対称差
2つの集合\(A,B\)に集合演算子\(\triangle \)を作用することで得られる、\begin{equation*}A\triangle B
\end{equation*}もまた集合です。\(\triangle \)は対称差(symmetric difference)と呼ばれる集合演算子であり、集合\(A\triangle B\)を\(A\)と\(B\)の対称差(symmetric difference of \(A\) and \(B\))と呼びます。
全体集合\(U\)と集合\(A,B\)が与えられたとき、\(A\)と\(B\)の対称差は、\(A\)には属する一方で\(B\)には属さない\(U\)の要素と、\(B\)には属する一方で\(A\)には属さない\(U\)の要素を集めることにより得られる集合\begin{equation*}A\triangle B=\left\{ x\in U\ |\ \left( x\in A\wedge x\not\in B\right) \vee
\left( x\in B\wedge x\not\in A\right) \right\}
\end{equation*}として定義されます。このとき、\begin{eqnarray*}
A\triangle B &=&\left\{ x\in U\ |\ \left( x\in A\wedge x\not\in B\right)
\vee \left( x\in B\wedge x\not\in A\right) \right\} \quad \because \text{対称差の定義} \\
&=&\left\{ x\in U\ |\ x\in A\wedge x\not\in B\right\} \cup \left\{ x\in U\
|\ x\in B\wedge x\not\in A\right\} \quad \because \text{和集合の定義} \\
&=&\left( A\backslash B\right) \cup \left( B\backslash A\right) \quad
\because \text{差集合の定義}
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
A\triangle B=\left( A\backslash B\right) \cup \left( B\backslash A\right)
\end{equation*}が成り立ちます。
A &=&\left\{ 1,2,3\right\} \\
B &=&\left\{ 2,3,4\right\}
\end{eqnarray*}の対称差は、\begin{eqnarray*}
A\triangle B &=&\left( A\backslash B\right) \cup \left( B\backslash A\right)
\\
&=&\left( \left\{ 1,2,3\right\} \backslash \left\{ 2,3,4\right\} \right)
\cup \left( \left\{ 2,3,4\right\} \backslash \left\{ 1,2,3\right\} \right)
\\
&=&\left\{ 1\right\} \cup \left\{ 4\right\} \\
&=&\left\{ 1,4\right\}
\end{eqnarray*}となります。
A &=&\left\{ 1,2,4,6,a\right\} \\
B &=&\left\{ 4,a,b,c,d,e\right\}
\end{eqnarray*}の対称差は、\begin{eqnarray*}
A\triangle B &=&\left( A\backslash B\right) \cup \left( B\backslash A\right)
\\
&=&\left( \left\{ 1,2,4,6,a\right\} \backslash \left\{ 4,a,b,c,d,e\right\}
\right) \cup \left( \left\{ 4,a,b,c,d,e\right\} \backslash \left\{
1,2,4,6,a\right\} \right) \\
&=&\left\{ 1,2,6\right\} \cup \left\{ b,c,d,e\right\} \\
&=&\left\{ 1,2,6,b,c,d,e\right\}
\end{eqnarray*}となります。
A &=&\left[ 0,2\right] \\
B &=&\left[ 1,3\right] \end{eqnarray*}に注目します。つまり、\(A\)は\(0\)以上\(2\)以下のすべての実数からなる集合であり、\(B\)は\(1\)以上\(3\)以下のすべての実数からなる集合です。これらの集合の対称差は、\begin{eqnarray*}A\triangle B &=&\left( A\backslash B\right) \cup \left( B\backslash A\right)
\\
&=&\left( \left[ 0,2\right] \backslash \left[ 1,3\right] \right) \cup \left( \left[ 1,3\right] \backslash \left[ 0,2\right] \right) \\
&=&[0,1)\cup (2,3] \end{eqnarray*}となります。
A &=&\left[ 0,2\right] \\
B &=&\left( 1,3\right)
\end{eqnarray*}に注目します。つまり、\(A\)は\(0\)以上\(2\)以下のすべての実数からなる集合であり、\(B\)は\(1\)より大きく\(3\)より小さいすべての実数からなる集合です。これらの集合の対称差は、\begin{eqnarray*}A\triangle B &=&\left( A\backslash B\right) \cup \left( B\backslash A\right)
\\
&=&\left( \left[ 0,2\right] \backslash \left( 1,3\right) \right) \cup \left(
\left( 1,3\right) \backslash \left[ 0,2\right] \right) \\
&=&\left[ 0,1\right] \cup \left( 2,3\right)
\end{eqnarray*}となります。
対称差の内包的表現
全体集合が\(U\)である状況を想定します。集合\(A\)は以下の条件\begin{equation*}\forall x\in U:\left[ x\in A\Leftrightarrow P\left( x\right) \right]
\end{equation*}を満たす命題関数\(P\left(x\right) \)の真理集合として表現可能です。つまり、全体集合\(U\)に属する要素の中でも命題\(P\left( x\right) \)が真になるような要素\(x\)からなる集合が\(A\)であり、\begin{equation*}A=\left\{ x\in U\ |\ P\left( x\right) \right\}
\end{equation*}と表現できるということです。
2つの集合\(A,B\)がそれぞれ命題関数\(P\left( x\right) ,Q\left( x\right) \)を用いて内包的に定義されている場合、それらの対称差\(A\triangle B\)はどのような命題関数を用いて内包的に表現されるでしょうか。集合\(A,B\)がそれぞれ、\begin{eqnarray}A &=&\left\{ x\in U\ |\ P\left( x\right) \right\} \quad \cdots (1) \\
B &=&\left\{ x\in U\ |\ Q\left( x\right) \right\} \quad \cdots (2)
\end{eqnarray}と定義されているものとします。対称差の定義より、任意の\(x\in U\)について、\begin{equation}x\in A\triangle B\Leftrightarrow \left( x\in A\wedge x\not\in B\right) \vee
\left( x\in B\wedge x\not\in A\right) \quad \cdots (3)
\end{equation}が成り立ちます。以上を踏まえると、任意の\(x\in U\)について、\begin{eqnarray*}x\in A\triangle B &\Leftrightarrow &\left( x\in A\wedge x\not\in B\right)
\vee \left( x\in B\wedge x\not\in A\right) \quad \because \left( 3\right) \\
&\Leftrightarrow &\left( P\left( x\right) \wedge \lnot Q\left( x\right)
\right) \vee \left( Q\left( x\right) \wedge \lnot P\left( x\right) \right)
\quad \because \left( 1\right) ,\left( 2\right) \\
&\Leftrightarrow &P\left( x\right) \veebar Q\left( x\right) \quad \because
\text{排他的論理和の定義}
\end{eqnarray*}となるため、以下の命題\begin{equation*}
\forall x\in U:\left[ x\in A\triangle B\Leftrightarrow P\left( x\right)
\veebar Q\left( x\right) \right]
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。したがって、対称差\(A\triangle B\)は命題関数\(P\left( x\right)\veebar Q\left( x\right) \)の真理集合として表現されるため、\begin{equation*}A\triangle B=\left\{ x\in U\ |\ P\left( x\right) \veebar Q\left( x\right)
\right\}
\end{equation*}となります。全体集合\(U\)に属する要素の中でも命題\(P\left( x\right) \veebar Q\left( x\right) \)が真、すなわち命題\(P\left( x\right) ,Q\left( x\right) \)のどちらか一方だけが真になるような要素\(x\)からなる集合が\(A\triangle B\)です。対称差\(\triangle \)という集合演算は排他的論理和\(\veebar \)という論理演算から間接的に定義可能であるということです。
B &=&\left\{ x\in U\ |\ Q\left( x\right) \right\}
\end{eqnarray*}とそれぞれ表現されている場合、対称差\(A\triangle B\)は、\begin{equation*}A\triangle B=\left\{ x\in U\ |\ P\left( x\right) \veebar Q\left( x\right)
\right\}
\end{equation*}と定まる。
つまり、集合\(A,B\)が命題関数\(P\left( x\right) ,Q\left( x\right) \)を用いてそれぞれ表現されている場合、命題関数\(P\left( x\right) \veebar Q\left( x\right) \)を特定すれば、対称差\(A\triangle B\)を特定できるということです。
先の命題の主張を視覚的に表現したものが以下の図です。
全体集合\(U\)が上の長方形の領域として描かれているものとします。集合\(A\)が命題関数\(P\left( x\right) \)から内包的に定義されているとき、\(A\)は命題\(P\left( x\right) \)が真になるような値\(x\in U\)からなる集合、すなわち\(P\left(x\right) \)の真理集合\(\phi \left( P\right) \)と一致します。同様に、集合\(B\)が命題関数\(Q\left( x\right) \)から内包的に定義されているとき、\(B\)は\(Q\left( x\right) \)の真理集合\(\phi\left( Q\right) \)と一致します。一方、対称差\(A\triangle B\)は論理式\(P\left( x\right) \veebar Q\left( x\right) \)の真理集合\(\phi \left( P\veebar Q\right) \)と一致し、これは上図においてグレーの領域として描かれています。
B& =\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ 4\leq x\leq 15\right\}
\end{align*}と内包的に定義されているものとします。対称差は、\begin{equation*}
A\triangle B=\{x\in \mathbb{R} \ |\ 1<x<10\veebar 4\leq x\leq 15\}
\end{equation*}となります。もしくは、差集合の定義より、\begin{eqnarray*}
A\backslash B &=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ 1<x<4\right\} \\
B\backslash A &=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ 10\leq x\leq 15\right\}
\end{eqnarray*}であることを踏まえると、\begin{eqnarray*}
A\triangle B &=&\left( A\backslash B\right) \cup \left( B\backslash A\right)
\quad \because \text{対称差の定義} \\
&=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ 1<x<4\vee 10\leq x\leq 15\right\} \quad \because \text{和集合の定義}
\end{eqnarray*}となります。
空集合や全体集合との対称差
集合と空集合の対称差をとっても集合として変化せず、集合と全体集合の対称差をとるともとの集合の補集合が得られます。
&&\left( b\right) \ A\triangle U=A^{c}
\end{eqnarray*}が成り立つ。
補集合と共通部分と和集合を用いた差集合の定義
対称差を以下のように表現することもできます。
\end{equation*}が成り立つ。
上の命題は、対称差\(\triangle \)という概念が補集合\(c\)と共通部分\(\cap \)と和集合\(\cup \)という集合演算から間接的に定義可能であることを示唆します。つまり、\(c,\cap ,\cup \)が与えられたとき、任意の集合\(A,B\)に対して、\begin{equation*}A\triangle B=(A\cap B^{c})\cup (A^{c}\cap B)
\end{equation*}を満たすものとして対称差\(\triangle \)を定義できるということです。したがって、補集合と共通部分と和集合さえ定義されていれば対称差を新たな集合演算として定義する必要はありません。とは言え、対称差を独立した集合演算として定義しておくと便利であるため引き続き対称差を利用します。
演習問題
\end{equation*}を満たすものとして対称差\(\triangle \)を定義しました。対称差に関しては、\begin{equation*}A\triangle B=\left( A\cup B\right) \backslash \left( A\cap B\right)
\end{equation*}という関係もまた成り立つことを証明してください。
\end{equation*}という関係が成り立つことを証明してください。
\end{equation*}という関係が成り立つことを証明してください。ただし\(U\)は全体集合です。
\end{equation*}という関係が成り立つことを証明してください。
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