選好関係が連続性を満たす場合、消費者の選好は連続的に変化することが保証されます。連続な効用関数によって表現される選好関係は連続性を満たしますが、連続性を満たす選好関係を表現する効用関数は連続関数であるとは限りません。

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連続性を満たす選好関係

消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)はユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{N}\)の部分集合であるため、そこには位相が設定されています。そこで、\(X\)上の選好関係\(\succsim \)が与えられたとき、任意の消費ベクトル\(x\in X\)の優位集合と劣位集合\begin{eqnarray*}
U\left( x\right) &=&\{y\in X\ |\ y\succsim x\} \\
L\left( x\right) &=&\{y\in X\ |\ x\succsim y\}
\end{eqnarray*}がともに\(X\)の閉集合であるならば、\(\succsim \)は連続性(continuity)を満たすと言います。

優位集合・劣位集合について復習する

復習になりますが、それぞれの消費ベクトル\(x\in X\)に対して、その優位集合\(U\left( x\right) \subset X\)を像として定める対応\(U:X\twoheadrightarrow X\)を優位対応と呼びます。また、\(x\in X\)に対してその劣位集合\(L\left( x\right) \subset X\)を像として定める対応\(L:X\twoheadrightarrow X\)を優位対応と呼びます。選好\(\succsim \)が連続性を満たすことは、任意の\(x\in X\)に対する像\(U\left( x\right) ,L\left( x\right) \)が\(X\)上の閉集合であることとして定義されますが、これは、優位対応\(U\)と劣位対応\(L\)がともに閉値をとるということです。

閉集合の定義を復習しながら、\(\succsim \)の連続性の意味を確認しましょう。消費ベクトル\(x\in X\)を任意に選び、その優位集合\(U\left( x\right) \subset X\)をとります。その上で、\(U\left( x\right) \)の点を項とする収束列\(\{x_{v}\}\)を任意に選びます。つまり、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :x_{v}\in U\left( x\right) \\
&&\left( b\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}\in X\text{が存在する}
\end{eqnarray*}を満たす点列\(\{x_{v}\}\)を任意に選ぶということです。一般にこのような収束列の極限は\(U\left( x\right) \)の点であるとは限りませんが、仮に極限が常に\(U\left( x\right) \)の点であるならば、すなわち、\begin{equation*}
\left( c\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}\in U\left( x\right)
\end{equation*}が成り立つならば、\(U\left( x\right) \)は\(X\)上の閉集合であると言います。劣位集合\(L\left( x\right) \)が\(X\)の閉集合であることの定義も同様です。

連続性の意味を深く理解するために、合理性を満たすが連続性を満たさない選好に関してどのようなことが起こり得るかを考えます。このとき、\(\left( a\right) ,\left( b\right) \)を満たすが\(\left( c\right) \)を満たさない点列\(\{x_{v}\}\)が存在するはずです。優位集合\(U\left( x\right) \)の定義より、点列\(\{x_{v}\}\)が\(\left( a\right) \)を満たすということは、\(\{x_{v}\}\)のすべての要素は\(x\)以上に望ましい消費ベクトルであることを意味します。\(\left( b\right) \)より\(\{x_{v}\}\)は収束するため、その\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\in X\)に相当する消費ベクトルのいくらでも近いところに、\(\{x_{v}\}\)の点が無数に存在します。言い換えると、消費ベクトル\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)のいくらでも近い所に、\(x\)以上に望ましい消費ベクトルが無数に存在するということです。一方、\(\left( c\right) \)が成り立たないことは、消費ベクトル\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)は\(x\)以上に望ましい消費ベクトルではないこと、すなわち、\(\lnot \left( \lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\succsim x\right) \)が成り立つことを意味しますが、\(\succsim \)が合理性を満たす場合、これは\(x\succ \lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)と言い換え可能です。つまり、\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)は\(x\)よりも望ましくない消費ベクトルです。したがって、連続性を満たさない選好のもとでは、消費ベクトル\(x\)を選んだとき、\(x\)よりも望ましくない消費ベクトル\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)のいくらでも近い所に、\(x\)以上に望ましい消費ベクトルが無数に存在する、という事態が起きてしまうことを意味します。消費者の嗜好が連続的に変化せず、消費ベクトルがわずかに変化しただけでも、消費ベクトルに対する好みが大きく変化してしまうというここです。逆に言えば、連続性の仮定は消費者の嗜好が連続的に変化することを保証します。劣位集合\(L\left( x\right) \)についても同様のことが言えます。

合理性の仮定について復習する

 

開集合を用いた連続選好の定義

繰り返しになりますが、消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が連続性を満たすこととは、消費ベクトル\(x\in X\)を任意に選んだときに、その優位集合\(U\left( x\right) \subset X\)と劣位集合\(L\left( x\right) \subset X\)がともに\(X\)上の閉集合であることとして定義されます。

\(X\)の部分集合である\(U\left( x\right) \)が閉集合であることは、その補集合\(X\backslash U\left( x\right) \)が開集合であるための必要十分条件です。ただ、\(\succsim \)が合理性を満たす場合には、任意の消費ベクトル\(y\in X\)について、\begin{eqnarray*}
y\in X\backslash U\left( x\right) &\Leftrightarrow &\lnot \left( y\succsim
x\right) \quad \because U\text{の定義} \\
&\Leftrightarrow &x\succ y\quad \because \succsim \text{の合理性} \\
&\Leftrightarrow &y\in L_{s}\left( x\right) \quad \because L_{s}\text{の定義}
\end{eqnarray*}となるため、\(X\backslash U\left( x\right) =L_{s}\left( x\right) \)となります。ただし、\(L_{s}\left( x\right) \)は\(x\)の狭義劣位集合です。つまり、\(U\left( x\right) \)が閉集合であることと\(L_{s}\left( x\right) \)が開集合であることは必要十分です。同様に考えると、\(L\left( x\right) \)が閉集合であることと\(U_{s}\left( x\right) \)が開集合であることは必要十分です。ただし、\(U_{s}\left( x\right) \)は\(x\)の狭義優位集合です。したがって、連続選好を以下のように表現することもできます。

命題(連続選好の特徴づけ)
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が合理性を満たすものとする。このとき、任意の消費ベクトル\(x\in X\)の狭義優位集合と狭義劣位集合\begin{eqnarray*}
U_{s}\left( x\right) &=&\{y\in X\ |\ y\succ x\} \\
L_{s}\left( x\right) &=&\{y\in X\ |\ x\succ y\}
\end{eqnarray*}がともに\(X\)の開集合であることは、\(\succsim \)が連続性を満たすための必要十分条件である。
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点列を用いた連続選好の定義

選好関係の連続性は、収束点列を使って以下のように定義することもできます。

命題(連続選好の特徴づけ)
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が合理性を満たすものとする。\(X\)の点を項とし、なおかつ\(X\)の点を極限とする収束点列\(\{x_{v}\},\{y_{v}\}\)の中でも、\begin{equation*}
\forall v\in \mathbb{N} :x_{v}\succsim y_{v}
\end{equation*}を満たすものを任意に選ぶ。このとき、これらの点列の極限の間に、\begin{equation*}
\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\succsim \lim\limits_{v\rightarrow
\infty }y_{v}
\end{equation*}が成り立つことは、\(\succsim \)が連続性を満たすための必要十分条件である。
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選好関係\(\succsim \)が連続性を満たさない場合、すなわち、上の命題が成り立たない場合には、\begin{equation}
\forall v\in \mathbb{N} :x_{v}\succsim y_{v} \tag{1}
\end{equation}を満たす\(X\)上の収束点列\(\{x_{v}\},\{y_{v}\}\)の中に、\begin{equation}
\lim\limits_{v\rightarrow \infty }y_{v}\succ \lim\limits_{v\rightarrow
\infty }x_{v} \tag{2}
\end{equation}を満たすものが存在するはずです。消費ベクトル\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\in X \)は点列\(\{x_{v}\}\)の極限であり、消費ベクトル\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }y_{v}\in X\)は点列\(\{y_{v}\}\)の極限であるため、十分大きい\(v\)について、\(x_{v}\)は\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)に限りなく近く、\(y_{v}\)は\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)は限りなく近くなります。つまり、十分大きい\(v\)について、\(\left( 1\right) \)より、\(x_{v}\)は\(y_{v}\)以上であるにも関わらず、\(\left( 2\right) \)より、それらに限りなく近い\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)と\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)について選好が逆転し、\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }y_{v}\)が\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }x_{v}\)よりも望ましいということになってしまいます。つまり、消費ベクトルがわずかに変化しただけでも、消費ベクトルに対する好みが大きく変化してしまうということです。逆に言えば、連続性の仮定は消費者の嗜好が連続的に変化することを保証します。

 

近傍を用いた連続選好の定義

選好関係の連続性は、近傍を使って以下のように定義することもできます。

命題(連続選好の特徴づけ)
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が合理性を満たすものとする。\(a\succ b\)を満たす消費ベクトル\(a,b\in X\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
\exists \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall x,y\in X:\{[x\in
U_{\varepsilon }\left( a\right) \ \wedge \ y\in U_{\delta }\left( b\right)
]\ \Rightarrow \ x\succ y\}
\end{equation*}が成り立つことは、\(\succsim \)が連続性を満たすための必要十分条件である。
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ただし、上の命題中の\(U_{\varepsilon }\left( a\right) \)は点\(a\)を中心とし\(\varepsilon \)を半径とする開近傍であり、\begin{equation*}
U_{\varepsilon }\left( a\right) =\{x\in X\ |\ \left\Vert x-a\right\Vert
<\varepsilon \} \end{equation*}と定義されます。ただし、\(\left\Vert \cdot \right\Vert \)は\(\mathbb{R} ^{N}\)上のノルムを表す記号です。つまり、\(U_{\varepsilon }\left( a\right) \)とは点\(a\)からの距離が\(\varepsilon \)よりも小さい\(X\)の点からなる集合です。\(U_{\delta }\left( b\right) \)についても同様です。 選好関係\(\succsim \)が連続性を満たさない場合、すなわち、上の命題が成り立たない場合には、\(a\succ b\)を満たす消費ベクトル\(a,b\in X\)の中に、\begin{equation*} \forall \varepsilon >0,\ \forall \delta >0,\ \exists x,y\in X:\left[ x\in
U_{\varepsilon }\left( a\right) \ \wedge \ y\in U_{\delta }\left( b\right) \
\wedge \ y\succsim x\right] \end{equation*}を満たすものが存在するはずです。\(\varepsilon \)と\(\delta \)は任意の正の実数であるため、限りなく小さい\(\varepsilon ,\delta \)についても上の命題が成り立ちます。このとき、上の命題中の\(x\)は\(a\)と限りなく近く、\(y\)は\(b\)と限りなく近くなります。つまり、仮定より\(a\succ b\)ですが、それらに限りなく近い\(x\)と\(y\)について選好が逆転し、\(y\succsim x\)になってしまうということです。つまり、消費ベクトルがわずかに変化しただけでも、消費ベクトルに対する好みが大きく変化してしまうということです。逆に言えば、連続性の仮定は消費者の嗜好が連続的に変化することを保証します。

 

効用関数の連続性

選好関係\(\succsim \)を表す効用関数\(u\)が存在する場合、\(u\)が連続関数であるならば、\(\succsim \)は連続性を満たすことが保証されます。

命題(連続な効用関数によって表現される選好の連続性)
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在するとき、\(u\)が連続関数であるならば、\(\succsim \)は連続性を満たす。
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ただし、効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が連続であるとは、消費ベクトル\(a\in X\)を任意に選んだときに、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \lim_{x\rightarrow a}u\left( x\right) \in \mathbb{R} \text{が存在する} \\
&&\left( b\right) \ \lim_{x\rightarrow a}u\left( x\right) =u\left( a\right)
\end{eqnarray*}がともに成り立つことを意味します。つまり、\(u\left( x\right) \)は任意の点\(a\in X\)において極限を持ち、その極限が効用\(u\left( a\right) \)と一致するということです。イプシロン・デルタ論法を用いてこれを表現すると、任意の\(a\in X\)について、\begin{equation*}
\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall x\in X:(\left\Vert
x-a\right\Vert <\delta \ \Rightarrow \ \left\vert f\left( x\right) -f\left(
a\right) \right\vert <\varepsilon )
\end{equation*}が成り立つこととなります。ただし、\(\left\Vert \cdot \right\Vert \)は\(\mathbb{R} ^{N}\)上のノルムを表す記号です。

連続な効用関数によって表現される選好関係は連続性を満たすことが示されましたが、その逆は成り立つとは限りません。つまり、連続性を満たす選好関係を表現する効用関数は連続関数であるとは限りません。そのことを示すために、連続性を満たす選好関係\(\succsim \)を表現する連続な効用関数\(u\)が存在するものとしましょう。以前に示したように、選好関係を表す効用関数が与えられたとき、その効用関数を任意の形で正の単調変換を行って得られる関数もまた同じ選好を表す効用関数です。したがって、先の効用関数\(u\)から不連続な関数\(u^{\prime }\)を作り出すような正の単調変換を想定した場合にも、\(u^{\prime }\)は\(\succsim \)を表現する効用関数となります。このようにして、連続性を満たす選好関係を表現する不連続な効用関数を常に作り出すことができます。

効用関数の正の単調変換について復習する

以上の議論は、選好関係を表現する効用関数が存在することを前提とした上でのものですが、そもそも、選好関係の連続性から、効用関数の存在について何らかのことを言えるのでしょうか。選好関係が連続性を満たす場合、その選好関係を表現する効用関数は存在するのでしょうか。効用関数が存在するための条件については、場を改めて詳しく解説します。

次回は選好関係に関する単調性と呼ばれる仮定について解説します。

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