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スカラー除法

非ゼロのスカラー\(a\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)と\(n\)次元空間の点\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)をそれぞれ任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)です。このとき、\(a\)による\(x\)のスカラー商を、
\begin{equation*}
\frac{x}{a}=\frac{1}{a}\cdot x
\end{equation*}
と定義します。ただし、左辺の\(\frac{{}}{{}}\)はスカラー商を表す記号であり、右辺の\(\cdot \)はスカラー乗法を表す記号です。より具体的には、\begin{eqnarray*}
\frac{x}{a} &=&\frac{1}{a}\cdot x\quad \because \text{スカラー商の定義} \\
&=&\frac{1}{a}\cdot \left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \quad \because x\text{の定義} \\
&=&\left( \frac{1}{a}\cdot x_{1},\cdots ,\frac{1}{a}\cdot x_{n}\right) \quad
\because \text{スカラー乗法の定義} \\
&=&\left( \frac{x_{1}}{a},\cdots ,\frac{x_{n}}{a}\right) \quad \because
\text{乗法の定義}
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
\frac{x}{a}=\left( \frac{x_{1}}{a},\cdots ,\frac{x_{n}}{a}\right)
\end{equation*}となります。ただし、左辺はスカラー商であり、右辺のそれぞれの成分は実数どうしの除法です。\(\mathbb{R}\)はゼロで割る場合を除いて除法について閉じているため、スカラー商\(\frac{x}{a}\)の任意の成分\(\frac{x_{i}}{a}\ \left( i=1,\cdots ,n\right) \)は実数であることから\(\frac{x}{a}\)が\(\mathbb{R}^{n}\)の点であることが保証されます。以上より、\(\mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} \)の点と\(\mathbb{R}^{n}\)の点からなるそれぞれの順序対\(\left( a,x\right) \)に対して、\(\mathbb{R}^{n}\)の点であるスカラー商\(\frac{x}{a}\)を1つずつ定める演算が定義可能です。これをスカラー除法(scalar division)と呼びます。

例(スカラー除法)
スカラー\(a\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)と\(1\)次元空間の点\(x\in \mathbb{R} \)をそれぞれ任意に選ぶと、\begin{equation*}
\frac{x}{a}=\frac{x}{a}
\end{equation*}が成り立ちます。ただし、左辺はスカラー商であり、右辺の実数の商です。つまり、スカラー場が\(\mathbb{R}\)であるとき、\(1\)次元ユークリッド空間の点に関するスカラー除法は除法と一致します。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}
\frac{2}{2} &=&1 \\
\frac{4}{\left( -2\right) } &=&-2 \\
3/\frac{1}{2} &=&6
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
例(スカラー除法)
スカラー\(a\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)と\(2\)次元空間の点\(x\in \mathbb{R} ^{2}\)をそれぞれ任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},x_{2}\right) \)です。このとき、\begin{equation*}
\frac{x}{a}=\left( \frac{x_{1}}{a},\frac{x_{2}}{a}\right)
\end{equation*}となります。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}
\frac{\left( 2,3\right) }{2} &=&\left( \frac{2}{2},\frac{3}{2}\right)
=\left( 1,\frac{3}{2}\right) \\
\frac{\left( -1,3\right) }{\left( -2\right) } &=&\left( \frac{-1}{-2},\frac{3}{-2}\right) =\left( \frac{1}{2},-\frac{3}{2}\right) \\
\left( \frac{1}{4},-\frac{2}{3}\right) /\frac{1}{2} &=&\left( \frac{1}{4}/\frac{1}{2},-\left( \frac{2}{3}\right) /\frac{1}{2}\right) =\left( \frac{1}{2},-\frac{4}{3}\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
例(スカラー除法)
スカラー\(a\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)と\(3\)次元空間の点\(x\in \mathbb{R} ^{3}\)をそれぞれ任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) \)です。このとき、\begin{equation*}
\frac{x}{a}=\left( \frac{x_{1}}{a},\frac{x_{2}}{a},\frac{x_{3}}{a}\right)
\end{equation*}となります。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}
\frac{\left( 2,3,4\right) }{2} &=&\left( \frac{2}{2},\frac{3}{2},\frac{4}{2}\right) =\left( 1,\frac{3}{2},2\right) \\
\frac{\left( -1,3,2\right) }{\left( -2\right) } &=&\left( \frac{-1}{-2},\frac{3}{-2},\frac{2}{-2}\right) =\left( \frac{1}{2},-\frac{3}{2},-1\right)
\\
\left( \frac{1}{4},-\frac{2}{3},0\right) /\frac{1}{2} &=&\left( \frac{1}{4}/\frac{1}{2},-\frac{2}{3}/\frac{1}{2},0/\frac{1}{2}\right) =\left( \frac{1}{2},-\frac{4}{3},0\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

 

乗法単位元とのスカラー除法

\(n\)次元空間の点\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、それとスカラー\(1\)との除法について、\begin{eqnarray*}
\frac{x}{1} &=&\frac{\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) }{1}\quad \because x\text{の定義} \\
&=&\left( \frac{x_{1}}{1},\cdots ,\frac{x_{n}}{1}\right) \quad \because
\text{スカラー除法の定義} \\
&=&\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \quad \because \text{除法の性質} \\
&=&x\quad \because x\text{の定義}
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
\frac{x}{1}=x
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(\mathbb{R}^{n}\)の任意の点をスカラー\(1\)で割っても変化は起こりません。つまり、乗法単位元である\(1\)はスカラー除法に関する単位元でもあるということです。

命題(乗法単位元とのスカラー除法)
\(n\)次元空間の点\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
\frac{x}{1}=x
\end{equation*}が成り立つ。
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次回はベクトル加法とスカラー乗法の間に成立する関係について整理した上で、実ベクトル空間と呼ばれる概念について考えます。

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