2本の平面が交わることと平行であることの違い
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する平面を表現するためには、その平面上に存在する点の位置ベクトルと平面の方向ベクトルを指定すれば十分です。具体的には、問題としている平面上に存在する点\(P\)の位置ベクトル\(p\in \mathbb{R} ^{n}\)と線型独立な方向ベクトル\(v,w\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)が与えられれば、その平面のベクトル方程式は、媒介変数\(s,t\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation*}x=p+sv+tw
\end{equation*}と表現されるため、平面上のすべての点の位置ベクトルからなる集合、すなわち平面は、\begin{equation*}
P\left( p,v,w\right) =\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists s,t\in \mathbb{R} :x=p+sv+tw\right\}
\end{equation*}と表現されます。以上がベクトル方程式を用いた平面の定義です。
2つの平面が一定の距離を保ったまま並んでいる状態を平行と呼びますが、平面どうしが平行であることをどのように定式化できるでしょうか。
平面\(\mathbb{R} ^{2}\)上に存在するすべての平面は\(\mathbb{R} ^{2}\)自身と一致するため、平面上に存在する2つの平面は常に一致し、したがって、それらは必ず平行です。
平面\(\mathbb{R} ^{2}\)とは異なり、空間\(\mathbb{R} ^{3}\)上では異なる2つの平面をとることができますが、空間\(\mathbb{R} ^{3}\)には互いに垂直な方向軸が3本しか存在しないため、異なる2つの平面が平行ではない場合、それらの平面は必ずどこかで交わります(交点からなる集合は直線)。対偶より、空間\(\mathbb{R} ^{3}\)上に存在する2つの異なる平面が交わらない場合、それらは平行です。したがって、2つの異なる平面が平行であることを示すためには、それらが交点を持たないことを示せばよいということになります。ただ、より高次元の空間において、このような議論は成立しません。
空間\(\mathbb{R} ^{4}\)には互いに垂直な方向軸が4本存在するため、2つの異なる平面が平行ではないにも関わらず、それらの平面が交わらない事態は起こり得ます(後ほど具体例を提示します)。このような事情を踏まえると、一般の空間\(\mathbb{R} ^{n}\)を対象とした場合、2本の平面が平行であることの意味を、両者が交わることと独立した概念として改めて定義する必要があります。順番に解説します。
2つの平面が平行であることの定義
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する2つの平面が、\begin{eqnarray*}P\left( p,v,w\right) &=&\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists s,t\in \mathbb{R} :x=p+sv+tw\right\} \\
P\left( p^{\prime },v^{\prime },w^{\prime }\right) &=&\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists s^{\prime },t^{\prime }\in \mathbb{R} :x=p^{\prime }+s^{\prime }v^{\prime }+t^{\prime }w^{\prime }\right\}
\end{eqnarray*}とそれぞれ与えられているものとします。ただし、\(p,p^{\prime }\in \mathbb{R} ^{n}\)は平面上に存在する点の位置ベクトル、\(s,t,s^{\prime },t^{\prime }\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)はそれぞれの平面の方向ベクトルであり、\(s\)と\(t\)は線型独立かつ\(s^{\prime }\)と\(t^{\prime }\)は線型独立です。
一方の平面\(P\left( p,v,w\right) \)上に存在する点\(X\)を任意に選んだとき、その位置ベクトルは何らかの値\(s,t\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation*}x=p+sv+tw
\end{equation*}と表すことができます。方向ベクトル\(a\in \mathbb{R} ^{n}\)を選んだ上で、先の点\(X\)を\(a\)だけ動かすと、移動後の点の位置ベクトルは、\begin{equation*}x+a=p+a+sv+tw
\end{equation*}と定まります。平面\(P\left( p,v,w\right) \)上に存在するすべての点を同じ要領で\(a\)だけ移動すれば、移動後の平面が、\begin{equation*}P\left( p+a,v,w\right) =\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists s,t\in \mathbb{R} :x=\left( p+a\right) +sv+tw\right\}
\end{equation*}として定まります。移動の前後において平面の位置ベクトルは\(p\)から\(p+a\)へ変化している一方、平面の方向ベクトルは\(v,w\)のまま変化していません。したがって、これは平行移動を表しています。さて、方向ベクトル\(a\)を適切に選んだ上で、平面\(P\left( p,v,w\right) \)上にあるすべての点を\(a\)だけ移動した場合、移動後の平面\(P\left(p+a,v,w\right) \)がもう一方の平面\(P\left( p^{\prime },v^{\prime },w^{\prime }\right) \)と完全に重なるのであれば、すなわち、\begin{equation*}\exists a\in \mathbb{R} ^{n}:P\left( p+a,v,w\right) =P\left( p^{\prime },v^{\prime },w^{\prime
}\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には、2つの平面\(P\left( p,v,w\right) ,P\left(p^{\prime },v^{\prime },w^{\prime }\right) \)は平行(parallel)であると言います。これは、平面\(P\left( p,v,w\right) \)を平行移動する場合、移動方向と移動量を上手く選べば(方向ベクトル\(a\)を適切に設定すれば)、移動後の平面\(P\left(p+a,v,w\right) \)がもう一方の平面\(P\left( p^{\prime },v^{\prime },w^{\prime }\right) \)と完全に重なることを意味します。
逆に、空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する2本の平面\(P\left( p,v,w\right) ,P\left( p^{\prime },v^{\prime},w^{\prime }\right) \)が平行でないことは、\begin{equation*}\forall a\in \mathbb{R} ^{n}:P\left( p+a,v,w\right) \not=P\left( p^{\prime },v^{\prime },w^{\prime
}\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味しますが、これは、平面\(P\left( p,v,w\right) \)を平行移動する場合、どちらの方向へどれだけ動かしても(どのような方向ベクトル\(a\)を選んだ場合でも)、移動後の平面\(P\left( p+a,v,w\right) \)がもう一方の平面\(P\left(p^{\prime },v^{\prime },w^{\prime }\right) \)と完全に重なる事態が起こり得ないことを意味します。
P\left( p^{\prime },v^{\prime },w^{\prime }\right) &=&\mathbb{R} ^{2} \quad \cdots (2)
\end{eqnarray}が成り立ちます。方向ベクトル\(a\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}P\left( p+a,v,w\right) &=&\left\{ x+a\in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x\in \mathbb{R} ^{2}\right\} \quad \because \left( 1\right) \\
&=&\mathbb{R} ^{2} \\
&=&P\left( p^{\prime },v^{\prime },w^{\prime }\right) \quad \because \left(
2\right)
\end{eqnarray*}となるため、先の定義のもとでも\(P\left( p,v,w\right) \)と\(P\left( p^{\prime },v^{\prime },w^{\prime }\right) \)は平行であることを確認できました。
方向ベクトルを用いた平面が平行であることの判定
2つの平面が平行であることを平面の方向ベクトルを用いて以下のように判定することもできます。
w &=&cv^{\prime }+dw^{\prime }
\end{eqnarray*}をともに満たす実数\(a,b,c,d\in \mathbb{R} \)が存在することは、これらの平面\(P,P^{\prime }\)が平行であるための必要十分条件である。
直交補空間を用いた平面が平行であることの判定
平面\(P\)の直交補空間とは、平面\(P\)の法線ベクトルをすべて集めてできる集合\begin{equation*}P^{\perp }=\left\{ n\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \forall x,y\in P:\left( x-y\right) \cdot n=0\right\}
\end{equation*}として定義されます。つまり、平面\(P\)上の2点を結ぶことで得られる任意のベクトルと垂直であるようなベクトルを集めてできる集合が\(P^{\perp }\)です。ただし、ベクトル\(n\)が平面を定義する何らかの線型独立な方向ベクトル\(v,w\)の双方と垂直であれば、そのベクトル\(n\)は平面\(P\)上の2点を結ぶことで得られる任意のベクトルと垂直であることが保証されるため、平面\(P\)を定義する線型独立な方向ベクトル\(v,w\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を任意に選んだとき、平面の\(P\)の直交補空間を、\begin{equation*}P^{\perp }=\left\{ n\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ v\cdot n=w\cdot n=0\right\}
\end{equation*}と表すことができます。
2つの平面が平行であることを平面の直交補空間を用いて以下のように判定することもできます。
平行ではなく交わりもしない平面
繰り返しになりますが、空間\(\mathbb{R} ^{3}\)には互いに垂直な方向軸が3本しか存在しないため、異なる2つの平面が平行ではない場合、それらの平面は必ずどこかで交わります。その一方で、空間\(\mathbb{R} ^{4}\)には互いに垂直な方向軸が4本存在するため、2つの異なる平面が平行ではないにも関わらず、それらの平面が交わらない事態は起こり得ます。以下が具体例です。
\begin{array}{c}
x_{1} \\
x_{2} \\
x_{3} \\
x_{4}\end{array}\right) =\left(
\begin{array}{c}
0 \\
a \\
b \\
0\end{array}\right) \\
P_{2} &:&\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
x_{2} \\
x_{3} \\
x_{4}\end{array}\right) =\left(
\begin{array}{c}
1 \\
c \\
0 \\
d\end{array}\right)
\end{eqnarray*}によってそれぞれ定義されているものとします。ただし、\(a,b,c,d\in \mathbb{R} \)は媒介変数です。この2つの平面は平行ではなく、かつ交わりません(演習問題)。
演習問題
\begin{array}{c}
x_{1} \\
x_{2} \\
x_{3} \\
x_{4}\end{array}\right) =\left(
\begin{array}{c}
0 \\
a \\
b \\
0\end{array}\right) \\
P_{2} &:&\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
x_{2} \\
x_{3} \\
x_{4}\end{array}\right) =\left(
\begin{array}{c}
1 \\
c \\
0 \\
d\end{array}\right)
\end{eqnarray*}によってそれぞれ定義されているものとします。ただし、\(a,b,c,d\in \mathbb{R} \)は媒介変数です。この2つの平面は平行ではなく、かつ交わらないことを示してください。
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