連続性を満たす選好関係
消費集合\(X\subset \mathbb{R}^{N}\)はユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{N}\)の部分集合であるため、そこには位相が設定されています。そこで、\(X\)上の選好関係\(\succsim \)が与えられたとき、任意の消費ベクトル\(x\in X\)の狭義上方位集合と狭義下方位集合\begin{eqnarray*}
U_{s}\left( x\right) &=&\{y\in X\ |\ y\succ x\} \\
L_{s}\left( x\right) &=&\{y\in X\ |\ x\succ y\}
\end{eqnarray*}がともに\(X\)上の開集合であるならば、\(\succsim \)は連続性(continuity)を満たすと言います。
開集合について復習しながら\(\succsim \)の連続性の意味を確認しましょう。まず、消費ベクトル\(a\in X\)を任意に選んだとき、点\(a\)を中心とする近傍\(N_{\varepsilon }\left( a\right) \)とは\(a\)との距離が\(\varepsilon \)よりも近い場所にある\(X\)の点からなる集合であり、具体的には、\begin{equation*}
N_{\varepsilon }\left( a\right) =\left\{ x\in X\ |\ d\left( x,a\right)
<\varepsilon \right\}
\end{equation*}と定義されます。ただし、\(d:X\times X\rightarrow \mathbb{R}\)はユークリッド距離関数であり、点\(x,a\in X\)に対して、\begin{equation*}
d\left( x,a\right) =\sqrt{\sum_{i=1}^{N}\left( x_{i}-a_{i}\right) ^{2}}
\end{equation*}と定義されます。ただし、\(x=\left( x_{1},\cdots ,x_{N}\right) \)かつ\(a=\left( a_{1},\cdots ,a_{N}\right) \)です。消費ベクトル\(x\in X\)を任意に選び、その狭義上方位集合\(U_{s}\left( x\right) \)をとります。\(U_{s}\left( x\right) \)が\(X\)上の開集合であることとは、その点\(a\in U_{s}\left( x\right) \)を任意に選んだときに、点\(a\)を中心とする近傍\(N_{\varepsilon }\left( a\right) \)の中に\(U_{s}\left( x\right) \)の部分集合であるようなものが存在すること、すなわち、\begin{equation*}
\forall a\in U_{s}\left( x\right) ,\ \exists \varepsilon >0:N_{\varepsilon
}\left( a\right) \subset U_{s}\left( x\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。
連続性の意味を深く理解するために、合理性を満たすが連続性を満たさない選好に関してどのようなことが起こり得るかを考えます。この場合、上の命題の否定に相当する、\begin{equation*}
\exists a\in U_{s}\left( x\right) ,\ \forall \varepsilon >0:N_{\varepsilon
}\left( a\right) \cap X\backslash U_{s}\left( x\right) \not=\phi
\end{equation*}が成り立ちます。ただし、\(\succsim \)が完備性を満たす場合には排除性が成り立つため、任意の消費ベクトル\(y\in X\)に対して、\begin{eqnarray*}
y\in X\backslash U_{s}\left( x\right) &\Leftrightarrow &\lnot \left( y\succ
x\right) \quad \because U_{s}\text{の定義} \\
&\Leftrightarrow &x\succsim y\quad \because \succsim \text{の排除性} \\
&\Leftrightarrow &y\in L\left( x\right) \quad \because L_{s}\text{の定義}
\end{eqnarray*}という関係が成り立つため、上の論理式を、\begin{equation*}
\exists a\in U_{s}\left( x\right) ,\ \forall \varepsilon >0:N_{\varepsilon
}\left( a\right) \cap L\left( x\right) \not=\phi
\end{equation*}と言い換えることができます。これは何を意味するでしょうか。まず、\(a\in U_{s}\left( x\right) \)が成り立つことは\(a\succ x\)が成り立つこと、すなわち\(a\)が\(x\)よりも望ましい消費ベクトルであることを意味します。上の命題において\(\varepsilon >0\)は任意であるため、限りなく小さい\(\varepsilon \)についても\(N_{\varepsilon }\left( a\right) \)と\(L\left( x\right) \)は交わります。つまり、\(a\)と限りなく近い点(\(N_{\varepsilon }\left( a\right) \)の要素)の中に\(x\)と同等もしくはそれよりも望ましくない点(\(L\left( x\right) \)の要素)が存在するということです。結論をまとめると、\(\succsim \)が連続性を満たさない場合には、何らかの消費ベクトル\(x\)に関して、\(x\)よりも望ましい消費ベクトルのいくらでも近いところに\(x\)と同等もしくはそれより望ましくない消費ベクトルが存在するという事態が起こり得ます。消費者の嗜好が連続的に変化せず、消費ベクトルがわずかに変化しただけでも消費ベクトルに対する好みが大きく変化してしまうということです。逆に言えば、連続性の仮定は消費者の嗜好が連続的に変化することを保証します。狭義下方位集合\(L_{s}\left( x\right) \)についても同様の議論が成立します。
\left( x_{1},x_{2}\right) \succ \left( y_{1},y_{2}\right) \Leftrightarrow
x_{1}>y_{1}\vee \left( x_{1}=y_{1}\wedge x_{2}>y_{2}\right)
\end{equation*}を満たすものとして定義されているものとします。この場合、下図の消費ベクトル\(x\in X\)を選んだとき、狭義の上方位集合\(U_{s}\left( x\right) \)はグレーの領域として描かれます。ただし、実線部分は\(U_{s}\left( x\right) \)に含まれる一方で点線部分は\(U_{s}\left( x\right) \)に含まれません。下図のような点\(a\in U_{s}\left( x\right) \)を選べば、その任意の近傍\(N_{\varepsilon }\left( a\right) \)は下方位集合\(L\left( x\right) \)と交わります。つまり、点\(a\)は\(U_{s}\left( x\right) \)の要素であるため\(x\)より望ましい消費ベクトルである一方で、そのいくらでも近い場所に\(L\left( x\right) \)の要素である消費ベクトル、すなわち\(x\)と同等もしくはそれより望ましくない消費ベクトルが存在します。したがって、この選好関係\(\succsim \)は連続性を満たしません。
閉集合を用いた連続選好の定義
閉集合の定義を踏まえると、選好関係\(\succsim \)が連続性を満たすことを以下のように表現することもできます。
U\left( x\right) &=&\{y\in X\ |\ y\succsim x\} \\
L\left( x\right) &=&\{y\in X\ |\ x\succsim y\}
\end{eqnarray*}がともに\(X\)上の閉集合であることは、\(\succsim \)が連続性を満たすための必要十分条件である。
閉集合は点列を用いて定義することもできるため、上の命題の意味を点列を用いて再確認しましょう。消費ベクトル\(x\in X\)を任意に選び、その上方位集合\(U\left( x\right) \)をとります。その上で、\(U\left( x\right) \)の点を項とする収束点列\(\{x_{v}\}\)を任意に選びます。つまり、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall v\in \mathbb{N}:x_{v}\in U\left( x\right) \\
&&\left( b\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}\in X
\end{eqnarray*}をともに満たす点列\(\{x_{v}\}\)を任意に選ぶということです。一般にこのような収束点列の極限は\(U\left( x\right) \)の点であるとは限りませんが、仮にこのような収束点列の極限が\(U\left( x\right) \)の点であることが保証されるならば、すなわち、\begin{equation*}
\left( c\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}\in U\left( x\right)
\end{equation*}が成り立つならば、\(U\left( x\right) \)は\(X\)上の閉集合であると言います。下方位集合\(L\left( x\right) \)が\(X\)上の閉集合であることの定義も同様です。連続性の意味を深く理解するために、合理性を満たすが連続性を満たさない選好に関してどのようなことが起こり得るかを考えます。このとき、\(\left( a\right) ,\left( b\right) \)を満たすが\(\left( c\right) \)を満たさない点列\(\{x_{v}\}\)が存在するはずです。上方位集合\(U\left( x\right) \)の定義より、点列\(\{x_{v}\}\)が\(\left( a\right) \)を満たすということは、\(\{x_{v}\}\)のすべての要素は\(x\)以上に望ましい消費ベクトルであることを意味します。\(\left( b\right) \)より\(\{x_{v}\}\)は収束するため、その極限\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)に相当する消費ベクトルのいくらでも近いところに\(\{x_{v}\}\)の点が無数に存在します。言い換えると、消費ベクトル\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)のいくらでも近い所に\(x\)以上に望ましい消費ベクトルが無数に存在するということです。一方、\(\left( c\right) \)が成り立たないことは、消費ベクトル\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)が\(x\)以上に望ましい消費ベクトルではないこと、すなわち\(\lnot \left( \lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\succsim x\right) \)が成り立つことを意味しますが、\(\succsim \)が合理性を満たす場合には排除性が成り立つため、これは\(x\succ \lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)が成り立つことと必要十分です。つまり\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)は\(x\)よりも望ましくない消費ベクトルです。結論をまとめると、選好が連続性を満たさない場合には、消費ベクトル\(x\)を選んだとき、\(x\)よりも望ましくない消費ベクトル\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)のいくらでも近い所に\(x\)以上に望ましい消費ベクトルが無数に存在するという事態が起こり得ます。消費者の嗜好が連続的に変化せず、消費ベクトルがわずかに変化しただけでも消費ベクトルに対する好みが大きく変化してしまうということです。逆に言えば、連続性の仮定は消費者の嗜好が連続的に変化することを保証します。下方位集合\(L\left( x\right) \)についても同様の議論が成立します。
点列を用いた連続選好の定義
選好関係の連続性は点列を使って以下のように表現することもできます。
\forall v\in \mathbb{N}:x_{v}\succsim y_{v}
\end{equation*}を満たすものを任意に選ぶ。このとき、これらの点列の極限の間に、\begin{equation*}
\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\succsim \lim\limits_{v\rightarrow
\infty }y_{v}
\end{equation*}が成り立つことは、\(\succsim \)が連続性を満たすための必要十分条件である。
選好関係\(\succsim \)が連続性を満たさない場合、すなわち、上の命題が成り立たない場合には、\begin{equation}
\forall v\in \mathbb{N}:x_{v}\succsim y_{v} \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たす\(X\)上の収束点列\(\{x_{v}\},\{y_{v}\}\)の中に、\begin{equation}
\lim\limits_{v\rightarrow \infty }y_{v}\succ \lim\limits_{v\rightarrow
\infty }x_{v} \quad \cdots (2)
\end{equation}を満たすものが存在するはずです。消費ベクトル\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\in X \)は点列\(\{x_{v}\}\)の極限であり、消費ベクトル\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }y_{v}\in X\)は点列\(\{y_{v}\}\)の極限であるため、十分大きい\(v\)について、\(x_{v}\)は\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)に限りなく近く、\(y_{v}\)は\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)は限りなく近くなります。つまり、十分大きい\(v\)について、\(\left( 1\right) \)より、\(x_{v}\)は\(y_{v}\)以上であるにも関わらず、\(\left( 2\right) \)より、それらに限りなく近い\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)と\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)について選好が逆転し、\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }y_{v}\)が\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)よりも望ましいということになってしまいます。つまり、消費ベクトルがわずかに変化しただけでも消費ベクトルに対する好みが大きく変化してしまうということです。逆に言えば、連続性の仮定は消費者の嗜好が連続的に変化することを保証します。
x\succsim y\Leftrightarrow x\geq y
\end{equation*}を満たすものとして定義されているものとします。この選好関係\(\succsim \)は明らかに合理性を満たします。そこで、上の命題を用いて、\(\succsim \)が連続性を満たすことを確認します。具体的には、\(\mathbb{R}_{+}\)の点に収束する\(\mathbb{R}_{+}\)上の点列\(\left\{ x_{v}\right\} ,\left\{ y_{v}\right\} \)の中でも、\begin{equation*}
\forall v\in \mathbb{N}:x_{v}\succsim y_{v}
\end{equation*}を満たすものを任意に選びます。\(u\)の定義より、このとき、\begin{equation*}
\forall v\in \mathbb{N}:x_{v}\geq y_{v}
\end{equation*}が成り立つため、収束する点列の性質を踏まえると、これらの点列の極限の間にも、\begin{equation*}
\lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}\geq \lim_{v\rightarrow \infty }y_{v}
\end{equation*}が成り立ちます。これらの極限はともに消費集合\(\mathbb{R}_{+}\)の点であるため、\(\succsim \)の定義より、このとき、\begin{equation*}
\lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}\succsim \lim_{v\rightarrow \infty }y_{v}
\end{equation*}が成り立つため、先の命題より\(\succsim \)が連続性を満たすことが明らかになりました。
連続な効用関数
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上に定義された効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)は多変数関数であるため、その連続性を議論することができます。具体的には、効用関数\(u\)が定義上の点\(a\in X\)において連続であることとは、\(x\rightarrow a\)のときに\(u\left( x\right) \)が有限な実数へ収束するとともに、そこでの極限が\(f\left( a\right) \)と一致すること、すなわち、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \lim_{x\rightarrow a}u\left( x\right) \in \mathbb{R} \\
&&\left( b\right) \ \lim_{x\rightarrow a}u\left( x\right) =u\left( a\right)
\end{eqnarray*}がともに成り立つことを意味します。イプシロン・デルタ論法を用いてこれを表現すると、\begin{equation*}
\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall x\in X:\left[ d\left(
x,a\right) <\delta \Rightarrow \left\vert u\left( x\right) -u\left( a\right)
\right\vert <\varepsilon \right]
\end{equation*}となります。ただし、\(d\left( x,a\right) \)は2つの点\(x,a\)の間のユークリッド距離であり、\begin{equation*}d\left( x,a\right) =\sqrt{\sum_{i=1}^{n}\left( x_{i}-a_{i}\right) ^{2}}
\end{equation*}です。点列を用いて同じことを表現することもできます。つまり、点\(a\in X\)に収束する\(X\)上の点列\(\left\{ x_{v}\right\} \)を任意に選んだときに、その点列と効用関数\(u\)を用いて定義される数列\(\left\{ u\left( x_{v}\right) \right\} \)が点\(u\left( a\right) \in \mathbb{R} \)に収束することは、\(u\)が点\(a\)において連続であるための必要十分条件です。
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上に定義された効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が定義域\(X\)上の任意の点において連続であるとき、\(u\)は連続(continuous)であるといいます。
u\left( x_{1},x_{2}\right) =x_{1}+x_{2}
\end{equation*}を定めるものとします。この効用関数\(u\)は連続です。実際、消費ベクトル\(\left( a,b\right) \in \mathbb{R}_{+}^{2}\)を任意に選んだ上で、\(\left( a,b\right) \)に収束する\(\mathbb{R}_{+}^{2}\)上の点列\(\left\{ \left( p_{n},q_{n}\right) \right\} \)を任意に選びます。つまり、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \lim_{n\rightarrow \infty }p_{n}=a \\
&&\left( b\right) \ \lim_{n\rightarrow \infty }q_{n}=b
\end{eqnarray*}をともに満たす\(\mathbb{R}_{+}^{2}\)上の点列\(\left\{ \left( p_{n},q_{n}\right) \right\} \)を任意に選ぶということです。そのような点列と効用関数\(u\)から新たな数列\(\left\{ u\left( p_{n},q_{n}\right) \right\} \)を構成したとき、その極限は、\begin{eqnarray*}
\lim_{n\rightarrow \infty }u\left( p_{n},q_{n}\right) &=&\lim_{n\rightarrow
\infty }\left( p_{n}+q_{n}\right) \quad \because u\text{の定義} \\
&=&\lim_{n\rightarrow \infty }p_{n}+\lim_{n\rightarrow \infty }p_{n}\quad
\because \left( a\right) ,\left( b\right) \text{および収束する数列の和の極限} \\
&=&a+b\quad \because \left( a\right) ,\left( b\right) \\
&=&u\left( a,b\right) \quad \because u\text{の定義}
\end{eqnarray*}を満たすため、\(u\)は点\(\left( a,b\right) \)において連続です。任意の点\(\left( a,b\right) \in \mathbb{R}_{+}^{2}\)において同様の議論が成立するため、\(u\)は連続関数であることが明らかになりました。
u\left( x_{1},x_{2}\right) =x_{1}x_{2}
\end{equation*}を定めるものとします。この効用関数\(u\)は連続です(演習問題にします)。
連続な選好と連続な効用関数の関係
選好の連続性と効用関数の連続性の間にはどのような関係が成立するのでしょうか。まず、選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u\)が存在するとともにそれが連続関数である場合、\(u\)によって表される\(\succsim \)が連続性を満たすことが保証されます。
u\left( x_{1},x_{2}\right) =x_{1}+x_{2}
\end{equation*}を定めるものとします。先に示したように\(u\)は連続関数であるため、上の命題より、\(u\)によって表される\(\succsim \)は連続性を満たします。
u\left( x_{1},x_{2}\right) =x_{1}x_{2}
\end{equation*}を定めるものとします。先に示したように\(u\)は連続関数であるため、上の命題より、\(u\)によって表される\(\succsim \)は連続性を満たします。
選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u\)が存在するとともにそれが連続関数である場合、\(\succsim \)は必ず連続性を満たすことが明らかになりました。言い換えると、連続性を満たさない選好関係が連続な効用関数によって表現されるような状況は起こり得ません。
その一方で、連続性を満たす選好関係を表現する効用関数は連続関数であるとは限りません。連続性を満たす選好関係が連続ではない効用関数によって表現されるという事態は起こり得ます。実際、連続性を満たす選好関係\(\succsim \)が連続な効用関数\(u\)によって表現されるとき、その効用関数を任意の形で正の単調変換を行って得られる関数もまた同じ選好\(\succsim \)を表す効用関数であるため、先の効用関数\(u\)から不連続な関数\(u^{\prime }\)を作り出すような正の単調変換を想定した場合にも、\(u^{\prime }\)は\(\succsim \)を表現する効用関数となります。
x\succsim y\Leftrightarrow x\geq y
\end{equation*}を満たすものとして定義されてるものとします。先に示したようにこの\(\succsim \)は連続性を満たします。また、それぞれの\(x\in \mathbb{R}_{+}\)に対して、\begin{equation*}
u\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{x}{2} & \left( if\ x<\frac{1}{2}\right) \\
\frac{x+1}{2} & \left( if\ x\geq \frac{1}{2}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定める関数\(u:\mathbb{R}_{+}\rightarrow \mathbb{R}\)は\(\succsim \)を表現する効用関数であるとともに、これは連続関数ではありません(演習問題にします)。
連続性を満たさない選好関係についてはどのようなことが言えるでしょうか。連続性を満たさない選好関係\(\succsim \)が何らかの効用関数\(u\)によって表現されることは起こり得ます。ただしその場合、その効用関数\(u\)は連続関数ではありません。なぜなら、連続な効用関数によって表現される選好関係は連続性を満たすこととなり、これは\(\succsim \)が連続ではないことと矛盾するからです。連続性を満たさない選好関係を表現する効用関数は連続関数ではありません。
\left( a\right) \ \forall x,y &\in &[0,\tfrac{1}{2}):\tfrac{1}{2}\succ x\sim
y \\
\left( b\right) \ \forall x,y &\in &(\tfrac{1}{2},1]:x\sim y\succ \tfrac{1}{2}
\end{eqnarray*}をともに満たすものとして定義されているものとします。これは連続性を満たしません(演習問題にします)。また、それぞれの\(x\in \mathbb{R}_{+}\)に対して、\begin{equation*}
u\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
0 & \left( if\ x<\frac{1}{2}\right) \\
\frac{1}{2} & \left( if\ x=\frac{1}{2}\right) \\
1 & \left( if\ x>\frac{1}{2}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定める関数\(u:\mathbb{R}_{+}\rightarrow \mathbb{R}\)は\(\succsim \)を表現する効用関数であるとともに、これは連続関数ではありません(演習問題にします)。
以上の議論は選好関係を表現する効用関数が存在することを前提とした上でのものですが、そもそも、選好関係の連続性から効用関数の存在について何らかのことを結論できるのでしょうか。選好関係が連続性を満たす場合、その選好関係を表現する効用関数は存在するのでしょうか。効用関数が存在するための条件については場を改めて詳しく解説します。
演習問題
&&\left( a\right) \ \forall x,y\in \left[ 0,1\right] \backslash \left\{
\frac{1}{2}\right\} :x\succsim y\Leftrightarrow x\geq y \\
&&\left( b\right) \ \forall x\in \left[ 0,1\right] \backslash \left\{ \frac{1}{2}\right\} :x\succ \frac{1}{2}
\end{eqnarray*}を満たすものとして定義されているものとします。この選好\(\succsim \)が連続性を満たさないことを証明してください。
\left( x_{1},x_{2}\right) \succsim \left( y_{1},y_{2}\right) \Leftrightarrow
\left[ x_{1}>y_{1}\vee \left( x_{1}=y_{1}\wedge x_{2}\geq y_{2}\right) \right] \end{equation*}を満たすものとして定義されているものとします。つまり、消費者が2つの消費ベクトル\(\left( x_{1},x_{2}\right) \)と\(\left( y_{1},y_{2}\right) \)を比較する際には、商品1の消費量がより多いということ最も重要な選択基準であり、商品1の消費量が同じ場合には商品2の消費量がより多いことが選択基準になるということです。つまり、以上の選好\(\succsim \)は、商品1を商品2とは比較できないほど重視する消費者の嗜好を描写しています。このような選好を辞書式選好(lexicographic preference)と呼びます。辞書式選好は連続性を満たすでしょうか。連続性を満たす場合にはそのことを証明し、満たさない場合には反例を挙げてください。
u\left( x_{1},x_{2}\right) =x_{1}x_{2}
\end{equation*}を定めるものとします。この効用関数\(u\)は連続であることを証明してください。
x\succsim y\Leftrightarrow x\geq y
\end{equation*}を満たすものとして定義されてるものとします。加えて、それぞれの\(x\in \mathbb{R}_{+}\)に対して、\begin{equation*}
u\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{x}{2} & \left( if\ x<\frac{1}{2}\right) \\
\frac{x+1}{2} & \left( if\ x\geq \frac{1}{2}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定める関数\(u:\mathbb{R}_{+}\rightarrow \mathbb{R}\)を考えます。このとき、\(\succsim \)は連続性を満たすこと、\(u\)は\(\succsim \)を表現する効用関数であること、さらに\(u\)は連続関数ではないことをそれぞれ証明してください。
\left( a\right) \ \forall x,y &\in &[0,\tfrac{1}{2}):\tfrac{1}{2}\succ x\sim
y \\
\left( b\right) \ \forall x,y &\in &(\tfrac{1}{2},1]:x\sim y\succ \tfrac{1}{2}
\end{eqnarray*}をともに満たすものとして定義されているものとします。加えて、それぞれの\(x\in \mathbb{R}_{+}\)に対して、\begin{equation*}
u\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
0 & \left( if\ x<\frac{1}{2}\right) \\
\frac{1}{2} & \left( if\ x=\frac{1}{2}\right) \\
1 & \left( if\ x>\frac{1}{2}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定める関数\(u:\mathbb{R}_{+}\rightarrow \mathbb{R}\)を考えます。このとき、\(\succsim \)は連続性を満たさないこと、\(u\)は\(\succsim \)を表現する効用関数であること、さらに\(u\)は連続関数ではないことをそれぞれ証明してください。
x_{N}^{\alpha _{N}}
\end{equation*}を定めるものとします。ただし、\(k>0\)かつ\(\alpha_{n}>0\ \left( n=1,\cdots ,N\right) \)です。このような\(u\)をコブ・ダグラス型効用関数と呼びます。消費者の選好がコブ・ダグラス型効用関数によって表される場合、選好関係は連続性を満たすでしょうか。議論してください。
_{N}x_{N}\right\}
\end{equation*}を定めるものとします。ただし、\(\alpha _{n}>0\ \left(n=1,\cdots ,N\right) \)です。このような\(u\)をレオンチェフ型効用関数と呼びます。消費者の選好がレオンチェフ型効用関数によって表される場合、選好関係は連続性を満たすでしょうか。議論してください。
\end{equation*}を定めるものとします。ただし、\(\alpha _{n}>0\ \left(n=1,\cdots ,N\right) \)です。このような\(u\)を線型効用関数と呼びます。消費者の選好が線型効用関数によって表される場合、選好関係は連続性を満たすでしょうか。議論してください。
\end{equation*}と表されるものとします。このような\(v\)を商品\(i\)に関する準線型効用関数と呼びます。\(v\)は\(\mathbb{R} _{+}^{N-1}\)上で連続であるものとします。消費者の選好が準線型効用関数によって表される場合、選好関係は連続性を満たすでしょうか。議論してください。
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