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述語論理

述語論理における議論領域

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変数・定義域・命題関数

述語論理における議論の最小単位は命題関数(propositional function)です。命題関数とは変数を含む文や式であり、その真偽は変数に代入する値に応じて決定されます。述語論理において議論の対象となる主張はいずれも命題関数どうしを一定のルールのもとで組み合わせることで得られる式として表現されます。このような事情を踏まえた上で、まずは命題関数や変数について改めて整理します。

未知の数・対象を表す文字や記号のことを変数(variable)と呼びます。通常、変数を表記する際にはアルファベットの小文字\begin{equation*}
x,y,z,\cdots
\end{equation*}を利用します。つまり、\(x\)が変数であると言うとき、\(x\)は様々な値を取り得る記号であることを意味します。述語論理において変数は対象変数(object variable)とも呼ばれます。

変数\(x\)が取り得る値の範囲を\(x\)の定義域(domain)と呼び、多くの場合、これをアルファベットの大文字\begin{equation*}X
\end{equation*}を用いて表記します。変数\(x\)の定義域が\(X\)であることを明示的に表したい場合には、そのことを、\begin{equation*}x\in X
\end{equation*}と表記します。定義域\(X\)の中には変数\(x\)が取り得るすべての値が含まれていますが、それらの個々の値を対称定数(object constant)と呼びます。ただし、以降では誤解の恐れのない限りにおいて、対象定数をシンプルに定数(constant)や(value)などと呼びます。

\(x\in X\)という表記は2通り意味で使われるため注意が必要です。「変数\(x\in X\)」という場合の\(x\in X\)は、変数\(x\)の定義域が\(X\)であることを表す表記です。一方、「値\(x\in X\)」という場合の\(x\in X\)は、\(x\)が定義域\(X\)に属する値であることを表す表記です。両者を明示的に区別するために、\(X\)に属する値を表す記号として、変数を表す記号\(x\)とは異なる記号\(\overline{x}\)を採用することもできます。

命題関数の真偽が変数\(x\)の値に応じて決まる場合、そのような命題関数を、アルファベットの大文字を用いて、\begin{equation*}P\left( x\right) ,Q\left( x\right) ,\cdots
\end{equation*}などで表記します。命題関数\(P\left( x\right) \)の変数\(x\)の定義域\(X\)を明示したい場合には、\begin{equation*}P\left( x\right) \quad \left( x\in X\right)
\end{equation*}と表記します。

命題関数の真偽が2つの変数\(x,y\)の値の組合せに応じて決まる場合、そのような命題関数を、アルファベットの大文字を用いて、\begin{equation*}P\left( x,y\right) ,Q\left( x,y\right) ,\cdots
\end{equation*}などで表記します。命題関数\(P\left( x,y\right) \)の変数\(x,y\)の定義域\(X,Y\)を明示したい場合には、\begin{equation*}P\left( x,y\right) \quad \left( x\in X,y\in Y\right)
\end{equation*}または、\begin{equation*}
P\left( x,y\right) \quad \left( \left( x,y\right) \in X\times Y\right)
\end{equation*}と表記します。

3個以上の変数を持つ命題関数についても同様です。いずれにせよ、命題関数に含まれるすべての変数には定義域がそれぞれ設定されており、命題関数の値は変数に代入する値の組み合わせに応じて決定されます。

例(命題関数・変数・定義域)
変数\(x\)に関する命題関数\(P\left( x\right) \)を、\begin{equation*}x\text{は偶数である}
\end{equation*}と定義します。変数\(x\)は任意の「自然数」を値として取り得るものと定める場合、その定義域\(X\)はすべての自然数からなる集合です。この場合、例えば、\(x=1\)を代入して得られる命題\(P\left( 1\right) \)は、\begin{equation*}1\text{は偶数である}
\end{equation*}となりますが、これは偽です。また、\(x=2\)を代入して得られる命題\(P\left( 2\right) \)は、\begin{equation*}2\text{は偶数である}
\end{equation*}ですが、これは真です。一方、変数\(x\)は任意の「奇数」を値として取り得るものと定める場合、その定義域\(X\)はすべての奇数からなる集合です。この場合、命題\(P\left( x\right) \)が真になるような\(x\)の値は\(X\)の中に存在しません。
例(命題関数・変数・定義域)
変数\(x,y\)に関する命題関数\(P\left( x,y\right) \)を、\begin{equation*}x\text{の人口は}y\text{の人口よりも多い}
\end{equation*}と定義します。変数\(x,y\)はともに「日本の都道府県」を値として取り得るものと定める場合、それらの定義域\(X,Y\)はともにすべての都道府県からなる集合です。この場合、例えば、\(\left( x,y\right) =\left( \text{東京},\text{北海道}\right) \)を代入して得られる命題\(P\left( \text{東京},\text{北海道}\right) \)は、\begin{equation*}\text{東京の人口は北海道の人口よりも多い}
\end{equation*}となりますが、これは真です。また、\(\left(x,y\right) =\left( \text{北海道},\text{東京}\right) \)を代入して得られる命題\(P\left( \text{北海道},\text{東京}\right) \)は、\begin{equation*}\text{北海道の人口は東京の人口よりも多い}
\end{equation*}となりますが、これは偽です。一方、変数\(x,y\)はともに「世界の国」を値として取り得るものと定める場合、それらの定義域\(X,Y\)はともにすべての国からなる集合です。この場合、例えば、\(\left( x,y\right) =\left( \text{日本},\text{米国}\right) \)を代入して得られる命題\(P\left( \text{日本},\text{米国}\right) \)は、\begin{equation*}\text{日本の人口は米国の人口よりも多い}
\end{equation*}となりますが、これは偽です。また、\(\left(x,y\right) =\left( \text{米国},\text{日本}\right) \)を代入して得られる命題\(P\left( \text{米国},\text{日本}\right) \)は、\begin{equation*}\text{米国の人口は日本の人口よりも多い}
\end{equation*}となりますが、これは真です。

 

議論領域

議論の対象となるすべての変数と、それらの定義域をあわせて議論領域(domain of discourse)と呼びます。多くの場合、議論領域を、\begin{equation*}
D
\end{equation*}で表記します。例えば、1つの変数\(x\)だけが議論の対象である場合には、その定義域\(X\)を定めればそれが議論領域\(D\)になります。また、\(n\)個の変数\(x_{1},\cdots,x_{n}\)を議論の対象とする場合には、それらの定義域\(X_{1},\cdots ,X_{n}\)をすべて定めれば議論領域\(D\)となります。議論領域\(D\)において変数\(x\)とその定義域\(X\)が定義されているとき、\(x\)を議論領域\(D\)における変数(variable on the domain of discourse)と呼びます。

議論に先立って議論領域\(D\)を設けることは、\(D\)において定義されている変数に関する命題関数だけが議論の対象になり得ることを意味します。ただし、それぞれの命題関数は、議論領域\(D\)において定義されているすべての変数を自身の変数として持つ必要はありません。議論領域\(D\)が定義する変数の中の特定の変数だけを自身の変数として持つ命題関数や、変数を1つも持たない命題関数なども考察対象となります。逆に、議論領域\(D\)において定義されていない変数を自身の変数として持つ命題関数は議論の対象になりません。

例(議論領域)
変数\(x,y\)の定義域\(X,Y\)はともにすべての整数からなる集合であり、以上を議論領域\(D\)とします。このとき、\begin{eqnarray*}&&x\text{は偶数} \\
&&y\text{は奇数} \\
&&x+y\text{は偶数} \\
&&x+y\text{は奇数}
\end{eqnarray*}などの命題関数に含まれる変数はいずれも\(D\)において定義されているため、これらの命題関数はいずれも\(D\)のもとで議論の対象となります。一方、日本の都道府県を値として取り得る変数\(a,b\)に関する以下の命題関数\begin{equation*}a\text{の人口は}b\text{の人口よりも多い}
\end{equation*}について考えると、\(a,b\)は先の議論領域\(D\)において定義されていないため、この命題関数は\(D\)のもとで議論の対象外です。

 

演習問題

問題(議論領域)
変数\(x\)に関する命題関数\(P\left( x\right) \)を、\begin{equation*}x\text{はオリンピックメダリストである}
\end{equation*}と定義します。この場合の議論領域\(D\)とは何でしょうか。また、\(P\left( x\right) \)はそのままで\(D \)が変化すると何が起こるか議論してください。
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問題(議論領域)
変数\(x,y\)が同じ定義域\(X\)を共有しているものとし、命題関数\(P\left( x,y\right) \)を、\begin{equation*}x-y\in X
\end{equation*}と定義します。\(X\)がすべての自然数である場合と、\(X\)がすべての整数である場合とで、どのような違いが起こるか議論してください。
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