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述語論理

述語論理における否定

目次

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命題関数の解釈

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否定

論理式の定義より、論理式\(A\)に論理演算子\(\lnot \)を作用させることで得られる\(\lnot A\)もまた論理式です。\(\lnot \)は否定(negation)と呼ばれる論理演算子であり、論理式\(\lnot A\)を\(A\)の否定(negation of \(A\))と呼びます。これは「\(A\)ではない(not \(A\))」という表現に対応する論理式です。

例(否定)
以下の主張\begin{equation*}
x\text{は素数ではない}
\end{equation*}をどのような論理式として定式化できるでしょうか。命題関数\(P\left( x\right) \)を、\begin{equation*}P\left( x\right) :x\text{は素数ではない}
\end{equation*}と定義したのでは「ではない」というニュアンスを上手く表現できていません。そこで、命題関数\(P\left(x\right) \)を改めて、\begin{equation*}P\left( x\right) :x\text{は素数である}
\end{equation*}と定義すれば、\begin{equation*}
\lnot P\left( x\right) :x\text{は素数ではない}
\end{equation*}となり、この論理式であれば否定\(\lnot \)を用いて「ではない」というニュアンスを表現できているため、こちらの方が望ましい定式化です。
例(否定)
命題関数\(P\left( x\right) ,Q\left( y\right) ,R\left(x,y\right) \)をそれぞれ、\begin{eqnarray*}P\left( x\right) &:&x\text{は偶数である}
\\
Q\left( y\right) &:&y\text{は奇数である}
\\
R\left( x,y\right) &:&x+y\text{は奇数である}
\end{eqnarray*}と定義するとき、これらの否定は、\begin{eqnarray*}
\lnot P\left( x\right) &:&x\text{は偶数ではない} \\
\lnot Q\left( y\right) &:&y\text{は奇数ではない} \\
\lnot R\left( x,y\right) &:&x+y\text{は奇数ではない}
\end{eqnarray*}などとなります。

例(否定)
命題関数\(P\left( x,y\right) ,Q\left( x,y\right) \)をそれぞれ、\begin{eqnarray*}P\left( x,y\right) &:&x\text{は}y\text{の夫である} \\
Q\left( x,y\right) &:&y\text{は}x\text{の妻である}
\end{eqnarray*}と定義するとき、これらの否定は、\begin{eqnarray*}
\lnot P\left( x,y\right) &:&x\text{は}y\text{の夫ではない} \\
\lnot Q\left( x,y\right) &:&y\text{は}x\text{の妻ではない}
\end{eqnarray*}などとなります。

 

否定の解釈

論理式\(A\)が与えられたとき、その否定\(\lnot A\)もまた論理式です。論理式の値を特定するためには何らかの解釈を与える必要があります。解釈が与えられたとき、\(A\)から得られる命題を\(\overline{A}\)で表記し、同じ解釈のもとで\(\lnot A\)から得られる命題を\(\lnot \overline{A}\)で表記します。その上で、任意の解釈のもとで\(\lnot \overline{A}\)は\(\overline{A}\)の否定であるものと定めます。つまり、解釈を任意に選んだとき、以下の真理値表

$$\begin{array}{cc}\hline
\overline{A} & \lnot \overline{A} \\ \hline
1 & 0 \\ \hline
0 & 1 \\ \hline
\end{array}$$

表:否定の値

で表される関係が成り立つものとして否定\(\lnot \)を定義するということです。

以上が述語論理における否定の定義です。定義を踏まえた上で、以下では、論理式\(A\)が開論理式である場合や閉論理式である場合など様々なケースにおいて、その否定\(\lnot A\)がどのようなものになるのかを整理するとともに具体例を提示します。

 

開論理式の否定

変数\(x\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x\right) \)が与えられたとき、その否定\(\lnot A\left( x\right) \)もまた変数\(x\)の自由な現れを持つ開論理式です。開論理式の値を特定するためには解釈、すなわち以下の3つの要素\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \text{議論領域(}x\text{の定義域)} \\
&&\left( b\right) \ \text{論理式}A\text{を構成するすべての命題関数の形状} \\
&&\left( c\right) \ \text{変数}x\text{の自由な現れに代入する値}\overline{x}
\end{eqnarray*}を具体的に特定する必要があります。否定の定義より、解釈としてどのようなものを選んだ場合においても、\(\lnot A\left( x\right) \)から得られる命題は\(A\left( x\right) \)から得られる命題の否定になります。つまり、\(A\left( x\right) \)から得られる命題を\(\overline{A}\left( \overline{x}\right) \)で表記し、\(\lnot A\left( x\right) \)から得られる命題を\(\lnot \overline{A}\left( \overline{x}\right) \)で表記するとき、この2つの命題の真理値の間には、以下の真理値表

$$\begin{array}{cc}\hline
\overline{A}\left( \overline{x}\right) & \lnot \overline{A}\left( \overline{x}\right) \\ \hline
1 & 0 \\ \hline
0 & 1 \\ \hline
\end{array}$$

表:否定の値

で表される関係が常に成り立つということです。

同じことを真理集合を用いて表現すると以下のようになります。

命題(否定の真理集合)

変数\(x\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x\right) \)が与えられているものとする。\(x\)の定義域\(X\)および\(A\)を構成するすべての命題関数の形状を任意に選んだ上で、その場合に\(A\left( x\right) \)から得られる論理式を\(\overline{A}\left( x\right) \)で表記し、否定\(\lnot A\left( x\right) \)から得られる論理式を\(\lnot \overline{A}\left( x\right) \)で表記する。変数\(x\)の自由な現れに代入する値\(\overline{x}\in X\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}\overline{x}\in \phi \left( \lnot \overline{A}\right) \Leftrightarrow
\overline{x}\not\in \phi \left( \overline{A}\right)
\end{equation*}という関係が成り立つ。

証明

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例(否定の解釈)
変数\(x\)の定義域\(X\)は、\begin{equation*}X=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であるものとします。命題関数\(P\left( x\right) \)を、\begin{equation*}x^{2}=1
\end{equation*}と定義すると、その真理集合は、\begin{equation*}
\phi \left( P\right) =\left\{ 1\right\}
\end{equation*}となります。一方、否定\(\lnot P\left( x\right) \)は、\begin{equation*}x^{2}\not=1
\end{equation*}であり、その真理集合は、\begin{equation*}
\phi \left( \lnot P\right) =\left\{ 2,3\right\}
\end{equation*}となります。任意の値\(x\in X\)について、\begin{equation*}x\in \phi \left( \lnot P\right) \Leftrightarrow x\not\in \phi \left( P\right)
\end{equation*}という関係が成立しています。

例(否定の解釈)
変数\(x\)の定義域\(X\)は、\begin{equation*}X=\left\{ \text{茨城},\text{栃木},\text{群馬},\text{埼玉},\text{千葉},\text{東京},\text{神奈川}\right\}
\end{equation*}であるものとします。命題関数\(P\left( x\right) \)を、\begin{equation*}x\text{の人口は}800\text{万人以上}
\end{equation*}と定義すると、その真理集合は、\begin{equation*}
\phi \left( P\right) =\left\{ \text{東京},\text{神奈川}\right\}
\end{equation*}となります。一方、否定\(\lnot P\left( x\right) \)は、\begin{equation*}x\text{の人口は}800\text{万人未満}
\end{equation*}であり、その真理集合は、\begin{equation*}
\phi \left( \lnot P\right) =\left\{ \text{茨城},\text{栃木},\text{群馬},\text{埼玉},\text{千葉}\right\}
\end{equation*}となります。任意の値\(x\in X\)について、\begin{equation*}x\in \phi \left( \lnot P\right) \Leftrightarrow x\not\in \phi \left(
P\right)
\end{equation*}という関係が成立しています。

開論理式が複数の変数の自由な現れを持つ場合にも同様に考えます。

変数\(x,y\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x,y\right) \)が与えられたとき、その否定\(\lnot A\left( x,y\right) \)もまた変数\(x,y\)の自由な現れを持つ開論理式です。開論理式の値を特定するためには解釈、すなわち以下の3つの要素\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \text{議論領域(}x,y\text{の定義域)} \\
&&\left( b\right) \ \text{論理式}A\text{を構成するすべての命題関数の形状} \\
&&\left( c\right) \ \text{変数}x,y\text{の自由な現れに代入する値}\overline{x},\overline{y}
\end{eqnarray*}を具体的に特定する必要があります。否定の定義より、解釈としてどのようなものを選んだ場合においても、\(\lnot A\left( x,y\right) \)から得られる命題は\(A\left( x,y\right) \)から得られる命題の否定になります。つまり、\(A\left( x,y\right) \)から得られる命題を\(\overline{A}\left( \overline{x},\overline{y}\right) \)で表記し、\(\lnot A\left(x,y\right) \)から得られる命題を\(\lnot \overline{A}\left( \overline{x},\overline{y}\right) \)で表記するとき、この2つの命題の真理値の間には、以下の真理値表

$$\begin{array}{cc}\hline
\overline{A}\left( \overline{x},\overline{y}\right) & \lnot \overline{A} \left( \overline{x},\overline{y}\right) \\ \hline
1 & 0 \\ \hline
0 & 1 \\ \hline
\end{array}$$

表:否定の値

で表される関係が常に成り立つということです。

同じことを真理集合を用いて表現すると以下のようになります。証明は先の命題と同様です。

命題(否定の真理集合)

変数\(x,y\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x,y\right) \)が与えられているものとする。\(x,y\)の定義域\(X,Y\)および\(A\)を構成するすべての命題関数の形状を任意に選んだ上で、その場合に\(A\left( x,y\right) \)から得られる論理式を\(\overline{A}\left( x,y\right) \)で表記し、否定\(\lnot A\left( x,y\right) \)から得られる論理式を\(\lnot \overline{A}\left( x,y\right) \)で表記する。変数\(x,y\)の自由な現れに代入する値からなる組\(\left( \overline{x},\overline{y}\right) \in X\times Y\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}\left( \overline{x},\overline{y}\right) \in \phi \left( \lnot \overline{A}\right) \Leftrightarrow \left( \overline{x},\overline{y}\right) \not\in \phi
\left( \overline{A}\right)
\end{equation*}という関係が成り立つ。

3つ以上の変数\(x_{1},\cdots ,x_{n}\)の自由な現れを持つ開論理式\(A\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)の否定についても同様に考えます。

例(否定の解釈)
変数\(x,y\)の定義域\(X,Y\)は、\begin{equation*}X=Y=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であるものとします。変数\(P\left( x,y\right) \)を、\begin{equation*}x+y\leq 3
\end{equation*}と定義すると、その真理集合は、\begin{equation*}
\phi \left( P\right) =\left\{ \left( 1,1\right) ,\left( 1,2\right) ,\left(
2,1\right) \right\}
\end{equation*}となります。一方、否定\(\lnot P\left( x\right) \)は、\begin{equation*}x+y>3
\end{equation*}であり、その真理集合は、\begin{equation*}
\phi \left( \lnot P\right) =\left\{ \left( 2,2\right) \right\}
\end{equation*}となります。任意の値の組\(\left( x,y\right) \in X\times Y\)について、\begin{equation*}\left( x,y\right) \in \phi \left( \lnot P\right) \Leftrightarrow \left(
x,y\right) \not\in \phi \left( P\right)
\end{equation*}という関係が成立しています。

 

閉論理式の否定の解釈

変数の自由な現れを持たない閉論理式\(A\)が与えられたとき、その否定\(\lnot A\)もまた閉論理式です。閉論理式の値を特定するためには解釈、すなわち以下の2つの要素\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \text{議論領域} \\
&&\left( b\right) \ \text{論理式}A\text{を構成するすべての命題関数の形状}
\end{eqnarray*}を具体的に特定する必要があります。否定の定義より、解釈としてどのようなものを選んだ場合においても、\(\lnot A\)から得られる命題は\(A\)から得られる命題の否定になります。つまり、\(A\)から得られる命題を\(\overline{A}\)で表記し、\(\lnot A\)から得られる命題を\(\lnot \overline{A}\)で表記するとき、この2つの命題の真理値の間には、以下の真理値表

$$\begin{array}{cc}\hline
\overline{A} & \lnot \overline{A} \\ \hline
1 & 0 \\ \hline
0 & 1 \\ \hline
\end{array}$$

表:否定の値

で表される関係が常に成り立つということです。

例(否定の解釈)
変数\(x\)の定義域\(X\)はすべての実数からなる集合であるものとします。命題関数\(P\left( x\right) \)を、\begin{equation*}x^{2}\geq 0
\end{equation*}と定義すると、以下の論理式\begin{equation}
\forall x\in X:x^{2}\geq 0 \quad \cdots (1)
\end{equation}は閉論理式です。この閉論理式の否定は、\begin{equation}
\lnot \left( \forall x\in X:x^{2}\geq 0\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}ですが、否定の定義より、\(\left( 1\right) \)と\(\left( 2\right) \)の真理値は逆転しています。全称記号\(\forall \)の意味については後ほど解説します。

 

演習問題

問題(否定の解釈)
変数\(x\)の定義域\(X\)はすべての自然数からなる集合であるものとします。命題関数\(P\left(x\right) \)を、\begin{equation*}x<3
\end{equation*}と定義したとき、その否定\(\lnot P\left( x\right) \)の真理集合を求めてください。
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問題(否定の解釈)
変数\(x,y\)の定義域\(X,Y\)はともに\(1\)以上\(3\)以下の自然数からなる集合\(\left\{1,2,3\right\} \)であるものとします。命題関数\(P\left( x,y\right) \)を、\begin{equation*}x+y\text{は奇数である}
\end{equation*}と定義したとき、その否定\(\lnot P\left( x,y\right) \)の真理集合を求めてください。
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問題(否定の解釈)
変数\(x\)の定義域は、\begin{equation*}X=\left\{ x_{1},x_{2},x_{3}\right\}
\end{equation*}であり、これはある組織のメンバーからなる集合であるものとします。変数\(y\)の定義域は、\begin{equation*}Y=\left\{ y_{1},y_{2},y_{3}\right\}
\end{equation*}であり、これは別の組織のメンバーからなる集合であるものとします。命題変数\(P\left( x,y\right) \)を、\begin{equation*}x\text{と}y\text{は知り合いである}
\end{equation*}と定義します。\(x_{1}\)は\(y_{1}\)と知り合いであり、\(x_{2}\)は\(y_{1}\)および\(y_{3}\)と知り合いであり、\(x_{3}\)は自分と別の組織に知り合いがいません。否定\(\lnot P\left( x,y\right) \)の真理集合を求めてください。
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問題(否定の解釈)
論理式の定義より、命題関数\(P\left( x\right) \)の否定\(\lnot \)は論理式であるため、さらにその否定\(\lnot \left( \lnot P\left( x\right) \right) \)もまた論理式です。これを\(\lnot \lnot P\left( x\right) \)と表記します。このとき、\begin{equation*}\phi \left( P\right) =\phi \left( \lnot \lnot P\right)
\end{equation*}という関係が成り立つことを証明してください。

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