ベクトル加法を用いてベクトル減法と呼ばれる演算を間接的に定義します。
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ベクトル減法

\(n\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだ上で、\(\mathbb{R}^{n}\)の点を値として取る変数\(z\in \mathbb{R} ^{n}\)に関する方程式\begin{equation}
y+z=x \tag{1}
\end{equation}を考えます。\(y\)は\(\mathbb{R}^{n}\)の点であるため、その逆ベクトル\(-y\)に相当する\(\mathbb{R}^{n}\)の点が存在します。また、\(\mathbb{R}^{n}\)はベクトル加法について閉じているため、\(x+\left( -z\right) \)もまた\(\mathbb{R}^{n}\)の点です。そこで、方程式\(\left( 1\right) \)の解の候補として点\(z=x+\left( -z\right) \)を考えると、\begin{align*}
y+z& =y+\left[ x+\left( -y\right) \right] \quad \because z=x+\left( -y\right)
\\
& =y+\left[ \left( -y\right) +x\right] \quad \because \text{ベクトル加法の交換律} \\
& =\left[ y+\left( -y\right) \right] +x\quad \because \text{ベクトル加法の結合律} \\
& =0+x\quad \because \text{逆ベクトルの定義} \\
& =x\quad \because \text{ゼロベクトルの定義}
\end{align*}となるため、\(x+\left( -z\right) \)が方程式\(\left( 1\right) \)の解であることが示されました。

さらに、方程式\(\left( 1\right) \)の解が一意的であることを示すために、これが異なる2つの解\(z,z^{\prime }\)を持つものと仮定します。このとき、\(y+z=x\)と\(y+z^{\prime }=x\)が成り立ちます。すると\(y+z=y+z^{\prime }\)が成り立ちますが、ベクトル加法に関する簡約法則より、\(z=z^{\prime }\)となります。これは\(z\)と\(z^{\prime }\)が異なるという事実と矛盾するため、方程式\(\left( 1\right) \)の解は一意的です。

命題(ベクトル減法の根拠)
\(n\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、方程式\(y+z=x\)は一意的な解\(z=x+\left( -y\right) \in \mathbb{R} ^{n}\)を持つ。
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上の命題より、ベクトル加法\(+\)が与えられたとき、\(\mathbb{R}^{n}\)の点からなるそれぞれの順序対\(\left( x,y\right) \)に対して、方程式\(y+z=x\)の一意的な解に相当する\(\mathbb{R}^{n}\)の点\(x+\left( -y\right) \)を定める\(\mathbb{R}^{n}\)上の二項演算\(-:\mathbb{R}^{n}\times \mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} ^{n}\)が定義可能です。これをベクトル減法(vector subtraction)と呼びます。さらに、ベクトル減法\(-\)が\(\mathbb{R}^{n}\)の点からなる順序対\(\left( x,y\right) \)に対して定める\(\mathbb{R}^{n}\)の点\(x+\left( -y\right) \)を\(x-y\)で表し、これを\(x\)と\(y\)の(difference)と呼びます。つまり、\(x=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right)\)かつ\(y=\left( y_{1},\cdots ,y_{n}\right) \)であるとき、\begin{eqnarray*}
x-y &=&x+\left( -y\right) \quad \because \text{ベクトル減法の定義} \\
&=&\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) +\left( -y_{1},\cdots ,-y_{n}\right)
\quad \because x,y\text{の定義} \\
&=&\left( x_{1}+\left( -y_{1}\right) ,\cdots ,x_{n}+\left( -y_{n}\right)
\right) \quad \because \text{ベクトル加法の定義} \\
&=&\left( x_{1}-y_{1},\cdots ,x_{n}-y_{n}\right) \quad \because \text{減法の定義}
\end{eqnarray*}となります。ただし、\(x-y\)中の\(-\)はベクトル減法を表す記号であり、\(x_{i}-y_{i}\)中の\(-\)は\(\mathbb{R}\)上の減法を表す記号です。\(\left( x,y\right) \)に対して\(-\)を適用することを、\(x\)から\(y\)を引く(subtract)と言います。

例(ベクトル減法)
\(1\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} \)を任意に選ぶと、\begin{equation*}
x-y=x-y
\end{equation*}が成り立ちます。ただし、左辺の\(-\)はベクトル減法を表す記号であり、右辺の\(-\)は実数どうしの減法を表す記号です。つまり、\(1\)次元空間において、ベクトル減法と減法は等しくなります。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}
1-4 &=&-3 \\
\left( -1\right) -8 &=&-9 \\
\frac{4}{5}-\frac{1}{10} &=&\frac{7}{10}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
例(ベクトル減法)
\(2\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{2}\)を任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},x_{2}\right) \)かつ\(y=\left( y_{1},y_{2}\right) \)です。このとき、\begin{equation*}
x-y=\left( x_{1}-y_{1},x_{2}-y_{2}\right)
\end{equation*}となります。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}
\left( 1,2\right) -\left( 3,1\right) &=&\left( 1-3,2-1\right) =\left(
-2,1\right) \\
\left( -1,7\right) -\left( 3,2\right) &=&\left( \left( -1\right)
-3,7-2\right) =\left( -4,5\right) \\
\left( \frac{2}{3},-1\right) -\left( -\frac{1}{2},-2\right) &=&\left( \frac{2}{3}-\left( -\frac{1}{2}\right) ,\left( -1\right) -\left( -2\right) \right)
=\left( \frac{7}{6},1\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
例(ベクトル減法)
\(3\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{3}\)を任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) \)かつ\(y=\left( y_{1},y_{2},y_{3}\right) \)です。このとき、\begin{equation*}
x-y=\left( x_{1}-y_{1},x_{2}-y_{2},x_{3}-y_{3}\right)
\end{equation*}となります。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}
\left( 1,2,3\right) -\left( 3,4,5\right) &=&\left( 1-3,2-4,3-5\right)
=\left( -2,-2,-2\right) \\
\left( -1,4,2\right) -\left( 0,1,-7\right) &=&\left( -1-0,4-1,2-\left(
-7\right) \right) =\left( -1,3,9\right) \\
\left( \frac{1}{2},\frac{1}{3},\frac{1}{4}\right) -\left( 0,-2,-\frac{1}{2}\right) &=&\left( \frac{1}{2}-0,\frac{1}{3}-\left( -2\right) ,\frac{1}{4}-\left( -\frac{1}{2}\right) \right) =\left( \frac{1}{2},\frac{7}{3},\frac{3}{4}\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

 

ゼロベクトルとの差

\(n\)次元空間の点\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、それとゼロベクトル\(0\in \mathbb{R} ^{n}\)のベクトル減法は、\begin{equation*}
x-0=x+\left( -0\right)
\end{equation*}と定義されます。以前に示したように、ゼロベクトルに関しては\(-0=0\)が成り立つため、\begin{equation*}
x-0=x+0
\end{equation*}を得ます。さらに、ゼロベクトルの定義より\(x+0=x\)が成り立つため、\begin{equation*}
x-0=x
\end{equation*}を得ます。つまり、\(\mathbb{R}^{n}\)の点からゼロベクトルを引いても変化は起こりません。

命題(ゼロベクトルとのベクトル減法)
\(n\)次元空間の点\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
x-0=x
\end{equation*}が成り立つ。
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同様にして、以下を導くことができます。

命題(ゼロベクトルとのベクトル減法)
\(n\)次元空間の点\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
0-x=-x
\end{equation*}が成り立つ。
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ベクトル和やベクトル差の逆ベクトル

\(n\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだ上で、それらのベクトル和の逆ベクトル\(-\left( x+y\right) \)について、\begin{equation*}
-\left( x+y\right) =-x-y
\end{equation*}が成り立つことを示します。ベクトル減法の定義より、これは、\begin{equation*}
-\left( x+y\right) =\left( -x\right) +\left( -y\right)
\end{equation*}と言い換え可能です。逆ベクトルの定義より、さらにこれは、\begin{equation*}
\left( x+y\right) +\left[ \left( -x\right) +\left( -y\right) \right] =0
\end{equation*}と言い換え可能です。これを示すことが目標になります。実際、\begin{eqnarray*}
\left( x+y\right) +\left[ \left( -x\right) +\left( -y\right) \right] &=&\left[ x+\left( -x\right) \right] +\left[ y+\left( -y\right) \right] \quad
\because \text{ベクトル加法の交換律} \\
&=&0+0\quad \because \text{逆ベクトルの定義} \\
&=&0\quad \because \text{ゼロベクトルの定義}
\end{eqnarray*}となるため、目標は達成されました。

命題(ベクトル和の逆ベクトル)
\(n\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
-\left( x+y\right) =-x-y
\end{equation*}が成り立つ。
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同様にして、以下を導くことができます。

命題(ベクトル差の逆ベクトル)
\(n\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
-\left( x-y\right) =y-x
\end{equation*}が成り立つ。
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次回はスカラー乗法について解説します。

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