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不完備情報の静学ゲーム

ベイジアンゲームの定義

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不完備情報の静学ゲーム

ゲーム理論(game theory)は戦略的相互依存性(strategic interdependence)が存在する状況を分析対象とする学問です。戦略的相互依存性が存在する状況とは、複数の主体が関わり合う場面において、それぞれの主体が最終的に直面する結果が自身の行動だけによって決まるのではなく、他の主体による行動にも依存するような状況を指します。戦略的相互依存関係が成立する状況をモデル化する際には、以下の要素を具体的に記述します。

  1. ゲームにおいて意思決定を行う主体は誰か。つまり、ゲームのプレイヤー(player)は誰か。
  2. プレイヤーたちはどのような順番(turn)で意思決定を行うか。
  3. プレイヤーたちが意思決定を行う際にどのような選択肢が与えられているか。つまり、プレイヤーたちはどのような行動(action)を選択可能か。
  4. プレイヤーが意思決定を行う際にどのような情報(information)が与えられているか。
  5. プレイヤーたちが意思決定を行う帰結として、どのような結果(outcome)が起こり得るか。
  6. プレイヤーたちはそれぞれの結果をどのように評価しているか。すなわち、プレイヤーはどのような利得(payoff)の体系を持っているか。

以上の要素をゲームのルール(rule)と呼びます。ゲームの開始後、それぞれの「プレイヤー」は自身が行動する「順番」になったら、その時点においてアクセス可能な「情報」を活用しつつ、何らかの行動原理にもとづいて、与えられた選択肢の中から特定の「行動」を選択します。すべてのプレイヤーによる意志決定が終了したら、プレイヤーたちが選んだ行動の組み合わせに応じて特定の「結果」が実現し、それぞれのプレイヤーは実現した結果から「利得」を得ます。

戦略的相互依存関係に直面したプレイヤーたちは、自身にとってより望ましい結果を導くために、最終的な意志決定を行う前に交渉を行う可能性があります。事前交渉の結果に対してプレイヤーたちの間に拘束的な合意が成立するのであれば、プレイヤーたちはグループを作って互いに協力的な意志決定を行う可能性があります。そして、その場合の意思決定は、プレイヤーたちの間に拘束的な合意が成立しない場合の意思決定とは異なるものになり得ます。ですから、戦略的相互依存関係を分析する際には、プレイヤーたちの間に拘束的な合意が成立するか否かを事前に明らかにしておく必要があります。本節の分析対象である非協力ゲーム(non-cooperative game)とは、プレイヤーたちの間に拘束的な合意が成立しないようなゲームです。非協力ゲームではプレイヤーたちの間に拘束的な合意が成立しないため、それぞれのプレイヤーは他のプレイヤーによる意志決定から独立した形で自身の意思決定を行います。したがって、非協力ゲームを「プレイヤーたちがそれぞれ独立に意志決定を行うゲーム」と定義することもできます。

ゲームに参加するすべてのプレイヤーが同時に意思決定を行うとき、そのゲームを静学ゲーム(static game)や同時手番ゲーム(simultaneous move game)などと呼びます。本節の分析対象は静学ゲームです。静学ゲームという概念はゲームのルールの中でも「順番」を基準にゲームを分類することで得られる概念ですが、「情報」によって静学ゲームという概念を特徴づけることもできます。具体的には、プレイヤーたちが同時に意思決定を行うことは、それぞれのプレイヤーが意思決定を行う際に、他のプレイヤーたちが行った意思決定を事前に観察できないことと実質的に同じです。したがって、静学ゲームを「それぞれのプレイヤーが意志決定を行う際に他のプレイヤーたちが行った意志決定に関する情報を与えられないゲーム」と定義することもできます。

戦略的相互依存関係に直面したそれぞれのプレイヤーは、自分が直面しているゲームのルールを常に正確に把握できるとは限りません。戦略的相互依存関係を分析する際には、それぞれのプレイヤーがゲームのルールにどの程度精通しているかを事前に明らかにしておく必要があります。本節の分析対象である不完備情報ゲーム(game of incomplete information)とは、少なくとも1人のプレイヤーがゲームのルールを構成する少なくとも1つの要素を知らないようなゲームのことです。不完備情報ゲームのプレイヤーが保有するゲームのルールに関する情報のうち、そのプレイヤーだけが観察可能で他のプレイヤーたちが観察できないものを、そのプレイヤーが持つ私的情報(private information)やタイプ(type)などと呼びます。少なくとも1人のプレイヤーが私的情報を持つ場合には、プレイヤーたちが直面する情報構造は対称的ではないため、情報の非対称性(asymmetric information)が存在すると表現します。不完備情報ゲームは情報の非対称性が成立する戦略的状況です。

本節の分析対象は非協力かつ静学かつ不完備情報であるようなゲームです。これを不完備情報の静学ゲーム(static games of incomplete information)と呼びます。不完備情報の静学ゲームは非協力ゲームであるため、そこではプレイヤーたちの間に拘束的な合意は成立せず、それぞれのプレイヤーの意思決定は他のプレイヤーたちの意思決定からは独立した形で行われます。不完備情報の静学ゲームを分析対象とする場合、ゲームのルールの中でも「順番」は明らかです。つまり、不完備情報の静学ゲームおいて、すべてのプレイヤーは同時に意思決定を行います。言い換えると、それぞれのプレイヤーは他のプレイヤーたちが選択する行動を観察できない状態で自身の行動を決定する必要があります。以上を踏まえると、不完備情報の静学ゲームを記述するためには、ゲームのルールの残りの要素である「プレイヤー」「行動」「情報」「結果」「利得」を特定すればよいということになります。これらの要素を記述する方法はいくつか存在しますが、以下ではベイジアンゲーム(Bayesian game)と呼ばれるモデルを紹介します。

 

プレイヤーの表現

不完備情報の静学ゲームに参加するすべてのプレイヤーからなる集合をプレイヤー集合(player set)やプレイヤー空間(player space)などと呼び、これを\(I\)で表記します。プレイヤー集合\(I\)はすべてのプレイヤーにとっての共有知識であるものと仮定します。

\(n\)人のプレイヤーが参加するゲームを\(n\)人ゲーム(\(n\)-players game)と呼びます。その上で、\(n\)人ゲームのプレイヤー集合を、\begin{equation*}I=\left\{ 1,2,\cdots ,n\right\}
\end{equation*}で表記します。プレイヤー集合\(I\)に属する\(i\ \left( =1,2,\cdots ,n\right) \)番目のプレイヤーをプレイヤー\(i\)(player \(i\))と呼びます。\(i\in I\)です。

戦略的相互依存関係は複数のプレイヤーが存在することで初めて成立する状況であるため、プレイヤーの人数が複数であることはゲームの基本的な条件となります。そこで、多くの場合、プレイヤーの人数\(n\)は\(2\)以上の整数と仮定します。

プレイヤーの単位として何を採用するかは分析対象となる戦略的相互依存関係に応じて変化します。個人をプレイヤーの単位とする場合もあれば、組織や国家などをプレイヤーの単位とする場合もあります。プレイヤーの単位を決定する上で重要なことは、ゲームにおいて自律的な意思決定を行う最小単位がプレイヤーであるということです。もう1つの重要な点は、その主体が戦略的相互依存関係に直面する中で意思決定を行う主体であるということです。したがって、他の主体との関係性の中で意思決定を行うのではなく、外生的に変化する状況に対応する形でのみ意志決定を行う主体はプレイヤーとはみなされず、モデルの環境変数とみなされます。

例(プレイヤー集合)
ある市場への参入を検討している複数の企業による意思決定を分析する場合、このゲームのプレイヤー集合\(I\)はすべての潜在的参入企業からなる集合です。そのような企業が\(2\)社あるならば、\begin{equation*}I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}となります。

例(プレイヤー集合)
1つの商品をめぐって複数の人たちが入札を行うオークションを分析する場合、このゲームのプレイヤー集合\(I\)はすべての入札者からなる集合です。入札者が\(n\)人いるならば、\begin{equation*}I=\left\{ 1,\cdots ,n\right\}
\end{equation*}となります。ただし、状況によっては商品の売り手をプレイヤーをみなした上で分析を行います。

 

私的情報の表現

不完備情報ゲームでは、少なくとも1人のプレイヤーはゲームのルールを構成する少なくとも1つの要素を知りませんが、このような状況をどのように表現すればよいでしょうか。

問題としているゲームのルールを構成する要素のうち、あるプレイヤー\(i\in I\)だけが観察可能で、他のプレイヤーが観察できない要素をプレイヤー\(i\)の私的情報(private information)やタイプ(type)などと呼び、これを\(\theta _{i}\)で表記します。\(\theta _{i}\)にはプレイヤー\(i\)が保有するすべての私的情報が含まれており、これは様々な値をとり得るものとします。そこで、\(\theta _{i}\)がとり得るすべての値からなる集合を\(i\)のタイプ集合(type set)と呼び、これを\(\Theta _{i}\)で表記します。\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)です。

すべてのプレイヤーのタイプ集合\(\Theta _{1},\cdots ,\Theta_{n}\)は共有知識であるものと仮定します。プレイヤー\(i\)のタイプ\(\theta_{i}\)はタイプ集合\(\Theta _{i}\)に含まれる様々な値をとり得ますが、\(\theta _{i}\)の真の値を知っているのはプレイヤー\(i\)だけであり、他の任意のプレイヤー\(j\ \left( \not=i\right) \)は\(\theta _{i}\)がとり得る値の範囲\(\Theta _{i}\)を知っているだけで、その中のどの値が\(\theta _{i}\)の真の値であるかは知らないものとみなすことにより、それぞれのプレイヤーのタイプが私的情報である状況を表現します。

すべてのプレイヤーのタイプからなる組を\(\theta _{I}=(\theta _{i})_{i\in I}\)で表し、プレイヤー\(i\)以外のプレイヤーたちのタイプの組を\(\theta _{-i}=(\theta _{j})_{j\in I\backslash \left\{ i\right\} }\)で表します。\(\theta _{I}=\left( \theta _{i},\theta _{-i}\right) \)です。

すべてのプレイヤーのタイプ集合の直積を\(\Theta _{I}=\prod_{i\in I}\Theta _{i}\)で表します。また、\(\Theta _{-i}=\prod_{j\in I\backslash \left\{ i\right\} }\Theta _{j}\)と定めます。\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)かつ\(\theta _{-i}\in\Theta _{-i}\)です。

例(タイプ集合)
先の新規参入問題の例において、プレイヤー集合が\(I=\left\{ 1,2\right\} \)であるとともに、それぞれの企業\(i\in I\)の技術水準は私的情報であり、競争相手はそれを事前に観察できないものとします。この場合、それぞれの企業が自社の技術水準を公言した場合でも、他の企業はその情報の真偽を確かめるのは困難です。企業\(i\)のタイプ\(\theta _{i}\)を自社の技術水準として定義します。\(\theta _{i}\)は高技術\(h\)と低技術\(l\)の2つの値をとり得るものと仮定するのであれば、企業\(i\)のタイプ集合は、\begin{equation*}\Theta _{i}=\left\{ h,l\right\}
\end{equation*}という有限集合になります。それぞれの企業\(i\)のタイプ集合\(\Theta_{i}\)は共有知識であるため、企業\(j\ \left( \not=i\right) \)は競争相手である企業\(i\)の技術水準\(\theta _{i}\)がとり得る値が\(h\)と\(l\)のどちらか一方であることを把握しています。しかし、\(\theta _{i}\)の真の値を知っているのは企業\(i\)だけであり、企業\(j\)は\(\theta _{i}\)の真の値を知らないものとみなすことにより、企業\(i\)の技術水準が企業\(i\)の私的情報である状況を表現します。他の任意の企業のタイプについても同様です。
例(タイプ集合)
先のオークションの例において、プレイヤー集合が\(I=\left\{ 1,\cdots ,n\right\} \)であるとともに、それぞれの入札者にとって商品への評価額は私的情報であり、他の入札者はそれを事前に観察できないものとします。この場合、それぞれの入札者が自身にとっての商品の評価額を公言した場合でも、他の入札者はその情報の真偽を確かめるのは困難です。入札者\(i\)のタイプ\(\theta _{i}\)を、自身にとっての商品の評価額として定義します。\(\theta _{i}\)は\(\underline{\theta }_{i}\)以上\(\overline{\theta }_{i}\)以下の任意の実数を値としてとり得るものと仮定するのであれば、入札者\(i\)のタイプ集合は、\begin{equation*}\Theta _{i}=\left[ \underline{\theta }_{i},\overline{\theta }_{i}\right] \end{equation*}という\(\mathbb{R} \)上の有界な閉区間になります。それぞれの入札者\(i\)のタイプ集合\(\Theta _{i}\)は共有知識であるため、入札者\(j\ \left(\not=i\right) \)は競争相手である入札者\(i\)による評価額\(\theta _{i}\)がとり得る値が\(\underline{\theta }_{i}\)以上\(\overline{\theta }_{i}\)以下の実数であることを把握しています。しかし、\(\theta _{i}\)の真の値を知っているのは入札者\(i\)だけであり、入札者\(j\)は\(\theta _{i}\)の真の値を知らないものとみなすことにより、入札者\(i\)による商品への評価額が入札者\(i\)の私的情報である状況を表現します。他の任意の入札者のタイプについても同様です。

すべてのプレイヤーのタイプからなる組\(\theta _{I}=(\theta _{i})_{i\in I}\)を、ゲームにおいて起こり得る状態(state of the world)と呼びます。\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)であることから、\(\Theta _{I}\)はゲームにおいて起こり得るすべての状態からなる集合です。すべてのプレイヤーのタイプ集合\(\Theta _{1},\cdots ,\Theta _{n}\)は共有知識であることから、それらの直積である\(\Theta _{I}\)もまた共有知識です。つまり、ゲームにおいて起こり得るすべての状態は、すべてのプレイヤーにとっての共有知識です。

それぞれのプレイヤー\(i\)は自身のタイプ\(\theta_{i}\)の真の値(便宜的にこれを\(\theta _{i}^{\ast }\)と表記します)を知っていますが、他の任意のプレイヤー\(j\ \left( \not=i\right) \)のタイプ\(\theta _{j}\)の真の値\(\theta_{j}^{\ast }\)を知りません。プレイヤー\(i\)が他のプレイヤー\(j\)について知っていることは、\(\theta _{j}\)がとり得る値の範囲\(\Theta _{j}\)だけです。こうした事情はすべてのプレイヤーにとって同様であるため、結局、ゲームの真の状態\(\theta_{I}^{\ast }=\left( \theta _{i}^{\ast }\right) _{i\in I}\)を把握しているプレイヤーは存在しないことになります。つまり、それぞれのプレイヤー\(i\)はゲームの真の状態\(\theta _{I}^{\ast }=\left( \theta _{i}^{\ast },\theta_{-i}^{\ast }\right) \)に関する断片的な知識\(\theta _{i}^{\ast }\)を持っていますが、真の状態を構成する残りの要素\(\theta _{-i}^{\ast }\)については正確に知りません。プレイヤー\(i\)が他のプレイヤーたちについて知っていることは、他のプレイヤーたちのタイプの組\(\theta _{-i}\)がとり得る値の範囲\(\Theta _{-i}\)だけです。したがって、プレイヤー\(i\)が直面し得る状態からなる集合は、\begin{equation*}\left\{ \left( \theta _{i}^{\ast },\theta _{-i}\right) \right\} _{\theta
_{-i}\in \Theta _{-i}}
\end{equation*}となります。他の任意のプレイヤーについても同様の議論が成立します。

例(状態集合)
先の新規参入問題の例において、プレイヤー集合が\(I=\left\{ 1,2\right\} \)であるとともに、それぞれの企業\(i\in I\)のタイプ集合が\(\Theta _{i}=\left\{ h,l\right\} \)であるものとします。この場合、起こり得る状態\(\left( \theta _{1},\theta _{2}\right) \)からなる集合\(\Theta _{I}\)は、\begin{equation*}\left\{ \left( h,h\right) ,\left( h,l\right) ,\left( l,h\right) ,\left(
l,l\right) \right\}
\end{equation*}です。仮に、企業\(1\)の真の技術水準が\(h\)である場合、企業\(1\)が直面し得る状態からなる集合は、\begin{equation*}\left\{ \left( h,h\right) ,\left( h,l\right) \right\}
\end{equation*}です。一方、企業\(1\)の真の技術水準が\(l\)である場合、企業\(1\)が直面し得る状態からなる集合は、\begin{equation*}\left\{ \left( l,h\right) ,\left( l,l\right) \right\}
\end{equation*}です。企業\(2\)についても同様に考えます。
例(状態集合)
先のオークションの例において、プレイヤー集合が\(I=\left\{ 1,\cdots ,n\right\} \)であるとともに、それぞれの入札者\(i\in I\)のタイプ集合が\(\Theta _{i}=\left[ \underline{\theta }_{i},\overline{\theta }_{i}\right] \)であるものとします。この場合、起こり得る状態\(\left( \theta _{1},\theta _{2}\right) \)からなる集合\(\Theta _{I}\)は、\begin{equation*}\left[ \underline{\theta }_{1},\overline{\theta }_{1}\right] \times \left[
\underline{\theta }_{2},\overline{\theta }_{2}\right] \end{equation*}です。仮に入札者\(1\)による商品への真の評価額が\(1\)である場合、入札者\(1\)が直面し得る状態からなる集合は、\begin{equation*}\left\{ \left( 1,\theta _{2}\right) \ |\ \theta _{2}\in \left[ \underline{\theta }_{2},\overline{\theta }_{2}\right] \right\}
\end{equation*}です。他のケースについても同様に考えます。

 

行動の表現

不完備情報の静学ゲームにおいてそれぞれのプレイヤーに選択肢として与えられているすべての行動からなる集合をそのプレイヤーの行動集合(action set)や行動空間(action space)などと呼びます。プレイヤー\(i\in I\)の行動集合を\(A_{i}\)で表し、プレイヤー\(i\)の個々の行動を\(a_{i}\in A_{i}\)で表します。

すべてのプレイヤーの行動からなる組を\(a_{I}=(a_{i})_{i\in I}\)で表し、プレイヤー\(i\)以外のプレイヤーたちの行動の組を\(a_{-i}=(a_{j})_{j\in I\backslash \left\{ i\right\} }\)で表します。\(a_{I}=\left( a_{i},a_{-i}\right) \)です。

すべてのプレイヤーの行動集合の直積を\(A_{I}=\prod_{i\in I}A_{i}\)で表します。また、\(A_{-i}=\prod_{j\in I\backslash \left\{ i\right\}}A_{j}\)と定めます。\(a_{I}\in A_{I}\)かつ\(a_{-i}\in A_{-i}\)です。

例(行動集合)
先の新規参入問題の例において、プレイヤー集合が\(I=\left\{ 1,2\right\} \)であるとともに、それぞれの企業\(i\in I\)のタイプ集合が\(\Theta _{i}=\left\{ h,l\right\} \)であるものとします。それぞれの企業\(i\)は問題としている産業に「参入する」(entryの頭文字である\(e\)で表記する)か「参入しない」(not entryの頭文字である\(n\)で表記する)かを選択可能であるならば、企業\(i\)の行動集合を、\begin{equation*}A_{i}=\left\{ e,n\right\}
\end{equation*}と表現できます。

不完備情報の静学ゲームでは、それぞれのプレイヤーにとって選択可能な行動が私的情報であるような状況も起こり得ます。つまり、プレイヤー\(i\)が保有するすべての私的情報は自身のタイプ\(\theta _{i}\)に含まれているため、プレイヤー\(i\)が選択可能な行動からなる集合\(A_{i}\)が私的情報であることを表現するためには、\(A_{i}\)の要素が\(\theta _{i}\)の値に依存して変化するものとみなすことで対応できます。そのことを\(A_{i}\left( \theta _{i}\right) \)と表記します。ただ、\(A_{i}\left(\cdot \right) \)の形状はプレイヤーたちの共有知識です。プレイヤー\(i\)のタイプ集合\(\Theta _{i}\)と\(A_{i}\left(\cdot \right) \)が共有知識であるとき、プレイヤー\(i\)のタイプが\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)であるときの行動集合\(A_{i}\left( \theta _{i}\right) \)もまたプレイヤーたちの共有知識になります。任意の\(\theta _{i}\)について同様の議論が成り立つため、プレイヤー\(i\)が直面し得る行動集合からなる集合\(\left\{ A_{i}\left( \theta _{i}\right)\right\} _{\theta _{i}\in \Theta _{i}}\)もまたプレイヤーたちの共有知識です。ただ、他の任意のプレイヤー\(j\ \left( \not=i\right) \)はプレイヤー\(i\)の真のタイプ\(\theta _{i}^{\ast }\)を知らないため、\(\{A_{i}\left(\theta _{i}\right) \}_{\theta _{i}\in \Theta _{i}}\)に属するどの行動集合がプレイヤー\(i\)の真の行動集合\(A_{i}\left( \theta _{i}^{\ast }\right) \)であるかを観察することはできません。このように考えることにより、プレイヤー\(i\)の選択可能な行動が私的情報である状況を表現します。

例(行動集合)
先のオークションの例において、プレイヤー集合が\(I=\left\{ 1,\cdots ,n\right\} \)であるとともに、それぞれの入札者\(i\in I\)のタイプ集合が\(\Theta _{i}=\left[ \underline{\theta }_{i},\overline{\theta }_{i}\right] \)であるものとします。オークションにおいてそれぞれの入札者\(i\)は商品への入札価格を提示するものとします。つまり、入札者\(i\)の行動\(a_{i}\)は入札価格であり、行動集合\(A_{i}\)は入札者\(i\)が提示し得る入札価格の範囲です。入札額は非負の実数でなければならないというオークションルールが設定されているものとします。また、入札者\(i\)は商品への評価額\(\theta _{i}\)を上回るような価格を入札する可能性を排除できるのであれば(例えば、入札者は代理人であり、雇い主からそのように命じられている場合)、入札者\(i\)の行動集合を、\begin{equation*}A_{i}\left( \theta _{i}\right) =\left[ 0,\theta _{i}\right] \end{equation*}と表現できます。つまり、商品への評価額が\(\theta _{i}\)である場合、入札者\(i\)が提示し得る入札額は\(0\)以上\(\theta _{i}\)以下の実数であるということです。

繰り返しになりますが、プレイヤー\(i\)の行動集合が私的情報である場合、それぞれのタイプ\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)ごとに行動集合\(A_{i}\left( \theta _{i}\right) \)を設定することになるため、プレイヤー\(i\)の行動集合を総体的に\(\{A_{i}\left( \theta _{i}\right) \}_{\theta _{i}\in \Theta _{i}}\)と記述することになります。一方、プレイヤー\(i\)の行動集合が私的情報ではない場合には、プレイヤー\(i\)のタイプ\(\theta _{i}\)にはプレイヤー\(i\)の行動集合に関する情報は含まれていないことになるため、ある集合\(A_{i}\)が存在して、\begin{equation*}\forall \theta _{i}\in \Theta _{i}:A_{i}=A_{i}\left( \theta _{i}\right)
\end{equation*}という関係が成り立つはずです。つまり、プレイヤー\(i\)の行動集合が私的情報でない場合には、行動集合はタイプ\(\theta _{i}\)の値に依存せず\(A_{i}\)で一定です。

後ほど解説するように、プレイヤーの行動集合が私的情報であるようなゲームが与えられたとき、一般性を失わな