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協力ゲームと非協力ゲーム

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非協力ゲーム

複数の主体が関与する問題が与えられたとき、その問題に関与するそれぞれの主体にとって、自分の行動が他者の行動に影響を与えるとともに、他者の行動が自分の行動にも影響を与える場合、主体の間には戦略的相互依存性(strategic interdependence)が成立していると言います。戦略的相互依存関係が成立する状況をゲーム(game)と呼び、ゲームの参加者をプレイヤー(player)と呼びます。

ゲームに直面したプレイヤーたちは、自身にとってより望ましい結果を導くために、最終的な意志決定を行う前に他のプレイヤーと交渉を行う可能性があります。事前交渉の結果に対してプレイヤーたちの間に拘束的な合意(binding agreement)が成立するのであれば、つまり、合意通りに行動せざるを得ない何らかの仕組みが存在する場合には、プレイヤーたちは集団を形成した上で協力的な意志決定を行う可能性があります。

拘束的な合意が成立する場合とそうでない場合とでは、プレイヤーにとって最適な行動は変化するため、ゲームを分析する際には、プレイヤーたちの間に拘束的な合意が成立するかどうかを事前に明らかにしておく必要があります。

問題としているゲームにおいてプレイヤーの間に拘束的な合意が成立し得ない場合、そのようなゲームを非協力ゲーム(non-cooperative game)と呼びます。非協力ゲームのプレイヤーは事前の合意通りに行動することを強制されないため、他のプレイヤーによる意志決定から独立した形で自身の意思決定を行います。このような事情を踏まえると、非協力ゲームを「プレイヤーたちがそれぞれ独立に意志決定を行うゲーム」と定義することもできます。

例(非協力ゲーム)
将棋や囲碁、チェスなどの対戦ゲームにおいて、対戦する2人がいずれも自身の勝利を目的としている場合、両者の間に勝敗に関する合意は成立し得ません。したがって、このような戦略的状況は非協力ゲームとして記述されます。

プレイヤーたちが事前交渉を行う場合でも、交渉結果が拘束力を持たない場合には、それは非協力ゲームとして記述されます。非協力ゲームと判定する上で重要なことは、プレイヤーたちが事前交渉を行うかどうかではなく、事前交渉の結果が拘束力を持つかどうかであることに注意してください。

例(非協力ゲーム)
大国どうしが何らかの交渉を行っているものとします。国際社会には世界政府が存在しないため、大国どうしが何らかの合意を形成した場合でも、約束の履行を強制できる権力は存在しません。したがって、このような戦略的状況は非協力ゲームとして記述されます。

例(非協力ゲーム)
ある業界の企業はいずれも膨大な広告費に悩んでいるものとします。各企業とも広告費を削減したいのですが、自社だけが広告を減らす一方で競争相手が広告を減らさない場合には市場シェアを奪われてしまうため、広告の削減に踏み切れません。仮に、企業間で「お互いに広告を削減しよう」と合意した場合でも、その合意には拘束力がないため、どの企業も率先して広告を削減しようとはしません。自社が最初に広告を減らすと競争相手に市場シェアを奪われてしまうからです。このような戦略的状況は非協力ゲームとして記述されます。

例(非協力ゲーム)
労働組合と使用者の間で行われる団体交渉について考えます。労働組合は使用者に対して「業務命令権」「人事権」「施設管理権」などに関する改善を要求しているものとします。ただ、これらの権利はいずれも労働組合の介入を許さない使用者の権利として認められているため(経営三権)、これらの権利に関する事項について団体交渉を行い、何らかの合意を勝ち取ったとしても、裁判所はその執行を強制できないため、その合意には拘束力がありません。したがって、このような戦略的状況は非協力ゲームとして記述されます。

「非協力」ゲームとはいっても、プレイヤーが互いに対立している状況だけを想定するわけではありません。利害が一致しているプレイヤーたちが合意を形成した上でゲームに望もうとしたものの、何らかの技術的な理由により事前に連絡を取れず、そのまま意志決定を行わなければならないのであれば、その状況は非協力ゲームとして記述されます。

例(非協力ゲーム)
2人が駅の改札口で待ち合わせをすることにしました。2人ともその駅へ行くのは初めてです。駅には西口と東口の2つの改札がありますが、2人は駅に到着するまでその事実を知りません。2人は別々に駅へ到着しましたが、相手がどちらの改札で待っているか分かりません。何らかの事情による2人とも携帯電話などを使うことはできず、とりあえずどちらか一方の改札口へ向かわざるを得ません。お互いに相手と会うことを目的としている点で両者の利害は一致しています。しかし、このような戦略的状況は非協力ゲームとして記述されます。

 

協力ゲーム

問題としているゲームにおいてプレイヤーの間に拘束的な合意が成立し得る場合、そのようなゲームを協力ゲーム(cooperative game)と呼びます。プレイヤーの間に拘束的な合意が成立する場合には、プレイヤーたちは提携(coalition)と呼ばれる集団を形成した上で、互いに拘束的な意志決定を行います。協力ゲームでは個々のプレイヤーどうしの戦略的相互依存関係を分析できるだけでなく、提携間の戦略的相互依存関係も分析できます。

「協力」ゲームとはいっても、プレイヤーたちの対立が完全に解消された状況を想定するわけではありません。そこでは依然としてプレイヤーや提携の間で競争が行われます。協力ゲームにおいて提携が形成され内部で統一的な意思決定が行われるのは、そうすることにより提携に参加する個々のプレイヤーの利得が増加するからです。

例(協力ゲーム)
先の広告業界の事例について再び考えます。何らかの理由により政府がこの業界に対して広告出稿を制限し、違反した企業に対して莫大な罰金を課す場合には、「広告を削減する」という合意は拘束的なものになるため、その状況は協力ゲームとして記述されます。政府による介入の有無に関わらず、この業界の企業は市場シェアを奪い合っています。

例(協力ゲーム)
先の団体交渉の事例について再び考えます。ただ、今回は労働組合が使用者に対して「賃金」や「労働時間」の改善を要求しており、合意内容は書面(労働協約)として作成されるものとします。これらの項目に関する権利は労働者の権利として認められており、なおかつ、使用者側が労働協約に違反した場合、労働基準法や労働組合法を根拠に罰則が適用されるため、団体交渉における合意は効力的なものになります。つまり、この場合の団体交渉は協力ゲームとして記述されます。

関連知識

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