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内積

実ベクトル空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)かつ\(y=\left( y_{1},\cdots ,y_{n}\right) \)です。このとき、\(x\)と\(y\)の内積(inner product)を、\begin{equation*}x\cdot y=\sum_{i=1}^{n}\left( x_{i}\cdot y_{i}\right)
\end{equation*}と定義します。内積はドット積(dot product)とも呼ばれ、\(\left\langle x,y\right\rangle \)と表記することもできます。

\(\mathbb{R} ^{n}\)の点\(x,y\)の任意の成分\(x_{i},y_{i}\)は実数であり、さらに\(\mathbb{R} \)は加法と乗法について閉じているため、上のように定義される内積\(x\cdot y\)が常に1つの実数として定まることが保証されます。したがって、\(\mathbb{R} ^{n}\)の点からなるそれぞれの順序対\(\left( x,y\right) \)に対して内積\(x\cdot y\)を定める写像\(\cdot :\mathbb{R} ^{n}\times \mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)が定義可能であり、これを内積関数(inner product function)と呼びます。

例(内積)
\(1\)次元の実ベクトル空間の点\(x,y\in \mathbb{R} \)を任意に選ぶと、\begin{equation*}x\cdot y=x\cdot y
\end{equation*}が成り立ちます。ただし、左辺の\(\cdot \)は\(\mathbb{R} \)上の内積であり、右辺の\(\cdot \)は\(\mathbb{R} \)上の乗法です。つまり、\(\mathbb{R} \)において内積と乗法は等しくなります。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}1\cdot 4 &=&1\cdot 4=4 \\
\left( -1\right) \cdot 8 &=&\left( -1\right) \cdot 8=-8 \\
\frac{4}{5}\cdot \frac{1}{10} &=&\frac{4}{5}\cdot \frac{1}{10}=\frac{2}{25}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。ただし、左辺の\(\cdot \)は内積であり、右辺の\(\cdot \)は乗法です。
例(内積)
\(2\)次元の実ベクトル空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{2}\)を任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},x_{2}\right) \)かつ\(y=\left( y_{1},y_{2}\right) \)です。このとき、\begin{equation*}x\cdot y=x_{1}\cdot y_{1}+x_{2}\cdot y_{2}
\end{equation*}となります。ただし、左辺の\(\cdot \)は\(\mathbb{R} ^{2}\)上の内積であり、右辺の\(\cdot \)は\(\mathbb{R} \)上の乗法です。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}\left( 1,2\right) \cdot \left( 3,1\right) &=&1\cdot 3+2\cdot 1=5 \\
\left( -1,7\right) \cdot \left( 3,2\right) &=&\left( -1\right) \cdot
3+7\cdot 2=11 \\
\left( \frac{2}{3},-1\right) \cdot \left( -\frac{1}{2},-2\right) &=&\frac{2}{3}\cdot \left( -\frac{1}{2}\right) +\left( -1\right) \cdot \left(
-2\right) =\frac{5}{3}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

内積は同一の空間に属する2つの点に対してのみ定義されます。

例(内積)
点\(x\in \mathbb{R} ^{2}\)と点\(y\in \mathbb{R} ^{3}\)は異なる空間に属するため、それらの内積\(x\cdot y\)は定義されません。

 

内積の非負性

点\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)です。このとき、\begin{eqnarray*}x\cdot x &=&\sum_{i=1}^{n}x_{i}^{2}\quad \because \text{内積の定義} \\
&\geq &0\quad \because x_{i}^{2}\geq 0
\end{eqnarray*}となります。つまり、同じ点どうしの内積は非負の実数になります。これは非負性(non-negativity)と呼ばれる内積の性質です。

命題(内積の非負性)
\(\mathbb{R} ^{n}\)において、\begin{equation*}\left( I_{1}\right) \ \forall x\in \mathbb{R} ^{n}:x\cdot x\geq 0
\end{equation*}が成り立つ。

 

内積の定性

点\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)です。このとき、\begin{eqnarray*}x\cdot x=0 &\Leftrightarrow &\sum_{i=1}^{n}x_{i}^{2}=0\quad \because \text{内積の定義} \\
&\Leftrightarrow &\forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :x_{i}^{2}=0\quad
\because x_{i}^{2}\geq 0 \\
&\Leftrightarrow &\forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :x_{i}=0\quad
\because x_{i}^{2}=0\Leftrightarrow x_{i}=0 \\
&\Leftrightarrow &x=0\quad \because x\text{の定義}
\end{eqnarray*}となります。つまり、同じ点どうしの内積の値が\(0\)であることと、その点がゼロベクトルであることは必要十分です。これは定性(definiteness)と呼ばれる内積の性質です。

命題(内積の定性)
\(\mathbb{R} ^{n}\)において、\begin{equation*}\left( I_{2}\right) \ \forall x\in \mathbb{R} ^{n}:\left( x\cdot x=0\Leftrightarrow x=0\right)
\end{equation*}が成り立つ。

 

内積の加法性

点\(x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)かつ\(y=\left( y_{1},\cdots ,y_{n}\right) \)かつ\(z=\left( z_{1},\cdots ,z_{n}\right) \)です。このとき、\begin{eqnarray*}\left( x+y\right) \cdot z &=&\sum_{i=1}^{n}\left[ \left( x_{i}+y_{i}\right)
\cdot z_{i}\right] \quad \because \text{内積の定義} \\
&=&\sum_{i=1}^{n}\left( x_{i}\cdot z_{i}+y_{i}\cdot z_{i}\right) \\
&=&\sum_{i=1}^{n}\left( x_{i}\cdot z_{i}\right) +\sum_{i=1}^{n}\left(
y_{i}\cdot z_{i}\right) \\
&=&x\cdot z+y\cdot z\quad \because \text{内積の定義}
\end{eqnarray*}が成り立ちます。これを第一引数に関する加法性(additivity in first slot)と呼びます。つまり、ベクトル和とベクトルの内積は、内積どうしのベクトル和と一致するということです。

命題(内積の第一引数に関する加法性)
\(\mathbb{R} ^{n}\)において、\begin{equation*}\left( I_{3}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}:\left( x+y\right) \cdot z=x\cdot z+y\cdot z
\end{equation*}が成り立つ。

内積は第二引数に関する加法性(additivity in second slot)も満たします。つまり、ベクトルとベクトル和の内積もまた、内積どうしのベクトル和と一致するということです。

命題(内積の第二引数に関する加法性)
\(\mathbb{R} ^{n}\)において、\begin{equation*}\forall x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}:x\cdot \left( y+z\right) =x\cdot y+x\cdot z
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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内積の斉次性

スカラー\(a\in \mathbb{R} \)と点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)をそれぞれ任意に選びます。ただし、\(x=\left(x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)かつ\(y=\left( y_{1},\cdots,y_{n}\right) \)です。このとき、\begin{eqnarray*}\left( ax\right) \cdot y &=&\sum_{i=1}^{n}\left[ \left( ax_{i}\right) \cdot
y_{i}\right] \quad \because \text{内積の定義}
\\
&=&\sum_{i=1}^{n}\left[ a\left( x_{i}\cdot y_{i}\right) \right] \\
&=&a\sum_{i=1}^{n}\left( x_{i}\cdot y_{i}\right) \\
&=&a\left( x\cdot y\right) \quad \because \text{内積の定義}
\end{eqnarray*}が成り立ちます。これを第一引数に関する斉次性(homogeneity in first slot)と呼びます。つまり、ベクトルのスカラー倍とベクトルの内積は、内積のスカラー倍と一致するということです。

命題(内積の第一引数に関する斉次性)
\(\mathbb{R} ^{n}\)において、\begin{equation*}\left( I_{4}\right) \ \forall a\in \mathbb{R} ,\ \forall x,y\in \mathbb{R} ^{n}:\left( ax\right) \cdot y=a\left( x\cdot y\right)
\end{equation*}が成り立つ。

内積は第二引数に関する斉次性(homogeneity in second slot)も満たします。つまり、ベクトルとベクトルのスカラー倍の内積もまた、内積のスカラー倍と一致するということです。

命題(内積の第二引数に関する斉次性)
実ベクトル空間\(\mathbb{R} ^{n}\)において、\begin{equation*}\forall a\in \mathbb{R} ,\ \forall x,y\in \mathbb{R} ^{n}:x\cdot \left( ay\right) =a\left( x\cdot y\right)
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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内積の対称性

点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)かつ\(y=\left( y_{1},\cdots ,y_{n}\right) \)です。このとき、\begin{eqnarray*}x\cdot y &=&\sum_{i=1}^{n}\left( x_{i}\cdot y_{i}\right) \quad \because
\text{内積の定義} \\
&=&\sum_{i=1}^{n}\left( y_{i}\cdot x_{i}\right) \\
&=&y\cdot x\quad \because \text{内積の定義}
\end{eqnarray*}が成り立ちます。これを対称性(symmetry)と呼びます。

命題(内積の対称性)
\(\mathbb{R} ^{n}\)において、\begin{equation*}\left( I_{5}\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R} ^{n}:x\cdot y=y\cdot x
\end{equation*}が成り立つ。

 

内積空間としての実ベクトル空間

実ベクトル空間\(\mathbb{R} ^{n}\)に対して定義される内積関数\(\cdot :\mathbb{R} ^{n}\times \mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)が\(\left( I_{1}\right) \)から\(\left( I_{5}\right) \)までの性質を満たすことは、それらの組\(\left( \mathbb{R} ^{n},\cdot \right) \)が内積空間(inner product space)もしくは計量ベクトル空間(metric vector space)であることを意味します。つまり、実ベクトル空間は内積空間の1つの例です。逆に、実ベクトル空間の一般化が内積空間です。一般の内積空間については場を改めて詳しく解説します。

命題(内積空間としての実ベクトル空間)
実ベクトル空間\(\mathbb{R} ^{n}\)は内積関数\(\cdot :\mathbb{R} ^{n}\times \mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)に関して内積空間である。すなわち、\begin{eqnarray*}&&\left( I_{1}\right) \ \forall x\in \mathbb{R} ^{n}:x\cdot x\geq 0 \\
&&\left( I_{2}\right) \ \forall x\in \mathbb{R} ^{n}:\left( x\cdot x=0\Leftrightarrow x=0\right) \\
&&\left( I_{3}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}:\left( x+y\right) \cdot z=x\cdot z+y\cdot z \\
&&\left( I_{4}\right) \ \forall a\in \mathbb{R} ,\ \forall x,y\in \mathbb{R} ^{n}:\left( ax\right) \cdot y=a\left( x\cdot y\right) \\
&&\left( I_{5}\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R} ^{n}:x\cdot y=y\cdot x
\end{eqnarray*}が成り立つ。

 

ゼロベクトルとの内積

点\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選びます。ただし、\(x=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)です。それとゼロベクトルの内積は、\begin{eqnarray*}0\cdot x &=&\sum_{i=1}^{n}\left( 0\cdot x_{i}\right) \quad \because \text{内積の定義} \\
&=&\sum_{i=1}^{n}0 \\
&=&0
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
0\cdot x=0
\end{equation*}となります。つまり、任意の点とゼロベクトルの内積はゼロです。これと内積の対称性より、\begin{equation*}
x\cdot 0=0
\end{equation*}もまた成り立ちます。

命題(ゼロベクトルとの内積)
\(\mathbb{R} ^{n}\)において、\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} ^{n}:0\cdot x=x\cdot 0=0
\end{equation*}が成り立つ。

 

演習問題

問題(内積)
点\(x,y\in \mathbb{R} ^{4}\)がそれぞれ、\begin{eqnarray*}x &=&\left( 3,-5,2,1\right) \\
y &=&\left( 4,1,-2,5\right)
\end{eqnarray*}として与えられているとき、内積\(x\cdot y\)を求めてください。
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問題(内積)
点\(x\in \mathbb{R} ^{4}\)と\(y\in \mathbb{R} ^{3}\)がそれぞれ、\begin{eqnarray*}x &=&\left( 1,-5,2,1\right) \\
y &=&\left( 3,7,1\right)
\end{eqnarray*}として与えられているとき、内積\(x\cdot y\)を求めてください。
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問題(内積)
\(\mathbb{R} ^{n}\)において、第\(i\)成分が\(1\)であり他の成分が\(0\)であるようなベクトルを\(e_{i}\in \mathbb{R} ^{n}\)で表記します。つまり、\begin{eqnarray*}e_{1} &=&\left( 1,0,0,\cdots ,0\right) \\
e_{2} &=&\left( 0,1,0,\cdots ,0\right) \\
&&\vdots \\
e_{n} &=&\left( 0,0,0,\cdots ,1\right)
\end{eqnarray*}です。このとき、任意の点\(x=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \in \mathbb{R} ^{n}\)および任意の\(i\in \left\{ 1,\cdots,n\right\} \)に対して、\begin{equation*}x\cdot e_{i}=x_{i}
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。

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問題(内積の線型性)
実ベクトル空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に定義された内積は第一引数に関して加法性と斉次性を満たします。ただし、第一引数に関する加法性とは、任意の点\(x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}\)に関して、\begin{equation*}\left( x+y\right) \cdot z=x\cdot z+y\cdot z
\end{equation*}が成り立つことを意味し、第一引数に関する斉次性とは、任意のスカラー\(a\in \mathbb{R} \)と任意の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)に関して、\begin{equation*}\left( ax\right) \cdot y=a\left( x\cdot y\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。一方、任意のスカラー\(a\in \mathbb{R} \)と任意の点\(x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}\)に関して、\begin{equation*}\left( ax+y\right) \cdot z=a\left( x\cdot z\right) +y\cdot z
\end{equation*}が成り立つ場合、内積は第一引数に関して線型性(linearity)を満たすと言います。以上を踏まえたとき、内積が第一引数に関して加法性と斉次性をともに満たすことは線型性を満たすための必要十分であることを証明してください。

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問題(直交)
点\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)について、\begin{equation*}x\cdot y=0
\end{equation*}が成り立つ場合、\(x\)と\(y\)は直交(orthogonal)あるいは垂直(perpendicular)であると言います。点\(x,y\in \mathbb{R} ^{5}\)がそれぞれ、\begin{eqnarray*}x &=&\left( 2,3k,-4,1,5\right) \\
y &=&\left( 6,-1,3,7,2k\right)
\end{eqnarray*}として与えられているとき、\(x\)と\(y\)が直交するために\(k\)が満たすべき条件を求めてください。
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次回はノルムについて解説します。

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