含意除去
論理式\(A,B\)をそれぞれ任意に選んだときに、\begin{equation*}\left( \left( A\rightarrow B\right) \wedge A\right) \Rightarrow B
\end{equation*}が成り立つことが示されるため、ここから以下の推論規則を得ます。
命題(含意除去)
任意の論理式\(A,B\)に対して、\begin{equation*}A\rightarrow B,\ A\ \models \ B
\end{equation*}が成り立つ。
\end{equation*}が成り立つ。
上の命題より、解釈を任意に選んだとき、\(A\rightarrow B\)と\(A\)から得られる命題がともに真である場合、\(B\)から得られる命題もまた真になることが保証されます。この推論規則を含意除去(implicationelimination)や前件肯定(affirming the antecedent)、\(\rightarrow \)除去(\(\rightarrow \ \)elimination)、モーダスポネンス(modus ponens)などと呼びます。
例(含意除去)
命題関数\(P\left( x\right) ,Q\left( x\right) \)をそれぞれ任意に選んだとき、含意除去より、\begin{equation*}P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) ,\ P\left( x\right) \ \models
\ Q\left( x\right)
\end{equation*}が成り立ちます。
\ Q\left( x\right)
\end{equation*}が成り立ちます。
例(含意除去)
以下の推論について考えます。\begin{eqnarray*}
&&\text{任意の整数}x\text{について、}x\text{が偶数ならば}x^{2}\text{は偶数である} \\
&&c\text{は偶数である} \\
&&\text{ゆえに、}c^{2}\text{は偶数である}
\end{eqnarray*}ただし、変数\(x\)の定義域はすべての整数からなる集合\(\mathbb{Z} \)です。また、\(c\)はすべての整数を代表的に表す記号です。以下の命題関数\begin{eqnarray*}P\left( x\right) &:&x\text{は偶数である}
\\
Q\left( x\right) &:&x^{2}\text{は偶数である}
\end{eqnarray*}を定義すると、与えられた推論は、\begin{equation}
\forall x\in \mathbb{Z} :\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right) ,\ P\left(
c\right) \ \therefore \ Q\left( c\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化されます。この推論は妥当でしょうか。前提の1つである、\begin{equation*}
\forall x\in \mathbb{Z} :\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right)
\end{equation*}に全称除去を適用すると、\begin{equation*}
P\left( c\right) \rightarrow Q\left( c\right)
\end{equation*}を得ます。これともう一方の前提である\(P\left( c\right) \)に対して含意除去を適用すると\(Q\left( c\right) \)を得るため、\(\left( 1\right) \)が妥当であることが示されました。
&&\text{任意の整数}x\text{について、}x\text{が偶数ならば}x^{2}\text{は偶数である} \\
&&c\text{は偶数である} \\
&&\text{ゆえに、}c^{2}\text{は偶数である}
\end{eqnarray*}ただし、変数\(x\)の定義域はすべての整数からなる集合\(\mathbb{Z} \)です。また、\(c\)はすべての整数を代表的に表す記号です。以下の命題関数\begin{eqnarray*}P\left( x\right) &:&x\text{は偶数である}
\\
Q\left( x\right) &:&x^{2}\text{は偶数である}
\end{eqnarray*}を定義すると、与えられた推論は、\begin{equation}
\forall x\in \mathbb{Z} :\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right) ,\ P\left(
c\right) \ \therefore \ Q\left( c\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化されます。この推論は妥当でしょうか。前提の1つである、\begin{equation*}
\forall x\in \mathbb{Z} :\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right)
\end{equation*}に全称除去を適用すると、\begin{equation*}
P\left( c\right) \rightarrow Q\left( c\right)
\end{equation*}を得ます。これともう一方の前提である\(P\left( c\right) \)に対して含意除去を適用すると\(Q\left( c\right) \)を得るため、\(\left( 1\right) \)が妥当であることが示されました。
例(含意除去)
以下の推論について考えます。\begin{eqnarray*}
&&\text{任意の学生}x\text{および講義}y\text{について、}x\text{が}y\text{に出席すればその単位を取得できる} \\
&&\text{太郎は線型代数の講義に出席する} \\
&&\text{ゆえに、太郎は線形代数の単位を取得する}
\end{eqnarray*}ただし、変数\(x\)の定義域\(X\)はすべての学生からなる集合であり、変数\(y\)の定義域\(Y\)はすべての講義からなる集合です。以下の命題関数\begin{eqnarray*}P\left( x,y\right) &:&x\text{は}y\text{に出席する} \\
Q\left( x,y\right) &:&x\text{は}y\text{の単位を取得する}
\end{eqnarray*}を定義すると、与えられた推論は、\begin{equation}
\left( \forall x\in X,\ \forall y\in Y:P\left( x,y\right) \rightarrow
Q\left( x,y\right) \right) ,\ P\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right) \ \therefore \ Q\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化されます。この推論は妥当でしょうか。前提の1つである、\begin{equation*}
\left( \forall x\in X,\ \forall y\in Y:P\left( x,y\right) \rightarrow
Q\left( x,y\right) \right)
\end{equation*}に全称除去を適用すると、\begin{equation*}
P\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right) \rightarrow Q\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right)
\end{equation*}を得ます。これともう一方の前提である\(P\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right) \)に対して含意除去を適用すると\(Q\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right) \)を得るため、\(\left( 1\right) \)が妥当であることが示されました。
&&\text{任意の学生}x\text{および講義}y\text{について、}x\text{が}y\text{に出席すればその単位を取得できる} \\
&&\text{太郎は線型代数の講義に出席する} \\
&&\text{ゆえに、太郎は線形代数の単位を取得する}
\end{eqnarray*}ただし、変数\(x\)の定義域\(X\)はすべての学生からなる集合であり、変数\(y\)の定義域\(Y\)はすべての講義からなる集合です。以下の命題関数\begin{eqnarray*}P\left( x,y\right) &:&x\text{は}y\text{に出席する} \\
Q\left( x,y\right) &:&x\text{は}y\text{の単位を取得する}
\end{eqnarray*}を定義すると、与えられた推論は、\begin{equation}
\left( \forall x\in X,\ \forall y\in Y:P\left( x,y\right) \rightarrow
Q\left( x,y\right) \right) ,\ P\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right) \ \therefore \ Q\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化されます。この推論は妥当でしょうか。前提の1つである、\begin{equation*}
\left( \forall x\in X,\ \forall y\in Y:P\left( x,y\right) \rightarrow
Q\left( x,y\right) \right)
\end{equation*}に全称除去を適用すると、\begin{equation*}
P\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right) \rightarrow Q\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right)
\end{equation*}を得ます。これともう一方の前提である\(P\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right) \)に対して含意除去を適用すると\(Q\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right) \)を得るため、\(\left( 1\right) \)が妥当であることが示されました。
後件肯定
含意の前件を肯定する前件肯定は妥当である一方で、含意の後件を肯定する後件肯定(affirming the consequent)は妥当ではありません。すなわち、\begin{equation*}
A\rightarrow B,\ B\ \not\models \ A
\end{equation*}となります。
命題(後件肯定)
論理式\(A,B\)に対して、\begin{equation*}A\rightarrow B,\ B\ \not\models \ A
\end{equation*}が成り立つ。
\end{equation*}が成り立つ。
例(後件肯定)
以下の推論について考えます。\begin{eqnarray*}
&&\text{任意の学生}x\text{と講義}y\text{について、}x\text{が}y\text{に出席するならば}x\text{は}y\text{の単位を取得する} \\
&&\text{学生である太郎は線型代数の単位を取得した} \\
&&\text{ゆえに、太郎は線型代数の講義に出席した}
\end{eqnarray*}ただし、変数\(x\)の定義域\(X\)はすべての学生からなる集合であり、変数\(y\)の定義域\(Y\)はすべての講義からなる集合です。以下の命題関数\begin{eqnarray*}P\left( x,y\right) &:&x\text{は}y\text{に出席する} \\
Q\left( x,y\right) &:&x\text{は}y\text{の単位を取得する}
\end{eqnarray*}を定義すると、与えられた推論は、\begin{equation}
\left( \forall x\in X,\ \forall y\in Y:P\left( x,y\right) \rightarrow
Q\left( x,y\right) \right) ,\ Q\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right) \ \therefore \ P\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化されます。この推論は妥当ではありません。実際、太郎が線型代数の講義に出席しなかったにも関わらず線形代数の単位を取得したのであれば(例えば、期末試験だけを受けて高得点を取った場合)、\(\left( 1\right) \)の前提がともに真である一方で結論が偽である状況が起こり得ることになるため、\(\left( 1\right) \)は妥当ではないことになります。
&&\text{任意の学生}x\text{と講義}y\text{について、}x\text{が}y\text{に出席するならば}x\text{は}y\text{の単位を取得する} \\
&&\text{学生である太郎は線型代数の単位を取得した} \\
&&\text{ゆえに、太郎は線型代数の講義に出席した}
\end{eqnarray*}ただし、変数\(x\)の定義域\(X\)はすべての学生からなる集合であり、変数\(y\)の定義域\(Y\)はすべての講義からなる集合です。以下の命題関数\begin{eqnarray*}P\left( x,y\right) &:&x\text{は}y\text{に出席する} \\
Q\left( x,y\right) &:&x\text{は}y\text{の単位を取得する}
\end{eqnarray*}を定義すると、与えられた推論は、\begin{equation}
\left( \forall x\in X,\ \forall y\in Y:P\left( x,y\right) \rightarrow
Q\left( x,y\right) \right) ,\ Q\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right) \ \therefore \ P\left( \text{太郎},\text{線型代数}\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化されます。この推論は妥当ではありません。実際、太郎が線型代数の講義に出席しなかったにも関わらず線形代数の単位を取得したのであれば(例えば、期末試験だけを受けて高得点を取った場合)、\(\left( 1\right) \)の前提がともに真である一方で結論が偽である状況が起こり得ることになるため、\(\left( 1\right) \)は妥当ではないことになります。
ただし、後件否定が成り立つようなケースもあります。
例(後件肯定)
以下の推論について考えます。\begin{eqnarray*}
&&\text{任意の整数}x\text{について、}x\text{が偶数ならば}x^{2}\text{は偶数である} \\
&&2^{2}\text{は偶数である} \\
&&\text{ゆえに、}2\text{は偶数である}
\end{eqnarray*}ただし、変数\(x\)の定義域はすべての整数からなる集合\(\mathbb{Z} \)です。以下の命題関数\begin{eqnarray*}P\left( x\right) &:&x\text{は偶数である}
\\
Q\left( x\right) &:&x^{2}\text{は偶数である}
\end{eqnarray*}を定義すると、先の推論を、\begin{equation}
\forall x\in \mathbb{Z} :\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right) ,\ Q\left(
2\right) \ \therefore \ P\left( 2\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化できます。\(\left( 1\right) \)の前提がともに真であるとともに結論も真であるため、\(\left( 1\right) \)は妥当です。
&&\text{任意の整数}x\text{について、}x\text{が偶数ならば}x^{2}\text{は偶数である} \\
&&2^{2}\text{は偶数である} \\
&&\text{ゆえに、}2\text{は偶数である}
\end{eqnarray*}ただし、変数\(x\)の定義域はすべての整数からなる集合\(\mathbb{Z} \)です。以下の命題関数\begin{eqnarray*}P\left( x\right) &:&x\text{は偶数である}
\\
Q\left( x\right) &:&x^{2}\text{は偶数である}
\end{eqnarray*}を定義すると、先の推論を、\begin{equation}
\forall x\in \mathbb{Z} :\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right) ,\ Q\left(
2\right) \ \therefore \ P\left( 2\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化できます。\(\left( 1\right) \)の前提がともに真であるとともに結論も真であるため、\(\left( 1\right) \)は妥当です。
演習問題
問題(含意除去)
以下の推論が妥当であることを示してください。\begin{eqnarray*}
&&\text{すべての人間はDNAを持っている} \\
&&c\text{は人間である} \\
&&\text{ゆえに、}c\text{はDNAを持っている}
\end{eqnarray*}ただし、\(c\)はすべての人間を代表的に表す記号です。
&&\text{すべての人間はDNAを持っている} \\
&&c\text{は人間である} \\
&&\text{ゆえに、}c\text{はDNAを持っている}
\end{eqnarray*}ただし、\(c\)はすべての人間を代表的に表す記号です。
問題(含意除去)
「任意の学生\(x\)について、\(x\)が期末試験で70点以上をとるかすべての講義に出席するかの少なくとも一方を満たすならば、\(x\)の成績は良以上である。学生である太郎は期末試験で70点以上をとるかすべての講義に出席するかの少なくとも一方を満たした。したがって、太郎の成績は良以上である。」という推論が妥当であることを示してください。
プレミアム会員専用コンテンツです
【ログイン】【会員登録】