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多変数関数の微分

多変数関数の全微分可能性と連続性

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全微分可能な多変数関数は連続

多変数関数は偏微分可能な点や方向微分可能な点において連続であるとは限りません偏微分は特定の変数だけを動かす状況を想定した微分概念であり、方向微分はすべての変数を特定の経路に沿って動かす状況を想定した微分概念です。一方、多変数関数の連続性はすべての変数を任意の経路に沿って動かす状況を想定した概念です。したがって、多変数関数に関して微分可能性から連続性を保証するためには、偏微分や方向微分とは異なり、すべての変数を任意の経路に沿って動かす状況を想定した微分概念が要請されます。以上の問題意識を背景に全微分と呼ばれる微分概念を定義しました。具体的には、多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が定義域上の点\(a\in X\)において全微分可能であることとは、\(f\)が点\(a\)の周辺の任意の点において定義されているとともに、以下の条件\begin{equation*}f\left( x\right) -f\left( a\right) -f^{\prime }\left( a\right) \cdot \left(
x-a\right) =o\left( \left\Vert x-a\right\Vert \right) \quad \left(
x\rightarrow a\right)
\end{equation*}を満たす有限なベクトル\(f^{\prime }\left( a\right) \in \mathbb{R} ^{n}\)が存在することを意味します。

多変数関数は全微分可能な点において連続であることが保証されます。

命題(多変数関数は全微分可能な点において連続)
多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が定義域上の点\(a\in X\)において全微分可能であるならば、\(f\)は点\(a\)において連続である。
証明

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例(全微分可能な多変数関数は連続)
多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が微分可能であるものとします。定義域\(X\)上の任意の点において全微分可能であるということです。すると、上の命題より\(f\)は定義域\(X\)上の任意の点において連続であることが保証されます。

先の命題の逆は成立するとは限りません。つまり、多変数関数が定義域上の点において連続でありながら全微分可能ではない状況は起こり得ます。以下の例より明らかです。

例(連続だが全微分可能ではない多変数関数)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\sqrt{x^{2}+y^{2}}
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において全微分可能ではありません(演習問題)。その一方で、\begin{eqnarray*}\lim_{\left( x,y\right) \rightarrow \left( 0,0\right) }f\left( x,y\right)
&=&\lim_{\left( x,y\right) \rightarrow \left( 0,0\right) }\sqrt{x^{2}+y^{2}}\quad \because f\text{の定義} \\
&=&\sqrt{0^{2}+0^{2}} \\
&=&f\left( 0,0\right) \quad \because f\text{の定義}
\end{eqnarray*}となるため点\(\left( 0,0\right) \)において連続です。

 

連続ではない多変数関数は全微分可能ではない

先の命題の対偶より、多変数関数\(f\)が定義域上の点\(a\)において連続ではない場合、\(f\)は点\(a\)において全微分可能ではありません。つまり、多変数関数が全微分可能ではないことを示すためには、連続ではないことを示せばよいということです。

例(連続ではない多変数関数は全微分可能ではない)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{xy^{2}}{x^{2}+y^{4}} & \left( if\ \left( x,y\right) \not=\left(
0,0\right) \right) \\
0 & \left( if\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において連続ではありません。実際、\(f\)の定義より、\begin{equation*}f\left( 0,0\right) =0
\end{equation*}が成り立つ一方で、変数\(\left( x,y\right) \)を以下の\(\mathbb{R} ^{2}\)の部分集合\begin{equation*}\left\{ \left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x=y^{2}\right\}
\end{equation*}上の点をとりながら点\(\left( 0,0\right) \)へ限りなく近づける場合、\begin{eqnarray*}\left( x,y\right) \rightarrow \left( 0,0\right) &\Leftrightarrow &\left(
y^{2},y\right) \rightarrow \left( 0,0\right) \quad \because x=y^{2} \\
&\Leftrightarrow &y\rightarrow 0
\end{eqnarray*}であることに留意すると、\begin{eqnarray*}
\lim_{\left( x,y\right) \rightarrow \left( 0,0\right) }f\left( x,y\right)
&=&\lim_{\left( x,y\right) \rightarrow \left( 0,0\right) }\left( \frac{xy^{2}}{x^{2}+y^{4}}\right) \quad \because f\text{の定義} \\
&=&\lim_{y\rightarrow 0}\left( \frac{y^{4}}{y^{4}+y^{4}}\right) \quad
\because x=y^{2} \\
&=&\lim_{y\rightarrow 0}\left( \frac{1}{2}\right) \\
&=&\frac{1}{2}
\end{eqnarray*}となりますが、これは\(f\left( 0,0\right) \)すなわち\(0\)と一致しないため、\(f\)は点\(\left( 0,0\right) \)において連続ではありません。したがって、\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において全微分可能ではありません。

 

演習問題

問題(全微分可能ではない関数)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{xy}{x^{2}+y^{2}} & \left( if\ \left( x,y\right) \not=\left( 0,0\right)
\right) \\
0 & \left( if\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において全微分可能ではないことを証明してください。
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問題(連続だが全微分可能ではない関数)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\sqrt{\left\vert x\right\vert }\sqrt{\left\vert
y\right\vert }
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において連続である一方で全微分可能ではないことを証明してください。
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問題(連続だが全微分可能ではない関数)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\sqrt{x^{2}+y^{2}}
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において連続である一方で全微分可能ではないことを証明してください。
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