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全称命題の解釈

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全称命題

論理式の定義より、論理式\(A\)と変数\(x\in X\)に対して量化記号\(\forall \)を作用させることで得られる、\begin{equation}\forall x\in X\ A \quad \cdots (1)
\end{equation}もまた論理式です。\(\forall \)は全称記号(universal quantifier)と呼ばれる量化記号であり、論理式\(A\)に全称記号\(\forall \)を作用させることにより得られる論理式\(\left( 1\right) \)を全称命題(universal proposition)と呼びます。これは「\(X\)の任意の値\(x\)について\(A\)(for any \(x\) in \(X\), \(A\))」や「\(X\)のそれぞれの値\(x\)について\(A\)(for every \(x\) in \(X\), \(A\))」などの表現に対応する論理式です。全称命題\(\left(1\right) \)において変数\(x\)の定義域\(X\)が文脈から明らかであるとき、それを省略して、\begin{equation*}\forall x\ A
\end{equation*}と表記できるものとします。また、見やすさを考慮して、\(\left(1\right) \)を、\begin{equation*}\forall x\in X:A
\end{equation*}と表記できるものとします。

例(全称命題)
「任意の実数の平方は非負である」という主張をどのような論理式として定式化できるでしょうか。まず、「実数の平方は非負である」という主張は、すべての実数からなる集合\(\mathbb{R} \)を定義域とする変数\(x\)を用いて、\begin{equation}x^{2}\geq 0 \quad \cdots (1)
\end{equation}と表現できます。もとの主張は「\(\left( 1\right) \)が任意の実数\(x\)に関して成り立つ」という主張に相当するため、それを、\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} :x^{2}\geq 0
\end{equation*}と表現できます。

例(全称命題)
「日本で生まれた人はいずれも日本人である」という主張をどのような論理式として定式化できるでしょうか。まず、「\(x\)さんが日本生まれならば\(x\)さんは日本人である」という主張は、すべての人間からなる集合\(X\)を定義域とする変数\(x\)を用いて、\begin{equation}x\text{は日本生まれ}\rightarrow x\text{は日本人} \quad \cdots (1)
\end{equation}と表現できます。もとの主張は「\(\left( 1\right) \)が任意の人間\(x\)に関して成り立つ」という主張に相当するため、それを、\begin{equation*}\forall x\in X:\left( x\text{は日本生まれ}\rightarrow x\text{は日本人}\right)
\end{equation*}と表現できます。一方、「日本生まれではない人はいずれも日本人ではない」という主張は、\begin{equation*}
\forall x\in X:\left( \lnot \left( x\text{は日本生まれ}\right) \rightarrow \lnot \left( x\text{は日本人}\right) \right)
\end{equation*}と定式化されます。

例(全称命題)
「加藤さんが持っているモノはすべて鈴木さんも持っている」という主張をどのような論理式として定式化できるでしょうか。まず、「加藤さんが\(y\)を持っているならば鈴木さんも\(y\)を持っている」という主張は、すべてのモノからなる集合\(Y\)を定義域とする変数\(y\)を用いて、\begin{equation}\text{加藤は}y\text{を持っている}\rightarrow \text{鈴木は}y\text{を持っている} \quad \cdots (1)
\end{equation}と表現できます。もとの主張は「\(\left( 1\right) \)が任意のモノ\(y\)に関して成り立つ」という主張に相当するため、それを、\begin{equation*}\forall y\in Y:\left( \text{加藤は}y\text{を持っている}\rightarrow \text{鈴木は}y\text{を持っている}\right)
\end{equation*}と表現できます。一方、「鈴木さんが持っていないモノはすべて山田が持っている」という主張は、\begin{equation*}
\forall y\in Y:\left( \lnot \left( \text{鈴木は}y\text{を持っている}\right) \rightarrow \text{山田は}y\text{を持っている}\right)
\end{equation*}と定式化され、「車を持っている人は誰しもが免許を持っている」という主張は、すべての人からなる集合\(X\)を定義域とする変数\(x\)を用いて、\begin{equation*}\forall x\in X:\left( x\text{は車を持っている}\rightarrow x\text{は免許を持っている}\right)
\end{equation*}と定式化されます。

例(全称命題)
「この町の住人は全員がお互いに知り合いである」という主張をどのような論理式として定式化できるでしょうか。問題としている町のすべての住人からなる集合を\(X\)で表記します。ある住人\(\overline{y}\in X\)に注目したとき、この町のすべての住人が\(\overline{y}\)と知り合いであるという主張は、\begin{equation}\forall x\in X:x\text{は}\overline{y}\text{と知り合いである} \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化されます。もとの主張は「\(\left( 1\right) \)が特定の住人\(\overline{y}\)についてだけではなく、任意の住人\(y\in X\)について成立する」という主張に相当するため、それは、\begin{equation*}\forall y\in X:\left( \forall x\in X:x\text{は}y\text{と知り合いである}\right)
\end{equation*}と定式化されます。

 

開論理式に関する全称命題の解釈

論理式\(A\)が変数\(x\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x\right) \)であるものとします。このとき、変数\(x\)に関する全称命題\begin{equation}\forall x\in X:A\left( x\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}を、変数の自由な現れを持たない閉論理式であるものと定めた上で、これを以下の論理積\begin{equation}
\bigwedge\limits_{x\in X}A\left( x\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}と同一視します。閉論理式の値を特定するためには「解釈」に相当する以下の2つの要素\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \text{議論領域} \\
&&\left( b\right) \ \text{論理式}A\text{を構成するすべての命題関数の形状}
\end{eqnarray*}を具体的に特定する必要がありますが、解釈を任意に選んだとき、\(\left( 1\right) \)から得られる命題と\(\left( 2\right) \)から得られる命題の真理値が常に一致するものと定めるということです。

例(全称命題の解釈)
「任意の整数\(x\)について\(x^{2}\geq x\)が成り立つ」という主張について考えます。すべての整数からなる集合\(\mathbb{Z} \)を定義域とする変数\(x\)を用いると、先の主張は、\begin{equation}\forall x\in \mathbb{Z} :x^{2}\geq x \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化されます。全称命題の定義より、これは以下の論理式\begin{equation}
\bigwedge\limits_{x\in \mathbb{Z} }\left( x^{2}\geq x\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}と同一視されます。任意の整数\(x\in \mathbb{Z} \)について\(x^{2}\geq x\)は真であるため、論理積の定義より\(\left( 2\right) \)は真です。したがって、\(\left(2\right) \)と同一視されるもとの主張\(\left( 1\right) \)もまた真です。
例(全称命題の解釈)
「任意の実数\(x\)について\(x^{2}\geq x\)が成り立つ」という主張について考えます。すべての実数からなる集合\(\mathbb{R} \)を定義域とする変数\(x\)を用いると、先の主張は、\begin{equation}\forall x\in \mathbb{R} :x^{2}\geq x \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化されます。全称命題の定義より、これは以下の論理式\begin{equation}
\bigwedge\limits_{x\in \mathbb{R} }\left( x^{2}\geq x\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}と同一視されます。実数\(\frac{1}{2}\in \mathbb{R} \)について、\begin{equation*}\left( \frac{1}{2}\right) ^{2}\geq \frac{1}{2}
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\frac{1}{4}\geq \frac{1}{2}
\end{equation*}は偽であるため、論理積の定義より\(\left( 2\right) \)は偽です。したがって、\(\left( 2\right) \)と同一視されるもとの主張\(\left( 1\right) \)もまた偽です。
例(全称命題の解釈)
「任意の実数\(x\)について\(x>2\)ならば\(x^{2}>2\)である」という主張について考えます。すべての実数からなる集合\(\mathbb{R} \)を定義域とする変数\(x\)を用いると、先の主張は、\begin{equation}\forall x\in \mathbb{R} :\left( x>2\rightarrow x^{2}>2\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化されます。全称命題の定義より、これは以下の論理式\begin{equation}
\bigwedge\limits_{x\in \mathbb{R} }\left( x>2\rightarrow x^{2}>2\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}と同一視されます。実数\(x\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\begin{equation*}x>2\rightarrow x^{2}>2
\end{equation*}は真であるため、論理積の定義より\(\left( 2\right) \)は真です。したがって、\(\left( 2\right) \)と同一視されるもとの主張\(\left( 1\right) \)もまた真です。
例(全称命題の解釈)
「日本で生まれた人は全員日本人である」という主張について考えます。すべての人間からなる集合\(X\)を定義域とする変数\(x\)を用いると、先の主張は、\begin{equation}\forall x\in X:\left( x\text{は日本生まれ}\rightarrow x\text{は日本人}\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化されます。全称命題の定義より、これは以下の論理式\begin{equation}
\bigwedge\limits_{x\in X}\left( x\text{は日本生まれ}\rightarrow x\text{は日本人}\right)
\quad \cdots (2)
\end{equation}と同一視されます。日本は出生地主義ではなく血統主義を採用しているため、出生は日本だが国籍が日本ではない人が存在します。そのような人\(\overline{x}\in X\)について、\begin{equation*}\overline{x}\text{は日本生まれ}\rightarrow \overline{x}\text{は日本人}
\end{equation*}は偽であるため、論理積の定義より\(\left( 2\right) \)は偽です。したがって、\(\left( 2\right) \)と同一視されるもとの主張\(\left( 1\right) \)もまた偽です。

論理式\(A\)が変数\(x,y\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x,y\right) \)であるものとします。このとき、変数\(x\)に関する全称命題\begin{equation}\forall x\in X:A\left( x,y\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}を、変数\(y\)の自由な現れを持つ開論理式とみなした上で、これを以下の論理積\begin{equation}\bigwedge\limits_{x\in X}A\left( x,y\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}と同一視します。開論理式の値を特定するためには「解釈」に相当する以下の3つの要素\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \text{議論領域} \\
&&\left( b\right) \ \text{論理式}A\text{を構成するすべての命題関数の形状} \\
&&\left( c\right) \ \text{変数の自由な現れに代入する値}\overline{y}
\end{eqnarray*}を具体的に特定する必要がありますが、解釈を任意に選んだとき、\(\left( 1\right) \)から得られる命題と\(\left( 2\right) \)から得られる命題の真理値が常に一致するものと定めるということです。

ここでは論理式\(A\)が変数\(x,y\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x,y\right) \)である状況を想定した上で、そのうちの一方の変数\(x\)に関する全称命題\(\forall x\in X:A\)をとりましたが、\(y\)に相当する変数の自由な現れが複数存在する場合にも同様に考えます。

例(全称命題)
変数\(x,y\)の定義域\(X,Y\)が、\begin{equation*}X=Y=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であるものとします。以下の全称命題\begin{equation*}
\forall x\in X:x\leq y
\end{equation*}は以下の論理式\begin{equation*}
\bigwedge\limits_{x\in X}\left( x\leq y\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
1\leq y\wedge 2\leq y\wedge 3\leq y
\end{equation*}と同一視されます。これは変数\(y\)の自由な現れを持つ開論理式であり、真理集合は、\begin{equation*}\left\{ 3\right\}
\end{equation*}となります。

論理式\(A\)が変数\(x\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x\right) \)であるとき、\(A\left( x\right) \)において自由な現れが存在しない変数\(y\in Y\)を任意に選んだ上で全称命題\begin{equation}\forall y\in Y:A\left( x\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}を作ることもできますが、これをもとの開論理式\begin{equation}
A\left( x\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}と同一視します。開論理式の値を特定するためには「解釈」に相当する以下の3つの要素\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \text{議論領域} \\
&&\left( b\right) \ \text{論理式}A\text{を構成するすべての命題関数の形状} \\
&&\left( c\right) \ \text{変数の自由な現れに代入する値}\overline{y}
\end{eqnarray*}を具体的に特定する必要がありますが、解釈を任意に選んだとき、\(\left( 1\right) \)から得られる命題と\(\left( 2\right) \)から得られる命題の真理値が常に一致するものと定めるということです。

例(全称命題の解釈)
命題関数\(P\left( x\right) \)は変数\(x \)の自由な現れを持つ開論理式です。このとき、\(x\)とは異なる変数\(y\)に注目した上で全称命題\begin{equation*}\forall y\in Y:P\left( x\right)
\end{equation*}を作ることができますが、これは\(P\left( x\right) \)と同一視されます。
例(全称命題の解釈)
命題関数\(P\left( x,y\right) \)は変数\(x,y\)の自由な現れを持つ開論理式です。このとき、\(x\)に関する全称命題\begin{equation}\forall x\in X:P\left( x,y\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}は変数\(y\)の自由な現れを持つ開論理式であり、変数\(x\)の自由な現れを持ちません。したがって、以下の全称命題\begin{equation*}\forall x\in X:\left( \forall x\in X:P\left( x,y\right) \right)
\end{equation*}は\(\left( 1\right) \)と同一視されます。

 

閉論理式に関する全称命題の解釈

論理式\(A\)が閉論理式であるとき、すなわち変数の自由な現れを持たない場合にも、変数\(x\in X\)を任意に選んだ上で全称命題\begin{equation}\forall x\in X:A \quad \cdots (1)
\end{equation}を作ることができますが、これをもとの閉論理式\begin{equation}
A \quad \cdots (2)
\end{equation}と同一視します。閉論理式の値を特定するためには「解釈」に相当する以下の2つの要素\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \text{議論領域} \\
&&\left( b\right) \ \text{論理式}A\text{を構成するすべての命題関数の形状}
\end{eqnarray*}を具体的に特定する必要がありますが、解釈を任意に選んだとき、\(\left( 1\right) \)から得られる命題と\(\left( 2\right) \)から得られる命題の真理値が常に一致するものと定めるということです。

例(全称命題の解釈)
命題関数\(P\left( x\right) \)は変数\(x \)の自由な現れを持つ開論理式です。このとき、\(x\)に関する全称命題\begin{equation}\forall x\in X:P\left( x\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}は変数の自由な現れを持たない閉論理式です。したがって、以下の全称命題\begin{equation*}
\forall x\in X,\ \forall x\in X:P\left( x\right)
\end{equation*}は\(\left( 1\right) \)と同一視されます。同様に、\begin{equation*}\forall y\in Y,\ \forall x\in X:P\left( x\right)
\end{equation*}もまた\(\left( 1\right) \)と同一視されます。

 

演習問題

問題(全称命題)
以下の主張\begin{equation*}
\text{すべての犬は危険である}
\end{equation*}を論理式として定式化してください。

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問題(全称命題)
以下の主張\begin{equation*}
A\text{さんは、}B\text{さんを好きではない人全員が好きである}
\end{equation*}を論理式として定式化してください。

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問題(全称命題)
変数\(x,y\)の定義域はいずれもすべての自然数からなる集合\(\mathbb{N} \)であるものとします。さらに命題関数\(P\left(x,y\right) \)を、\begin{equation*}x\cdot y=12
\end{equation*}と定義します。以下のそれぞれの論理式について、それが開論理式である場合には真理集合を明らかにし、閉論理式である場合にはその値を明らかにしてください。

  1. \(P\left( 3,4\right) \)
  2. \(P\left( 3,5\right) \)
  3. \(P\left( 2,6\right) \vee P\left( 3,7\right) \)
  4. \(\forall x\in \mathbb{N} ,\ \forall y\in \mathbb{N} :\left( P\left( x,y\right) \rightarrow P\left( y,x\right) \right) \)
  5. \(\forall x\in \mathbb{N} :P\left( x,y\right) \)
  6. \(\forall y\in \mathbb{N} :P\left( x,y\right) \)
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