全称除去
論理式\(A\)が変数\(x\in X\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x\right) \)であるとき、変数\(x\)に関する全称命題\begin{equation}\forall x\in X:A\left( x\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}は、以下の論理式\begin{equation*}
\bigwedge_{x\in X}A\left( x\right)
\end{equation*}と必要十分なものとして定義されます。したがって、仮に変数\(x\)がとり得る個々の値を、\begin{equation*}X=\left\{ x_{1},x_{2},x_{3},\cdots \right\}
\end{equation*}と具体的に特定できるのであれば、\(\left( 1\right) \)が成り立つことは以下の命題\begin{equation}A\left( x_{1}\right) ,\ A\left( x_{2}\right) ,\ A\left( x_{3}\right) ,\
\cdots \quad \cdots (2)
\end{equation}がすべて真であることを意味します。ただ、同じことをもう少し一般的な形で表現することもできます。具体的には、まず、変数\(x\)がとり得る個々の具体的な値\(x_{1},x_{2},x_{3},\cdots \)とは異なる記号\(c\)を導入します。この記号\(c\)は変数\(x\)がとり得る「すべての値」を代表的な形で表すものであり、変数\(x\)そのものや、変数\(x\)がとり得る個々の具体的な値\(x_{1},x_{2},x_{3},\cdots \)とは区別されます。その上で、論理式\(A\left( x\right) \)中の変数\(x\)に定義域\(X\)中のいかなる値を代入した場合においても得られる命題が真になることを、すなわち\(\left( 2\right) \)がすべて真であることを、\begin{equation}A\left( c\right)
\end{equation}と表記します。以上を踏まえた上で、以下の推論規則\begin{equation*}
\forall x\in X:A\left( x\right) \ \models \ A\left( c\right)
\end{equation*}が成り立つものと定め、これを全称除去(universal elimination)や\(\forall \)除去(\(\forall \) elimination)、全称例化(universal instantiation)、普遍例化(universalinstantiation)などと呼びます。
繰り返しになりますが、全称導入中の\(c\)は変数\(x\)がとり得る「すべての値」を代表的な形で表す記号です。したがって、\(c\)が変数\(x\)がとり得る「何らかの値」を代表的な形で表す記号である場合においても、全称除去のもとでは、\begin{equation*}\forall x\in X:A\left( x\right) \ \models \ A\left( c\right)
\end{equation*}が明らかに成り立ちます。また、変数\(x\)がとり得る具体的な値\(x_{i}\in X\)を任意に選んだ場合にも、全称除去のもとでは、\begin{equation*}\forall x\in X:A\left( x\right) \ \models \ A\left( x_{i}\right)
\end{equation*}が明らかに成り立ちます。
\end{equation*}について考えます。変数\(x\)がとり得る「すべての値」を代表的な形で表す記号\(c\)について、全称除去より、\begin{equation*}\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \wedge Q\left( x\right) \right) \
\models \ P\left( c\right) \wedge Q\left( c\right)
\end{equation*}が成り立ちます。変数\(x\)がとり得る「何らかの値」を代表的な形で表す記号\(c\)についても、全称除去より、\begin{equation*}\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \wedge Q\left( x\right) \right) \
\models \ P\left( c\right) \wedge Q\left( c\right)
\end{equation*}が成り立ちます。具体的な値\(\overline{x}\in X\)に関しても、全称除去より、\begin{equation*}\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \wedge Q\left( x\right) \right) \
\models \ P\left( \overline{x}\right) \wedge Q\left( \overline{x}\right)
\end{equation*}が成り立ちます。
\end{equation*}について考えます。変数\(x\)がとり得る「すべての値」を代表的な形で表す記号\(c\)について、全称除去より、\begin{equation*}\forall y\in Y:\left( P\left( x,y\right) \rightarrow Q\left( x\right)
\right) \ \models \ P\left( c,y\right) \rightarrow Q\left( c\right)
\end{equation*}が成り立ちます。変数\(x\)がとり得る「何らかの値」を代表的な形で表す記号\(c\)についても、全称除去より、\begin{equation*}\forall y\in Y:\left( P\left( x,y\right) \rightarrow Q\left( x\right)
\right) \ \models \ P\left( c,y\right) \rightarrow Q\left( c\right)
\end{equation*}が成り立ちます。具体的な値\(\overline{x}\in X\)に関しても、全称除去より、\begin{equation*}\forall y\in Y:\left( P\left( x,y\right) \rightarrow Q\left( x\right)
\right) \ \models \ P\left( \overline{x},y\right) \rightarrow Q\left(
\overline{x}\right)
\end{equation*}が成り立ちます。
\forall x\in \mathbb{R} :x^{2}\geq 0\ \models \ c^{2}\geq 0
\end{equation*}は妥当です。ただし、\(c\)は「すべての実数」を代表的な形で表す記号です。また、例えば、具体的な実数\(1\in \mathbb{R} \)についても、\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} :x^{2}\geq 0\ \models \ 1^{2}\geq 0
\end{equation*}は妥当です。
&&\text{すべての人間はDNAを持っている。} \\
&&\text{太郎は人間である。} \\
&&\text{したがって、太郎はDNAを持っている。}
\end{eqnarray*}変数\(x\)の定義域\(X\)はすべての人間からなる集合であるものとします。以下の命題関数\begin{eqnarray*}P\left( x\right) &:&x\text{は人間である}
\\
Q\left( x\right) &:&x\text{はDNAを持っている}
\end{eqnarray*}を定義すると、与えられた推論は、\begin{equation*}
\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right)
,\ P\left( \text{太郎}\right) \ \therefore \ Q\left( \text{太郎}\right)
\end{equation*}と定式化されます。「太郎」は変数\(x\)がとり得る具体的な値の1つであるため、前提の1つである、\begin{equation*}\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right)
\end{equation*}に対して全称導入を適用すると、\begin{equation}
P\left( \text{太郎}\right) \rightarrow Q\left( \text{太郎}\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}を得ます。もう一つの前提より、\begin{equation}
P\left( \text{太郎}\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}を得ます。\(\left( 1\right) ,\left( 2\right) \)および含意の定義より、\begin{equation*}Q\left( \text{太郎}\right)
\end{equation*}が得られるため、与えられた推論が妥当であることが示されました。
演習問題
&&\text{いかなる人間も空を飛ぶことはできない。} \\
&&\text{太郎は人間である。} \\
&&\text{したがって、太郎は空を飛ぶことはできない。}
\end{eqnarray*}
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