後件否定
論理式\(A,B\)を任意に選んだとき、以下の推論規則\begin{equation*}A\rightarrow B,\ \lnot B\ \models \ \lnot A
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(A\rightarrow B\)と\(\lnot B\)が真であるような任意の解釈のもとで\(\lnot A\)は真になります。これは後件否定(denying the consequent)やモーダストレンス(modus tollens)と呼ばれる推論規則です。
\end{equation*}が成り立つ。
後件否定\begin{equation}
A\rightarrow B,\ \lnot B\ \models \ \lnot A \quad \cdots (1)
\end{equation}は推論規則であるため、\(\left( 1\right) \)を構成する\(A,B\)にそれぞれどのような具体的な論理式\(\alpha,\beta \)を入れた場合においても、\begin{equation*}\alpha \rightarrow \beta ,\ \lnot \beta \ \models \ \lnot \alpha
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(\alpha \rightarrow \beta \)と\(\lnot \beta \)がともに真である場合には\(\lnot \alpha \)は真になります。同時に、\(\lnot\alpha \)が偽である場合には、\(\alpha \rightarrow \beta \)または\(\lnot\beta \)の少なくとも一方が偽になることが保証されます。なぜなら、仮に\(\alpha \rightarrow \beta \)と\(\lnot\beta \)がともに真である場合、後件否定\(\left( 1\right) \)より\(\lnot \alpha \)が真であることが導き出されますが、これは\(\lnot \alpha \)が偽であることと矛盾するからです。
\models \ \lnot P\left( x\right)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \)と\(\lnot Q\left( x\right) \)が真である場合には\(\lnot P\left( x\right) \)は真になります。同時にこれは、\(\lnot P\left( x\right) \)が偽である場合には\(P\left( x\right)\rightarrow Q\left( x\right) \)または\(\lnot Q\left(x\right) \)の少なくとも一方が偽であることも意味します。
Q\left( x\right) &\rightarrow &R\left( x\right)
\end{eqnarray*}に注目すると、否定導入より、\begin{equation*}
\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right) \rightarrow
\left( Q\left( x\right) \rightarrow R\left( x\right) \right) ,\ \lnot \left(
Q\left( x\right) \rightarrow R\left( x\right) \right) \ \models \ \lnot
\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left(x\right) \right) \rightarrow \left( Q\left( x\right) \rightarrow R\left( x\right) \right) \)と\(\lnot \left( Q\left( x\right) \rightarrow R\left(x\right) \right) \)が真である場合には\(\lnot \left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right)\right) \)は真になります。同時にこれは、\(\lnot \left(P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right) \)が偽である場合には\(\left( P\left(x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right) \rightarrow \left( Q\left( x\right) \rightarrow R\left( x\right) \right) \)または\(\lnot \left( Q\left( x\right) \rightarrow R\left( x\right) \right) \)の少なくとも一方が偽であることも意味します。
&&\text{すべての犬は吠える} \\
&&\text{太郎は吠えない} \\
&&\text{したがって、太郎は犬ではない}
\end{eqnarray*}変数\(x\)の定義域\(X\)はすべての生き物からなる集合であるものとします。さらに命題関数\(P\left( x\right) ,Q\left( x\right) \)を、\begin{eqnarray*}P\left( x\right) &:&x\text{は犬である} \\
Q\left( x\right) &:&x\text{は吠える}
\end{eqnarray*}とおくと、先の推論は、\begin{equation}
\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right)
,\ \lnot Q\left( \text{太郎}\right) \ \therefore \ \lnot P\left(
\text{太郎}\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化されます。この推論は妥当でしょうか。前提の1つである、\begin{equation*}
\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right)
\end{equation*}に全称除去を適用すると、\begin{equation*}
P\left( \text{太郎}\right) \rightarrow Q\left( \text{太郎}\right)
\end{equation*}を得ます。これともう一方の前提である\(\lnot Q\left( \text{太郎}\right) \)に対して後件否定を適用すると\(\lnot P\left( \text{太郎}\right) \)を得るため、推論\(\left( 1\right) \)が妥当であることが示されました。では、「太郎は吠えないにも関わらず犬である」場合には何が起きているでしょうか。これは推論\(\left( 1\right) \)の結論が偽であることを意味します。推論規則\(\left( 1\right) \)が成り立つことを踏まえると、推論の結論が偽である場合、推論の前提である\(\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right) \)または\(\lnot Q\left( \text{太郎}\right) \)の少なくとも一方が偽です。今は\(\lnot Q\left( \text{太郎}\right) \)が真である状況について考えているため\(\forall x\in X:\left(P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right) \)が偽でなければなりません。つまり、「太郎はほえないにも関わらず犬である」場合には、「すべての犬は吠える」という理屈そのものが間違っているという結論になります。
前件否定
含意の後件を否定する後件否定は妥当である一方で、含意の前件を否定する前件否定(denying the antecedent)は妥当ではありません。つまり、\begin{equation*}
A\rightarrow B,\ \lnot A\ \not\models \ \lnot B
\end{equation*}となります(演習問題)。\(A\rightarrow B\)と\(\lnot A\)がともに真である状況において\(\lnot B\)が必ず真になることを保証できないということです。
\end{equation*}が成り立つ。
&&\text{すべての犬は吠える} \\
&&\text{太郎は犬ではない} \\
&&\text{したがって、太郎は吠えない}
\end{eqnarray*}変数\(x\)の定義域\(X\)はすべての生き物からなる集合であるものとします。さらに命題関数\(P,Q\)を、\begin{eqnarray*}P\left( x\right) &:&x\text{は犬である} \\
Q\left( x\right) &:&x\text{は吠える}
\end{eqnarray*}とおくと、先の推論は、\begin{equation*}
\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right)
,\ \lnot P\left( \text{太郎}\right) \ \therefore \ \lnot Q\left(
\text{太郎}\right)
\end{equation*}と定式化されます。この推論は妥当でしょうか。前提の1つである、\begin{equation*}
\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right)
\end{equation*}に全称除去を適用すると、\begin{equation*}
P\left( \text{太郎}\right) \rightarrow Q\left( \text{太郎}\right)
\end{equation*}を得ます。これともう一方の前提である\(\lnot P\left( \text{太郎}\right) \)に前件否定を適用すると\(\lnot P\left( \text{太郎}\right) \)を得られますが、そもそも前件否定は正しい推論規則ではありません。実際、与えられた推論は妥当ではありません(演習問題)。
演習問題
&&\text{幸せなときは笑う。} \\
&&\text{彼は笑っていない。} \\
&&\text{したがって、彼は幸せではない。}
\end{eqnarray*}その上で、「彼が幸せであるにも関わらず笑っていない」場合には何が起きているか、議論してください。
&&\text{すべての犬は吠える} \\
&&\text{太郎は犬ではない} \\
&&\text{したがって、太郎は吠えない}
\end{eqnarray*}
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