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実順序ベクトル空間

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実順序ベクトル空間

実数空間\(\mathbb{R} \)をスカラー場とした上で、\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上にベクトル加法\(+\)およびスカラー乗法\(\cdot \)と呼ばれる二項演算と標準的順序\(\leq \)と呼ばれる二項関係を定義し、これらが満たす性質を明らかにしました。復習になりますが、演算\(+,\cdot \)に関する性質は以下の通りです。

命題(演算に関する性質)
\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)は実数空間\(\mathbb{R} \)をスカラー場とするベクトル空間である。すなわち、ベクトル加法\(+\)とスカラー乗法\(\cdot \)に関して、\begin{eqnarray*}&&\left( V_{1}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}:(x+y)+z=x+(y+z) \\
&&\left( V_{2}\right) \ \exists 0\in \mathbb{R} ^{n},\ \forall x\in \mathbb{R} ^{n}:x+0=x \\
&&\left( V_{3}\right) \ \forall x\in \mathbb{R} ^{n},\ \exists -x\in \mathbb{R} ^{n}:x+(-x)=0 \\
&&\left( V_{4}\right) \ \forall x,y,\in \mathbb{R} ^{n}:x+y=y+x \\
&&\left( V_{5}\right) \ \forall a,b\in \mathbb{R} ,\ \forall x\in \mathbb{R} ^{n}:a\cdot \left( b\cdot x\right) =\left( a\cdot b\right) \cdot x \\
&&\left( V_{6}\right) \ \exists 1\in \mathbb{R} :1\cdot x=x \\
&&\left( V_{7}\right) \ \forall a\in \mathbb{R} ,\ \forall x,y\in \mathbb{R} ^{n}:a\cdot \left( x+y\right) =a\cdot x+a\cdot y \\
&&\left( V_{8}\right) \ \forall a,b\in \mathbb{R} ,\ \forall x\in \mathbb{R} ^{n}:\left( a+b\right) \cdot x=a\cdot x+b\cdot x
\end{eqnarray*}が成り立つ。

標準的順序\(\leq \)に関する性質は以下の通りです。

命題(順序に関する性質)
\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)は順序集合である。すなわち、標準的順序\(\leq \)に関して、\begin{eqnarray*}&&\left( V_{9}\right) \ \forall x\in \mathbb{R} ^{n}:x\leq x \\
&&\left( V_{10}\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R} ^{n}:\left[ \left( x\leq y\wedge y\leq x\right) \Rightarrow x=y\right] \\
&&\left( V_{11}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}:\left[ \left( x\leq y\wedge y\leq z\right) \Rightarrow x\leq z\right] \end{eqnarray*}が成り立つ。

では、演算\(+,\cdot \)と順序\(\leq \)の間にはどのような関係が成立するのでしょうか。\(n\)次元空間の点\(x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}x\leq y &\Leftrightarrow &\forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\}
:x_{i}\leq y_{i}\quad \because \text{標準的順序}\leq \text{の定義} \\
&\Rightarrow &\forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :x_{i}+z_{i}\leq
y_{i}+z_{i} \\
&\Leftrightarrow &x+z\leq y+z\quad \because \text{標準的順序}\leq \text{の定義}
\end{eqnarray*}が成り立ちます。点\(x,y,z\)について、\(y\)が\(x\)以上であるならば、両者に\(z\)を足しても順序が保存されるということです。これは加法律(addition law)と呼ばれる性質です。

命題(加法律)
スカラー場\(\mathbb{R} \)と\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)に対して定義されたベクトル加法\(+\)、スカラー乗法\(\cdot \)、そして標準的順序\(\leq \)の間には、\begin{equation*}\left( V_{12}\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R} ^{n}:\left( x\leq y\Rightarrow x+z\leq y+z\right)
\end{equation*}が成り立つ。

スカラー\(a\in \mathbb{R} \)と\(n\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選びます。\(0\leq a\)かつ\(x\leq y\)が成り立つものとします。このとき、\begin{eqnarray*}0\leq a\wedge x\leq y &\Leftrightarrow &0\leq a\wedge \forall i\in \left\{
1,\cdots ,n\right\} :x_{i}\leq y_{i}\quad \because \text{標準的順序}\leq \text{の定義} \\
&\Rightarrow &\forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :a\cdot x_{i}\leq
a\cdot y_{i} \\
&\Leftrightarrow &a\cdot x\leq a\cdot y\quad \because \text{標準的順序}\leq \text{の定義}
\end{eqnarray*}が成り立ちます。点\(x,y\)について、\(y\)が\(x\)以上であるならば、両者に非負のスカラーを掛けても順序が保存されるということです。これは乗法律(multiplication law)と呼ばれる性質です。

命題(乗法律)
スカラー場\(\mathbb{R} \)と\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)に対して定義されたベクトル加法\(+\)、スカラー乗法\(\cdot \)、そして標準的順序\(\leq \)の間には、\begin{equation*}\left( V_{13}\right) \ \forall a\in \mathbb{R} ,\ \forall x,y\in \mathbb{R} ^{n}:\left[ \left( 0\leq a\wedge x\leq y\right) \Rightarrow a\cdot x\leq
a\cdot y\right] \end{equation*}が成り立つ。

演算\(+,\cdot \)の性質である\(\left( V_{1}\right) \)から\(\left( V_{8}\right) \)と、標準的順序\(\leq \)の性質である\(\left( V_{9}\right) \)から\(\left(V_{11}\right) \)に加えて、演算と順序の関係を規定する性質である\(\left(V_{12}\right) \)と\(\left( V_{13}\right) \)が成り立つことは、\(\mathbb{R} ^{n}\)が\(\mathbb{R} \)をスカラー場とする順序ベクトル空間(ordered vector space)であることを意味します。このような順序ベクトル空間を特に実順序ベクトル空間(real\ orderedvector space)とも呼びます。通常、実順序ベクトル空間を\(\left( \mathbb{R} ,\mathbb{R} ^{n},+,\cdot ,\leq \right) \)で表記しますが、実順序ベクトル空間について言及していることが文脈から明らかである場合には、これをシンプルに\(\mathbb{R} ^{n}\)で表すこともできます。

命題(順序ベクトル空間としての(n)次元空間)
\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)は実数空間\(\mathbb{R} \)をスカラー場とする順序ベクトル空間である。

順序ベクトル空間が満たすべき性質として、\(\left( V_{1}\right) \)から\(\left( V_{13}\right) \)に相当する性質に加えて、順序に関して完備律を要求する流儀もあります。ただ、復習になりますが、\(\mathbb{R} ^{n}\)上の順序\(\leq \)は完備律を満たさないため、そのような流儀のもとでは\(\mathbb{R} ^{n}\)は順序ベクトル空間ではないということになります。

 

狭義順序と演算の関係

\(\mathbb{R} ^{n}\)上の標準的狭義順序\(<\)は標準的順序\(\leq \)から間接的に定義される概念であり、具体的には、任意の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)に対して、\begin{equation*}x<y\Leftrightarrow \left( x\leq y\wedge x\not=y\right)
\end{equation*}を満たす\(\mathbb{R} \)上の二項関係として\(<\)は定義されます。\(<\)が以下の性質を満たすことはすでに示した通りです。

命題(狭義順序集合としての(n)次元空間)
\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)は狭義順序集合である。すなわち、狭義順序\(<\)に関して、\begin{eqnarray*}&&\left( S_{1}\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R} ^{n}:\left[ x<y\Rightarrow \lnot \left( y<x\right) \right] \\
&&\left( S_{2}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}:\left[ \left( x<y\wedge y<z\right) \Rightarrow x<z\right] \end{eqnarray*}が成り立つ。

では、演算\(+,\cdot \)と標準的狭義順序\(<\)の間にはどのような関係が成り立つのでしょうか。先ほど、\(\mathbb{R} ^{n}\)上の標準的順序\(\leq \)に関して加法律が成り立つことを示しましたが、加法律において標準的順序を狭義標準的順序に入れ替えると、\begin{equation*}\forall x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}:\left( x<y\Rightarrow x+z<y+z\right)
\end{equation*}を得ますが、これもまた成立します。つまり、点\(x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}\)について、\(y\)が\(x\)よりも大きければ、両者に\(z\)を足しても大小関係が保存されるという主張です。これを狭義順序に関する加法律と呼ぶこととします。

命題(狭義順序に関する加法律)
\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上の狭義大小関係\(<\)について、\begin{equation*}\forall x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}:\left( x<y\Rightarrow x+z<y+z\right)
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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\(\mathbb{R} ^{n}\)上の標準的順序\(\leq \)に関して乗法律が成り立つことを示しましたが、乗法律において大小関係を狭義大小関係に、標準的順序を狭義標準的順序にそれぞれ入れ替えると、\begin{equation*}\forall a\in \mathbb{R} ,\ \forall x,y\in \mathbb{R} ^{n}:\left[ \left( 0<a\wedge x<y\right) \Rightarrow a\cdot x<a\cdot y\right] \end{equation*}を得ますが、これもまた成立します。つまり、点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)について、\(y\)が\(x\)よりも大きければ、両者に正のスカラーをかけても大小関係が保存されるという主張です。これを狭義順序に関する乗法律と呼ぶこととします。

命題(狭義順序に関する乗法律)
\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上の標準的狭義大小関係\(<\)について、\begin{equation*}\forall a\in \mathbb{R} ,\ \forall x,y\in \mathbb{R} ^{n}:\left[ \left( 0<a\wedge x<y\right) \Rightarrow a\cdot x<a\cdot y\right] \end{equation*}が成り立つ。

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