支出最小化問題の解であるための必要条件(スレーター条件)
これまでは支出最小化問題に解が存在するための条件や、解が存在する場合に補償需要対応や補償需要関数が満たす性質について考察してきました。ここでは、支出最小化問題に解が存在することが保証される場合に、その解を具体的に求める方法を解説します。
消費者の選好が消費集合\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)として表現されているとともに、\(\succsim \)は合理性と連続性の仮定を満たすものとします。この場合、\(\succsim \)を表現する連続な効用関数\(u:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)が存在します。加えて、支出最小化を目指す消費者の意思決定がヒックスの補償需要対応\(H^{\ast }:\mathbb{R} _{++}^{N}\times U\rightarrow \mathbb{R} _{+}^{N}\)として表現されているものとします。ただし、\(U\)は目標効用が取り得る値からなる集合であり、\begin{equation*}U=\left\{ v\in u\left( \mathbb{R} _{+}^{N}\right) \ |\ v\geq u\left( 0\right) \right\}
\end{equation*}です。補償需要対応の定義より、価格ベクトルと目標効用\(\left(p,v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times U\)のもとでの支出最小化問題の解からなる集合は、\begin{equation*}H^{\ast }\left( p,v\right) =\left\{ x\in X\ |\ u\left( x\right) \geq v\wedge
\forall y\in X:\left[ u\left( y\right) \geq v\Rightarrow p\cdot y\geq p\cdot
x\right] \right\}
\end{equation*}です。以上の条件のもとで補償需要対応\(H^{\ast }\)は非空値をとるため、\(\left( p,v\right) \)のもとでの支出最小化問題の解\(x^{\ast }\in H^{\ast }\left( p,v\right) \)をとることができます。支出最小化問題の定義より、これは以下のような不等式制約下での最適化問題
$$\begin{array}{cl}\min\limits_{x\in \mathbb{R} ^{N}} & p\cdot x \\
s.t. & u\left( x\right) \geq v \\
& x_{1}\geq 0 \\
& \vdots \\
& x_{N}\geq 0
\end{array}$$の解です。\(x^{\ast }\)が満たすべき条件をクーン・タッカーの定理より明らかにします。
クーン・タッカーの定理を利用する上で見通しを良くするために、それぞれの\(x\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)に対して、\begin{equation*}g_{0}\left( x\right) =v-u\left( x\right)
\end{equation*}を定める多変数関数\(g_{0}:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)と、それぞれの\(x\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)に対して、\begin{equation*}g_{i}\left( x\right) =-x_{i}
\end{equation*}を定める多変数関数\(g_{i}:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} \ \left( i=1,\cdots ,N\right) \)をそれぞれ定義します。以上の\(N+1\)個の多変数関数を利用すると、先の支出最小化問題を以下の制約付き最小化問題
$$\begin{array}{cl}\min\limits_{x\in \mathbb{R} ^{N}} & p\cdot x \\
s.t. & g_{0}\left( x\right) \leq 0 \\
& g_{1}\left( x\right) \leq 0 \\
& \vdots \\
& g_{N}\left( x\right) \leq 0
\end{array}$$として表現できます。目標効用が\(v\leq u\left( 0\right) \)を満たす場合の最適解は明らかに\(x^{\ast }=0\)であるため、以下では、\begin{equation*}v>u\left( 0\right)
\end{equation*}を満たす効用水準\(v\in u\left( \mathbb{R} _{+}^{N}\right) \)だけを目標効用として採用します。この問題に対してクーン・タッカーの定理を利用するためには、上の問題の解\(x^{\ast }\)が制約想定(constraint qualification)を満たすことを確認しておく必要があります。制約想定として様々なバリエーションがありますが、まずはスレーター条件(Slater’s condition)を採用します。これは、すべての関数\(g_{i}\ \left(i=0,1,\cdots ,N\right) \)が凸関数であるとともに、やはりすべての関数\(g_{i}\)に対して\(g_{i}\left( \overline{x}\right) <0\)を満たす消費ベクトル\(\overline{x}\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)が存在するという条件です。
仮に効用関数\(u\)が凹関数であるならば関数\(g_{0}\left( x\right) =v-u\left( x\right) \)は凸関数です。関数\(g_{i}\left( x\right) =-x_{i}\ \left( i=1,\cdots ,N\right) \)は線型であるため凸関数です。もう一方の条件に関しては、\(g_{0}\left( \overline{x}\right) <0\)は\(u\left( \overline{x}\right) >v\)を意味し、\(g_{i}\left( \overline{x}\right) <0\ \left( i=1,\cdots ,N\right) \)は\(\overline{x}_{i}>0\)を意味するため、結局、目標効用\(v\)よりも高い効用を実現するような消費ベクトル\(\overline{x}\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)の存在が要求されています。ただし、この消費ベクトル\(\overline{x}\)のすべての成分は正の実数(非負ではない)であることに注意してください。例えば、\(u\)が単調増加関数であれば\(v\)の水準に関係なく常にこの条件が成り立ちます。ちなみに、効用関数\(u\)が単調増加関数であることは、\(u\)によって表される選好関係\(\succsim \)が単調性を満たすことを意味します。
結論をまとめると、効用関数\(u\)が凹関数であるとともに、与えられた目標効用\(v\in u\left( \mathbb{R} _{+}^{N}\right) \)に対して\(u\left( \overline{x}\right) >v\)を満たす消費ベクトル\(\overline{x}\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)が存在する場合にはスレーター条件が満たされるということです。目的関数\(p\cdot x\)は明らかに\(C^{1}\)級であるため、このときクーン・タッカーの定理を利用できます。つまり、ラグランジュ乗数法を用いて最適解\(x^{\ast }\)が満たす条件を特定できるということです。すると以下の命題を得ます(演習問題)。
\end{equation*}である。さらに、\(u\)は\(C^{1}\)級の凹関数であるとともに、\(v\in U\)を任意に選んだとき、それに対して、\begin{equation*}\exists \overline{x}\in \mathbb{R} _{++}^{N}:u\left( \overline{x}\right) >v
\end{equation*}が成り立つものとする。このとき、任意の\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times U\)と任意の\(x^{\ast }\in H^{\ast}\left( p,v\right) ^{{}}\)に対して、\begin{eqnarray*}&&\left( A\right) \ p\geq \lambda ^{\ast }\nabla u\left( x^{\ast }\right) \\
&&\left( B\right) \ \lambda ^{\ast }\left[ u\left( x^{\ast }\right) -v\right] =0 \\
&&\left( C\right) \ \left[ p-\lambda ^{\ast }\nabla u\left( x^{\ast }\right) \right] \cdot x^{\ast }=0 \\
&&\left( D\right) \ \lambda ^{\ast }\geq 0
\end{eqnarray*}を満たす\(\lambda ^{\ast }\in \mathbb{R} \)が存在する。
\end{equation*}です。さらに、\(u\)は\(C^{1}\)級の凹関数であるとともに、\(v\in U\)を任意に選んだとき、それに対して、\begin{equation*}\exists \left( \overline{x}_{1},\overline{x}_{2}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}:u\left( \overline{x}_{1},\overline{x}_{2}\right) >v
\end{equation*}が成り立つものとします。すると先の命題より、任意の\(\left(p_{1},p_{2},v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\times U\)と任意の\(\left( x_{1}^{\ast},x_{2}^{\ast }\right) \in H^{\ast }\left( p_{1},p_{2},v\right) ^{{}}\)に対して、\begin{eqnarray*}&&\left( A\right) \ \left( p_{1},p_{2}\right) \geq \lambda ^{\ast }\left(
\frac{\partial u\left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) }{\partial x_{1}},\frac{\partial u\left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) }{\partial x_{2}}\right) \\
&&\left( B\right) \ \lambda ^{\ast }\left[ u\left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast
}\right) -v\right] =0 \\
&&\left( C\right) \ \left[ \left( p_{1},p_{2}\right) -\lambda ^{\ast }\left(
\frac{\partial u\left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) }{\partial x_{1}},\frac{\partial u\left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) }{\partial x_{2}}\right) \right] \cdot \left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) =0 \\
&&\left( D\right) \ \lambda ^{\ast }\geq 0
\end{eqnarray*}を満たす\(\lambda ^{\ast }\in \mathbb{R} \)が存在します。
支出最小化問題の解であるための必要条件(正規条件)
スレーター条件は制約想定の中でも最も厳しい条件の1つであるため、スレーター条件を採用する場合、クーン・タッカーの定理を適用できる支出最小化問題の範囲は限定されます。例えば、そもそも効用関数\(u\)が凹関数ではない場合、スレーター条件は満たされません。そこで、制約想定の別のバリエーションである正規条件(regularity condition)について考察します。スレーター条件が成り立つ場合には正規条件もまた必ず成り立つ一方、その逆は成立するとは限りません。したがって、制約想定として正規条件を採用すれば、クーン・タッカーの定理を適用できる支出最大化問題の範囲が拡大します。正規条件とは、支出最小化問題に相当する以下の最小化問題
$$\begin{array}{cl}\min\limits_{x\in \mathbb{R} ^{N}} & p\cdot x \\
s.t. & g_{0}\left( x\right) \leq 0 \\
& g_{1}\left( x\right) \leq 0 \\
& \vdots \\
& g_{N}\left( x\right) \leq 0
\end{array}$$
においてバインドする関数\(g_{i}\)の点\(x^{\ast }\)における勾配ベクトルどうしが1次独立であること、すなわち、以下の集合\begin{equation*}B\left( x^{\ast }\right) =\left\{ \nabla g_{i}\left( x^{\ast }\right) \ |\
i\in \left\{ 0,1,\cdots ,N\right\} \ \text{s.t.}\ g_{i}\left( x^{\ast
}\right) =0\right\}
\end{equation*}の要素であるベクトルが1次独立であるという条件です。結論から言うと、効用関数\(u\)が\(C^{1}\)級であるとともに最適解\(x^{\ast }\)において任意の商品\(i\)について、\begin{equation*}\frac{\partial u\left( x^{\ast }\right) }{\partial x_{i}}\not=0
\end{equation*}が成り立つのであれば正規条件が満たされます(演習問題)。目的関数\(p\cdot x\)は明らかに\(C^{1}\)級であるため、このときクーン・タッカーの定理を利用できます。つまり、ラグランジュ乗数法を用いて最適解\(x^{\ast }\)が満たす条件を特定できるということです。すると以下の命題を得ます(演習問題)。
\end{equation*}である。さらに、\(u\)は\(C^{1}\)級であるものとする。加えて、\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times U\)を任意に選んだときに、\(x^{\ast }\in H^{\ast }\left( p,v\right)^{{}}\)に対して、\begin{equation*}\forall i\in \left\{ 1,\cdots ,N\right\} :\frac{\partial u\left( x^{\ast
}\right) }{\partial x_{i}}\not=0
\end{equation*}が成り立つのであれば、それに対して、\begin{eqnarray*}
&&\left( A\right) \ p\geq \lambda ^{\ast }\nabla u\left( x^{\ast }\right) \\
&&\left( B\right) \ \lambda ^{\ast }\left[ u\left( x^{\ast }\right) -v\right] =0 \\
&&\left( C\right) \ \left[ p-\lambda ^{\ast }\nabla u\left( x^{\ast }\right) \right] \cdot x^{\ast }=0 \\
&&\left( D\right) \ \lambda ^{\ast }\geq 0
\end{eqnarray*}を満たす\(\lambda ^{\ast }\in \mathbb{R} \)が存在する。
\end{equation*}です。さらに、\(u\)は\(C^{1}\)級の関数であるとともに、\(\left( p_{1},p_{2},v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\times U\)を任意に選んだとき、\(\left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) \in H^{\ast }\left( p_{1},p_{2},v\right) \)に対して、\begin{equation*}\frac{\partial u\left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) }{\partial x_{1}}\not=0\wedge \frac{\partial u\left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) }{\partial x_{2}}\not=0
\end{equation*}がともに成り立つのであれば、先の命題より、\begin{eqnarray*}
&&\left( A\right) \ \left( p_{1},p_{2}\right) \geq \lambda ^{\ast }\left(
\frac{\partial u\left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) }{\partial x_{1}},\frac{\partial u\left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) }{\partial x_{2}}\right) \\
&&\left( B\right) \ \lambda ^{\ast }\left[ u\left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast
}\right) -v\right] =0 \\
&&\left( C\right) \ \left[ \left( p_{1},p_{2}\right) -\lambda ^{\ast }\left(
\frac{\partial u\left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) }{\partial x_{1}},\frac{\partial u\left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) }{\partial x_{2}}\right) \right] \cdot \left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) =0 \\
&&\left( D\right) \ \lambda ^{\ast }\geq 0
\end{eqnarray*}を満たす\(\lambda ^{\ast }\in \mathbb{R} \)が存在します。
支出最小化問題の解き方
先の2つの命題は消費ベクトルが支出最小化問題の解であるための必要条件を与えており、十分条件ではありません。つまり、支出最小化問題の解は必ず先の条件を満たしますが、支出最小化問題の解ではないような消費ベクトルも先の条件を満たすことがあります。したがって、支出最小化問題の解を特定するためには、先の条件を満たす消費ベクトルをすべて特定した上で、その中で最小の支出をもたらすものを見つける必要があります。つまり、支出最小化問題の解を導出するためには以下の手順を踏むことになります。
- 与えられた支出最小化問題に解が存在することを確認する。消費集合が\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)である場合、価格ベクトルと目標効用\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times u\left( \mathbb{R} _{+}^{N}\right) \)に対して\(v\leq u\left( 0\right) \)である場合には消費ベクトル\(0\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)が支出最小化問題の解になる。一方、\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times U\)を満たす価格ベクトルと目標効用が問題になっている場合には、選好関係\(\succsim \)が合理性と連続性を満たすことを示す。\(\succsim \)を表す効用関数\(u\)が与えられている場合には\(u\)が連続関数であることを示してもよい。ただし、\begin{equation*}U=\left\{ v\in u\left( \mathbb{R} _{+}^{N}\right) \ |\ v>u\left( 0\right) \right\}\end{equation*}である。
- スレーター条件を確認する。具体的には、効用関数\(u\)が\(C^{1}\)級の凹関数であること、さらに、\(u\left( \overline{x}\right) >v\)を満たす\(\overline{x}\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)が存在することを確認する。もしくは\(u\)が単調増加であることを示してもよい。このとき、クーンタッカー条件を満たす消費ベクトルが支出最小化問題の候補となる。
- スレーター条件が成り立たない場合には正規条件を確認する。具体的には、効用関数\(u\)が\(C^{1}\)級であるとともに、任意の商品\(i\)について\(\frac{\partial u\left( x\right) }{\partial x_{i}}\not=0\)が成り立つことを確認する。このとき、クーンタッカー条件を満たす消費ベクトルが支出最小化問題の候補となる。
- 以上から明らかになった支出最小化問題の候補となる消費ベクトルの中から、支出を最小化する消費ベクトルを特定する。
\end{equation*}を定めるものとします。このとき、\(\left(p_{1},p_{2},v\right) =\left( 1,1,25\right) \)のもとでの支出最小化問題
$$\begin{array}{cl}\min\limits_{\left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}} & x_{1}+x_{2} \\
s.t. & \left( x_{1}x_{2}\right) ^{\frac{1}{2}}\geq 25 \\
& x_{1}\geq 0 \\
& x_{2}\geq 0
\end{array}$$
について考えます。\(u\)は連続関数であるため、この問題には解が存在します。加えて、\(u\)は\(C^{1}\)級かつ凹関数かつ単調増加でもあるためスレーター条件が満たされます。したがって、クーン・タッカー条件を満たす消費ベクトルが上の支出最小化問題の解の候補となります。具体的には、ラグランジュ関数を、\begin{equation*}L\left( x_{1},x_{2},\lambda _{0},\lambda _{1},\lambda _{2}\right)
=x_{1}+x_{2}+\lambda _{0}\left[ 25-\left( x_{1}x_{2}\right) ^{\frac{1}{2}}\right] +\lambda _{1}\left( -x_{1}\right) +\lambda _{2}\left( -x_{2}\right)
\end{equation*}と定義すると、クーン・タッカー条件は、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \frac{\partial L}{\partial x_{1}}=1-\lambda _{0}\frac{1}{2}\left( x_{1}x_{2}\right) ^{-\frac{1}{2}}x_{2}-\lambda _{1}=0 \\
&&\left( b\right) \ \frac{\partial L}{\partial x_{2}}=1-\lambda _{0}\frac{1}{2}\left( x_{1}x_{2}\right) ^{-\frac{1}{2}}x_{1}-\lambda _{2}=0 \\
&&\left( c\right) \ \lambda _{0}\frac{\partial L}{\partial \lambda _{0}}=\lambda _{0}\left[ 25-\left( x_{1}x_{2}\right) ^{\frac{1}{2}}\right] =0 \\
&&\left( d\right) \ \lambda _{1}\frac{\partial L}{\partial \lambda _{1}}=\lambda _{1}\left( -x_{1}\right) =0 \\
&&\left( e\right) \ \lambda _{2}\frac{\partial L}{\partial \lambda _{2}}=\lambda _{2}\left( -x_{2}\right) =0 \\
&&\left( f\right) \ \frac{\partial L}{\partial \lambda _{0}}=25-\left(
x_{1}x_{2}\right) ^{\frac{1}{2}}\leq 0 \\
&&\left( g\right) \ \frac{\partial L}{\partial \lambda _{1}}=-x_{1}\leq 0 \\
&&\left( h\right) \ \frac{\partial L}{\partial \lambda _{2}}=-x_{2}\leq 0 \\
&&\left( i\right) \ \lambda _{i}\geq 0\quad \left( i=0,1,2\right)
\end{eqnarray*}となるため、これらを満たす\(\left( x_{1},x_{2}\right) \)を特定します。\(x_{1}\)と\(x_{2}\)の符号で場合を分けて考えます。\(x_{1}>0\)かつ\(x_{2}>0\)の場合には\(\left( d\right) ,\left( e\right) \)より\(\lambda _{1}=\lambda _{2}=0\)を得ます。これと\(\left( a\right) ,\left( b\right) \)より\begin{equation*}\lambda _{0}=\frac{2}{x_{2}}\left( x_{1}x_{2}\right) ^{\frac{1}{2}}=\frac{2}{x_{1}}\left( x_{1}x_{2}\right) ^{\frac{1}{2}}>0
\end{equation*}を得ます。これと\(\left(c\right) \)より\(x_{1}=x_{2}=25\)かつ\(\lambda _{0}=2\)を得ます。したがって、\begin{equation}\left( x_{1},x_{2},\lambda _{0},\lambda _{1},\lambda _{2}\right) =\left(
25,25,2,0,0\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}は条件を満たし、そこでの支出は\(1\cdot 25+1\cdot 25=50\)となります。続いて\(x_{1}\)と\(x_{2}\)の少なくとも一方が\(0\)の場合ですが、このような場合には\(u\left( x_{1},x_{2}\right) =0\)となるため制約条件を満たしません。したがって\(\left(1\right) \)が\(\left( p_{1},p_{2},v\right) =\left( 1,1,25\right) \)のもとでの支出最小化問題の解です。
\end{equation*}を定めるものとします。このとき、\(\left(p_{1},p_{2},v\right) =\left( 1,1,25\right) \)のもとでの支出最小化問題
$$\begin{array}{cl}\min\limits_{\left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}} & x_{1}+x_{2} \\
s.t. & x_{1}x_{2}\geq 25 \\
& x_{1}\geq 0 \\
& x_{2}\geq 0
\end{array}$$
について考えます。効用関数\(u\)は連続であるため上の問題には解が存在することが保証されます。また、\(u\)は\(C^{1}\)級ですが凹関数ではないため正規条件を利用します。具体的には、\begin{eqnarray*}\nabla u\left( x_{1},x_{2}\right) &=&\left( \frac{\partial }{\partial x_{1}}x_{1}x_{2},\frac{\partial }{\partial x_{2}}x_{1}x_{2}\right) \\
&=&\left( x_{2},x_{1}\right)
\end{eqnarray*}であるため、\(x_{1}\)と\(x_{2}\)の少なくとも一方が\(0\)であるような消費ベクトル\(\left( x_{1},x_{2}\right) \)は最適解の候補にはなりません。つまり、\(x_{1}>0\)かつ\(x_{2}>0\)であるとともに、クーン・タッカー条件を満たす消費ベクトル\(\left( x_{1},x_{2}\right) \)が上の支出最小化問題の解の候補となります。ラグランジュ関数を、\begin{equation*}L\left( x_{1},x_{2},\lambda _{0},\lambda _{1},\lambda _{2}\right)
=x_{1}+x_{2}+\lambda _{0}\left( 25-x_{1}x_{2}\right) +\lambda _{1}\left(
-x_{1}\right) +\lambda _{2}\left( -x_{2}\right)
\end{equation*}と定義すると、クーン・タッカー条件は、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \frac{\partial L}{\partial x_{1}}=1-\lambda
_{0}x_{2}-\lambda _{1}=0 \\
&&\left( b\right) \ \frac{\partial L}{\partial x_{2}}=1-\lambda
_{0}x_{1}-\lambda _{2}=0 \\
&&\left( c\right) \ \lambda _{0}\frac{\partial L}{\partial \lambda _{0}}=\lambda _{0}\left( 25-x_{1}x_{2}\right) =0 \\
&&\left( d\right) \ \lambda _{1}\frac{\partial L}{\partial \lambda _{1}}=\lambda _{1}\left( -x_{1}\right) =0 \\
&&\left( e\right) \ \lambda _{2}\frac{\partial L}{\partial \lambda _{2}}=\lambda _{2}\left( -x_{2}\right) =0 \\
&&\left( f\right) \ \frac{\partial L}{\partial \lambda _{0}}=25-x_{1}x_{2}\leq 0 \\
&&\left( g\right) \ \frac{\partial L}{\partial \lambda _{1}}=-x_{1}\leq 0 \\
&&\left( h\right) \ \frac{\partial L}{\partial \lambda _{2}}=-x_{2}\leq 0 \\
&&\left( i\right) \ \lambda _{i}\geq 0\quad \left( i=0,1,2\right)
\end{eqnarray*}となるため、これらを満たす\(\left( x_{1},x_{2}\right) \)を特定します。ただし、先の考察より\(x_{1}>0\)かつ\(x_{2}>0\)です。このとき\(\left(d\right) ,\left( e\right) \)より\(\lambda _{1}=\lambda _{2}=0\)であるとともに、\(\left(a\right) ,\left( b\right) \)より\(\lambda _{0}=\frac{1}{x_{2}}=\frac{1}{x_{1}}>0\)を得ます。これと\(\left( c\right) \)より\(\lambda _{0}=\frac{1}{5}\)を得るため\(x_{1}=x_{2}=5\)であることが示されました。したがって、\begin{equation*}\left( x_{1},x_{2},\lambda _{0},\lambda _{1},\lambda _{2}\right) =\left(
5,5,5,0,0\right)
\end{equation*}が\(\left( p_{1},p_{2},v\right) =\left( 1,1,25\right) \)のもとでの支出最小化問題の唯一の候補であるため、これが解になります。ちなみに、解において支出\(1\cdot5+1\cdot 5=10\)で効用\(5\cdot 5=25\)を得ます。
支出最小化問題であるための十分条件
支出最小化問題に解が存在する場合、その解が満たす条件をクーン・タッカー条件として表現しました。ただ、この条件は消費ベクトルが支出最小化問題の解であるための必要条件であり、十分条件ではありません。つまり、クーン・タッカー条件を満たす消費ベクトルの中には支出最小化問題の解でないものが含まれる可能性があるため、支出最小化問題の解を特定するためには、クーン・タッカー条件を満たす消費ベクトルどうしを比較し、その中から支出を最小化するものを特定する必要があります。
ただ、一定の条件のもとでは、クーン・タッカー条件は消費ベクトルが支出最小化問題の解であるための十分条件になります。具体的には、支出最小化問題に相当する先の制約付き最大化問題
$$\begin{array}{cl}\min\limits_{x\in \mathbb{R} ^{N}} & p\cdot x \\
s.t. & g_{0}\left( x\right) \leq 0 \\
& g_{1}\left( x\right) \leq 0 \\
& \vdots \\
& g_{N}\left( x\right) \leq 0
\end{array}$$
において、目的関数\(p\cdot x\)と制約条件を表す関数\(g_{i}\) \(\left( i=0,1,\cdots ,N\right) \)がいずれも準凸関数である場合には、クーン・タッカー条件を満たす消費ベクトルはいずれも上の問題の解になることが保証されます。ただ、目的関数\(p\cdot x\)と関数\(g_{i}\left(x\right) =-x_{i}\ \left( i=1,\cdots ,N\right) \)はいずれも線型であることから準凸関数であることが保証されるため、結局、必要なことは関数\(g_{0}\left( x\right) =v-u\left( x\right) \)が準凸関数であること、すなわち効用関数\(u\left( x\right) \)が準凹関数であるという条件だけです。ただし、スレーター条件は効用関数が凹関数であることを要求しており、さらに凹関数は準凹関数であることを踏まえると、スレーター条件を用いた効用関数の解であるための必要条件は、同時に十分条件でもあるということになります。したがって以下の命題を得ます。
\end{equation*}である。さらに、\(u\)は\(C^{1}\)級の凹関数であるものとする。加えて、\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times U\)を任意に選んだとき、それに対して、\begin{equation*}\exists \overline{x}\in \mathbb{R} _{++}^{N}:u\left( \overline{x}\right) >v
\end{equation*}が成り立つものとする。このとき、任意の\(x^{\ast }\in H^{\ast }\left( p,v\right) ^{{}}\)に対して、\begin{eqnarray*}&&\left( A\right) \ p\geq \lambda ^{\ast }\nabla u\left( x^{\ast }\right) \\
&&\left( B\right) \ \lambda _{0}^{\ast }\left[ u\left( x^{\ast }\right) -v\right] =0 \\
&&\left( C\right) \ \left[ p-\lambda ^{\ast }\nabla u\left( x^{\ast }\right) \right] \cdot x^{\ast }=0 \\
&&\left( D\right) \ \lambda ^{\ast }\geq 0
\end{eqnarray*}を満たす\(\lambda ^{\ast }\in \mathbb{R} \)が存在することは、\(x^{\ast }\)が\(\left( p,v\right) \)のもとでの支出最小化問題の解であること、すなわち\(x^{\ast }\in H^{\ast }\left( p,v\right) \)が成り立つための必要十分条件である。
一方、正規条件は効用関数が凹関数であることまで要求していないため、正規条件を前提としたとき、クーン・タッカー条件が支出最小化問題の解であるための十分条件であるためには効用関数が準凹関数であることを条件として加える必要があります。
\end{equation*}である。さらに、\(u\)は\(C^{1}\)級の準凹関数であるものとする。加えて、\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times U\)を任意に選んだときに、\(x^{\ast }\in H^{\ast }\left( p,v\right)^{{}}\)に対して、\begin{equation*}\forall i\in \left\{ 1,\cdots ,N\right\} :\frac{\partial u\left( x^{\ast
}\right) }{\partial x_{i}}\not=0
\end{equation*}が成り立つのであれば、それに対して、\begin{eqnarray*}
&&\left( A\right) \ p\geq \lambda ^{\ast }\nabla u\left( x^{\ast }\right) \\
&&\left( B\right) \ \lambda _{0}^{\ast }\left[ u\left( x^{\ast }\right) -v\right] =0 \\
&&\left( C\right) \ \left[ p-\lambda ^{\ast }\nabla u\left( x^{\ast }\right) \right] \cdot x^{\ast }=0 \\
&&\left( D\right) \ \lambda ^{\ast }\geq 0
\end{eqnarray*}を満たす\(\lambda ^{\ast }\in \mathbb{R} \)が存在することは、\(x^{\ast }\)が\(\left( p,v\right) \)のもとでの支出最小化問題の解であること、すなわち\(x^{\ast }\in H^{\ast }\left( p,v\right) \)が成り立つための必要十分条件である。
演習問題
\end{equation*}を定めるものとします。補償需要関数\(h^{\ast }:\mathbb{R} _{++}^{2}\times U\rightarrow \mathbb{R} _{+}^{2}\)は存在するでしょうか。議論してください。また、補償需要関数\(h^{\ast }\)が存在する場合、それを具体的に求めてください。ただし、\begin{equation*}U=\left\{ v\in u\left( \mathbb{R} _{++}^{2}\right) \ |\ v>u\left( 0,0\right) \right\}
\end{equation*}です。
\end{equation*}を定めるものとします。補償需要関数\(h^{\ast }:\mathbb{R} _{++}^{2}\times U\rightarrow \mathbb{R} _{+}^{2}\)は存在するでしょうか。議論してください。また、補償需要関数\(h^{\ast }\)が存在する場合、それを具体的に求めてください。ただし、\begin{equation*}U=\left\{ v\in u\left( \mathbb{R} _{++}^{2}\right) \ |\ v>u\left( 0,0\right) \right\}
\end{equation*}です。
\end{equation*}を定めるものとします。補償需要関数\(h^{\ast }:\mathbb{R} _{++}^{2}\times U\rightarrow \mathbb{R} _{+}^{2}\)は存在するでしょうか。議論してください。また、補償需要関数\(h^{\ast }\)が存在する場合、それを具体的に求めてください。ただし、\begin{equation*}U=\left\{ v\in u\left( \mathbb{R} _{++}^{2}\right) \ |\ v>u\left( 0,0\right) \right\}
\end{equation*}です。
\end{equation*}を定めるものとします。補償需要関数\(h^{\ast }:\mathbb{R} _{++}^{2}\times U\rightarrow \mathbb{R} _{+}^{2}\)は存在するでしょうか。議論してください。また、補償需要関数\(h^{\ast }\)が存在する場合、それを具体的に求めてください。ただし、\begin{equation*}U=\left\{ v\in u\left( \mathbb{R} _{++}^{2}\right) \ |\ v>u\left( 0,0\right) \right\}
\end{equation*}です。
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