\(x,y\)が同一次元の空間に属するとともに対応する成分がすべて等しいとき、\(x\)と\(y\)は等しい(equal)といい、そのことを\(x=y\)と表記します。具体的には、同一次元の空間\(\mathbb{R} ^{n}\)に属する2つの点\begin{eqnarray*}
x &=&\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \\
y &=&\left( y_{1},\cdots ,y_{n}\right)
\end{eqnarray*}を任意に選んだとき、それらの間に、\begin{equation*}
\forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :x_{i}=y_{i}
\end{equation*}が成り立つ場合には、そのことを\(x=y\)で表すということです。

点\(x,y\)が等しくない場合、そのことを\(x\not=y\)で表します。これは、\(x\)と\(y\)が異なる次元の空間に属する場合や、\(x\)と\(y\)が同一次元の空間に属しているが対応する成分の中に一致しないものが存在する場合に相当します。

例(等しい点)
\(x=\left( x_{1},x_{2}\right) \)は\(2\)次元ベクトルである一方で、\(y=\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) \)は\(3\)次元ベクトルです。つまり、\(x\)が属する空間\(\mathbb{R} ^{2}\)と\(y\)が属する空間\(\mathbb{R} ^{3}\)は異なるため、これらは異なるベクトルです。つまり、\(x\not=y\)です。
例(等しい点)
\(\left( 1,2,3\right) \)と\(\left( 2,1,3\right) \)はともに\(3\)次元ベクトルであるとともに、同じ実数\(1,2,3\)を成分としています。ただ、対応する成分が等しくないため、これらは異なる点です。つまり、\(\left( 1,2,3\right) \not=\left( 2,1,3\right) \)です。同一次元の空間に属し、同じ数を成分とするベクトルでも、成分の並び方が違えば異なる点とみなされるということです。
例(等しい点)
\(\left( x-y,x+y,z\right) =\left( 4,2,1\right) \)が成り立つものとします。このとき、点の相等の定義より、\begin{eqnarray*}
x-y &=&4 \\
x+y &=&2 \\
z &=&1
\end{eqnarray*}がすべて成り立ちます。これを解くと\(\left( x,y,z\right) =\left( 3,-1,1\right) \)を得ます。

次回はベクトル加法について解説します。

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