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ベクトル

ベクトルの定義

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有向線分としてのベクトル

温度や質量、長さ、距離などのように「大きさ」という1種類の情報によって表現される量をスカラー(scalar)と呼びます。スカラーを表現するためには「大きさ」を具体的に指定する必要がありますが、それは1つの実数として表現されます。

力や速度、運動量などのように「大きさ」と「方向」という2種類の情報によって表現される量をベクトル(vector)と呼びます。ベクトルを表現するためには「大きさ」と「方向」を具体的に指定する必要がありますが、それは「長さ」と「方向」を持つ線分として表現されます。つまり、ベクトルの大きさを線分の長さとして表現し、ベクトルの方向を線分の方向として表現するということです。「長さ」と「方向」を持つ線分を有向線分(directed line segment)と呼びます。ベクトルは有向線分を用いて幾何的(図形的)に表現されます。

ベクトルを代数的に表現することもできます。空間に座標系を導入すれば、空間上にあるそれぞれの点の位置を座標(coordinate)と呼ばれる実数の組として表現できます。有向線分は始点(starting point)と終点(end point)という2つの点を持つため、座標系において始点の座標と終点の座標をそれぞれ具体的に指定すれば、それらを結ぶ有向線分が得られます。具体的には以下の通りです。

\(n\)次元空間\(\mathbb{R} ^{n}\)における点の座標は\(n\)個の実数からなる組\begin{equation*}\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \in \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}として定義されます。したがって、\(n\)次元空間は、\begin{equation*}\mathbb{R} ^{n}=\{\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \ |\ \forall i\in \left\{ 1,\cdots,n\right\} :x_{i}\in \mathbb{R} \}
\end{equation*}と定義されます。\(\mathbb{R} ^{n}\)においてベクトルを代数的に表現するためには、そのベクトルに対応する有向線分の始点\(X\)の座標と終点\(Y\)の座標をそれぞれ具体的に指定することになります。つまり、\begin{eqnarray*}\text{始点}X\text{の座標} &:&\left(
x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \in \mathbb{R} ^{n} \\
\text{終点}Y\text{の座標} &:&\left(
y_{1},\cdots ,y_{n}\right) \in \mathbb{R} ^{n}
\end{eqnarray*}が与えられれば、これらを結ぶ有向線分が得られるため、それを、\begin{equation*}
\overrightarrow{XY}
\end{equation*}で表記します。この有向線分\(\overrightarrow{XY}\)によって表現されるベクトルの大きさは\(\overrightarrow{XY}\)の長さとして表現され、そのベクトルの方向は\(\overrightarrow{XY}\)の方向として表現されます。有向線分\(\overrightarrow{XY}\)と、それによって表現されるベクトルを同一視した上で、有向線分\(\overrightarrow{XY}\)をベクトルと呼ぶことができます。

例(1次元空間におけるベクトル)
\(1\)次元空間、すなわち数直線における点の座標は実数\begin{equation*}x\in \mathbb{R} \end{equation*}として表現され、\(1\)次元空間\(\mathbb{R} \)はすべての実数からなる集合として定義されます。\(\mathbb{R} \)においてベクトルを代数的に表現するためには、そのベクトルに対応する有向線分の始点\(X\)の座標と終点\(Y\)の座標をそれぞれ具体的に指定することになります。つまり、\begin{eqnarray*}\text{始点}X\text{の座標} &:&x\in \mathbb{R} \\
\text{終点}Y\text{の座標} &:&y\in \mathbb{R} \end{eqnarray*}が与えられれば、これらを結ぶ有向線分すなわちベクトル\(\overrightarrow{XY}\)が得られます。
例(2次元空間におけるベクトル)
\(2\)次元空間、すなわち平面における点の座標は2つの実数からなる順序対\begin{equation*}\left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}
\end{equation*}として定義されます。したがって、\(2\)次元空間は、\begin{equation*}\mathbb{R} ^{2}=\{\left( x_{1},x_{2}\right) \ |\ x_{1}\in \mathbb{R} \wedge x_{2}\in \mathbb{R} \}\end{equation*}と定義されます。\(\mathbb{R} ^{2}\)においてベクトルを代数的に表現するためには、そのベクトルに対応する有向線分の始点\(X\)の座標と終点\(Y\)の座標をそれぞれ具体的に指定することになります。つまり、\begin{eqnarray*}\text{始点}X\text{の座標} &:&\left(
x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2} \\
\text{終点}Y\text{の座標} &:&\left(
y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}
\end{eqnarray*}が与えられれば、これらを結ぶ有向線分すなわちベクトル\(\overrightarrow{XY}\)が得られます。
例(3次元空間におけるベクトル)
\(3\)次元空間における点の座標は3つの実数からなる組\begin{equation*}\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3}
\end{equation*}として定義されます。したがって、\(3\)次元空間は、\begin{equation*}\mathbb{R} ^{3}=\{\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) \ |\ x_{1}\in \mathbb{R} \wedge x_{2}\in \mathbb{R} \wedge x_{3}\in \mathbb{R} \}\end{equation*}と定義されます。\(\mathbb{R} ^{3}\)においてベクトルを代数的に表現するためには、そのベクトルに対応する有向線分の始点\(X\)の座標と終点\(Y\)の座標をそれぞれ具体的に指定することになります。つまり、\begin{eqnarray*}\text{始点}X\text{の座標} &:&\left(
x_{1},x_{2},x_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3} \\
\text{終点}Y\text{の座標} &:&\left(
y_{1},y_{2},y_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3}
\end{eqnarray*}が与えられれば、これらを結ぶ有向線分すなわちベクトル\(\overrightarrow{XY}\)が得られます。
例(有向線分としてのベクトル)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上にある2つの異なる点\(X,Y\)が与えられたとき、以下の2つの有向線分\begin{eqnarray*}&&\overrightarrow{XY} \\
&&\overrightarrow{YX}
\end{eqnarray*}は異なるベクトルを表します。なぜなら、ベクトルは「大きさ」と「方向」を表す量である一方で、上の2つの有向線分の方向は逆向きであり、これらは異なる「方向」を持つベクトルを表すからです。

例(有向線分としてのベクトル)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上にある3つの異なる点\(X,Y,Z\)が同一直線上に並んでいるものとします。このとき、以下の2つの有向線分\begin{eqnarray*}&&\overrightarrow{XZ} \\
&&\overrightarrow{YZ}
\end{eqnarray*}は異なるベクトルを表します。なぜなら、ベクトルは「大きさ」と「方向」を表す量である一方で、上の2つの有向線分の長さは異なるため、これらは異なる「大きさ」を持つベクトルを表すからです。

例(有向線分してのベクトル)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上にある3つの点\(X,Y,Z\)を選んだ上で、以下の2つの有向線分\begin{eqnarray*}&&\overrightarrow{OX} \\
&&\overrightarrow{YZ}
\end{eqnarray*}に注目します。ただし、\(O\)は空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の原点です。有向線分\(\overrightarrow{YZ}\)を平行移動すると有向線分\(\overrightarrow{OX}\)と重なるのであれば、これらは同一のベクトルを表します。なぜなら、ベクトルは「大きさ」と「方向」を表す量である一方で、上の2つの有向線分は「長さ」と「方向」が等しいからです。

 

位置ベクトルとしてのベクトル

空間\(\mathbb{R} ^{n}\)におけるベクトルは有向線分として表現できることが明らかになりました。さらに、有向線分\(\overrightarrow{XY}\)を指定するためには始点\(X\)の座標と終点\(Y\)の座標を指定すればよいことが明らかになりました。ただ、ベクトルは「長さ」と「方向」を持つ量であるため、ベクトルを有向線分として表現するにあたり、空間\(\mathbb{R} ^{n}\)における有向線分の「位置」に関する情報を消去しても問題はありません。つまり、ベクトルを有向線分として表現するにあたり、すべての有向線分の始点を統一しても一般性は失われません。多くの場合、有向線分の始点として空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の原点\(O\)を採用します。すべての有向線分の始点を原点に統一すれば、有向線分を指定するためには必要な情報は終点の座標だけになります。つまり、ベクトルはそれを表現する有向線分の終点の座標、すなわち\(n\)個の実数の組を用いて代数的に表現できます。具体的には以下の通りです。

空間\(\mathbb{R} ^{n}\)においてベクトルを代数的に表現するためには、そのベクトルに対応する有向線分の始点の座標と終点の座標をそれぞれ具体的に指定することになります。ただし、先の議論から明らかになったように、始点として原点\(O\)を採用しても一般性は失われないため、ベクトルを表現するためには終点\(X\)の座標だけを具体的に指定すれば十分です。つまり、\begin{eqnarray*}\text{始点}O\text{の座標} &:&\left( 0,\cdots
,0\right) \in \mathbb{R} ^{n} \\
\text{終点}X\text{の座標} &:&\left(
x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \in \mathbb{R} ^{n}
\end{eqnarray*}が与えられれば、これらを結ぶ有向線分が得られるため、それを、\begin{equation*}
\overrightarrow{OX}
\end{equation*}で表記します。この有向線分\(\overrightarrow{OX}\)によって表現されるベクトルの大きさは\(\overrightarrow{OX}\)の長さとして表現され、そのベクトルの方向は\(\overrightarrow{OX}\)の方向として表現されます。有向線分\(\overrightarrow{OX}\)と、それによって表現されるベクトルを同一視した上で、有向線分\(\overrightarrow{OX}\)をベクトルと呼ぶことができます。また、すべての有向線分の始点は原点\(O\)に統一されているため、有向線分\(\overrightarrow{OX}\)を指定するためには終点\(X\)の座標\(\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)を指定すれば十分であり、したがって有向線分\(\overrightarrow{OX}\)とその終点座標\(\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)を同一視できます。このような事情を踏まえると、終点座標\(\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)をベクトルと呼ぶことができます。

空間\(\mathbb{R} ^{n}\)におけるベクトルは有向線分として表現できるとともに、すべての有向線分の始点を空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の原点\(O\)に統一しても問題は生じないことが明らかになりました。言い換えると、空間\(\mathbb{R} ^{n}\)においてベクトルを表現するためには有向線分\(\overrightarrow{OX}\)の終点\(X\)の座標\begin{equation*}\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \in \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}を指定すればよいということです。このような有向線分\(\overrightarrow{OX}\)を点\(X\)の位置ベクトル(position vector)と呼び、点\(X\)の座標\(\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)を位置ベクトル\(\overrightarrow{OX}\)の成分表示(representation by components)と呼びます。つまり、すべての有向線分は始点を原点に統一した位置ベクトルとして表現されるとともに、位置ベクトルはその終点座標に相当する成分表示を用いて表現できるということです。

例(1次元空間における位置ベクトル)
\(1\)次元空間においてベクトルを代数的に表現するためには、そのベクトルに対応する点\(X\)の位置ベクトルを具体的に指定することになります。つまり、\begin{equation*}\text{位置ベクトル}X\text{の座標}:x\in \mathbb{R} \end{equation*}が与えられれば、有向線分すなわちベクトル\(\overrightarrow{OX}\)が得られます。
例(2次元空間における位置ベクトル)
\(2\)次元空間においてベクトルを代数的に表現するためには、そのベクトルに対応する点\(X\)の位置ベクトルを具体的に指定することになります。つまり、\begin{equation*}\text{位置ベクトル}X\text{の座標}:\left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}
\end{equation*}が与えられれば、有向線分すなわちベクトル\(\overrightarrow{OX}\)が得られます。
例(3次元空間における位置ベクトル)
\(3\)次元空間においてベクトルを代数的に表現するためには、そのベクトルに対応する点\(X\)の位置ベクトルを具体的に指定することになります。つまり、\begin{equation*}\text{位置ベクトル}X\text{の座標}:\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3}
\end{equation*}が与えられれば、有向線分すなわちベクトル\(\overrightarrow{OX}\)が得られます。

 

ベクトルの定義

これまでの議論から明らかになったように、空間\(\mathbb{R} ^{n}\)におけるベクトルは空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する点の位置ベクトルとして表現できるため、ベクトルと位置ベクトルを同一視できます。つまり、空間\(\mathbb{R} ^{n}\)におけるベクトルを有限\(n\)個の実数\(x_{1},\cdots ,x_{n}\)の組として定義できるということです。特に、有限\(n\)個の実数\(x_{1},\cdots ,x_{n}\)を横に並べた\begin{equation*}x=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \in \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}を行ベクトル(row vector)と呼びます。一方、有限\(n\)個の実数\(x_{1},\cdots,x_{n}\)を縦に並べた、\begin{equation*}x=\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
\vdots \\
x_{n}\end{array}\right)
\end{equation*}を列ベクトル(column vector)と呼びます。行ベクトルと列ベクトルを総称してベクトル(vector)と呼びます。ベクトル\(x\)を構成するそれぞれの実数\(x_{i}\)を\(x\)の成分(component)や座標(coordinate)などと呼びます。行ベクトルと列ベクトルは厳密には区別されるべき概念ですが、以降では特に断りのない限り両者は交換可能であるものとします。

多くの場合、ベクトルを表現する際に太字を用いて、\begin{equation*}
\boldsymbol{x}=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right)
\end{equation*}と表記したり、矢印を用いて、\begin{equation*}
\overrightarrow{x}=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right)
\end{equation*}と表記します。

ベクトルは有限\(n\)個の実数からなる組であるため、すべてのベクトルからなる集合は\(n\)次元空間\begin{equation*}\mathbb{R} ^{n}=\left\{ \left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \ |\ \forall i\in \left\{1,\cdots ,n\right\} :x_{i}\in \mathbb{R} \right\}
\end{equation*}です。\(\boldsymbol{x}\in \mathbb{R} ^{n}\)です。\(n\)次元ベクトル\(\boldsymbol{x}\)を\(\mathbb{R} ^{n}\)の(point)と呼ぶこともできます。

\(\mathbb{R} ^{n}\)について考えている場合、その要素であるそれぞれのベクトルは「方向」と「大きさ」という2つの情報を持つ量です。一方、\(\mathbb{R} \)の要素であるそれぞれの実数は「大きさ」という1つの情報だけを持つ量です。そのような事情を踏まえた上で、\(\mathbb{R} ^{n}\)を議論の舞台としている場合、\(\mathbb{R} \)の要素であるそれぞれの実数をスカラー(scalar)と呼ぶこともできます。

例(1次元ベクトル)
\(1\)次元空間\(\mathbb{R} ^{1}\)のベクトルは実数であるため、\begin{equation*}\mathbb{R} ^{1}=\mathbb{R} \end{equation*}という関係が成り立ちます。\(1\)次元空間においてベクトルとスカラーは概念として一致するということです。したがって、\begin{eqnarray*}1 &\in &\mathbb{R} ^{1} \\
-3 &\in &\mathbb{R} ^{1} \\
\frac{1}{3} &\in &\mathbb{R} ^{1}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

図:1次元ベクトル
図:1次元ベクトル

\(1\)次元のベクトル\(x\)は数直線上の点ですが、これは原点\(O\)が始点であり、位置ベクトルが\(x\)であるような点\(X \)が終点であるような有向線分\(\overrightarrow{OX}\)、すなわちベクトルと同一視されます(上図)。

例(2次元ベクトル)
\(2\)次元空間\(\mathbb{R} ^{2}\)のベクトルは2つの実数を成分として持つため、\begin{equation*}\mathbb{R} ^{2}=\{\left( x_{1},x_{2}\right) \ |\ x_{1},x_{2}\in \mathbb{R} \}\end{equation*}となります。したがって、\begin{eqnarray*}
\left( 1,2\right) &\in &\mathbb{R} ^{2} \\
\left( -3,1\right) &\in &\mathbb{R} ^{2} \\
\left( \frac{1}{2},-7\right) &\in &\mathbb{R} ^{2}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

図:2次元ベクトル
図:2次元ベクトル

\(2\)次元のベクトル\(\left(x_{1},x_{2}\right) \)は平面上の点ですが、これは原点\(O\)が始点であり、位置ベクトルが\(\left( x_{1},x_{2}\right) \)であるような点\(X\)が終点であるような有向線分\(\overrightarrow{OX}\)、すなわちベクトルと同一視されます(上図)。

例(3次元ベクトル)
\(3\)次元空間\(\mathbb{R} ^{3}\)のベクトルは3つの実数を成分として持つため、\begin{equation*}\mathbb{R} ^{3}=\{\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) \ |\ x_{1},x_{2},x_{3}\in \mathbb{R} \}\end{equation*}となります。したがって、\begin{eqnarray*}
\left( 1,0,2\right) &\in &\mathbb{R} ^{3} \\
\left( 1,-3,4\right) &\in &\mathbb{R} ^{3} \\
\left( \frac{1}{3},-8,-\frac{2}{3}\right) &\in &\mathbb{R} ^{3}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。\(3\)次元のベクトル\(\left(x_{1},x_{2},x_{3}\right) \)は空間上の点ですが、これは原点\(O\)が始点であり、位置ベクトルが\(\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) \)であるような点\(X\)が終点であるような有向線分\(\overrightarrow{OX}\)、すなわちベクトルと同一視されます。
例(4次元ベクトル)
\(4\)次元空間\(\mathbb{R} ^{4}\)のベクトルは4つの実数を成分として持つため、\begin{equation*}\mathbb{R} ^{4}=\{\left( x_{1},x_{2},x_{3},x_{4}\right) \ |\ x_{1},x_{2},x_{3},x_{4}\in \mathbb{R} \}\end{equation*}となります。したがって、\begin{eqnarray*}
\left( 1,0,2,5\right) &\in &\mathbb{R} ^{4} \\
\left( 1,-3,4,0\right) &\in &\mathbb{R} ^{4} \\
\left( \frac{1}{3},-8,-\frac{2}{3},\frac{1}{2}\right) &\in &\mathbb{R} ^{4}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。\(4\)次元のベクトル\(\left(x_{1},x_{2},x_{3},x_{4}\right) \)を視覚的に表現することはできませんが、これは原点\(O\)が始点であり、位置ベクトルが\(\left(x_{1},x_{2},x_{3},x_{4}\right) \)であるような点\(X\)が終点であるような有向線分\(\overrightarrow{OX}\)、すなわちベクトルと同一視されます。

 

等しいベクトル

2つのベクトル\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\)が同一次元の空間に属するとともに対応する成分がすべて等しい場合には\(\boldsymbol{x}\)と\(\boldsymbol{y}\)は等しい(equal)といい、そのことを、\begin{equation*}\boldsymbol{x}=\boldsymbol{y}
\end{equation*}と表記します。具体的には、同一次元の空間\(\mathbb{R} ^{n}\)に属する2つのベクトル\begin{eqnarray*}\boldsymbol{x} &=&\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \\
\boldsymbol{y} &=&\left( y_{1},\cdots ,y_{n}\right)
\end{eqnarray*}を選んだとき、それらの間に、\begin{equation*}
\forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :x_{i}=y_{i}
\end{equation*}が成り立つ場合には、そのことを\(\boldsymbol{x}=\boldsymbol{y}\)で表すということです。

2つのベクトル\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\)が等しくない場合、そのことを\(\boldsymbol{x}\not=\boldsymbol{y}\)で表します。これは、\(\boldsymbol{x}\)と\(\boldsymbol{y}\)が異なる次元の空間に属する場合や、\(\boldsymbol{x}\)と\(\boldsymbol{y}\)が同一次元の空間に属するものの対応する成分の中に一致しないものが存在する場合に相当します。

例(等しいベクトル)
ベクトル\(\left( 1,1\right) \)は\(\mathbb{R} ^{2}\)の要素である一方で、ベクトル\(\left( 1,1,1\right) \)は\(\mathbb{R} ^{3}\)の要素です。つまり、これらのベクトルは属する空間が異なるため、異なるベクトルとみなされます。つまり、\(\left( 1,1\right) \not=\left(1,1,1\right) \)です。
例(等しいベクトル)
ベクトル\(\left( 1,2,3\right) \)とベクトル\(\left( 2,1,3\right) \)はともに\(\mathbb{R} ^{3}\)の要素であるとともに、同じ実数\(1,2,3\)を成分として持っています。ただ、対応する成分が等しくないため、これらは異なるベクトルとみなされます。つまり、\(\left( 1,2,3\right)\not=\left( 2,1,3\right) \)です。同一次元の空間に属し同じ数を成分として持つ場合でも、成分の並び方が変われば異なるベクトルとみなされるということです。

 

位置ベクトルとしての一般のベクトルの表現

ベクトルは「大きさ」と「方向」という2つの情報から構成される概念であるため、「位置」だけを変化させてもベクトルとしては変化しません。そこで、すべてのベクトルの始点を原点に統一することにより、ベクトルはいずれも位置ベクトルとして表現されることが明らかになりました。また、位置ベクトルはその終点の座標に相当する成分表示として表現できます。

さて、原点とは異なる2つの点を始点および終点として持つ有向線分もまたベクトルであるため、これもまた位置ベクトルとして表現されます。具体的には以下の通りです。

空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する原点とは異なる2つの点\(X,Y\)の位置ベクトルがそれぞれ、\begin{eqnarray*}\overrightarrow{OX} &=&\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \in \mathbb{R} ^{n} \\
\overrightarrow{OY} &=&\left( y_{1},\cdots ,y_{n}\right) \in \mathbb{R} ^{n}
\end{eqnarray*}として与えられているものとします。始点が\(X\)であり終点が\(Y\)であるような有向線分\begin{equation*}\overrightarrow{XY}
\end{equation*}を位置ベクトルとして表現するためには、この有向線分の始点\(X\)が原点\(O\)と一致するように有向線分を移動すればよいため、そのようにして得られる位置ベクトルの成分表示は、\begin{eqnarray*}\left( y_{1}-x_{1},\cdots ,y_{n}-x_{n}\right) &=&\left( y_{1},\cdots
,y_{n}\right) -\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \\
&=&\overrightarrow{OY}-\overrightarrow{OX}
\end{eqnarray*}となります。つまり、有向線分\(\overrightarrow{XY}\)を位置ベクトルとして表現すると、\begin{equation*}\overrightarrow{OY}-\overrightarrow{OX}
\end{equation*}になるということです。以上の事実を、\begin{equation*}
\overrightarrow{XY}=\overrightarrow{OY}-\overrightarrow{OX}
\end{equation*}で表記するものと定めます。また、ベクトル\(\overrightarrow{XY}\)と言う場合、これは位置ベクトル\(\overrightarrow{OY}-\overrightarrow{OX}\)を指すものと定めます。したがって、ベクトル\(\overrightarrow{XY}\)の成分表示は、\begin{equation*}\left( y_{1}-x_{1},\cdots ,y_{n}-x_{n}\right)
\end{equation*}です。

 

演習問題

問題(等しいベクトル)
以下のそれぞれの主張は正しいですか?理由とともに答えてください。

  1. \(\left( 0,0\right) \)と\(\left( 0,0,0\right) \)は等しいベクトルである。
  2. \(\left( 1,2\right) \)と\(\left( 2,1\right) \)は等しいベクトルである。
  3. \(\left( 1,2,3\right) \)と\(\left( \frac{2}{2},\frac{4}{2},\frac{6}{2}\right) \)は等しいベクトルである。
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問題(等しいベクトル)
\(\mathbb{R} ^{3}\)の要素である以下の2つのベクトル\begin{eqnarray*}&&\left( x-y,x+y,z-1\right) \\
&&\left( 4,2,3\right)
\end{eqnarray*}が等しくなるための条件を求めてください。

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問題(共通一次試験)
平面上に存在する点\(O,A,B,C,D\)の座標がそれぞれ、\begin{eqnarray*}&&O\left( 0,0\right) \\
&&A\left( 6,-3\right) \\
&&B\left( 4,8\right) \\
&&C\left( 2,4\right) \\
&&D\left( 5,0\right)
\end{eqnarray*}として与えられているものとします。ベクトル\(\overrightarrow{AB}\)および\(\overrightarrow{CD}\)の成分表示を特定してください。
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