ユークリッド距離を用いて、ユークリッド空間の部分集合どうしの距離を定義します。
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集合の間の距離

ユークリッド距離関数\(d:\mathbb{R} ^{n}\times \mathbb{R}^{n}\rightarrow \mathbb{R}\)はユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)に属する2つの点\(x,y\)の間の距離\(d\left( x,y\right) \)を定めますが、距離関数\(d\)を活用することにより、\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合どうしの距離を定義することができます。

\(\mathbb{R} ^{n}\)の空ではない部分集合\(A,B\)を任意に選びます。この2つの集合の距離としては、\(A\)に属する点と\(B\)に属する点の間の距離の中でも最も短いものを採用します。つまり、\(A\)の点\(a\)と\(B\)の点\(b\)をそれぞれ任意に選んだとき、この2つの点の間の距離は\(d\left( a,b\right) \)となるため、この距離がとり得る値の範囲を、\begin{equation*}
d\left( A\times B\right) =\{d\left( a,b\right) \in \mathbb{R}\ |\ a\in A,\ b\in B\}
\end{equation*}と表記した上で、この集合に属する値の中で最も小さいものとして、\(A\)と\(B\)の間の距離を定義するということです。

ただ、一般に、\(\mathbb{R} \)の非空な部分集合\(A\)に対してその最小値\(\min A\)は存在するとは限らないため、\(\mathbb{R} \)の部分集合である\(d\left( A\times B\right) \)についても、その最小値\(\min d\left( A\times B\right) \)は存在するとは限りません。したがって、\(A\)と\(B\)の間の距離を\(\min d\left( A\times B\right) \)と定義してしまうと、集合の間の距離が定まらないという事態が起こる可能性があります。このような事態を回避するために、\(A\)と\(B\)の間の距離を\(d\left( A\times B\right) \)の最小値として定義するのではなく、\(d\left( A\times B\right) \)の下限として定義します。つまり、\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合からなる順序対\(\left( A,B\right) \)を任意に選んだとき、\(A\)から\(B\)への距離を\(\inf d\left( A\times B\right) \)と定義するということです。これを、\begin{equation*}
\mathrm{dist}\left( A,B\right) =\inf d\left( A\times B\right)
\end{equation*}と表記し、\(A\)から\(B\)へのユークリッド距離(Euclidean distance from \(A\) to \(B\))と呼びます。

順序対\(\left( a,b\right) \in A\times B\)を任意に選んだとき、距離関数\(d\)の非負性より距離\(d\left( a,b\right) \)は非負の実数です。したがって、\(d\left( A\times B\right) \)は非負の実数からなる\(\mathbb{R} \)の部分集合であるため、下に有界です。すると、\(\mathbb{R} \)の連続性より下限\(\inf d\left( A\times B\right) \)は必ず存在します。しかも\(\mathbb{R} \)の非空な部分集合の下限が存在する場合、それは必ず1つの実数として定まるため、\(\inf d\left( A\times B\right) \)もまた常に1つの実数として定まります。以上を踏まえると、\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合からなる\(\left( A,B\right) \)を任意に選んだとき、\(A\)から\(B\)への距離\(\mathrm{dist}\left( A,B\right) \)は常に存在し、それは1つの実数として定まります。

例(集合の間の距離)
\(1\)次元ユークリッド空間\(\mathbb{R} \)の非空な部分集合である\(A=\left( 0,1\right) \)と\(B=\left[ 2,3\right] \)に注目すると、\begin{eqnarray*}
d\left( A\times B\right) &=&\{d\left( a,b\right) \in \mathbb{R}\ |\ a\in \left( 0,1\right) ,\ b\in \left[ 2,3\right] \} \\
&=&\left( 1,3\right)
\end{eqnarray*}となります。任意の\(x\in d\left( A\times B\right) \)に対して\(1<x\)が成り立つため\(1\)は\(d\left( A\times B\right) \)の下界です。一方、\(1\)より大きい任意の実数は\(d\left( A\times B\right) \)の下界ではありません。なぜなら、\(1\)より大きいそれぞれの実数を\(\varepsilon >0\)を用いて\(1+\varepsilon \)で表すとき、それに対して、\begin{equation*}
1<1+\frac{\varepsilon }{2}<1+\varepsilon
\end{equation*}を満たす実数\(1+\frac{\varepsilon }{2}\)が存在するからです。ゆえに\(\inf d\left( A\times B\right) =1\)、すなわち\(\mathrm{dist}\left( A,B\right) =1\)であることが示されました。
例(集合の間の距離)
\(2\)次元ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{2}\)の以下の 2 つの部分集合\(A,B\)に注目します。すなわち、\begin{eqnarray*}
A &=&\{\left( x,y\right) \in \mathbb{R}^{2}\ |\ x^{2}+y^{2}\leq 1\} \\
B &=&\{\left( x,y\right) \in \mathbb{R}^{2}\ |\ 2\leq x\leq 4,\ 2\leq y\leq 4\}
\end{eqnarray*}です。下図中の円盤が\(A\)に、正方形が\(B\)にそれぞれ対応します。
図:集合の間の距離
図:集合の間の距離

このとき、\(A\)と\(B\)の間の距離は\(A\)上の点\(a=\left( \frac{\sqrt{2}}{2},\frac{\sqrt{2}}{2}\right) \)と\(B\)上の点\(b=\left( 2,2\right) \)の間の距離\begin{eqnarray*}
\mathrm{dist}\left( A,B\right) &=&d\left( a,b\right) \\
&=&\sqrt{\left( 2-\frac{\sqrt{2}}{2}\right) ^{2}+\left( 2-\frac{\sqrt{2}}{2}\right) ^{2}} \\
&=&2\sqrt{2}-1
\end{eqnarray*}となります。

例(集合の間の距離)
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A\)を任意に選ぶと、\begin{equation*}
d\left( A\times A\right) =\{d\left( x,y\right) \in \mathbb{R}\ |\ x\in A,\ y\in A\}
\end{equation*}となります。点\(x\in A\)を任意に選ぶと、ユークリッド距離関数\(d\)の同一性より\(d\left( x,x\right) =0\)すなわち、\begin{equation*}
0\in d\left( A\times A\right)
\end{equation*}が成り立ちます。しかも、距離関数\(d\)の非負性より\(d\left( x,y\right) \geq 0\)が成り立つため、\begin{equation}
\min d\left( A\times A\right) =0 \tag{1}
\end{equation}となります。ゆえに、\begin{eqnarray*}
\mathrm{dist}\left( A,A\right) &=&\inf d\left( A\times A\right) \quad
\because \mathrm{dist}\text{の定義} \\
&=&\min d\left( A\times A\right) \quad \because \left( 1\right) \\
&=&0\quad \because \left( 1\right)
\end{eqnarray*}となります。つまり、\(\mathbb{R} ^{n}\)の等しい部分集合どうしの距離は\(0\)です。
例(集合の間の距離)
ユークリッド空間の点\(x,y\in \mathbb{R}^{n}\)を任意に選ぶと、\begin{eqnarray*}
\mathrm{dist}\left( \{x\},\{y\}\right) &=&\inf d\left( \{x\}\times
\{y\}\right) \quad \because \mathrm{dist}\text{の定義} \\
&=&\inf \{d\left( a,b\right) \in \mathbb{R}\ |\ a\in \{x\},\ b\in \{y\}\}\quad \because d\left( A\times B\right) \text{の定義} \\
&=&\inf \{d\left( x,y\right) \} \\
&=&d\left( x,y\right)
\end{eqnarray*}という関係が成り立ちます。つまり、集合\(\{x\},\{y\}\)を要素\(x,y\)とそれぞれ同一視したとき、集合の間の距離は点の間の距離と等しくなります。距離関数\(d\)は点の間の距離しか測れませんが、それを集合どうしの距離も測れるように拡張したものが\(\mathrm{dist}\)だということです。

 

点と集合の間の距離

ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の点\(x\)と非空な部分集合\(A\)の間の距離としては、集合\(\{x\}\)から集合\(A\)への距離\(\mathrm{dist}\left( \left\{ x\right\} ,A\right) \)を採用し、これを\(\mathrm{dist}\left( x,A\right) \)と表記します。つまり、\begin{eqnarray*}
\mathrm{dist}\left( x,A\right) &=&\mathrm{dist}\left( \left\{ x\right\} ,A\right)
\\
&=&\inf \left\{ d\left( x,a\right) \in \mathbb{R}\ |\ a\in A\right\}
\end{eqnarray*}です。

例(点と集合の間の距離)
\(1\)次元ユークリッド空間\(\mathbb{R} \)の点\(1\)と部分集合\(A=\left( 3,7\right) \)に注目すると、\begin{eqnarray*}
d\left( \left\{ 1\right\} \times A\right) &=&\{d\left( 1,a\right) \in \mathbb{R}\ |\ a\in \left( 3,7\right) \} \\
&=&\left( 2,6\right)
\end{eqnarray*}となります。任意の\(x\in d\left( 1\times A\right) \)に対して\(2<x\)であるため\(2\)は\(d\left( \left\{ 1\right\} \times A\right) \)の下界です。一方、\(2\)より大きい任意の実数は\(d\left( \left\{ 1\right\} \times A\right) \)の下界ではありません。なぜなら、\(2\)より大きいそれぞれの実数を\(\varepsilon >0\)を用いて\(2+\varepsilon \)で表すとき、それに対して、\begin{equation*}
2<2+\frac{\varepsilon }{2}<2+\varepsilon
\end{equation*}を満たす実数\(2+\frac{\varepsilon }{2}\)が存在するからです。ゆえに\(\inf d\left( \left\{ 1\right\} \times A\right) =2\)、すなわち\(\mathrm{dist}\left( 1,A\right) =2\)であることが示されました。
例(点と集合の間の距離)
\(2\)次元ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{2}\)の以下の部分集合\(A\)に注目します。\begin{equation*}
A=\{\left( x,y\right) \in \mathbb{R}^{2}\ |\ 2\leq x\leq 4,\ 2\leq y\leq 4\}
\end{equation*}下図中の円がこの\(A\)に対応します。
図:点と集合の間の距離
図:点と集合の間の距離

この集合\(A\)と点\(x=\left( 0,3\right) \)の間の距離は、点\(x\)と\(A\)上の点\(a=\left( 2,3\right) \)の間の距離\begin{eqnarray*}
\mathrm{dist}\left( x,A\right) &=&d\left( x,a\right) \\
&=&\sqrt{\left( 2-0\right) ^{2}+\left( 3-3\right) ^{2}} \\
&=&2
\end{eqnarray*}となります。

 

ミンコワスキー差と集合の間の距離

ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A,B\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
A-B=\left\{ a-b\in \mathbb{R}^{n}\ |\ a\in A,\ b\in B\right\}
\end{equation*}と定義される\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)と\(B\)のミンコフスキー差(Minkowski difference)と呼びます。つまり、\(A\)の点と\(B\)の点のベクトル差からなる集合が\(A-B\)です。ミンコフスキー差は差集合\begin{equation*}
A\backslash B=\left\{ x\in \mathbb{R}^{n}\ |\ x\in A,\ x\not\in B\right\}
\end{equation*}とは異なる概念であることに注意が必要です。

例(ミンコフスキー差)
\(2\)次元ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{2}\)の以下の2つの部分集合\begin{eqnarray*}
A &=&\left\{ \left( 1,0\right) ,\left( 0,1\right) ,\left( 0,-1\right)
\right\} \\
B &=&\left\{ \left( 0,0\right) ,\left( 1,1\right) ,\left( 1,-1\right)
\right\}
\end{eqnarray*}について、それらのミンコフスキー差は、\begin{equation*}
A-B=\left\{ \left( 1,0\right) ,\left( 0,1\right) ,\left( 0,-1\right) ,\left(
-1,0\right) ,\left( -1,-2\right) ,\left( -1,2\right) \right\}
\end{equation*}となります。

\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A,B\)が与えられたとき、\(y\in \mathbb{R}\)を任意に選ぶと、\begin{eqnarray*}
y\in d\left( A,B\right) &\Leftrightarrow &\exists a\in B,\ \exists b\in
B:y=d\left( a,b\right) \quad \because d\left( A,B\right) \text{の定義} \\
&\Leftrightarrow &\exists a\in B,\ \exists b\in B:y=\sqrt{\sum_{i=1}^{n}\left( a_{i}-b_{i}\right) ^{2}}\quad \because d\left(
a,b\right) \text{の定義} \\
&\Leftrightarrow &\exists a\in B,\ \exists b\in B:y=\sqrt{\sum_{i=1}^{n}\left[ 0-\left( a_{i}-b_{i}\right) \right] ^{2}} \\
&\Leftrightarrow &\exists a\in B,\ \exists b\in B:y=d\left( 0,a-b\right)
\quad \because d\left( a,b\right) \text{の定義} \\
&\Leftrightarrow &y\in d\left( \left\{ 0\right\} ,A-B\right) \quad \because
d\left( A,B\right) \text{の定義}
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation}
d\left( A,B\right) =d\left( \left\{ 0\right\} ,A-B\right) \tag{1}
\end{equation}が成り立ちます。したがって、\begin{eqnarray*}
\mathrm{dist}\left( A,B\right) &=&\inf d\left( A,B\right) \quad \because
\mathrm{dist}\text{の定義} \\
&=&\inf d\left( \left\{ 0\right\} ,A-B\right) \quad \because \left( 1\right)
\\
&=&\mathrm{dist}\left( 0,A-B\right) \quad \because \mathrm{dist}\text{の定義}
\end{eqnarray*}を得ます。つまり、集合\(A,B\)の間の距離は、点\(0\)と集合\(A-B\)の距離と一致します。

命題(ミンコワスキー差と集合の間の距離)
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の非空な部分集合\(A,B\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
d\left( A,B\right) =d\left( \left\{ 0\right\} ,A-B\right)
\end{equation*}が成り立つ。
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次回はユークリッド空間の部分集合の直径について解説します。

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