論理式\(A\)に論理演算子\(\lnot \)を作用させることで得られる\(\lnot A\)もまた論理式です。\(\lnot \)は否定と呼ばれる論理演算子であり、論理式\(\lnot A\)を\(A\)の否定と呼びます。
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否定

論理式の定義より、論理式\(A\)に論理演算子\(\lnot \)を作用させることで得られる\(\lnot A\)もまた論理式です。\(\lnot \)は否定(negation)と呼ばれる論理演算子であり、論理式\(\lnot A\)を\(A\)の否定(negation of \(A\))と呼びます。これは「\(A\)ではない(not \(A\))」という表現に対応する論理式です。

例(否定)
以下の主張\begin{equation}
x\text{は素数ではない} \tag{1}
\end{equation}をどのような論理式として定式化できるでしょうか。命題関数\(P\left( x\right) \)を、\begin{equation*}
P\left( x\right) :x\text{は素数ではない}
\end{equation*}とそのままおいたのでは「ではない」というニュアンスを上手く表現できていません。そこで、命題関数\(Q\left( x\right) \)を、\begin{equation*}
Q\left( x\right) :x\text{は素数である}
\end{equation*}とおきます。\(\left( 1\right) \)の主張は「\(Q\left( x\right) \)ではない」というものであるため、\(\left( 1\right) \)を定式化すると\(\lnot Q\left( x\right) \)となります。この論理式であれば否定\(\lnot \)を用いて「ではない」というニュアンスが上手く表現できているため、\(\left( 1\right) \)の定式化としてはこちらのほうが望ましいです。なお、論理式の定義より\(Q\left( x\right) \)の否定\(\lnot Q\left( x\right) \)は論理式であるため、さらにその否定\(\lnot \left( \lnot Q\left( x\right) \right) \)もまた論理式です。この論理式は、\begin{equation*}
x\text{は素数ではないことはない}
\end{equation*}という主張に対応します。
例(否定)
命題関数\(P\left( x\right) ,Q\left( y\right) ,R\left( x,y\right) \)をそれぞれ、\begin{eqnarray*}
P\left( x\right) &:&x\text{は偶数である}
\\
Q\left( y\right) &:&y\text{は奇数である}
\\
R\left( x,y\right) &:&x+y\text{は奇数である}
\end{eqnarray*}とおくとき、それらの否定は、\begin{eqnarray*}
\lnot P\left( x\right) &:&x\text{は偶数ではない} \\
\lnot Q\left( y\right) &:&y\text{は奇数ではない} \\
\lnot R\left( x,y\right) &:&x+y\text{は奇数ではない}
\end{eqnarray*}などとなります。
例(否定)
命題関数\(P\left( x,y\right) ,Q\left( x,y\right) \)をそれぞれ、\begin{eqnarray*}
P\left( x,y\right) &:&x\text{は}y\text{の夫である} \\
Q\left( x,y\right) &:&y\text{は}x\text{の妻である}
\end{eqnarray*}とおくとき、それらの否定は、\begin{eqnarray*}
\lnot P\left( x,y\right) &:&x\text{は}y\text{の夫ではない} \\
\lnot Q\left( x,y\right) &:&y\text{は}x\text{の妻ではない}
\end{eqnarray*}などとなります。

 

否定の解釈

論理式\(A\)が変数\(x_{1},\cdots ,x_{n}\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)であるとき、その否定\(\lnot A\)もまた変数\(x_{1},\cdots ,x_{n}\)の自由な現れを持つ開論理式\(\lnot A\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)であるものと定めます。開論理式を解釈することとは以下の3つの要素\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \text{議論領域} \\
&&\left( b\right) \ \text{論理式を構成するすべての命題関数の形状} \\
&&\left( c\right) \ \text{変数の自由な現れに代入する値}
\end{eqnarray*}を具体的に特定することを意味し、解釈を任意に選ぶと2つの命題\(A\left( \overline{x}_{1},\cdots ,\overline{x}_{n}\right) \)と\(\lnot A\left( \overline{x}_{1},\cdots ,\overline{x}_{n}\right) \)が得られます。このとき、\(\lnot A\left( \overline{x}_{1},\cdots ,\overline{x}_{n}\right) \)を\(A\left( \overline{x}_{1},\cdots ,\overline{x}_{n}\right) \)の否定と同一視します。つまり、この2つの命題の真理値の間には、以下の真理値表で表される関係が成り立つということです。
$$\begin{array}{cc}
\hline
A\left( \overline{x}_{1},\cdots ,\overline{x}_{n}\right) & \lnot A\left( \overline{x}_{1},\cdots ,\overline{x}_{n}\right) \\ \hline
1 & 0 \\ \hline
0 & 1 \\ \hline
\end{array}$$

表:否定の値

閉論理式の否定についても同様に考えます。

例(否定の解釈)
命題関数\(P\left( x\right) \)は変数\(x\)の自由な現れを持つ開論理式です。議論領域\(D\)と関数\(P\)の形状がそれぞれ、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \text{変数}x\text{の定義域}X\text{はすべての整数からなる集合} \\
&&\left( b\right) \ P\left( x\right) :x^{2}=1
\end{eqnarray*}で与えられているものとします。このとき、否定\(\lnot P\left( x\right) \)の形状は、\begin{equation*}
\lnot P\left( x\right) :x^{2}\not=1
\end{equation*}となります。例えば、値\(x=1\)については、\begin{eqnarray*}
P\left( 1\right) &:&1^{2}=1 \\
\lnot P\left( 1\right) &:&1^{2}\not=1
\end{eqnarray*}という命題が得られますが、\(P\left( 1\right) \)は真であり\(\lnot P\left( 1\right) \)は偽です。また、値\(x=2\)については、\begin{eqnarray*}
P\left( 2\right) &:&2^{2}=1 \\
\lnot P\left( 2\right) &:&2^{2}\not=1
\end{eqnarray*}という命題が得られますが、\(P\left( 2\right) \)は偽であり\(\lnot P\left( 2\right) \)は真です。
例(否定の解釈)
命題関数\(P\left( x,y\right) \)は変数\(x,y\)の自由な現れを持つ開論理式です。議論領域\(D\)と関数\(P\)の形状がそれぞれ、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \text{変数}x\text{の定義域}X\text{はすべての自然数からなる集合} \\
&&\left( b\right) \ P\left( x,y\right) :x+y\leq 3
\end{eqnarray*}で与えられているものとします。このとき、否定\(\lnot P\left( x,y\right) \)の形状は、\begin{equation*}
\lnot P\left( x,y\right) :x+y>3
\end{equation*}となります。例えば、値の組\(\left( x,y\right) =\left( 1,1\right) \)については、\begin{eqnarray*}
P\left( 1,1\right) &:&1+1\leq 3 \\
\lnot P\left( 1,1\right) &:&1+1>3
\end{eqnarray*}という命題が得られますが、\(P\left( 1,1\right) \)は真であり\(\lnot P\left( 1,1\right) \)は偽です。また、値\(\left( x,y\right) =\left( 2,3\right) \)については、\begin{eqnarray*}
P\left( 2,3\right) &:&2+3\leq 3 \\
\lnot P\left( 2,3\right) &:&2+3>3
\end{eqnarray*}という命題が得られますが、\(P\left( 2,3\right) \)は偽であり\(\lnot P\left( 2,3\right) \)は真です。

 

否定の真理集合

繰り返しになりますが、論理式\(A\)が変数\(x_{1},\cdots ,x_{n}\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)であるとき、その否定\(\lnot A\)もまた変数\(x_{1},\cdots ,x_{n}\)の自由な現れを持つ開論理式\(\lnot A\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)です。開論理式の解釈の中でも、議論領域と、論理式を構成するすべての命題関数の形状を指定すれば、\(A\)の真理集合\(\phi \left( A\right) \)と\(\lnot A\)の真理集合\(\phi \left( \lnot A\right) \)がそれぞれ得られます。その上で、変数の自由の現れに代入する値の組\(\left( \overline{x}_{1},\cdots ,\overline{x}_{n}\right) \)を任意に選ぶと、\begin{eqnarray*}
\left( \overline{x}_{1},\cdots ,\overline{x}_{n}\right) \in \phi \left(
\lnot A\right) &\Leftrightarrow &\lnot A\left( \overline{x}_{1},\cdots ,\overline{x}_{n}\right) \text{は真}\quad \because \phi \text{の定義} \\
&\Leftrightarrow &A\left( \overline{x}_{1},\cdots ,\overline{x}_{n}\right)
\text{は偽}\quad \because \lnot \text{の定義}
\\
&\Leftrightarrow &\left( \overline{x}_{1},\cdots ,\overline{x}_{n}\right)
\not\in \phi \left( A\right) \quad \because \phi \text{の定義}
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
\left( \overline{x}_{1},\cdots ,\overline{x}_{n}\right) \in \phi \left(
\lnot A\right) \Leftrightarrow \left( \overline{x}_{1},\cdots ,\overline{x}_{n}\right) \not\in \phi \left( A\right)
\end{equation*}という関係が成り立ちます。つまり、\(\left( \overline{x}_{1},\cdots ,\overline{x}_{n}\right) \)が\(\lnot A\)の真理集合の要素であることと、\(\left( \overline{x}_{1},\cdots ,\overline{x}_{n}\right) \)が\(A\)の真理集合の要素でないことは必要十分です。

例(否定の真理集合)
命題関数\(P\left( x\right) \)は変数\(x\)の自由な現れを持つ開論理式です。議論領域\(D\)と関数\(P\)の形状がそれぞれ、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \text{変数}x\text{の定義域}X\text{はすべての自然数からなる集合} \\
&&\left( b\right) \ P\left( x\right) :x^{2}=1
\end{eqnarray*}で与えられているものとします。このとき、\begin{equation*}
\phi \left( P\right) =\left\{ 1\right\}
\end{equation*}であるため、\(\phi \left( \lnot P\right) \)には\(1\)以外のすべての自然数が含まれます。
例(否定の真理集合)
命題関数\(P\left( x\right) \)は変数\(x\)の自由な現れを持つ開論理式です。議論領域\(D\)と関数\(P\)の形状がそれぞれ、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \text{変数}x\text{の定義域}X\text{は日本の都道府県からなる集合} \\
&&\left( b\right) \ P\left( x\right) :x\text{の人口は}800\text{万人以上}
\end{eqnarray*}で与えられているものとします。このとき、\begin{equation*}
\phi \left( P\right) =\left\{ \text{東京},\text{神奈川},\text{大阪}\right\}
\end{equation*}であるため、\(\phi \left( \lnot P\right) \)には東京、神奈川、大阪以外のすべての都道府県が含まれます。
例(否定の真理集合)
命題関数\(P\left( x,y\right) \)は変数\(x,y\)の自由な現れを持つ開論理式です。議論領域\(D\)と関数\(P\)の形状がそれぞれ、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \text{変数}x\text{の定義域}X\text{はすべての自然数からなる集合} \\
&&\left( b\right) \ P\left( x,y\right) :x+y\leq 3
\end{eqnarray*}で与えられているものとします。このとき、\begin{equation*}
\phi \left( P\right) =\left\{ \left( 1,1\right) ,\left( 1,2\right) ,\left(
2,1\right) \right\}
\end{equation*}であるため、\(\phi \left( \lnot P\right) \)には\(\left( 1,1\right) ,\left( 1,2\right) ,\left( 2,1\right) \)以外のすべての自然数の組が含まれます。
例(否定の真理集合)
命題関数\(P\left( x\right) \)は変数\(x\)の自由な現れを持つ開論理式です。議論領域\(D\)と関数\(P\)の形状を選んだ上で、そこでの\(P\)の真理集合を\(\phi \left( P\right) \)で表します。論理式の定義より、命題関数の否定\(\lnot P\left( x\right) \)は論理式であるため、さらにその否定\(\lnot \left( \lnot P\left( x\right) \right) \)もまた論理式です。これを\(\lnot \lnot P\left( x\right) \)で表し、その真理集合を\(\phi \left( \lnot \lnot P\right) \)で表します。このとき、それぞれの値\(\overline{x}\)について、\begin{eqnarray*}
\overline{x}\in \phi \left( \lnot \lnot P\right) &\Leftrightarrow &\overline{x}\not\in \phi \left( \lnot P\right) \quad \because \lnot \text{の定義} \\
&\Leftrightarrow &\overline{x}\in \phi \left( P\right) \quad \because \lnot
\text{の定義}
\end{eqnarray*}が成り立ちます。つまり、\(P\left( x\right) \)と\(\lnot \lnot P\left( x\right) \)の真理集合は一致します。

次回は論理積の値について学びます。

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