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ハイネ・ボレルの被覆定理

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コンパクト集合の部分閉集合はコンパクト

ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)がコンパクト集合であることを示すためには、\(A\)の任意の開被覆が有限部分被覆を持つことを示す必要があり、その手続きは面倒かつ困難であるように思われます。ハイネ・ボレルの被覆定理(Heine-Borel’s covering theorem)はコンパクト集合を特定する上で非常に有益な示唆を与えてくれます。

この定理について解説する前に、前提知識としていくつか命題を示します。まず、\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)がコンパクト集合である場合、\(A\)の部分集合であるような任意の閉集合もまたコンパクト集合になります。

命題(コンパクト集合の部分閉集合はコンパクト)
\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合であるならば、\(A\)の部分集合であるような\(\mathbb{R} ^{n}\)上の任意の閉集合もまた\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合である。
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\(n\)次元直方体はコンパクト集合

\(\mathbb{R} ^{n}\)上の\(n\)次元直方体はコンパクト集合です。

命題(n次元直方体はコンパクト集合)
それぞれの\(i\ \left( =1,\cdots ,n\right) \)に対して\(a_{i}<b_{i}\)を満たす実数\(a_{i},b_{i}\in \mathbb{R} \)を任意に選んだ上で、\(n\)次元直方体\begin{equation*}\prod\limits_{i=1}^{n}\left[ a_{i},b_{i}\right] =\left[ a_{1},b_{1}\right] \times \cdots \times \left[ a_{n},b_{n}\right] \end{equation*}を定義する。これは\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合である。
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有界な閉集合はコンパクト集合

\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が有界な閉集合であるものとします。\(A\)の有界性より、\begin{equation*}A\subset \prod\limits_{i=1}^{n}\left[ a_{i},b_{i}\right] \end{equation*}を満たす\(n\)次元直方体\(\prod_{i=1}^{n}\left[ a_{i},b_{i}\right] \)が存在しますが、直前の命題より\(\prod_{i=1}^{n}\left[ a_{i},b_{i}\right] \)はコンパクト集合です。仮定より\(A\)は閉集合であるため、\(A\)はコンパクト集合\(\prod_{i=1}^{n}\left[ a_{i},b_{i}\right] \)の部分閉集合です。したがって、先に示したもう一方の命題より\(A\)はコンパクト集合であることが明らかになりました。

命題(有界な閉集合はコンパクト集合)
\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が有界な閉集合であるならば、\(A\)は\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合である。
例(有界な閉集合はコンパクト集合)
点\(a\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだ上で、それだけを要素として持つ1点集合\(\left\{ a\right\} \)を構成すると、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)上の有界な閉集合です。したがって、上の命題より、1点集合\(\left\{ a\right\} \)は\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合です。
例(有界な閉集合はコンパクト集合)
\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合である\(n\)次元直方体\(A,B\)をそれぞれ任意に選びます。\(n\)次元直方体は\(\mathbb{R} ^{n}\)上の閉集合です。2つの閉集合の共通部分や和集合はいずれも閉集合であるため、\(A\cap B\)や\(A\cup B\)もまた\(\mathbb{R} ^{n}\)上の閉集合です。しかもこれらは明らかに有界であるため、上の命題より、\(A\cap B\)や\(A\cup B\)もまた\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合です。

 

ハイネ・ボレルの被覆定理

\(\mathbb{R} ^{n}\)上の有界な閉区間は\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合であることが示されましたが、実はその逆もまた成立します。つまり、\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合は有界な閉集合であることが保証されます。

命題(コンパクト集合は有界な閉集合)
\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合であるならば、\(A\)は\(\mathbb{R} ^{n}\)上の有界な閉集合である。
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以上の2つの命題より、\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合がコンパクト集合であることと、その集合が有界な閉集合であることが必要十分であることが明らかになりました。つまり、有界な閉集合としてコンパクト集合を定義できるということです。これをハイネ・ボレルの被覆定理(Heine-Borel’s covering theorem)と呼びます。

命題(ハイネ・ボレルの被覆定理)
\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)について、\(A\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合であることと、\(A\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)上の有界な閉集合であることは必要十分である。

 

コンパクト集合ではないことの証明

ハイネ・ボレルの被覆定理より、\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合がコンパクト集合であることを示すためには、それが\(\mathbb{R} ^{n}\)上の有界な閉集合であることを示せばよいことになります。逆に、\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合が有界ではない場合や閉集合ではない場合などには、その集合はコンパクト集合ではありません。

例(コンパクト集合ではないことの証明)
全区間\begin{equation*}\mathbb{R} =\left( -\infty ,+\infty \right)
\end{equation*}は有界ではないため\(\mathbb{R} \)上のコンパクト集合ではありません。有限\(n\)個の全区間\(\mathbb{R} \)の直積に相当する\(n\)次元空間\begin{equation*}\mathbb{R} ^{n}\end{equation*}は有界ではないため\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合ではありません。
例(コンパクト集合ではないことの証明)
点\(a\in \mathbb{R} ^{n}\)と正の実数\(\varepsilon >0\)をそれぞれ任意に選んだ上で、点\(a\)を中心とする半径\(\varepsilon \)の近傍\begin{equation*}N_{\varepsilon }\left( a\right) =\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ d\left( x,a\right) <\varepsilon \right\}
\end{equation*}をとります。これは有界であるものの閉集合ではないため\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合ではありません。

 

演習問題

問題(有限集合はコンパクト)
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が有限集合である場合、\(A\)は\(\mathbb{R} ^{n}\)上のコンパクト集合であることを示してください。
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