ある性質を満たす特定の対象から、その性質を満たす対象が存在することを導く推論規則を存在導入と呼びます。つまり、具体的に述べられたことは抽象的にも表現可能であるということです。
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存在導入

論理式\(A\)が変数\(x\in X\)の自由な現れを含む開論理式であることを\(A\left[ x\right] \)と表記します。また、\(A\left[ x\right] \)における変数\(x\)の自由な現れに値\(\overline{x}\in X\)を代入したものを\(A\left[ \overline{x}\right] \)と表記します。このとき、以下の推論規則\begin{equation*}
A\left[ \overline{x}\right] ,\ \overline{x}\in X\ \models \ \exists x\in X\ A\left[ x\right] \end{equation*}を妥当と定めます。つまり、\(X\)に属する値\(\overline{x}\)のもとで\(A\left[ \overline{x}\right] \)が真になるような任意の解釈のもとでは存在命題\(\exists x\in X\ A\left[ x\right] \)を導くことができます。これは存在導入(existential introduction)や\(\exists \)導入(\(\exists \) introduction)、存在汎化(existential generalization)などと呼ばれる推論規則です。

存在導入は、ある性質を満たす特定の対象から、その性質を満たす対象が存在することを導く推論規則です。つまり、具体的に述べられたことは抽象的にも表現可能であるということです。

例(存在導入)
以下の推論について考えます。\begin{eqnarray*}
&&\text{アリストテレスはギリシア人である。} \\
&&\text{したがって、ギリシア人は存在する。}
\end{eqnarray*}変数\(x\)の定義域\(X\)はすべての人間からなる集合であるものとします。また、命題関数\(P\left( x\right) \)を、\begin{equation*}
P\left( x\right) :x\text{はギリシア人である}
\end{equation*}と定義します。すると与えられた推論は、\begin{equation*}
\overline{x}=\text{アリストテレス}
\end{equation*}という値を用いると、\begin{equation*}
P\left( \overline{x}\right) ,\ \overline{x}\in X\ \because \ \exists x\in X\ P\left( x\right)
\end{equation*}と定式化できます。アリストテレスは人間ですから、存在導入より上の推論は妥当です。
例(存在導入)
命題関数\(P\left( x\right) ,Q\left( x\right) \)とある値\(\overline{x}\in X\)について、\begin{equation*}
P\left( \overline{x}\right) \wedge Q\left( \overline{x}\right)
\end{equation*}が真ならば、存在導入より、\begin{equation*}
\exists x\in X\ \left( P\left( x\right) \wedge Q\left( x\right) \right)
\end{equation*}は真です。
例(存在導入)
命題関数\(P\left( x,y\right) ,Q\left( x\right) \)と値\(\overline{x}\in X\)に関する、\begin{equation}
P\left( \overline{x},y\right) \rightarrow Q\left( \overline{x}\right) \tag{1}
\end{equation}という開論理式が与えられたとき、存在導入より、\begin{equation}
\exists x\in X\ \left( P\left( x,y\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right) \tag{2}
\end{equation}という開論理式が導かれます。つまり、\(\left( 1\right) \)が真であるような任意の解釈において\(\left( 2\right) \)も真になります。

 

存在導入に関する制約

存在導入は無条件で使えるわけではありません。存在導入は、\begin{equation*}
A\left[ \overline{x}\right] ,\ \overline{x}\in X\ \models \ \exists x\in X\ A\left[ x\right] \end{equation*}と定式化されますが、論理式\(A\left[ \overline{x}\right] \)において変数\(x\)の自由な現れが残っている場合には、存在導入は妥当ではなくなってしまいます。

具体例として、実数を値として取り得る変数\(x,y\in \mathbb{R}\)に関する命題関数を\begin{equation*}
P\left( x,y\right) :x\not=y\ \vee \ x>y
\end{equation*}と定義します。このとき、存在導入を無批判に適用すると、例えば、\begin{equation*}
P\left( x,\overline{y}\right) ,\ \overline{y}\in \mathbb{R} \ \models \ \exists x\ P\left( x,x\right)
\end{equation*}という推論が妥当になってしまいます。しかし、この推論の結論\(\exists x\ P\left( x,x\right) \)は、\(x\not=x\)または\(x>x\)を満たす実数\(x\)が存在する、という恒偽式です。恒偽式を結論としてもつ推論は妥当ではありません。

以上の議論から明らかになったように、存在導入\begin{equation*}
A\left[ \overline{x}\right] ,\ \overline{x}\in X\ \models \ \exists x\in X\ A\left[ x\right] \end{equation*}を適用する際には、論理式\(A\left[ \overline{x}\right] \)において変数\(x\)の自由な現れが存在しないことを確認する必要があります。

次回は存在除去と呼ばれる推論規則について学びます。

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