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ユークリッド空間

ユークリッド空間における有界集合

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有界な集合

\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)が有界であることの意味を復習します。まず、\(\mathbb{R} ^{n}\)上に標準的順序\(\leq \)が定義されているものとします。つまり、任意の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)について、\begin{equation*}x\leq y\Leftrightarrow \forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :x_{i}\leq
y_{i}
\end{equation*}が成り立つものとして\(\leq \)は定義されているということです。この場合、\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)が有界であることは、\begin{equation*}\exists a\in \mathbb{R} ^{n},\ \exists b\in \mathbb{R} ^{n},\ \forall x\in A:a\leq x\leq b
\end{equation*}が成り立つこととして定義されます。

同じことを直方体を用いて表現することもできます。つまり、\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)に対して、\begin{equation*}A\subset \prod_{i=1}^{n}\left[ a_{i},b_{i}\right] \end{equation*}を満たす\(n\)次元の直方体\(\prod_{i=1}^{n}\left[ a_{i},b_{i}\right] \)が存在することは、\(A\)が有界であるための必要十分条件です。

同じことをノルムを用いて表現することもできます。つまり、\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)について、\begin{equation*}\exists \varepsilon \in \mathbb{R} ,\ \forall x\in A:\left\Vert x\right\Vert \leq \varepsilon
\end{equation*}が成り立つことは、\(A\)が有界であるための必要十分条件です。

 

ユークリッド距離を用いた有界性の表現

ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)を議論の対象とする場合、そこに標準的順序\(\leq \)を導入しなければならないというルールは存在しません。重要なことは距離の公理を満たす距離関数\(d:\mathbb{R} ^{n}\times \mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)が定義されているということであり、ユークリッド空間に関する議論はいずれもユークリッド距離の性質を出発点に行われます。

その一方で、先に、\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が有界であることを標準的順序\(\leq \)を用いて定義したため、ユークリッド空間に標準的順序\(\leq \)を導入しない場合、集合の有界性について議論できなくなってしまいます。ただ、実際には、距離を用いて集合の有界性を以下のように表現できます。

命題(距離を用いた有界性の表現)
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)に対して、\begin{equation*}\exists y\in \mathbb{R} ^{n},\ \exists \varepsilon \in \mathbb{R} ,\ \forall x\in A:d\left( x,y\right) \leq \varepsilon
\end{equation*}が成り立つことは、\(A\)が有界であるための必要十分条件である。
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以上の命題より、\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が有界であることは、\(A\)の任意の点からの距離が有限の実数になるような\(\mathbb{R} ^{n}\)の点が存在することと必要十分であることが明らかになりました。この条件を以下のように言い換えることもできます。

命題(距離を用いた有界性の表現)
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)に対して、\begin{equation*}\exists \delta \in \mathbb{R} ,\ \forall x,y\in A:d\left( x,y\right) \leq \delta
\end{equation*}が成り立つことは、\(A\)が有界であるための必要十分条件である。
証明

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以上の命題より、\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が有界であることは、\(A\)の任意の2つの点の間の距離が有限な実数以下であることと必要十分です。

 

点の近傍を用いた有界性の表現

\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合が有界であることを点の近傍を用いて以下のように表現することもできます。

命題(点の近傍を用いた有界性の表現)
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)に対して、\begin{equation*}\exists x\in \mathbb{R} ^{n},\ \exists \varepsilon >0:A\subset N_{\varepsilon }\left( x\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\(A\)が有界であるための必要十分条件である。ただし、\begin{equation*}N_{\varepsilon }\left( x\right) =\left\{ y\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ d\left( x,y\right) <\varepsilon \right\}
\end{equation*}である。

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上の命題より、\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合が有界であることは、\(\mathbb{R} ^{n}\)上の何らかの点を中心とする何らかの近傍によって\(A\)が覆われることと必要十分であることが明らかになりました。ただ、実際には、ゼロベクトル\(0\)を中心とする近傍だけを候補とすれば十分です。つまり以下の命題が成り立ちます。

命題(点の近傍を用いた有界性の表現)
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)に対して、\begin{equation*}\exists \varepsilon >0:A\subset N_{\varepsilon }\left( 0\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\(A\)が有界であるための必要十分条件である。ただし、\begin{equation*}N_{\varepsilon }\left( 0\right) =\left\{ y\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ d\left( 0,y\right) <\varepsilon \right\}
\end{equation*}である。

証明

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例(点の近傍を用いた有界性の表現)
\(\mathbb{R} ^{2}\)の部分集合\begin{equation*}A=[0,1)\times \lbrack 0,1)
\end{equation*}に注目すると、これに対して、\begin{equation*}
A\subset N_{2}\left( 0,0\right)
\end{equation*}が成り立つため、先の命題より\(A\)は有界です。
例(点の近傍を用いた有界性の表現)
\(\mathbb{R} ^{2}\)の部分集合\begin{equation*}A=\left\{ \left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x^{2}+y^{2}\leq 1\right\}
\end{equation*}に注目すると、これに対して、\begin{equation*}
A\subset N_{2}\left( 0,0\right)
\end{equation*}が成り立つため、先の命題より\(A\)は有界です。
例(有界ではない集合)
\(\mathbb{R} ^{2}\)の部分集合\begin{equation*}A=\left\{ \left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x\geq 0\wedge y\geq 0\right\}
\end{equation*}が有界ではないことを示します。\(A\)が有界であることを仮定すると、\begin{equation}\exists \varepsilon >0:A\subset N_{\varepsilon }\left( 0,0\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立ちます。ここで、点\(\left( \varepsilon +1,\varepsilon +1\right)\in \mathbb{R} ^{2}\)に注目すると、\(\varepsilon+1>0\)であることから、\begin{equation}\left( \varepsilon +1,\varepsilon +1\right) \in A \quad \cdots (2)
\end{equation}である一方で、\begin{eqnarray*}
d\left( \left( \varepsilon +1,\varepsilon +1\right) ,\left( 0,0\right)
\right) &=&\sqrt{\left( \varepsilon +1\right) ^{2}+\left( \varepsilon
+1\right) ^{2}} \\
&=&\sqrt{2\left( \varepsilon +1\right) ^{2}} \\
&=&\sqrt{2}\left\vert \varepsilon +1\right\vert \\
&>&\varepsilon
\end{eqnarray*}が成り立つため、\begin{equation}
\left( \varepsilon +1,\varepsilon +1\right) \not\in N_{\varepsilon }\left(
0,0\right) \quad \cdots (3)
\end{equation}です。\(\left( 2\right) ,\left( 3\right) \)がともに成り立つことは\(\left( 1\right) \)と矛盾です。したがって背理法より、\(A\)が有界でないことが明らかになりました。

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