WIIS

述語論理

述語論理における後件否定

目次

関連知識

Mailで保存
Xで共有

後件否定

論理式\(A,B\)を任意に選んだとき、以下の推論規則\begin{equation*}A\rightarrow B,\ \lnot B\ \models \ \lnot A
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(A\rightarrow B\)と\(\lnot B\)が真であるような任意の解釈のもとで\(\lnot A\)は真になります。これは後件否定(denying the consequent)やモーダストレンス(modus tollens)と呼ばれる推論規則です。

命題(後件否定)
論理式\(A,B\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}A\rightarrow B,\ \lnot B\ \models \ \lnot A
\end{equation*}が成り立つ。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

後件否定\begin{equation}
A\rightarrow B,\ \lnot B\ \models \ \lnot A \quad \cdots (1)
\end{equation}は推論規則であるため、\(\left( 1\right) \)を構成する\(A,B\)にそれぞれどのような具体的な論理式\(\alpha,\beta \)を入れた場合においても、\begin{equation*}\alpha \rightarrow \beta ,\ \lnot \beta \ \models \ \lnot \alpha
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(\alpha \rightarrow \beta \)と\(\lnot \beta \)がともに真である場合には\(\lnot \alpha \)は真になります。同時に、\(\lnot\alpha \)が偽である場合には、\(\alpha \rightarrow \beta \)または\(\lnot\beta \)の少なくとも一方が偽になることが保証されます。なぜなら、仮に\(\alpha \rightarrow \beta \)と\(\lnot\beta \)がともに真である場合、後件否定\(\left( 1\right) \)より\(\lnot \alpha \)が真であることが導き出されますが、これは\(\lnot \alpha \)が偽であることと矛盾するからです。

例(後件否定)
命題関数\(P\left( x\right) ,Q\left( x\right) \)を任意に選びます。命題関数は論理式であるため、後件否定より、\begin{equation*}P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) ,\ \lnot Q\left( x\right) \
\models \ \lnot P\left( x\right)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \)と\(\lnot Q\left( x\right) \)が真である場合には\(\lnot P\left( x\right) \)は真になります。同時にこれは、\(\lnot P\left( x\right) \)が偽である場合には\(P\left( x\right)\rightarrow Q\left( x\right) \)または\(\lnot Q\left(x\right) \)の少なくとも一方が偽であることも意味します。
例(後件否定)
命題変数\(P\left( x\right) ,Q\left( x\right) ,R\left(x\right) \)を任意に選びます。以下の論理式\begin{eqnarray*}P\left( x\right) &\rightarrow &Q\left( x\right) \\
Q\left( x\right) &\rightarrow &R\left( x\right)
\end{eqnarray*}に注目すると、否定導入より、\begin{equation*}
\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right) \rightarrow
\left( Q\left( x\right) \rightarrow R\left( x\right) \right) ,\ \lnot \left(
Q\left( x\right) \rightarrow R\left( x\right) \right) \ \models \ \lnot
\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left(x\right) \right) \rightarrow \left( Q\left( x\right) \rightarrow R\left( x\right) \right) \)と\(\lnot \left( Q\left( x\right) \rightarrow R\left(x\right) \right) \)が真である場合には\(\lnot \left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right)\right) \)は真になります。同時にこれは、\(\lnot \left(P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right) \)が偽である場合には\(\left( P\left(x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right) \rightarrow \left( Q\left( x\right) \rightarrow R\left( x\right) \right) \)または\(\lnot \left( Q\left( x\right) \rightarrow R\left( x\right) \right) \)の少なくとも一方が偽であることも意味します。
例(後件否定)
以下の推論について考えます。\begin{eqnarray*}
&&\text{すべての犬は吠える} \\
&&\text{太郎は吠えない} \\
&&\text{したがって、太郎は犬ではない}
\end{eqnarray*}変数\(x\)の定義域\(X\)はすべての生き物からなる集合であるものとします。さらに命題関数\(P\left( x\right) ,Q\left( x\right) \)を、\begin{eqnarray*}P\left( x\right) &:&x\text{は犬である} \\
Q\left( x\right) &:&x\text{は吠える}
\end{eqnarray*}とおくと、先の推論は、\begin{equation}
\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right)
,\ \lnot Q\left( \text{太郎}\right) \ \therefore \ \lnot P\left(
\text{太郎}\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化されます。この推論は妥当でしょうか。前提の1つである、\begin{equation*}
\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right)
\end{equation*}に全称除去を適用すると、\begin{equation*}
P\left( \text{太郎}\right) \rightarrow Q\left( \text{太郎}\right)
\end{equation*}を得ます。これともう一方の前提である\(\lnot Q\left( \text{太郎}\right) \)に対して後件否定を適用すると\(\lnot P\left( \text{太郎}\right) \)を得るため、推論\(\left( 1\right) \)が妥当であることが示されました。では、「太郎は吠えないにも関わらず犬である」場合には何が起きているでしょうか。これは推論\(\left( 1\right) \)の結論が偽であることを意味します。推論規則\(\left( 1\right) \)が成り立つことを踏まえると、推論の結論が偽である場合、推論の前提である\(\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right) \)または\(\lnot Q\left( \text{太郎}\right) \)の少なくとも一方が偽です。今は\(\lnot Q\left( \text{太郎}\right) \)が真である状況について考えているため\(\forall x\in X:\left(P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right) \)が偽でなければなりません。つまり、「太郎はほえないにも関わらず犬である」場合には、「すべての犬は吠える」という理屈そのものが間違っているという結論になります。

 

前件否定

含意の後件を否定する後件否定は妥当である一方で、含意の前件を否定する前件否定(denying the antecedent)は妥当ではありません。つまり、\begin{equation*}
A\rightarrow B,\ \lnot A\ \not\models \ \lnot B
\end{equation*}となります(演習問題)。\(A\rightarrow B\)と\(\lnot A\)がともに真である状況において\(\lnot B\)が必ず真になることを保証できないということです。

命題(前件否定)
論理式\(A,B\)について、\begin{equation*}A\rightarrow B,\ \lnot A\ \not\models \ \lnot B
\end{equation*}が成り立つ。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

例(前件否定)
以下の推論について考えます。\begin{eqnarray*}
&&\text{すべての犬は吠える} \\
&&\text{太郎は犬ではない} \\
&&\text{したがって、太郎は吠えない}
\end{eqnarray*}変数\(x\)の定義域\(X\)はすべての生き物からなる集合であるものとします。さらに命題関数\(P,Q\)を、\begin{eqnarray*}P\left( x\right) &:&x\text{は犬である} \\
Q\left( x\right) &:&x\text{は吠える}
\end{eqnarray*}とおくと、先の推論は、\begin{equation*}
\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right)
,\ \lnot P\left( \text{太郎}\right) \ \therefore \ \lnot Q\left(
\text{太郎}\right)
\end{equation*}と定式化されます。この推論は妥当でしょうか。前提の1つである、\begin{equation*}
\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right)
\end{equation*}に全称除去を適用すると、\begin{equation*}
P\left( \text{太郎}\right) \rightarrow Q\left( \text{太郎}\right)
\end{equation*}を得ます。これともう一方の前提である\(\lnot P\left( \text{太郎}\right) \)に前件否定を適用すると\(\lnot P\left( \text{太郎}\right) \)を得られますが、そもそも前件否定は正しい推論規則ではありません。実際、与えられた推論は妥当ではありません(演習問題)。

 

演習問題

問題(後件否定)
以下の推論が妥当であることを示してください。\begin{eqnarray*}
&&\text{幸せなときは笑う。} \\
&&\text{彼は笑っていない。} \\
&&\text{したがって、彼は幸せではない。}
\end{eqnarray*}その上で、「彼が幸せであるにも関わらず笑っていない」場合には何が起きているか、議論してください。

解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(前件否定)
以下の推論が妥当ではないことを示してください。\begin{eqnarray*}
&&\text{すべての犬は吠える} \\
&&\text{太郎は犬ではない} \\
&&\text{したがって、太郎は吠えない}
\end{eqnarray*}
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

関連知識

Mailで保存
Xで共有

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです

会員登録

有料のプレミアム会員であれば、質問やコメントの投稿と閲覧、プレミアムコンテンツ(命題の証明や演習問題とその解答)へのアクセスなどが可能になります。

ワイズのユーザーは年齢・性別・学歴・社会的立場などとは関係なく「学ぶ人」として対等であり、お互いを人格として尊重することが求められます。ユーザーが快適かつ安心して「学ぶ」ことに集中できる環境を整備するため、広告やスパム投稿、他のユーザーを貶めたり威圧する発言、学んでいる内容とは関係のない不毛な議論などはブロックすることになっています。詳細はガイドラインをご覧ください。

誤字脱字、リンク切れ、内容の誤りを発見した場合にはコメントに投稿するのではなく、以下のフォームからご連絡をお願い致します。

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録