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ユークリッド空間

点集合の上限・下限

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上限

\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に標準的順序\(\leq \)が定義されているものとします。つまり、任意の点\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\in \mathbb{R} ^{n}\)について、\begin{equation*}\boldsymbol{x}\leq \boldsymbol{y}\Leftrightarrow \forall i\in \left\{
1,\cdots ,n\right\} :x_{i}\leq y_{i}
\end{equation*}を満たすものとして\(\leq \)は定義されているということです。\(\leq \)は\(\mathbb{R} ^{n}\)上の半順序です。つまり、\begin{eqnarray*}&&\left( O_{1}\right) \ \forall \boldsymbol{x}\in \mathbb{R} ^{n}:\boldsymbol{x}\leq \boldsymbol{x} \\
&&\left( O_{2}\right) \ \forall \boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\in \mathbb{R} ^{n}:\left[ \left( \boldsymbol{x}\leq \boldsymbol{y}\wedge \boldsymbol{y}\leq \boldsymbol{x}\right) \Rightarrow \boldsymbol{x}=\boldsymbol{y}\right] \\
&&\left( O_{3}\right) \ \forall \boldsymbol{x},\boldsymbol{y},\boldsymbol{z}\in \mathbb{R} ^{n}:\left[ \left( \boldsymbol{x}\leq \boldsymbol{y}\wedge \boldsymbol{y}\leq \boldsymbol{z}\right) \Rightarrow \boldsymbol{x}\leq \boldsymbol{z}\right] \end{eqnarray*}が成り立ちます。

\(\mathbb{R} ^{n}\)の空でない部分集合\(A\)が与えられたとき、ある点\(\boldsymbol{a}\in \mathbb{R} ^{n}\)がこの集合\(A\)に属する任意の点以上である場合には、つまり、\begin{equation*}\exists \boldsymbol{a}\in \mathbb{R} ^{n},\ \forall \boldsymbol{x}\in A:\boldsymbol{x}\leq \boldsymbol{a}
\end{equation*}が成り立つならば、この点\(\boldsymbol{a}\)を集合\(A\)の上界と呼びます。集合\(A\)の上界は存在するとは限らず、存在する場合にも一意的に定まるとは限りません。そこで、集合\(A\)の上界をすべて集めることにより得られる集合を、\begin{equation*}U\left( A\right) =\left\{ \boldsymbol{a}\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \forall \boldsymbol{x}\in A:\boldsymbol{x}\leq \boldsymbol{a}\right\}
\end{equation*}で表記します。\(A\)が上界を持つ場合には、すなわち、\begin{equation*}U\left( A\right) \not=\phi
\end{equation*}である場合には、\(A\)は上に有界であると言います。

\(\mathbb{R} ^{n}\)の空でない部分集合\(A\)が上に有界である場合、その上界からなる集合\(U\left( A\right) \)は空ではない\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合であるため、その最小元\begin{equation*}\min U\left( A\right)
\end{equation*}が存在するか検討できます。この最小元が存在する場合、それを\(A\)の上限(supremum)や最小上界(least upper bound)などと呼び、\begin{equation*}\sup A=\min U\left( A\right)
\end{equation*}で表記します。

上限\(\sup A\)は集合\(U\left( A\right) \)の最小元であるため、最小元の定義より、\(\sup A\)は以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \sup A\in U\left( A\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall \boldsymbol{y}\in U\left( A\right) :\sup A\leq
\boldsymbol{y}
\end{eqnarray*}をともに満たす\(\mathbb{R} ^{n}\)の点として定義されます。これらの条件をより具体的に表現すると、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall \boldsymbol{x}\in A:\boldsymbol{x}\leq \sup A \\
&&\left( b\right) \ \forall \boldsymbol{y}\in \mathbb{R} ^{n}:\left[ \left( \forall \boldsymbol{x}\in A:\boldsymbol{x}\leq
\boldsymbol{y}\right) \Rightarrow \sup A\leq \boldsymbol{y}\right] \end{eqnarray*}となります。\(\left( a\right) \)は\(\sup A\)が\(A\)の上界であること、\(\left( b\right) \)は\(\sup A\)が\(A\)の任意の上界以下の点であることをそれぞれ表しています。

上限\(\sup A\)は集合\(A\)の上界の1つであるため、これは\(A\)の要素であるとは限りません。その一方で、上限\(\sup A\)は集合\(A\)の上界からなる集合\(U\left( A\right) \)の最小元であるため、これは必ず\(U\left( A\right) \)の要素です。

例(上限)
\(\mathbb{R} \)の非空な部分集合\begin{equation*}\left[ 0,1\right] =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ 0\leq x\leq 1\right\}
\end{equation*}が与えられているものとします。\(\left[ 0,1\right] \)の上界からなる集合は、\begin{equation*}U\left( \left[ 0,1\right] \right) =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ 1\leq x\right\}
\end{equation*}であるため、\(\left[ 0,1\right] \)の上限は、\begin{eqnarray*}\sup \left[ 0,1\right] &=&\min U\left( \left[ 0,1\right] \right) \\
&=&1
\end{eqnarray*}となります。

例(上限)
\(\mathbb{R} ^{2}\)の非空な部分集合\begin{equation*}A=\{\left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x_{1}^{2}+x_{2}^{2}\leq 1\}
\end{equation*}が与えられているものとします。\(A\)の上限からなる集合は、\begin{equation*}U\left( A\right) =\left\{ \left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ 1\leq x_{1}\wedge 1\leq x_{2}\right\}
\end{equation*}であるため、\(A\)の上限は、\begin{eqnarray*}\sup A &=&\min U\left( A\right) \\
&=&\left( 1,1\right)
\end{eqnarray*}となります。

 

下限

\(\mathbb{R} ^{n}\)の空でない部分集合\(A\)が与えられたとき、ある点\(\boldsymbol{a}\in \mathbb{R} ^{n}\)がこの集合\(A\)に属する任意の点以下である場合には、つまり、\begin{equation*}\exists \boldsymbol{a}\in \mathbb{R} ^{n},\ \forall \boldsymbol{x}\in A:\boldsymbol{a}\leq \boldsymbol{x}
\end{equation*}が成り立つならば、この点\(\boldsymbol{a}\)を集合\(A\)の下界と呼びます。集合\(A\)の下界は存在するとは限らず、存在する場合にも一意的に定まるとは限りません。そこで、集合\(A\)の下界をすべて集めることにより得られる集合を、\begin{equation*}L\left( A\right) =\left\{ \boldsymbol{a}\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \forall \boldsymbol{x}\in A:\boldsymbol{a}\leq \boldsymbol{x}\right\}
\end{equation*}で表記します。\(A\)が下界を持つ場合には、すなわち、\begin{equation*}L\left( A\right) \not=\phi
\end{equation*}である場合には、\(A\)は下に有界であると言います。

\(\mathbb{R} ^{n}\)の空でない部分集合\(A\)が下に有界である場合、その下界からなる集合\(L\left( A\right) \)は空ではない\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合であるため、その最大元\begin{equation*}\max L\left( A\right)
\end{equation*}が存在するか検討できます。この最大元が存在する場合、それを\(A\)の下限(infimum)や最大下界(greatest lower bound)などと呼び、\begin{equation*}\inf A=\max L\left( A\right)
\end{equation*}で表記します。

下限\(\inf A\)集合\(L\left( A\right) \)の最大元であるため、最大元の定義より、\(\inf A\)は以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \inf A\in L\left( A\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall \boldsymbol{y}\in L\left( A\right) :\boldsymbol{y}\leq \inf A
\end{eqnarray*}をともに満たす\(\mathbb{R} ^{n}\)の点として定義されます。これらの条件をより具体的に表現すると、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall \boldsymbol{x}\in A:\inf A\leq \boldsymbol{x} \\
&&\left( b\right) \ \forall \boldsymbol{y}\in \mathbb{R} ^{n}:\left[ \left( \forall \boldsymbol{x}\in A:\boldsymbol{y}\leq
\boldsymbol{x}\right) \Rightarrow \boldsymbol{y}\leq \inf A\right] \end{eqnarray*}となります。\(\left( a\right) \)は\(\inf A\)が\(A\)の下界であること、\(\left( b\right) \)は\(\inf A\)が\(A\)の任意の下界以上の点であることをそれぞれ表しています。

下限\(\inf A\)は集合\(A\)の下界の1つであるため、これは\(A\)の要素であるとは限りません。その一方で、下限\(\inf A\)は集合\(A\)の下界からなる集合\(L\left( A\right) \)の最大元であるため、これは必ず\(L\left( A\right) \)の要素です。

例(下限)
\(\mathbb{R} \)の非空な部分集合\begin{equation*}\left[ 0,1\right] =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ 0\leq x\leq 1\right\}
\end{equation*}が与えられているものとします。\(\left[ 0,1\right] \)の下界からなる集合は、\begin{equation*}L\left( \left[ 0,1\right] \right) =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ x\leq 0\right\}
\end{equation*}であるため、\(\left[ 0,1\right] \)の下限は、\begin{eqnarray*}\inf \left[ 0,1\right] &=&\max L\left( \left[ 0,1\right] \right) \\
&=&0
\end{eqnarray*}となります。

例(下限)
\(\mathbb{R} ^{2}\)の非空な部分集合\begin{equation*}A=\{\left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x_{1}^{2}+x_{2}^{2}\leq 1\}
\end{equation*}が与えられているものとします。\(A\)の上限からなる集合は、\begin{equation*}L\left( A\right) =\left\{ \left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x_{1}\leq -1\wedge x_{2}\leq -1\right\}
\end{equation*}であるため、\(A\)の下限は、\begin{eqnarray*}\inf A &=&\max L\left( A\right) \\
&=&\left( -1,-1\right)
\end{eqnarray*}となります。

 

上限や下限が存在するための条件

\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合は上限や下限を持つとは限りません。

集合\(A\subset \mathbb{R} ^{n}\)が上に有界ではない場合には\(U\left( A\right) =\phi \)となりますが、空集合の最小元は存在しないため、この場合、\(U\left(A\right) \)の最小元に相当する\(\sup A\)は存在しません。

集合\(A\subset \mathbb{R} ^{n}\)が下に有界ではない場合には\(L\left( A\right) =\phi \)となりますが、空集合の最大元は存在しないため、この場合、\(L\left(A\right) \)の最大元に相当する\(\inf A\)は存在しません。

例(上限・下限)
\(\mathbb{R} ^{2}\)の部分集合\begin{equation*}A=\left\{ \left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x_{1}\geq 0\right\}
\end{equation*}に注目します。このとき、\begin{equation*}
U\left( A\right) =\phi
\end{equation*}であるため\(\sup A\)は存在しません。また、\begin{equation*}L\left( A\right) =\phi
\end{equation*}であるため\(\inf A\)は存在しません。

\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)が上に有界ではない場合には\(A\)の上限は存在せず、\(A\)が下に有界ではない場合には\(A\)の下限は存在しないことが明らかになりました。逆に、\(A\)が上に有界であるならば\(A\)の上限が存在し、\(A\)が下に有界であるならば\(A\)の下限が存在します。

命題(上界や下限が存在するための条件)
\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}&&(a)\ A\text{が上に有界ならば}\sup A\text{が存在する} \\
&&\left( b\right) \ A\text{が下に有界ならば}\inf A\text{が存在する}
\end{eqnarray*}が成り立つ。

証明

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上限や下限の一意性

\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)の上限や下限は存在するとは限らないことが明らかになりました。ただ、上限や下限が存在する場合、それらはそれぞれ1つの点として定まることが保証されます。

命題(上限や下限の一意性)
\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}&&(a)\ \sup A\text{が存在するならば、それは一意的である} \\
&&\left( b\right) \ \inf A\text{が存在するならば、それは一意的である}
\end{eqnarray*}が成り立つ。

証明

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上限と最大元・下限と最小元の関係

\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)の最大元は存在するとは限りませんが、\(A\)の最大元が存在する場合、それは\(A\)の上限でもあります。また、\(A\)の最小元が存在する場合、それは\(A\)の下限でもあります。

命題(上限と最大元・下限と最小元の関係)
\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \max A\text{が存在する場合には}\max A=\sup A\text{が成り立つ} \\
&&\left( b\right) \ \min A\text{が存在する場合には}\min A=\inf A\text{が成り立つ}
\end{eqnarray*}が成り立つ。

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\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)の最大元が存在する場合には、それは\(A\)の上限と一致することが明らかになりました。また、\(A\)の最小元が存在する場合には、それは\(A\)の下限と一致することが明らかになりました。では、\(A\)の最大元が存在しない場合、\(A\)の上限もまた存在しないとまで言えるのでしょうか。また、\(A\)の最小元が存在しない場合、\(A\)の下限もまた存在しないとまで言えるのでしょうか。これらの主張は成り立ちません。つまり、\(A\)の最大元が存在しない一方で\(A\)の上限が存在する状況や、\(A\)の最小元が存在しない一方で\(A\)の下限が存在する状況は起こり得ます。以下の例より明らかです。

例(上限と最大元・下限と最小元の関係)
\(\mathbb{R} ^{2}\)の非空な部分集合\begin{equation*}A=\{\left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x_{1}^{2}+x_{2}^{2}\leq 1\}
\end{equation*}に注目します。このとき、\begin{eqnarray*}
\sup A &=&\left( 1,1\right) \\
\inf A &=&\left( -1,-1\right)
\end{eqnarray*}である一方で\(\max A\)や\(\min A\)は存在しません。

\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)の上限が存在する場合、\(A\)の最大元は存在するとは限らないことが明らかになりました。しかし、\(A\)の上限が存在するとともに、それが\(A\)の要素である場合には、それは\(A\)の最大元であることが保証されます。同様に、\(A\)の下限が存在するとともに、それが\(A\)の要素である場合には、それは\(A\)の最小元であることが保証されます。

命題(上限と最大元・下限と最小元の関係)
\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \sup A\text{が存在するとともに}\sup A\in A\text{ならば}\sup A=\max A\text{が成り立つ} \\
&&\left( b\right) \ \inf A\text{が存在するとともに}\inf A\in A\text{ならば}\inf A=\min A\text{が成り立つ}
\end{eqnarray*}が成り立つ。

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空集合の上限と下限

これまでは\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)を対象に、その上限や下限を考えてきました。空集合は任意の集合の部分集合であるため\(\phi \subset \mathbb{R} ^{n}\)です。では、空集合の上限や下限は存在するのでしょうか。空集合の上限と下限は存在しません。

命題(空集合の上限と下限)
空集合\(\phi \subset \mathbb{R} ^{n}\)の上限\(\sup \phi \)と下限\(\inf \phi \)はともに存在しない。
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