存在命題
論理式の定義より、論理式\(A\)と変数\(x\in X\)に対して量化記号\(\exists \)を作用させることで得られる、\begin{equation}\exists x\in X\ A \quad \cdots (1)
\end{equation}もまた論理式です。\(\exists \)は存在記号(existential quantifier)と呼ばれる量化記号であり、存在記号を作用させることにより得られる論理式\(\left( 1\right) \)を存在命題(existential propositioin)と呼びます。これは「\(A\)であるような値\(x\)が\(X\)の中に存在する(there exists \(x\) in \(X\) such that \(A\))」や「\(X\)のある値\(x\)について\(A\)(for some \(x\) in \(X\), \(A\))」などの表現に対応する論理式です。存在命題\(\left( 1\right) \)において変数\(x\)の定義域\(X\)が文脈から明らかであるとき、それを省略して、\begin{equation*}\exists x\ A
\end{equation*}と表記できるものとします。また、見やすさを考慮して、\(\left(1\right) \)を、\begin{equation*}\exists x\in X:A
\end{equation*}と表記できるものとします。
\end{equation}と表現できます。もとの主張は「\(\left( 1\right) \)を満たす整数\(x\)が存在する」という主張に相当するため、それを、\begin{equation*}\exists x\in \mathbb{Z} :1+x=0
\end{equation*}と表現できます。
\quad \cdots (1)
\end{equation}と表現できます。もとの主張は「\(\left( 1\right) \)を満たす整数\(x\)が存在する」という主張に相当するため、それを、\begin{equation*}\exists x\in \mathbb{Z} :\lnot \left( x\text{は偶数である}\right)
\end{equation*}と表現できます。
\end{equation*}と表現できます。もとの主張は「\(\left( 1\right) \)が特定の実数\(\overline{x}\)についてだけでなく、任意の実数\(x\in \mathbb{R} \)について成立する」という主張に相当するため、それは、\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} :\left( \exists y\in \mathbb{R} :x=y^{2}\right)
\end{equation*}と定式化されます。
\end{equation}と表現できます。もとの主張は「\(\left( 1\right) \)を満たすモノ\(y\)が存在する」という主張に相当するため、それを、\begin{equation*}\exists y\in Y:\left( \text{加藤は}y\text{を持っている}\wedge \lnot \left( \text{鈴木は}y\text{を持っている}\right)
\right)
\end{equation*}と表現できます。一方、「車とバイクの両方を持っている人がいる」という主張は、すべての人からなる集合\(X\)を定義域とする変数\(x\)を用いて、\begin{equation*}\exists x\in X:\left( x\text{は車を持っている}\wedge x\text{はバイクを持っている}\right)
\end{equation*}と定式化されます。
\end{equation*}と定式化されます。もとの主張は「\(\left( 1\right) \)が特定の住人\(\overline{x}\)についてだけではなく、任意の住人\(x\in X\)について成立する」という主張に相当するため、それは、\begin{equation*}\forall x\in X:\left( \exists y\in X:\lnot \left( x\text{は}y\text{と知り合い}\right) \right)
\end{equation*}と定式化されます。
開論理式に関する存在命題の解釈
論理式\(A\)が変数\(x\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x\right) \)であるものとします。このとき、変数\(x\)に関する存在命題\begin{equation}\exists x\in X:A\left( x\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}を、変数の自由な現れを持たない閉論理式であるものと定めた上で、これを以下の論理和\begin{equation}
\bigvee\limits_{x\in X}A\left( x\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}と同一視します。閉論理式の値を特定するためには「解釈」に相当する以下の2つの要素\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \text{議論領域} \\
&&\left( b\right) \ \text{論理式}A\text{を構成するすべての命題関数の形状}
\end{eqnarray*}を具体的に特定する必要がありますが、解釈を任意に選んだとき、\(\left( 1\right) \)から得られる命題と\(\left( 2\right) \)から得られる命題の真理値が常に一致するものと定めるということです。
\end{equation}と定式化されます。存在命題の定義より、これは以下の論理式\begin{equation}
\bigvee\limits_{x\in \mathbb{R} }\left( x^{2}=2\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}と同一視されます。実数\(\sqrt{2}\in \mathbb{R} \)について、\begin{equation*}\left( \sqrt{2}\right) ^{2}=2
\end{equation*}は真であるため、論理和の定義より\(\left( 2\right) \)は真です。したがって、\(\left( 2\right) \)と同一視されるもとの主張\(\left( 1\right) \)もまた真です。
\end{equation}と定式化されます。存在命題の定義より、これは以下の論理式\begin{equation}
\bigvee\limits_{x\in \mathbb{Z} }\left( x^{2}=2\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}と同一視されます。整数\(x\in \mathbb{Z} \)を任意に選んだとき、\begin{equation*}x^{2}=2
\end{equation*}は偽であるため、論理和の定義より\(\left( 2\right) \)は偽です。したがって、\(\left( 2\right) \)と同一視されるもとの主張\(\left( 1\right) \)もまた偽です。
\end{equation}と定式化されます。存在命題の定義より、これは以下の論理式\begin{equation}
\bigvee\limits_{x\in X}\left( \lnot \left( x\text{の出生地は日本}\right) \wedge x\text{は日本人}\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}と同一視されます。日本は出生地主義ではなく血統主義を採用しているため、出生地が日本ではない日本人が存在します。そのような人を\(\overline{x}\in X\)について、\begin{equation*}\lnot \left( \overline{x}\text{の出生地は日本}\right) \wedge \overline{x}\text{は日本人}
\end{equation*}は真であるため、論理和の定義より\(\left( 2\right) \)は真です。したがって、\(\left( 2\right) \)と同一視されるもとの主張\(\left( 1\right) \)もまた真です。
論理式\(A\)が変数\(x,y\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x,y\right) \)であるものとします。このとき、変数\(x\)に関する存在命題\begin{equation}\exists x\in X:A\left( x,y\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}を、変数\(y\)の自由な現れを持つ開論理式とみなした上で、これを以下の論理和\begin{equation}\bigvee\limits_{x\in X}A\left( x,y\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}と同一視します。開論理式の値を特定するためには「解釈」に相当する以下の3つの要素\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \text{議論領域} \\
&&\left( b\right) \ \text{論理式}A\text{を構成するすべての命題関数の形状} \\
&&\left( c\right) \ \text{変数の自由な現れに代入する値}\overline{y}
\end{eqnarray*}を具体的に特定する必要がありますが、解釈を任意に選んだとき、\(\left( 1\right) \)から得られる命題と\(\left( 2\right) \)から得られる命題の真理値が常に一致するものと定めるということです。
ここでは話を論理式\(A\)が変数\(x,y\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x,y\right) \)である状況を想定した上で、そのうちの一方の変数\(x\)に関する存在命題\(\exists x\in X:A\left( x,y\right) \)をとりましたが、\(y\)に相当する変数の自由な現れが複数存在する場合にも同様に考えます。
\end{equation*}であるものとします。以下の存在命題\begin{equation*}
\exists x\in X:x<y
\end{equation*}は以下の論理式\begin{equation*}
\bigvee\limits_{x\in X}\left( x<y\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
1<y\vee 2<y\vee 3<y
\end{equation*}と同一視されます。これは変数\(y\)の自由な現れを持つ開論理式であり、真理集合は、\begin{equation*}\left\{ 2,3\right\}
\end{equation*}となります。
論理式\(A\)が変数\(x\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x\right) \)であるとき、\(A\)において自由な現れが存在しない変数\(y\in Y\)を任意に選んだ上で全称命題\begin{equation}\exists y\in Y:A\left( x\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}を作ることができますが、これをもとの開論理式\begin{equation}
A\left( x\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}と同一視します。開論理式の値を特定するためには「解釈」に相当する以下の3つの要素\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \text{議論領域} \\
&&\left( b\right) \ \text{論理式}A\text{を構成するすべての命題関数の形状} \\
&&\left( c\right) \ \text{変数の自由な現れに代入する値}\overline{y}
\end{eqnarray*}を具体的に特定する必要がありますが、解釈を任意に選んだとき、\(\left( 1\right) \)から得られる命題と\(\left( 2\right) \)から得られる命題の真理値が常に一致するものと定めるということです。
\end{equation*}を作ることができますが、これは\(P\left( x\right) \)と同一視されます。
\end{equation}は変数\(y\)の自由な現れを持つ開論理式であり、変数\(x\)の自由な現れを持ちません。したがって、以下の存在命題\begin{equation*}\exists x\in X,\ \exists x\in X:P\left( x,y\right)
\end{equation*}は\(\left( 1\right) \)と同一視されます。
閉論理式に関する存在命題の解釈
論理式\(A\)が閉論理式であるとき、すなわち変数の自由な現れを持たない場合にも、変数\(x\in X\)を任意に選んだ上で存在命題\begin{equation}\exists x\in X:A \quad \cdots (1)
\end{equation}を作ることができますが、これをもとの閉論理式\begin{equation}
A \quad \cdots (2)
\end{equation}と同一視します。閉論理式の値を特定するためには「解釈」に相当する以下の2つの要素\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \text{議論領域} \\
&&\left( b\right) \ \text{論理式}A\text{を構成するすべての命題関数の形状}
\end{eqnarray*}を具体的に特定する必要がありますが、解釈を任意に選んだとき、\(\left( 1\right) \)から得られる命題と\(\left( 2\right) \)から得られる命題の真理値が常に一致するものと定めるということです。
\end{equation}は変数の自由な現れを持たない閉論理式です。したがって、以下の存在命題\begin{equation*}
\exists x\in X,\ \exists x\in X:P\left( x\right)
\end{equation*}は\(\left( 1\right) \)と同一視されます。同様に、\begin{equation*}\exists y\in Y,\ \exists x\in X:P\left( x\right)
\end{equation*}もまた\(\left( 1\right) \)と同一視されます。
演習問題
\text{クラスの中に宿題をやらなかった生徒がいる}
\end{equation*}を論理式として定式化してください。
\text{完璧な人間は存在しない}
\end{equation*}を論理式として定式化してください。
\text{学生の中には誰かと結婚している人がいる}
\end{equation*}を論理式として定式化してください。
\text{誰かの親であるような人は必ず誰かと結婚している}
\end{equation*}を論理式として定式化してください。
\text{天然痘患者に接触した人はもれなく隔離対象となる}
\end{equation*}を論理式として定式化してください。
&&\left( a\right) \ \text{どの犬も、何らかの猫のことが好きである} \\
&&\left( b\right) \ \text{どの犬も、何らかの猫によって好かれる}
\end{eqnarray*}を論理式として定式化してください。
\end{equation*}と定義します。以下の論理式を日常言語で表現してください。
- \(\forall x\in X:P\left( x\right) \)
- \(\exists x\in X:P\left( x\right) \)
- \(\lnot \left( \exists x\in X:P\left( x\right) \right) \)
- \(\exists x\in X:\lnot P\left( x\right) \)
\end{equation*}と定義します。以下のそれぞれの論理式について、それが開論理式である場合には真理集合を明らかにし、閉論理式である場合には真理値を明らかにしてください。
- \(\exists x\in \mathbb{N} ,\ \exists y\in \mathbb{N} :\left( P\left( x,y\right) \rightarrow P\left( y,x\right) \right) \)
- \(\exists x\in \mathbb{N} ,\ \exists y\in \mathbb{N} :P\left( x,y\right) \)
- \(\forall x\in \mathbb{N} ,\ \exists y\in \mathbb{N} :P\left( x,y\right) \)
- \(\exists x\in \mathbb{N} ,\ \forall y\in \mathbb{N} :P\left( x,y\right) \)
- \(\exists x\in \mathbb{N} :P\left( x,y\right) \)
- \(\forall x\in \mathbb{N} ,\ \exists y\in \mathbb{N} :x<y\)
- \(\exists y\in \mathbb{N} ,\ \forall x\in \mathbb{N} :x<y\)
- \(\exists x\in \mathbb{N} ,\ \forall y\in \mathbb{N} :x<y\)
- \(\forall y\in \mathbb{N} ,\ \exists x\in \mathbb{N} :x<y\)
- \(\exists x\in \mathbb{N} ,\ \exists y\in \mathbb{N} :x<y\)
- \(\forall x\in \mathbb{N} ,\ \forall y\in \mathbb{N} :x<y\)
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