支出最小化問題の制約条件

支出最小化問題にはそのままではベルジュの最大値定理を適用できないため、一般性を失わない形で、支出最小化問題をベルジュの最大値定理が適用可能な形へ変換します。

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支出最小化問題の制約条件

復習になりますが、消費集合\( \mathbb{R} _{+}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が合理性と連続性を満たす場合には、\(\succsim \)を表現する連続な効用関数\(u: \mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R}\)が存在し、予算対応\(B: \mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R}_{++}\twoheadrightarrow \mathbb{R}_{+}^{N}\)は非空値かつコンパクト値をとる連続対応になります。したがって、それぞれの\(\left( p,w\right) \in \mathbb{R}_{++}^{N}\times \mathbb{R}_{++}\)について効用最大化問題\begin{equation*}
\max_{x\in \mathbb{R}_{+}^{N}}u\left( x\right) \quad s.t.\quad x\in B\left( p,w\right)
\end{equation*}を考える際にベルジュの最大値定理を利用するにより、様々な望ましい性質を導くことができました。

効用最大化問題について復習する

支出最小化問題についても同様の議論が可能でしょうか。目標とする効用水準\(v\in u\left( \mathbb{R}_{+}^{N}\right) \)が\(u\left( 0\right) >v\)を満たす場合、\(\left( p,w\right) \)のもとでの支出最小化問題の解は明らかにゼロベクトル\(0\)であるため、以降では\(v\geq u\left( 0\right) \)を満たす\(v\in u\left( \mathbb{R}_{+}^{N}\right) \)のみを議論の対象とします。つまり、目標とする効用水準\(v\)がとり得る値の範囲を、\begin{equation*}
U=\{u\left( x\right) \in u\left( \mathbb{R}_{+}^{N}\right) \ |\ v\geq u\left( 0\right) \}
\end{equation*}に限定するということです。それぞれの\(v\in U\)について、\begin{equation*}
S\left( v\right) =\{x\in \mathbb{R}_{+}^{N}\ |\ u\left( x\right) \geq v\}
\end{equation*}を像として定める対応\(S:U\twoheadrightarrow \mathbb{R}_{+}^{N}\)を定義したとき、\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R}_{++}^{N}\times U\)のもとでの支出最小化問題は、\begin{equation*}
\min_{x\in \mathbb{R}_{+}^{N}}p\cdot x\quad s.t.\quad x\in S\left( v\right)
\end{equation*}と定式化できます。目的関数\(p\cdot x\)は連続関数であるため、ベルジュの最大値定理が要求する条件をクリアしています。したがって、制約条件を規定する対応\(S\)が非空値かつコンパクト値をとる連続対応であるならば、支出最小化問題に対してもベルジュの最大値定理を利用できます。ただ、この対応\(S\)はそれらの性質を満たすとは限りません。

例(支出最小化問題)
消費集合\( \mathbb{R} _{+}\)上の効用関数\(u\left( x\right) \)が以下のグラフで表される連続関数であるものとします。\(u\)の値域\(u\left( \mathbb{R}_{+}\right) \)は有界ではないため、効用水準\(v\in U\)を任意にとったとき、それに対して\(S\left( v\right) \)は下図のような無限区間になります。\(\left( p,v\right) \)のもとでの支出最小化問題とは、\(S\left( v\right) \)に属する消費ベクトル\(x\)の中から支出\(p\cdot x\)を最小化するようなものを特定することを意味します。ただ、対応\(S\)はコンパクト値をとらないため、ベルジュの最大値定理を利用できません。
図:支出最小化問題
図:支出最小化問題

例(支出最小化問題)
消費集合\( \mathbb{R} _{+}\)上の効用関数\(u\left( x\right) \)が以下のグラフで表される連続関数であるものとします。\(u\)の値域\(u\left( \mathbb{R}_{+}\right) \)は上に有界であるため、効用水準\(v\in U\)を任意にとったとき、それに対して\(S\left( v\right) \)は下図のような有界な閉区間、すなわちコンパクト集合をとります。したがって、この場合には、ベルジュの最大値定理を使える可能性があります。
図:支出最小化問題
図:支出最小化問題

 

支出最小化問題の変換

上の例が示唆するように、支出最小化問題に対してベルジュの最大値定理を適用できるとは限りません。そこで、問題の一般性を失わないまま、支出最小化問題をベルジュの最大値定理を適用できる形へと変換することを考えます。

消費集合\( \mathbb{R} _{+}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表す連続な効用関数\(u: \mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R}\)が与えられたとき、先と同様に、目標とする効用水準\(v\)がとり得る値の範囲を、\begin{equation*}
U=\{u\left( x\right) \in u\left( \mathbb{R}_{+}^{N}\right) \ |\ v\geq u\left( 0\right) \}
\end{equation*}に限定します。効用\(v\in U\)を任意に選ぶと、\(U\)の定義より、それに対して\(u\left( x\right) =v\)を満たす消費ベクトル\(x\in \mathbb{R}_{+}^{N}\)が存在します。以上の事実を踏まえた上で、それぞれの\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R}_{++}^{N}\times U\)に対して、\begin{equation*}
S\left( p,v\right) =\left\{ x\in \mathbb{R}_{+}^{N}\ |\ u\left( x\right) \geq v,\ p\cdot x\leq p\cdot \overline{x}\right\}
\end{equation*}を像として定める対応\(S: \mathbb{R} _{++}^{N}\times U\twoheadrightarrow \mathbb{R}_{+}^{N}\)を定義します。ただし、上の条件中の\(\overline{x}\in \mathbb{R}_{+}^{N}\)は、入力した\(v\in U\)に対して、\(u\left( \overline{x}\right) =v\)を満たす消費ベクトルです。\(U\)の定義より、そのような消費ベクトルは必ず存在します。また、そのような消費ベクトルが複数存在する可能性がありますが、\(S\left( p,v\right) \)を定義する際には、その中のどれを採用してもよいものとします。以上のように定義される対応\(S\)を制約対応(constraint correspondence)と呼ぶことにします。

繰り返しになりますが、価格ベクトルと効用の組\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R}_{++}^{N}\times U\)に対する支出最小化問題は、\begin{equation}
\min_{x\in \mathbb{R}_{+}^{N}}p\cdot x\quad s.t.\quad x\in S\left( v\right) \tag{1}
\end{equation}と定義されます。ただし、制約条件を規定する対応\(S:U\rightarrow \mathbb{R}_{+}^{N}\)は、\begin{equation*}
S\left( v\right) =\{x\in \mathbb{R}_{+}^{N}\ |\ u\left( x\right) \geq v\}
\end{equation*}と定義されます。ここで、支出最小化問題の制約条件を制約対応\(S: \mathbb{R} _{++}^{N}\times U\twoheadrightarrow \mathbb{R}_{+}^{N}\)を用いたものに置き換えることで得られる新たな問題\begin{equation}
\min_{x\in \mathbb{R}_{+}^{N}}p\cdot x\quad s.t.\quad x\in S\left( p,v\right) \tag{2}
\end{equation}について考えます。明らかに\(S\left( p,v\right) \subset S\left( v\right) \)という関係が成り立つため、制約条件を置き換えて得られる問題\(\left( 2\right) \)は、もとの支出最小化問題\(\left( 1\right) \)よりも制約条件が厳しくなっています。以下では、具体例を通じて両者の違いを確認します。

例(制約対応を用いた最小化問題)
先と同様に、以下グラフで表される消費集合\( \mathbb{R} _{+}\)上の効用関数\(u\left( x\right) \)について考えます。繰り返しになりますが、\(u\)の値域\(u\left( \mathbb{R}_{+}\right) \)は有界ではないため、効用水準\(v\)を任意にとったとき、それに対して\(S\left( v\right) \)は下図のような無限区間になります。\(\left( p,v\right) \)のもとでの支出最小化問題とは、\(S\left( v\right) \)に属する消費ベクトル\(x\)の中から支出\(p\cdot x\)を最小化するようなものを特定することを意味します。\(S\left( v\right) \)はコンパクト集合ではないため、ベルジュの最大値定理を使うことはできません。
図:支出最小化問題
図:支出最小化問題

一方、制約対応が定める像\(S\left( p,v\right) \)は下図のような一点集合であるため、これはコンパクト集合です。したがって、支出最小化問題の制約条件を制約対応を用いたものに置き換えた場合、ベルジュの最大値定理を適用できる可能性があります。また、\(\overline{x}\)よりも大きい消費ベクトルが支出最小化問題の解になることはないため、\(x\)がとり得る範囲を\(S\left( v\right) \)から\(S\left( p,v\right) \)へ縮小しても問題ありません。

図:制約対応のもとでの最小化問題
図:制約対応のもとでの最小化問題
例(制約対応を用いた最小化問題)
先と同様に、以下グラフで表される消費集合\( \mathbb{R} _{+}\)上の効用関数\(u\left( x\right) \)について考えます。繰り返しになりますが、\(u\)の値域\(u\left( \mathbb{R}_{+}\right) \)は上に有界であるため、効用水準\(v\)を任意にとったとき、それに対して\(S\left( v\right) \)は下図のような有界閉区間、すなわちコンパクト集合になります。\(\left( p,v\right) \)のもとでの支出最小化問題とは、\(S\left( v\right) \)に属する消費ベクトル\(x\)の中から支出\(p\cdot x\)を最小化するようなものを特定することを意味します。
図:支出最小化問題
図:支出最小化問題

一方、制約対応が定める像\(S\left( p,v\right) \)はどうなるでしょうか。下図から確認できますが、\(u\left( \overline{x}\right) =v\)を満たす消費ベクトル\(\overline{x}\)は 2 つ存在するため、\(S\left( p,v\right) \)としては 2 通りが存在します。大きい方の\(\overline{x}\)に関しては\(S\left( p,v\right) =S\left( v\right) \)が成り立つため、これはコンパクト集合です。小さいほうの\(\overline{x}\)に関しては、\(S\left( p,v\right) \)は下図のような一点集合であるため、やはりコンパクト集合です。\(\overline{x}\)よりも大きい消費ベクトルが支出最小化問題の解になることはないため、\(x\)がとり得る範囲を\(S\left( v\right) \)から\(S\left( p,v\right) \)へ縮小しても問題ありません。

図:制約対応のもとでの最小化問題
図:制約対応のもとでの最小化問題

上の例が示唆するように、支出最小化問題の制約条件を制約対応を用いたものに置き換えた場合、その前後において、解集合は変化しません。

命題(支出最小化問題の変換)
消費集合\( \mathbb{R} _{+}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表す連続な効用関数\(u: \mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R}\)が与えられたとき、\begin{equation*}
U=\left\{ v\in u\left( \mathbb{R}_{+}^{N}\right) \ |\ v\geq u\left( 0\right) \right\}
\end{equation*}と定める。さらに、それぞれの\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R}_{++}^{N}\times U\)に対して、\begin{equation*}
S\left( p,v\right) =\left\{ x\in \mathbb{R}_{+}^{N}\ |\ u\left( x\right) \geq v,\ p\cdot x\leq p\cdot \overline{x}\right\}
\end{equation*}を像として定める対応\(S: \mathbb{R} _{++}^{N}\times U\twoheadrightarrow \mathbb{R}_{+}^{N}\)を定義する。ただし、上の\(\overline{x}\in \mathbb{R}_{+}^{N}\)は、入力した\(v\in U\)に対して、\begin{equation*}
u\left( \overline{x}\right) =v
\end{equation*}を満たす任意の消費ベクトルである。\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R}_{++}^{N}\times U\)を任意に選んだとき、\(x^{\ast }\in \mathbb{R}_{+}^{N}\)が\(\left( p,v\right) \)のもとでの最適化問題\begin{equation*}
\min_{x\in \mathbb{R}_{+}^{N}}p\cdot x\quad s.t.\quad x\in S\left( p,v\right)
\end{equation*}の解であることは、\(x^{\ast }\)が\(\left( p,v\right) \)のもとでの支出最小化問題の解であるための必要十分条件である。
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制約対応の性質

以上の命題より、それぞれの\(\left( p,v\right) \)について、もとの支出最小化問題について考える代わりに、制約条件を置き換えた問題\begin{equation*}
\min_{x\in \mathbb{R}_{+}^{N}}p\cdot x\quad s.t.\quad x\in S\left( p,v\right)
\end{equation*}について考えても一般性は失われないことが保証されました。この問題の目的関数\(p\cdot x\)は連続関数であるため、制約対応\(S\)が非空値かつコンパクト値をとる連続対応であることを示すことができれば、ベルジュの最大値定理を利用できます。実際、制約対応\(S\)はそれらの性質を満たします。

命題(制約対応の性質)

消費集合\( \mathbb{R} _{+}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表す連続な効用関数\(u: \mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R}\)が与えられたとき、\begin{equation*}
U=\left\{ v\in u\left( \mathbb{R}_{+}^{N}\right) \ |\ v\geq u\left( 0\right) \right\}
\end{equation*}と定める。さらに、それぞれの\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R}_{++}^{N}\times U\)に対して、\begin{equation*}
S\left( p,v\right) =\left\{ x\in \mathbb{R}_{+}^{N}\ |\ u\left( x\right) \geq v,\ p\cdot x\leq p\cdot \overline{x}\right\}
\end{equation*}を像として定める対応\(S: \mathbb{R} _{++}^{N}\times U_{\varepsilon }\left( v_{0}\right) \twoheadrightarrow \mathbb{R}_{+}^{N}\)を定義する。ただし、上の\(\overline{x}\in \mathbb{R}_{+}^{N}\)は、入力した\(v\in U\)に対して、\begin{equation*}
u\left( \overline{x}\right) =v
\end{equation*}を満たす任意の消費ベクトルである。この\(S\)は非空値かつコンパクト値をとる連続対応である。

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次回から支出最小化問題の制約条件について議論を深めます。

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