完全情報ゲームと不完全情報ゲーム

動学ゲームに参加するすべてのプレイヤーが、自身が意思決定をおこなうすべての時点において、それ以前に行われたすべてのプレイヤーによる意志決定の内容を観察できる場合には、そのようなゲームを完全情報ゲームと呼びます。一方、完全情報ゲームではない動学ゲームを不完全情報ゲームと呼びます。

観察可能性にもとづく動学ゲームの分類

前節では、プレイヤーが意思決定を行うタイミングに注目した上で、ゲームを静学ゲームと動学ゲームに分類しました。静学ゲームでは、プレイヤーたちは互いが今回選んだ行動を観察しないまま意思決定を行います。これに対して動学ゲームでは、ゲームが複数の時点または段階にわたって進行します。

ただし、あるプレイヤーが他のプレイヤーより後に意思決定を行うからといって、先に選ばれた行動を観察できるとは限りません。後に行動するプレイヤーが、それまでに選ばれたすべての行動を観察できる場合もあれば、その一部または全部を観察できない場合もあります。

例えば、将棋では、プレイヤーはそれまでに指されたすべての手を観察できます。一方、あるプレイヤーが先に行動し、その後で別のプレイヤーが意思決定を行う場合でも、後に行動するプレイヤーに先行者の行動が知らされないことがあります。このように、誰がいつ意思決定を行うかという意思決定のタイミングと、各プレイヤーが意思決定時点で何を知っているかという情報構造は、区別して考える必要があります。

本節では、動学ゲームにおいて、それまでに選ばれた行動や起きた出来事をプレイヤーがどの程度観察できるかに注目し、完全情報ゲームと不完全情報ゲームの違いを説明します。

 

完全情報ゲーム

動学ゲームにおいて、各プレイヤーが意思決定を行うすべての時点で、それまでに選ばれたすべての行動を観察できる場合、そのゲームを完全情報ゲーム(game of perfect information)と呼びます。

完全情報ゲームでは、それぞれのプレイヤーは、自分が行動する時点までにゲームがどのように進行してきたかを知っています。したがって、過去の行動について複数の可能性を区別できないまま意思決定することはありません。

例(完全情報ゲーム)
プレイヤー1が最初に「左」または「右」を選び、その後でプレイヤー2が「上」または「下」を選ぶゲームを考えます。プレイヤー2が、プレイヤー1の選択を観察した後で行動するのであれば、このゲームは完全情報ゲームです。プレイヤー2は、プレイヤー1が「左」を選んだ場合と「右」を選んだ場合を区別できます。そのため、プレイヤー1の選択に応じて異なる行動を選ぶことができます。

例(対戦型ゲーム)
将棋では、2人のプレイヤーが交互に駒を動かします。それぞれのプレイヤーは、自分が意思決定を行う時点で、それまでに自分と相手が指したすべての手と、現在の盤面を観察できます。囲碁やチェスについても、それまでに選ばれたすべての手と現在の盤面が両者に公開されているため、同様に完全情報ゲームです。

 

ゲームの歴史

動学ゲームにおいて、ある時点までに選ばれた行動や起きた出来事の列を、その時点までの歴史(history)と呼びます。完全情報ゲームとは、直感的には、各プレイヤーが意思決定を行う時点で、それまでの歴史を正確に知っているゲームです。

例(ゲームの歴史)
プレイヤー1が最初に「左」または「右」を選び、その後でプレイヤー2が「上」または「下」を選ぶゲームを考えます。例えば、プレイヤー1が「左」を選び、その後でプレイヤー2が「上」を選んだ場合、「プレイヤー1が左を選び、プレイヤー2が上を選んだ」という一連の出来事が、ゲームの歴史を構成します。

動学ゲームでは、プレイヤーの意思決定だけでなく、偶然による出来事がゲームの進行に影響を与える場合があります。ゲーム理論では、このような偶然による出来事を、しばしば自然(nature)による選択として表現します。自然は、自身の目的を持って行動するプレイヤーではなく、あらかじめ定められた確率にしたがって出来事を発生させる仮想的な主体です。

例(自然)
カードゲームにおいてカードが無作為に配られることや、サイコロの目が確率的に決まることは、自然による選択として表現できます。

自然による選択が含まれる場合には、完全情報ゲームを、各プレイヤーが意思決定を行うすべての時点で、それまでに選ばれた行動と、自然によって実現した出来事をすべて観察できるゲームとして捉えることができます。

 

不完全情報ゲーム

完全情報ゲームではない動学ゲームを不完全情報ゲーム(game of imperfect information)と呼びます。すなわち、動学ゲームにおいて、少なくとも1人のプレイヤーが意思決定を行う時点で、それまでに選ばれた行動や起きた出来事の一部を観察できない場合、そのゲームは不完全情報ゲームです。

例(不完全情報ゲーム)
プレイヤー1が最初に「左」または「右」を選び、その後でプレイヤー2が「上」または「下」を選ぶゲームを考えます。プレイヤー2が意思決定を行う時点で、プレイヤー1が「左」と「右」のどちらを選んだかを観察できないものとします。この場合、プレイヤー2は、プレイヤー1が「左」を選んだ場合と「右」を選んだ場合を区別できません。したがって、プレイヤー2は、プレイヤー1の行動を観察した上で自分の行動を変えることができません。このゲームでは、プレイヤー2が意思決定を行う時点で、それ以前に選ばれたプレイヤー1の行動を観察できないため、不完全情報ゲームです。

 

一部の情報だけを観察できる場合

プレイヤーが過去の行動について何らかの情報を得られる場合でも、その行動を正確に特定できなければ、ゲームは完全情報ゲームではありません。

例(不完全情報ゲーム)
企業1が最初に0から100までの範囲で研究開発投資額を選び、その後で企業2が投資額を決定する状況を考えます。企業2は、企業1の投資額が50以上であるか、50未満であるかを観察できますが、正確な投資額は観察できないものとします。このとき、企業2は、企業1が60を選んだ場合と90を選んだ場合を区別できません。企業1の行動について一部の情報を得ているものの、実際に選ばれた行動を完全には観察できないため、このゲームは不完全情報ゲームです。

完全情報ゲームであるためには、過去の行動について何らかの手掛かりを得られるだけでは不十分です。各プレイヤーが、それまでに何が行われたかを正確に識別できる必要があります。

 

観察と推測の違い

過去の行動を観察できないことは、その行動について何も推測できないことを意味しません。

例(観察できないが推察できるケース)
企業1が先に商品の品質を決定し、その後で消費者が商品を購入するかどうかを決定する状況を考えます。消費者は、企業1が選んだ品質を直接観察できませんが、価格、広告、企業の評判などから品質を推測できるかもしれません。しかし、消費者が商品の品質を推測できるとしても、企業1が実際に選んだ品質を確実に観察できるわけではありません。したがって、このゲームは完全情報ゲームではありません。

不完全情報ゲームでは、プレイヤーは、観察できない行動や出来事について予想または信念を形成し、利用可能な情報にもとづいて意思決定します。

例(ポーカー)
ポーカーでは、プレイヤーたちは順番に、ベット、コール、レイズ、フォールドなどの行動を選びます。これらの行動は、通常、他のプレイヤーにも観察されます。一方、それぞれのプレイヤーに配られた非公開カードは、他のプレイヤーからは観察できません。また、山札に残っているカードの順序も観察できません。カードの配布は自然による選択として表現できます。他のプレイヤーに配られたカードを観察できないプレイヤーは、ゲームがどのような歴史をたどって現在の状態に到達したかを完全には知ることができません。したがって、ポーカーは不完全情報ゲームです。

例(麻雀)
麻雀では、各プレイヤーが捨てた牌は、通常、他のプレイヤーにも公開されます。したがって、他のプレイヤーがどの牌を捨てたかは観察できます。一方、他のプレイヤーが手元に持っている牌や、山に残っている牌は観察できません。牌の配布や、各プレイヤーが山からどの牌を引くかは、自然による選択として表現できます。それらの一部は他のプレイヤーに公開されないため、プレイヤーはゲームの歴史を完全には観察できません。したがって、麻雀は不完全情報ゲームです。

 

意思決定のタイミングと情報構造

完全情報ゲームと不完全情報ゲームの違いは、プレイヤーが行動する順番ではなく、意思決定時点で何を観察できるかという情報構造にあります。

例(完全情報ゲームと不完全情報ゲーム)
次の二つのゲームを考えます。第一のゲームでは、プレイヤー1が先に行動し、プレイヤー2がその行動を観察した後で意思決定します。第二のゲームでも、プレイヤー1が先に行動し、プレイヤー2が後に意思決定します。ただし、プレイヤー2はプレイヤー1の行動を観察できません。どちらのゲームも、プレイヤー1が先に行動し、プレイヤー2が後に行動する動学ゲームです。しかし、第一のゲームは完全情報ゲームである一方、第二のゲームは不完全情報ゲームです。この例から分かるように、誰がいつ意思決定を行うかというタイミングと、各プレイヤーが何を知っているかという情報構造は別の問題です。

 

演習問題

問題(完全情報ゲームの判定)
プレイヤー1が最初に「左」または「右」を選び、その後でプレイヤー2が「上」または「下」を選ぶゲームを考えます。次のそれぞれについて、完全情報ゲームか不完全情報ゲームかを判定してください。

  1. プレイヤー2は、プレイヤー1の行動を観察した後で意思決定する。
  2. プレイヤー2は、プレイヤー1がすでに行動したことは知っているが、「左」と「右」のどちらを選んだかを知らない。
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問題(将棋とポーカー)
将棋とポーカーについて、それぞれのプレイヤーが観察できる情報と観察できない情報を挙げ、完全情報ゲームか不完全情報ゲームかを判定してください。

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問題(麻雀)
「麻雀は、他のプレイヤーが捨てた牌を観察できないため、不完全情報ゲームである。」という主張が正しいかどうかを判定し、理由を説明してください。

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問題(非公開の研究開発投資)
企業1が最初に研究開発投資額を決定します。その後、企業2が研究開発投資額を決定します。ただし、企業1が選んだ投資額は企業2に公開されません。

  1. このゲームは静学ゲームと動学ゲームのどちらですか。
  2. 完全情報ゲームと不完全情報ゲームのどちらですか。
  3. 企業2は、企業1の投資額を観察できない場合、どのように意思決定すると考えられますか。
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問題(情報の一部だけを観察できる場合)
プレイヤー1が最初に0から100までの金額の中から投資額を選びます。その後、プレイヤー2が行動します。プレイヤー2は、プレイヤー1の正確な投資額を観察できません。ただし、投資額が50以上であるか、50未満であるかは観察できます。このゲームは完全情報ゲームでしょうか。

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