狭義半順序関係
集合\(A\)上の二項関係\(R\)が与えられているものとします。つまり、\begin{equation*}R\subset A\times A
\end{equation*}です。特に、集合\(A\)上の二項関係\(R\)が非対称律と推移律を満たすことを公理として認める場合には、すなわち、\begin{eqnarray*}&&\left( S_{1}\right) \ \forall x,y\in A:\left[ \left( x,y\right) \in
R\Rightarrow \left( y,x\right) \not\in R\right] \\
&&\left( S_{2}\right) \ \forall x,y,z\in A:\left\{ \left[ \left( x,y\right)
\in R\wedge \left( y,z\right) \in R\right] \Rightarrow \left( x,z\right) \in
R\right\}
\end{eqnarray*}が成り立つ場合には、このような二項関係\(R\)を狭義半順序(strict partial order)や狭義順序(strict order)などと呼びます。狭義半順序を規定する以上の2つの性質(非対称律・推移律)を総称して狭義順序の公理(axiom of strict order)と呼びます。
多くの場合、狭義半順序を表す記号として\(<\)を採用します。つまり、集合\(A\)上の狭義半順序\(R\)が与えられたとき、任意の\(x,y\in A\)について、\begin{equation*}x<y\Leftrightarrow \left( x,y\right) \in R
\end{equation*}を満たすものとして記号\(x<y\)の意味を定義するということです。この場合、任意の\(x,y\in A\)について、\begin{equation*}\lnot \left( x<y\right) \Leftrightarrow \left( x,y\right) \not\in R
\end{equation*}という関係もまた成立することに注意してください。この記号\(<\)を用いて狭義順序の公理を改めて表現すると、\begin{eqnarray*}&&\left( S_{1}\right) \ \forall x,y\in A:\left[ x<y\Rightarrow \lnot \left(
y<x\right) \right] \\
&&\left( S_{2}\right) \ \forall x,y,z\in A:\left[ \left( x<y\wedge
y<z\right) \Rightarrow x<z\right]
\end{eqnarray*}となります。
集合\(A\)上の狭義半順序\(<\)が与えられたとき、要素\(x,y\in A\)について\(x<y\)が成り立つ場合には、\(x\)は\(y\)より小さい(\(x\) is less than \(y\))とか、\(y\)は\(x\)より大きい(\(y\) is greater than \(x\))などと言います。
集合\(A\)上に狭義半順序\(<\)が定義されている場合、これらの組\begin{equation*}\left( A,<\right)
\end{equation*}を狭義半順序集合(strict partially ordered set)や狭義順序集合(strict ordered set)などと呼びます。ただし、狭義半順序集合について言及していることが文脈から明らかである場合には、狭義半順序集合をシンプルに、\begin{equation*}
A
\end{equation*}と表記できます。
狭義半順序の特徴づけ
集合\(A\)上の二項関係\(R\)が非対称律を満たすこととは、\begin{equation*}\forall x,y\in A:\left[ \left( x,y\right) \in R\Rightarrow \left( y,x\right)
\not\in R\right]
\end{equation*}が成り立つことを意味し、非反射律を満たすことは、\begin{equation*}
\forall x\in A:\left( x,x\right) \not\in R
\end{equation*}が成り立つことを意味し、反対称律を満たすこととは、\begin{equation*}
\forall x,y\in A:\left\{ \left[ \left( x,y\right) \in R\wedge \left(
y,x\right) \in R\right] \Rightarrow x=y\right\}
\end{equation*}が成り立つことを意味します。
集合\(A\)上の二項関係\(R\)が非対称律を満たすことと、\(R\)が非反射律と反対称律をともに満たすことは必要十分です。以上を踏まえると、狭義半順序を以下のように定義することもできます。
&&\left( b\right) \ \forall x,y\in A:\left\{ \left[ \left( x,y\right) \in
R\wedge \left( y,x\right) \in R\right] \Rightarrow x=y\right\} \\
&&\left( c\right) \ \forall x,y,z\in A:\left\{ \left[ \left( x,y\right) \in
R\wedge \left( y,z\right) \in R\right] \Rightarrow \left( x,z\right) \in
R\right\}
\end{eqnarray*}をすべて満たすことは、\(R\)が\(A\)上の狭義半順序であるための必要十分条件である。
狭義半順序の記号\(<\)を用いて上の命題の主張を表現すると、狭義順序の公理は、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall x\in A:\lnot \left( x<x\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall x,y\in A:\left[ \left( x<y\wedge y<x\right)
\Rightarrow x=y\right] \\
&&\left( c\right) \ \forall x,y,z\in A:\left[ \left( x<y\wedge y<z\right)
\Rightarrow x<z\right]
\end{eqnarray*}と必要十分であるということになります。
狭義半順序の具体例:実数の狭義大小関係
実数どうしを比較する通常の狭義大小関係\(<\)は実数集合\(\mathbb{R} \)上に定義された二項関係です。実際、狭義大小関係\(<\)が与えられたとき、任意の実数\(x,y\in \mathbb{R} \)について、以下の関係\begin{equation*}\left( x,y\right) \in R\Leftrightarrow x<y
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} \)上の二項関係\begin{equation*}R\subset \mathbb{R} \times \mathbb{R} \end{equation*}を定義可能です。つまり、実数\(x,y\)について、\(x\)が\(y\)より小さい場合、そしてその場合にのみ\(\left( x,y\right) \in R\)が成り立つものとして\(\mathbb{R} \)上の二項関係\(R\)を定義するということです。この二項関係\(R\)を狭義大小関係\(<\)と同一視することにより、狭義大小関係\(<\)を\(\mathbb{R} \)上の二項関係とみなすことができます。
実数集合\(\mathbb{R} \)上に定義された狭義大小関係\(<\)は\(\mathbb{R} \)上の狭義半順序です。つまり、\begin{eqnarray*}&&\left( S_{1}\right) \ \forall x,y\in A:\left[ x<y\Rightarrow \lnot \left(
y<x\right) \right] \\
&&\left( S_{2}\right) \ \forall x,y,z\in A:\left[ \left( x<y\wedge
y<z\right) \Rightarrow x<z\right]
\end{eqnarray*}が成り立ちます。
狭義半順序の具体例:狭義の包含関係
2つの集合\(A,B\)について、\(A\)が\(B\)の部分集合である一方で\(A\)は\(B\)とは異なる集合である場合、すなわち、\begin{equation*}A\subset B\wedge A\not=B
\end{equation*}が成り立つ場合、\(A\)を\(B\)の真部分集合と呼びます。その上で、\(A\)が\(B\)の真部分集合であることを、\begin{equation*}A\varsubsetneq B
\end{equation*}で表記します。これを狭義包含関係と呼びます。
全体集合\(U\)を任意に選んだ上で、その部分集合どうしの狭義包含関係(真部分集合)を判定する状況を想定します。任意の集合\(A,B\in 2^{U}\)について、以下の関係\begin{equation*}\left( A,B\right) \in R\Leftrightarrow A\varsubsetneq B
\end{equation*}を満たすものとして\(2^{U}\)上の二項関係\begin{equation*}R\subset 2^{U}\times 2^{U}
\end{equation*}を定義します。ただし、\(2^{U}\)は\(U\)のべき集合、すなわち\(U\)のすべての部分集合を要素として持つ集合族です。つまり、\(U\)の部分集合\(A,B\)について、\(A\)が\(B\)の真部分集合である場合、そしてその場合にのみ\(\left( A,B\right) \in R\)が成り立つものとして\(2^{U}\)上の二項関係\(R\)を定義するということです。この二項関係\(R\)を狭義包含関係\(\varsubsetneq \)と同一視することにより、狭義包含関係\(\varsubsetneq \)を\(2^{U}\)上の二項関係とみなすことができます。
集合\(U\)のべき集合\(2^{U}\)上に定義された狭義包含関係\(\varsubsetneq \)は\(2^{U}\)上の狭義半順序です。つまり、\begin{eqnarray*}&&\left( S_{1}\right) \ \forall A,B\in 2^{U}:\left[ A\varsubsetneq
B\Rightarrow \lnot \left( B\varsubsetneq A\right) \right] \\
&&\left( S_{2}\right) \ \forall A,B,C\in 2^{U}:\left[ \left( A\varsubsetneq
B\wedge B\varsubsetneq C\right) \Rightarrow A\varsubsetneq C\right]
\end{eqnarray*}が成り立ちます。
狭義半順序ではない二項関係の具体例
逆に、集合\(A\)上の二項関係\(R\)が狭義順序の公理を満たさない場合、すなわち\(R\)が非対称律と反射律の少なくとも一方を満たさない場合、\(R\)は狭義半順序ではありません。
\end{equation*}を満たすものとして\(A\)上の二項関係\(R\)を定義します。この\(R\)は\(A\)上の狭義半順序ではありません(演習問題)。
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} \)上の二項関係\(R\)を定義します。この\(R\)は\(\mathbb{R} \)上の狭義半順序ではありません(演習問題)。
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} \)上の二項関係\(R\)を定義します。この\(R\)は\(\mathbb{R} \)上の狭義半順序ではありません(演習問題)。
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} \)上の二項関係\(R\)を定義します。この\(R\)は\(\mathbb{R} \)上の狭義半順序ではありません(演習問題)。
\end{equation*}を満たすものとして\(2^{U}\)上の二項関係\(R\)を定義します。この\(R\)は\(2^{U}\)上の狭義半順序ではありません(演習問題)。
\end{equation*}を満たすものとして\(A\)上の二項関係\(R\)を定義します。この\(R\)は\(A\)上の狭義半順序ではありません(演習問題)。
\end{equation*}が成り立ちますが、以上の事実は\(A\times A\)が\(A\)上の二項関係であることを意味します。直積\(A\times A\)を二項関係とみなした場合、これを全体関係と呼びます。全体関係\(A\times A\)は\(A\)上の狭義半順序ではありません(演習問題)。
\end{equation*}が成り立ちますが、以上の事実は\(A\times A\)が\(A\)上の二項関係であることを意味します。直積\(A\times A\)を二項関係とみなした場合、これを全体関係と呼びます。全体関係\(A\times A\)は\(A\)上の半順序ではありません(演習問題)。
演習問題
\end{equation*}を満たすものとして\(A\)上の二項関係\(R\)を定義します。この\(R\)は\(A\)上の狭義半順序ではないことを示してください。
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} \)上の二項関係\(R\)を定義します。この\(R\)は\(\mathbb{R} \)上の狭義半順序ではないことを示してください。
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} \)上の二項関係\(R\)を定義します。この\(R\)は\(\mathbb{R} \)上の狭義半順序ではないことを示してください。
\end{equation*}を満たすものとして\(\mathbb{R} \)上の二項関係\(R\)を定義します。この\(R\)は\(\mathbb{R} \)上の狭義半順序ではないことを示してください。
\end{equation*}を満たすものとして\(2^{U}\)上の二項関係\(R\)を定義します。この\(R\)は\(2^{U}\)上の狭義半順序ではないことを示してください。
\end{equation*}を満たすものとして\(A\)上の二項関係\(R\)を定義します。この\(R\)は\(A\)上の狭義半順序ではないことを示してください。
\end{equation*}が成り立ちますが、以上の事実は\(A\times A\)が\(A\)上の二項関係であることを意味します。直積\(A\times A\)を二項関係とみなした場合、これを全体関係と呼びます。全体関係\(A\times A\)は\(A\)上の狭義半順序ではないことを示してください。
\end{equation*}が成り立ちますが、以上の事実は\(\phi \)が\(A\)上の二項関係であることを意味します。空集合\(\phi \)を二項関係とみなした場合、これを空関係と呼びます。空関係\(\phi \)は\(A\)上の半順序であることを示してください。
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