教材一覧
教材一覧
教材検索
STATIC GAME OF INCOMPLETE INFORMATION

純粋戦略

目次

< 前のページ
次のページ >
Share on twitter
Twitterで共有
Share on email
メールで共有

不完備情報の静学ゲームにおける戦略

プレイヤーたちが直面する戦略的状況が不完備情報の静学ゲームである場合には、それをベイジアンゲームとして定式化できます。では、プレイヤーたちの意思決定をどのように定式化すればよいでしょうか。プレイヤーの意思決定は戦略(strategy)と呼ばれる概念を用いて表現します。

一般に、プレイヤーの戦略とは、プレイヤーがゲーム中に意志決定を行うそれぞれの局面において、そこで与えられた情報と行動を踏まえた上でどの行動を選ぶかをあらかじめ包括的に定める行動計画として定義されます。以上を踏まえた上で、不完備情報の静学ゲームにおける戦略とは何であるかを以下で説明します。

まず、プレイヤーたちが順番に意思決定を行う動学ゲームでは、プレイヤーの戦略とは、自分とは異なるタイミングで意志決定を行う他のプレイヤーたちの選択の結果として実現し得るすべての経路を想定した上で、各経路において自分がどのような行動を選ぶかをあらかじめ包括的に定める行動計画に相当します。一方、プレイヤーたちが同時に意思決定を行う静学ゲームでは、すべてのプレイヤーが同時に1度だけ意志決定を行うため、それぞれのプレイヤーは複数の経路を想定する必要がありません。

また、ゲームのルールが共有知識である完備情報ゲームでは、すべてのプレイヤーはゲームのルールについて確かな認識を持っているため、それぞれのプレイヤーはゲームのルールに関して起こり得る複数の状態を想定する必要がありません。一方、不完備情報ゲームでは少なくとも1人のプレイヤーがゲームのルールを構成する少なくとも1つの要素を知らないため、その場合のプレイヤーの戦略とは、実現し得るルールのあらゆる状態を想定した上で、それぞれの状態において自分がどのような行動を選ぶかをあらかじめ包括的に定める行動計画に相当します。

 

純粋戦略

問題としている戦略的状況が不完備情報の静学ゲームであるならば、それはベイジアンゲーム\(G\)として記述できます。仮にすべてのプレイヤーが真の状態\(\theta _{I}^{\ast }\)を把握しており、なおかつそのことが共有知識であるならば、プレイヤーたちが直面する状況は真の状態のもとでの状態ゲーム\(G\left( \theta _{I}^{\ast }\right) \)として記述できます。状態ゲーム\(G\left( \theta _{I}^{\ast }\right) \)は戦略型ゲームであるため、そこでのプレイヤーの戦略とは単純にプレイヤーが選択可能な行動の中から1つの行動を選ぶことを意味します。ただ、実際にはベイジアンゲーム\(G\)において真の状態\(\theta _{I}^{\ast }=\left( \theta _{i}^{\ast },\theta_{-i}^{\ast }\right) \)を把握しているプレイヤーは存在せず、それぞれのプレイヤー\(i\)は真の状態\(\theta _{I}^{\ast }\)に関する断片的な知識\(\theta _{i}^{\ast }\)しか持っていないため、プレイヤーは複数の状態ゲームに直面し得る中で意思決定を行う必要があります。具体的には、プレイヤー\(i\)が直面し得る状態ゲームからなる集合は\(\left\{ G\left( \theta _{i}^{\ast },\theta _{-i}\right) \right\}_{\theta _{-i}\in \Theta _{-i}}\)です。ただし、プレイヤー\(i\)はそれぞれの状態ゲームに対してそこで選択する行動をあらかじめ指定することはできません。なぜなら、プレイヤー\(i\)は他のプレイヤーたちのタイプ\(\theta _{-i}\)を観察できず、ゆえに自分が\(\left\{G\left( \theta _{i}^{\ast },\theta _{-i}\right) \right\} _{\theta _{-i}\in \Theta _{-i}}\)に属するどの状態ゲームをプレーしているか判別できないからです。したがって、プレイヤー\(i\)は特定の行動\(a_{i}\)を事前に選び、その1つの行動のもとで自分が直面し得る\(\left\{ G\left( \theta _{i}^{\ast },\theta_{-i}\right) \right\} _{\theta _{-i}\in \Theta _{-i}}\)に属するすべての状態ゲームに備えなければなりません。

プレイヤー\(i\)は自身のタイプ\(\theta _{i}\)の真の値\(\theta_{i}^{\ast }\)を知っているため、\(\theta _{i}^{\ast }\)のもとで直面し得る状態ゲームの集合\(\left\{ G\left( \theta _{i}^{\ast },\theta _{-i}\right)\right\} _{\theta _{-i}\in \Theta _{-i}}\)に対してのみ1つの行動を定めればよいと考えるかもしれませんが、この考えは誤りです。他のプレイヤー\(j\ \left(\not=i\right) \)の視点から考えてみると、プレイヤー\(j\)にとっての最適な行動はプレイヤー\(i\)の行動に依存するため、プレイヤー\(j\)はプレイヤー\(i\)の行動を予想しながら自身の行動を決定します。プレイヤー\(i\)の行動は自身のタイプ\(\theta _{i}\)に依存しますが、プレイヤー\(j\)はプレイヤー\(i\)の真のタイプ\(\theta _{i}^{\ast }\)を知らない以上、\(\Theta _{i}\)に属するそれぞれのタイプごとにそこでのプレイヤー\(i\)の行動を予想した上で、その予想を踏まえた上で自身の行動を決定します。つまり、プレイヤー\(j\)の行動はプレイヤー\(i\)のそれぞれのタイプのもとでの行動に依存します。逆に、プレイヤー\(i\)の最適な行動はプレイヤー\(j\)の行動に依存しますが、プレイヤー\(j\)の行動がプレイヤー\(i\)のそれぞれのタイプのもとでの行動に依存する以上、プレイヤー\(i\)が自身の最適な行動を考えるためには、プレイヤー\(i\)は自身のタイプ\(\theta _{i}^{\ast }\)とは限らない自身のそれぞれのタイプにおいて自分が何をするであろうか考える必要があります。つまり、真のタイプ\(\theta _{i}^{\ast }\)とは異なる任意のタイプ\(\theta _{i}\)についても、プレイヤー\(i\)はその場合の行動をあらかじめ定める必要があります。

以上を踏まえると、ベイジアンゲーム\(G\)においてそれぞれのプレイヤーは、自身のそれぞれのタイプごとに自身が選択するであろう行動を定める必要があります。具体的には、ベイジアンゲーム\(G\)におけるプレイヤー\(i\)の戦略は、自身のそれぞれのタイプ\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)に対して、そのときに自分が選択するであろう行動\(s_{i}\left( \theta _{i}\right) \in A_{i}\)をあらかじめ指定する写像\begin{equation*}s_{i}:\Theta _{i}\rightarrow A_{i}
\end{equation*}として定式化されます。このような行動計画\(s_{i}\)をプレイヤーの純粋戦略(pure strategy)と呼びます。

すべてのプレイヤーの戦略の組を\(s_{I}=(s_{i})_{i\in I}\)で表し、プレイヤー\(i\)以外のプレイヤーの戦略の組を\(s_{-i}=(s_{j})_{j\in I\backslash\left\{ i\right\} }\)で表します。\(s_{I}=\left( s_{i},s_{-i}\right) \)です。

プレイヤー\(i\)が選択可能なすべての戦略からなる集合をプレイヤー\(i\)の戦略集合(strategy set)や戦略空間(strategy space)などと呼び、これを\(S_{i}\)で表します。\(s_{i}\in S_{i}\)です。すべてのプレイヤーの戦略集合の直積を\(S_{I}=\prod_{i\in I}S_{i}\)で表します。また、\(S_{-i}=\prod_{j\in I\backslash \left\{ i\right\} }S_{j}\)とします。\(s_{I}\in S_{I}\)かつ\(s_{-i}\in S_{-i}\)です。

例(純粋戦略)
ある産業への参入を検討している2つの企業の意思決定を分析します。\(I=\left\{ 1,2\right\} \)です。それぞれの企業\(i\in I\)の技術水準\(\theta _{i}\)は私的情報であり、これは高技術\(h\)と低技術\(l\)の2つの値をとり得るものとします。\(\Theta _{i}=\left\{h,l\right\} \)です。それぞれの企業\(i\)は問題としている産業に参入する(entryの頭文字である\(e\)で表記する)もしくは参入しない(not entryの頭文字である\(n\)で表記する)という選択が可能であるものとします。\(A_{i}=\left\{ e,n\right\} \)です。この場合、プレイヤー\(i\)の純粋戦略は、自身のそれぞれの技術水準\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)に対して、その場合に自分が選ぶ行動\(s_{i}\left( \theta _{i}\right) \in A_{i}\)を指定する写像\(s_{i}:\Theta _{i}\rightarrow A_{i}\)として定式化されます。例えば、「自身の技術水準に関わらず常に参入する」という純粋戦略は、\begin{equation*}s_{i}\left( h\right) =s_{i}\left( l\right) =e
\end{equation*}を満たす\(s_{i}\)として定式化されます。また、「自身の技術水準が高い場合には参入し、自身の技術水準が低い場合には参入しない」という純粋戦略は、\begin{equation*}s_{i}\left( h\right) =e,\quad s_{i}\left( l\right) =n
\end{equation*}を満たす\(s_{i}\)として定式化されます。逆に、「自身の技術水準が高い場合には参入せず、自身の技術水準が低い場合には参入する」という純粋戦略は、\begin{equation*}s_{i}\left( h\right) =n,\quad s_{i}\left( l\right) =e
\end{equation*}を満たす\(s_{i}\)として定式化されます。最後に、「自身の技術水準に関わらず常に参入しない」という純粋戦略は、\begin{equation*}s_{i}\left( h\right) =s_{i}\left( l\right) =n
\end{equation*}を満たす\(s_{i}\)として定式化されます。
例(純粋戦略)
1つの商品をめぐって有限\(n\)人が入札を行うオークションを分析します。\(I=\left\{ 1,\cdots ,n\right\} \)です。それぞれの入札者\(i\in I\)の商品への評価額\(\theta _{i}\)は私的情報であり、これは\(\underline{\theta }_{i}\)以上\(\overline{\theta }_{i}\)以下の任意の実数を値としてとり得るものとします。\(\Theta _{i}=\left[ \underline{\theta }_{i},\overline{\theta }_{i}\right] \)です。それぞれの入札者\(i\)の行動\(a_{i}\)は入札価格であり、任意の非負の実数を入札できるものとします。\(A_{i}=[0,+\infty )\)です。この場合、プレイヤー\(i\)の純粋戦略は、自身にとってのそれぞれの評価額\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)に対して、その場合に自分が提示する入札額\(s_{i}\left( \theta_{i}\right) \in A_{i}\)を指定する写像\(s_{i}:\Theta _{i}\rightarrow A_{i}\)として定式化されます。例えば、自分がどのような評価額を持っている場合においても、その評価額を正直に入札額として提示するという純粋戦略は、\begin{equation*}\forall \theta _{i}\in \Theta _{i}:s_{i}\left( \theta _{i}\right) =\theta
_{i}
\end{equation*}を満たす\(s_{i}\)として定式化されます。ちなみに、このような純粋戦略\(s_{i}\)を正直戦略(honest strategy)と呼びます。

 

演習問題

問題(純粋戦略)
ベイジアンゲーム\(G\)のプレイヤー集合が\(I=\{1,2\}\)、行動集合が\(A_{1}=A_{2}=\{a,b\}\)、タイプ集合が\(\Theta _{1}=\left\{ \theta_{11}\right\} \)かつ\(\Theta _{2}=\left\{ \theta _{21},\theta_{22}\right\} \)であるものとします。この場合、2通りの状態\(\left( \theta _{11},\theta _{21}\right) \)と\(\left( \theta _{11},\theta _{21}\right) \)が存在します。状態ゲーム\(G\left( \theta _{11},\theta _{21}\right) \)は以下の利得行列

\begin{array}{ccc}
\hline
1\diagdown 2 & a & b \\ \hline
a & 2,1 & 0,0 \\ \hline
b & 0,0 & 1,2 \\ \hline
\end{array}

\(G\left( \theta _{11},\theta _{21}\right) \)

として、状態ゲーム\(G\left( \theta _{11},\theta _{21}\right) \)は以下の利得行列

\begin{array}{ccc}
\hline
1\diagdown 2 & a & b \\ \hline
a & 2,0 & 0,2 \\ \hline
b & 0,1 & 1,0 \\ \hline
\end{array}

\(G\left( \theta _{11},\theta _{22}\right) \)

としてそれぞれ与えられているものとします。このゲーム\(G\)におけるそれぞれのプレイヤーの純粋戦略をすべて明らかにしてください。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

ベイジアンゲームにおいてプレイヤーが意思決定を行うためには、純戦略だけでなく信念という概念が必要です。次回は信念について解説します。

質問・コメント(プレミアム会員限定) 次へ進む
< 前のページ
次のページ >
Share on twitter
Twitterで共有
Share on email
メールで共有
RELATED KNOWLEDGE

関連知識

DISCUSSION

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録