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実ベクトル空間の部分空間の基底と次元

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実ベクトル空間の部分空間の基底

実ベクトル空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)を議論の対象とします。つまり、\(X\)は以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ X\not=\phi \\
&&\left( b\right) \ \forall x,y\in X:x+y\in X \\
&&\left( c\right) \ \forall a\in \mathbb{R} ,\ \forall x\in X:ax\in X
\end{eqnarray*}をすべて満たすということです。では、部分空間\(X\)上のベクトルに対してベクトル加法\(+\)とスカラー乗法\(\cdot \)を組み合せる形で適用するとどうなるでしょうか。有限\(m\)個ずつのスカラーとベクトル\begin{eqnarray*}a_{1},\cdots ,a_{m} &\in &\mathbb{R} \\
x_{1},\cdots ,x_{m} &\in &X
\end{eqnarray*}をそれぞれ任意に選ぶと、\(\left( c\right) \)より、\begin{eqnarray*}a_{1}x_{1} &\in &X \\
&&\vdots \\
a_{m}x_{m} &\in &X
\end{eqnarray*}がすべて成り立つため、これと\(\left( b\right) \)より、\begin{equation*}a_{1}x_{1}+\cdots +a_{m}x_{m}\in X
\end{equation*}を得ます。これをベクトル\(x_{1},\cdots ,x_{m}\)の線型結合と呼びます。

部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)の要素であるベクトル\(x_{1},\cdots ,x_{m}\in X\)の線型結合\(a_{1}x_{1}+\cdots +a_{m}x_{m}\)がどのようなベクトルになるかはスカラー\(a_{1},\cdots ,a_{m}\in \mathbb{R} \)の選び方に依存します。したがって、ベクトル\(x_{1},\cdots ,x_{m}\)の線型結合をすべて集めることで得られる集合は、\begin{equation*}\mathrm{span}\left( \left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \right) =\left\{
a_{1}x_{1}+\cdots +a_{m}x_{m}\in X\ |\ a_{1},\cdots ,a_{m}\in \mathbb{R} \right\}
\end{equation*}となります。これをベクトル集合\(\left\{ x_{1},\cdots,x_{m}\right\} \subset X\)の線型スパンと呼びます。明らかに、\begin{equation*}\mathrm{span}\left( \left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \right) \subset X
\end{equation*}が成り立ちます。

部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)の要素であるベクトル\(x\in X\)が与えられたとき、それを部分空間\(X\)の要素であるベクトル\(x_{1},\cdots ,x_{m}\in X\)の何らかの線型結合として表現できるならば、すなわち、\begin{equation*}\exists a_{1},\cdots ,a_{m}\in \mathbb{R} :x=a_{1}x_{1}+\cdots +a_{m}x_{m}
\end{equation*}が成り立つならば、ベクトル\(x\)はベクトル集合\(\left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \subset X\)上で線型従属であると言います。同じことを線型スパンを用いて表現すると、\begin{equation*}x\in \mathrm{span}\left( \left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \right)
\end{equation*}となります。

部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)の要素であるベクトル\(x\in X\)が与えられたとき、それを部分空間\(X\)の要素であるベクトル\(x_{1},\cdots ,x_{m}\in X\)のいかなる線型結合としても表現できないならば、すなわち、\begin{equation*}\forall a_{1},\cdots ,a_{m}\in \mathbb{R} :x\not=a_{1}x_{1}+\cdots +a_{m}x_{m}
\end{equation*}が成り立つならば、ベクトル\(x\)はベクトル集合\(\left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \subset X\)上で線型独立であると言います。同じことを線型スパンを用いて表現すると、\begin{equation*}x\not\in \mathrm{span}\left( \left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \right)
\end{equation*}となります。

部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)の要素である任意のベクトルが部分空間\(X\)の部分集合であるようなベクトル集合上で線型従属であるならば、すなわち、以下の条件\begin{equation*}\forall x\in X:x\in \mathrm{span}\left( \left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\}
\right)
\end{equation*}を満たすベクトル集合\begin{equation*}
\left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \subset X
\end{equation*}が存在する場合には、\(\left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \)は\(X\)を張ると言います。部分集合の定義および、\begin{equation*}\mathrm{span}\left( \left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \right) \subset X
\end{equation*}が常に成り立つことを踏まえると、\(\left\{x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \)が\(X\)を張ることと、\begin{equation*}X=\mathrm{span}\left( \left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \right)
\end{equation*}が成り立つことは必要十分です。

例(原点を通過する直線を張るベクトル集合)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する直線\(L\)を任意に選びます。直線の定義より\(L\)は空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合であるとともに、何らかのベクトル\(p\in \mathbb{R} ^{n}\)および非ゼロベクトル\(v\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を用いて、\begin{equation*}L=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists t\in \mathbb{R} :x=p+tv\right\}
\end{equation*}という形で表すことができます。\(p\)は直線\(L\)上に存在する点の位置ベクトルに相当し、\(v\)は直線\(L\)の方向ベクトルに相当します。特に、直線\(L\)が原点を通過する場合には位置ベクトルとしてゼロベクトル\(p=0\)を採用できるため、原点を通過する直線は、\begin{equation*}L=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists t\in \mathbb{R} :x=tv\right\}
\end{equation*}であり、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間です。\(t=1\)の場合には\(x=v\)であるため、\begin{equation*}v\in L
\end{equation*}です。加えて、点\(x\in L\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}\exists t\in \mathbb{R} :x=tv
\end{equation*}が成り立ちますが、以上の事実は、\begin{equation*}
L=\mathrm{span}\left( \left\{ v\right\} \right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。つまり、原点を通過する直線\(L\)は、その直線の方向ベクトル\(v\)によって張られるということです。加えて、非ゼロベクトルだけを要素として持つベクトル集合は線型独立であるため、ベクトル集合\(\left\{ v\right\} \)は線型独立です。
例(原点を通過する平面を張るベクトル集合)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する平面\(P\)を任意に選びます。平面の定義より\(P\)は空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合であるとともに、何らかのベクトル\(p\in \mathbb{R} ^{n}\)および線型独立な非ゼロベクトル\(v,w\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を用いて、\begin{equation*}P=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists s,t\in \mathbb{R} :x=p+sv+tw\right\}
\end{equation*}という形で表すことができます。\(p\)は平面\(P\)上に存在する点の位置ベクトルに相当し、\(v,w\)は平面\(P\)の方向ベクトルに相当します。特に、平面\(P\)が原点を通過する場合には位置ベクトルとしてゼロベクトル\(p=0\)を採用できるため、原点を通過する平面は、\begin{equation*}P=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists s,t\in \mathbb{R} :x=sv+tw\right\}
\end{equation*}であり、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間です。\(s=1\)かつ\(t=0\)の場合には\(x=s\)であり、\(s=0\)かつ\(t=1\)の場合には\(x=w\)であるため、\begin{eqnarray*}v &\in &P \\
w &\in &P
\end{eqnarray*}です。加えて、点\(x\in P\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}\exists s,t\in \mathbb{R} :x=sv+tw
\end{equation*}が成り立ちますが、以上の事実は、\begin{equation*}
P=\mathrm{span}\left( \left\{ v,w\right\} \right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。つまり、原点を通過する平面\(P\)は、その平面の方向ベクトル\(v,w\)によって張られるということです。加えて、平面の定義よりベクトル集合\(\left\{ v,w\right\} \)は線型独立です。

部分空間を張るベクトル集合は一意的に定まるとは限りません。以下の例より明らかです。

例(部分空間を張るベクトル集合の非一意性)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する直線\(L\)が原点を通過する場合、何らかの非ゼロベクトル\(v\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を用いて、\begin{equation*}L=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists t\in \mathbb{R} :x=tv\right\}
\end{equation*}と表現されるとともに、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間です。先に示したように、以下のベクトル集合\begin{equation*}\left\{ v\right\}
\end{equation*}は\(L\)を張る線型独立なベクトル集合です。加えて、非ゼロの実数\(t\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)を任意に選んだとき、以下のベクトル集合\begin{equation*}\left\{ tv\right\}
\end{equation*}もまた\(L\)を張る線型独立なベクトル集合です(演習問題)。非ゼロの実数\(t\)は無数に存在し、それぞれについて同様の議論が成立するため、\(L\)を張るベクトル集合が無数に存在することが明らかになりました。

部分空間を張るベクトル集合は線型独立であるものに限定されません。以下は線型従属なベクトル集合の例です。

例(部分空間を張る線型従属なベクトル集合)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する直線\(L\)が原点を通過する場合、何らかの非ゼロベクトル\(v\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を用いて、\begin{equation*}L=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists t\in \mathbb{R} :x=tv\right\}
\end{equation*}と表現されるとともに、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間です。先に示したように、以下のベクトル集合\begin{equation*}\left\{ v\right\}
\end{equation*}は\(L\)を張る線型独立なベクトル集合です。一方、以下のベクトル集合\begin{equation*}\left\{ v,2v\right\}
\end{equation*}は\(L\)を張る線型従属なベクトル集合です(演習問題)。

 

部分空間の基底

部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)を張るベクトル集合が存在するとともに、その中には線型独立であるものと線型従属であるものの双方が存在することが明らかになりました。

特に、部分空間\(X\)を張る線型独立なベクトル集合を\(X\)の基底(basis)と呼び、基底の要素である個々のベクトルを基底ベクトル(basis vector)と呼びます。つまり、ベクトル集合\(\left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \)が部分空間\(X\)の基底であることとは、\(\left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \)が\(X\)の部分集合であり、\(X\)上に存在する任意のベクトルについて、それを\(x_{1},\cdots ,x_{m}\)の線型結合としてそれぞれ表すことができる(\(\left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \)は\(X\)を張る)とともに、\(\left\{ x_{1},\cdots,x_{m}\right\} \)の中のどのベクトルも他の\(m-1\)個のベクトルの線型結合として表現できない(\(\left\{x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \)は線型独立)ことを意味します。\(X\)を張る線型従属なベクトル集合は基底とみなされない点に注意してください。

例(原点を通過する直線の基底)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する直線\(L\)が原点を通過する場合、何らかの非ゼロベクトル\(v\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を用いて、\begin{equation*}L=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists t\in \mathbb{R} :x=tv\right\}
\end{equation*}と表現されるとともに、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間です。先に示したように、以下のベクトル集合\begin{equation*}\left\{ v\right\}
\end{equation*}は\(L\)を張る線型独立なベクトル集合であるため、これは\(L\)の基底であり、その要素であるベクトル\(v\)は\(L\)の基底ベクトルです。
例(原点を通過する平面の基底)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する平面\(P\)が原点を通過する場合、線型独立な非ゼロベクトル\(v,w\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を用いて、\begin{equation*}P=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists s,t\in \mathbb{R} :x=sv+tw\right\}
\end{equation*}と表現されるとともに、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間です。先に示したように、以下のベクトル集合\begin{equation*}\left\{ v,w\right\}
\end{equation*}は\(P\)を張る線型独立なベクトル集合であるため、これは\(P\)の基底であり、その要素であるベクトル\(v,w\)は\(P\)の基底ベクトルです。
例(部分空間の基底の非一意性)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する直線\(L\)が原点を通過する場合、何らかの非ゼロベクトル\(v\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を用いて、\begin{equation*}L=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists t\in \mathbb{R} :x=tv\right\}
\end{equation*}と表現されるとともに、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間です。先に示したように、非ゼロの実数\(t\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)を任意に選んだとき、以下のベクトル集合\begin{equation*}\left\{ tv\right\}
\end{equation*}は\(L\)を張る線型独立なベクトル集合であるため、これは\(L\)の基底であり、その要素であるベクトル\(tv\)は\(L\)の基底ベクトルです。非ゼロの実数\(t\)は無数に存在し、それぞれについて同様の議論が成立するため、\(L\)の基底が無数に存在することが明らかになりました。
例(部分空間の基底ではないベクトル集合)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する直線\(L\)が原点を通過する場合、何らかの非ゼロベクトル\(v\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を用いて、\begin{equation*}L=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists t\in \mathbb{R} :x=tv\right\}
\end{equation*}と表現されるとともに、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間です。先に示したように、以下のベクトル集合\begin{equation*}\left\{ v,2v\right\}
\end{equation*}は\(L\)を張る線型従属なベクトル集合であるため、これは\(L\)の基底ではありません。ベクトル集合が基底であるためには線型独立である必要があるからです。

 

部分空間の基底に含まれる要素の個数

部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)を張るベクトル集合の中でも線型独立であるものを基底と定義しました。まずは議論の対象を基底に限定した上で、後ほど、部分空間\(X\)を張る線型従属なベクトル集合を含めた形に議論を統合します。

先に例を通じて確認したように、同一の部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)を対象とした場合にも、\(X\)を張る線型独立なベクトル集合、すなわち\(X\)の基底は一意的に定まるとは限りません。では、部分空間\(X\)の基底どうしを比べたとき、要素の個数が最も少ない基底には何個のベクトルが含まれているのでしょうか。

実は、同一の部分空間\(X\)を対象とした場合、\(X\)の基底はいずれも同じ個数のベクトルを要素として持ちます。

命題(基底に含まれる要素の個数)
部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)の基底を任意に選んだとき、その要素の個数はいずれも等しい。すなわち、\begin{eqnarray*}X &=&\mathrm{span}\left( \left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \right) \\
X &=&\mathrm{span}\left( \left\{ y_{1},\cdots ,y_{k}\right\} \right)
\end{eqnarray*}を満たす線型独立なベクトル集合\begin{eqnarray*}
\left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} &\subset &X \\
\left\{ y_{1},\cdots ,y_{k}\right\} &\subset &X
\end{eqnarray*}を任意に選んだとき、\begin{equation*}
m=k
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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以上の命題は、任意の部分空間が同数の基底ベクトルを持つという主張ではないことに注意してください。特定の部分空間に注目した場合、その基底は一意的に定まるとは限りませんが、それらの基底はいずれも同数のベクトルを要素として持つことを上の命題は主張しています。

例(原点を通過する直線の基底ベクトルの個数)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する直線\(L\)が原点を通過する場合、何らかの非ゼロベクトル\(v\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を用いて、\begin{equation*}L=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists t\in \mathbb{R} :x=tv\right\}
\end{equation*}と表現されるとともに、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間です。先に示したように、以下のベクトル集合\begin{equation*}\left\{ v\right\}
\end{equation*}は\(L\)の基底ですが、そこには\(1\)個のベクトルが含まれているため、先の命題より、\(L\)の任意の基底には\(1\)個のベクトルが含まれます。
例(原点を通過する平面の基底ベクトルの個数)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する平面\(P\)が原点を通過する場合、線型独立な非ゼロベクトル\(v,w\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を用いて、\begin{equation*}P=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists s,t\in \mathbb{R} :x=sv+tw\right\}
\end{equation*}と表現されるとともに、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間です。先に示したように、以下のベクトル集合\begin{equation*}\left\{ v,w\right\}
\end{equation*}は\(P\)の基底ですが、そこには\(2\)個のベクトルが含まれているため、先の命題より、\(P\)の任意の基底には\(2\)個のベクトルが含まれます。

特定の部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)に注目した場合、その基底はいずれも同数のベクトルを要素として持つことが明らかになりました。つまり、部分空間\(X\)の基底に\(m\)個のベクトルが含まれている場合、線型独立なベクトルだけを使って\(X\)上のすべてのベクトルを表現するためには、\(m\)個ちょうどのベクトルが必要です。言い換えると、\(m\)個よりも少ないベクトルしか与えられておらず、なおかつそれらが線型独立である場合、それらのベクトルをいかなる形で線型結合しても、\(X\)上のすべてのベクトルを表現し尽くすことはできません。

例(原点を通過する平面の基底ベクトルの個数)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する平面\(P\)が原点を通過する場合、線型独立な非ゼロベクトル\(v,w\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を用いて、\begin{equation*}P=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists s,t\in \mathbb{R} :x=sv+tw\right\}
\end{equation*}と表現されるとともに、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間です。先に示したように、平面\(P\)の基底はいずれも\(2\)個のベクトルを要素として持ちます。したがって、1つの非ゼロベクトル\(y\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)が与えられた場合、ベクトル集合\(\left\{ y\right\} \)は線型独立であるため、先の命題より、\(P\)上に存在するすべてのベクトルを\(y\)の線型結合として表現し尽くすことはできません。

部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)の基底に含まれる要素の個数が\(m\)であり、なおかつ\(X\)を張るベクトル集合が\(m\)個よりも多い要素を持つ場合、そのベクトル集合は線型従属であることが確定します。なぜなら、そのベクトル集合が線型独立であるものと仮定すると、要素の個数が\(m\)よりも大きい\(X\)の基底が存在することとなり、それは先の命題と矛盾するからです。

命題(部分空間を張る線型従属なベクトル集合)
部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)の基底は\(m\)個のベクトルを要素として持つものとする。\(X\)を張るベクトル集合が\(m\)個よりも多い要素を持つ場合、そのベクトル集合は線型従属である。すなわち、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ X=\mathrm{span}\left( \left\{ x_{1},\cdots
,x_{p}\right\} \right) \\
&&\left( b\right) \ p>m
\end{eqnarray*}をともに満たす任意のベクトル集合\(\left\{x_{1},\cdots ,x_{p}\right\} \subset X\)は線型従属である。
例(部分空間を張る線型従属なベクトル集合)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する直線\(L\)が原点を通過する場合、何らかの非ゼロベクトル\(v\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を用いて、\begin{equation*}L=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists t\in \mathbb{R} :x=tv\right\}
\end{equation*}と表現されるとともに、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間です。先に示したように、以下のベクトル集合\begin{equation*}\left\{ v\right\}
\end{equation*}は\(L\)の基底です。以下のベクトル集合\begin{equation*}\left\{ v,2v\right\}
\end{equation*}もまた\(L\)を張るベクトル集合ですが、その要素の個数は基底ベクトルの個数\(1\)よりも多いため、先の命題より、このベクトル集合\(\left\{ v,2v\right\} \)は線型従属であるはずです。実際、先に示したようにこのベクトル集合は線型従属であり、この事実は先の命題の主張と整合的です。

特定の部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)に注目した場合、その基底はいずれも同数のベクトルを要素として持つことが明らかになりました。部分空間\(X\)の基底に含まれる要素の個数が\(m\)である状況において、逆に、\(X\)から線型独立な\(m\)個のベクトルを任意に選ぶと、それらの集合は\(X\)の基底になることが保証されます。

命題(部分空間の基底の生成)
部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)の基底は\(m\)個のベクトルを要素として持つものとする。\(X\)から\(m\)個の線型独立なベクトル\(x_{1},\cdots ,x_{m}\in X\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}X=\mathrm{span}\left( \left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \right)
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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部分空間の次元

部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)を張るために必要なベクトルの個数の最小値を\(X\)の次元(dimension)と呼び、それを、\begin{equation*}\dim X
\end{equation*}で表記します。

先に明らかにしたように、特定の部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)に注目した場合、その基底はいずれも同数のベクトルを要素として持つため、その個数が\(m\)である場合、\(X\)を張るために必要な「線型独立」なベクトルの個数の最小値は\(m\)です。では、線型従属なベクトルを考察対象に含めた場合にはどうなるでしょうか。つまり、先の部分空間\(X\)を張る線型従属なベクトル集合の中には、要素の個数が\(m\)よりも少ないものが存在するのでしょうか。存在しません。

命題(部分空間を張る線型従属なベクトル集合の要素の個数)
部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)の基底は\(m\)個のベクトルを要素として持つものとする。\(X\)を張る線型従属なベクトルを\(X\)から任意に選んだとき、その個数は\(m\)より大きい。すなわち、\begin{equation*}X=\mathrm{span}\left( \left\{ x_{1},\cdots ,x_{p}\right\} \right)
\end{equation*}を満たす線型従属なベクトル集合\begin{equation*}
\left\{ x_{1},\cdots ,x_{p}\right\} \subset X
\end{equation*}を任意に選んだとき、\begin{equation*}
p>m
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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繰り返しになりますが、部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)の基底が\(m\)個のベクトルを要素として持つ場合、\(X\)を張るために必要な「線型独立」なベクトルの個数の最小値は\(m\)です。さらに、上の命題より、先の\(X\)を張るために必要な「線型従属」なベクトルの個数の最小値は\(m\)を上回ります。したがって、先の\(X\)を張るために必要なベクトルの個数の最小値、すなわち\(X\)の次元は\(m\)であることが明らかになりました。

命題(部分空間の次元)

部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)の基底は\(m\)個のベクトルを要素として持つものとする。この場合、\begin{equation*}\dim X=m
\end{equation*}が成り立つ。

部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)の次元が\(m\)であることは、\(X\)を張るために必要なベクトルの個数の最小値が\(m\)であることを意味します。つまり、\(m\)個のベクトル\(x_{1},\cdots ,x_{m}\)を適切に選べば、\(X\)上の任意のベクトルはいずれも\(x_{1},\cdots ,x_{m}\)の線型結合として表現可能です。

加えて、それらのベクトル\(x_{1},\cdots ,x_{m}\)は線型独立であることが確定しています。つまり、\(\left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \)は\(X\)の基底であるということです。なぜなら、線型従属なベクトルによって\(X\)を張ろうとすると、必要なベクトルの個数は必ず\(m\)個を超えてしまうからです。加えて、\(X\)の基底はいずれも\(m\)個の要素を持つため、\(X\)の次元\(m\)は\(X\)の基底に含まれるベクトルの個数でもあります。

部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)の次元が\(m\)であるとき、\(m\)個の線型独立なベクトル\(x_{1},\cdots ,x_{m}\)を任意に選んだ上でベクトル集合\(\left\{ x_{1},\cdots ,x_{m}\right\} \)を構成すると、これは\(X\)の基底になることが確定しています。\(x_{1},\cdots ,x_{m}\)とは異なるベクトル\(v\)を任意に選んでベクトル集合\(\left\{ v,x_{1},\cdots,x_{m}\right\} \)を構成すると、これは線型従属になってしまいます。したがって、\(X\)の次元\(m\)は\(X\)において選ぶことができる線型独立なベクトルの個数の最大値でもあります。

 

実ベクトル空間の次元と部分空間の次元の関係

部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、その次元は実ベクトル空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の次元である\(n\)を超えることはありません。

命題(部分空間の次元)

部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}\dim X\leq n
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)の次元が実ベクトル空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の次元である\(n\)と一致することと、\(X\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)そのものであることは必要十分です。

命題(部分空間の次元)

部分空間\(X\subset \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、以下の関係\begin{equation*}\dim X=n\Leftrightarrow X=\mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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演習問題

問題(部分空間を張るベクトル集合の非一意性)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する直線\(L\)が原点を通過する場合、何らかの非ゼロベクトル\(v\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を用いて、\begin{equation*}L=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists t\in \mathbb{R} :x=tv\right\}
\end{equation*}と表現されるとともに、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間です。非ゼロの実数\(t\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)を任意に選んだとき、以下のベクトル集合\begin{equation*}\left\{ tv\right\}
\end{equation*}は\(L\)を張る線型独立なベクトル集合であることを示してください。
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問題(部分空間を張る線型従属なベクトル集合)
空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上に存在する直線\(L\)が原点を通過する場合、何らかの非ゼロベクトル\(v\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を用いて、\begin{equation*}L=\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \exists t\in \mathbb{R} :x=tv\right\}
\end{equation*}と表現されるとともに、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間です。以下のベクトル集合\begin{equation*}\left\{ v,2v\right\}
\end{equation*}は\(L\)を張る線型従属なベクトル集合であることを示してください。
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