優加法性の仮定
プレイヤーたちが直面する戦略的状況が協力ゲームであり、それが譲渡可能効用を前提とする提携型ゲーム(TUゲーム)\begin{equation*}
G=\left\{ I,v\right\}
\end{equation*}として記述されているものとします。ただし、\(I\)はプレイヤー集合であり、\(v:2^{I}\rightarrow \mathbb{R} \)は特性関数です。多くの場合、特性関数\(v\)は以下の2つの条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ v\left( \phi \right) =0 \\
&&\left( b\right) \ \forall C\in 2^{I}:v\left( C\right) \geq 0
\end{eqnarray*}を満たすものと仮定します。\(\left( a\right) \)を正規化の仮定と呼び、\(\left(b\right) \)を非負性の仮定と呼びます。以降ではこれをシンプルに提携型ゲームと呼ぶこととします。
協力ゲームが提携型ゲーム\(G\)によって表現される場合、プレイヤーたちがどのような提携を形成し、さらに、提携の内部においてどのように資源を配分するかが問題になりますが、それは提携型ゲームの結果\begin{equation*}\left( \mathcal{C},a\right)
\end{equation*}として記述されます。ただし、提携構造\(\mathcal{C}=\left\{ C_{1},\cdots ,C_{K}\right\} \)はプレイヤー集合\(I\)の分割であり、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ I=\bigcup_{k=1}^{K}C_{k} \\
&&\left( b\right) \ \forall k,k^{\prime }\in \left\{ 1,\cdots ,K\right\}
:\left( k\not=k^{\prime }\Rightarrow C_{k}\cap C_{k^{\prime }}=\phi \right)
\end{eqnarray*}を満たすものとして定義され、利得ベクトル\(a\)は以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i\in I:a_{i}\geq 0 \\
&&\left( b\right) \ \forall k\in \left\{ 1,\cdots ,K\right\} :\sum_{i\in
C_{k}}a_{i}\leq v\left( C\right)
\end{eqnarray*}を満たすものとして定義されます。
提携型ゲーム\(G\)を分析する際には多くの場合、特性関数\(v:2^{I}\rightarrow \mathbb{R} \)に対して正規化と非負性を仮定するとともに、以下の条件\begin{equation*}\forall C,D\in 2^{I}:\left[ C\cap D=\phi \Rightarrow v\left( C\right)
+v\left( D\right) \leq v\left( C\cup D\right) \right]
\end{equation*}が成り立つものと仮定します。つまり、提携\(C\cup D\)を互いに素な2つの提携\(C,D\)に分割したとき、分割後の2つの提携の提携値の合計は、分割前の提携の提携値を超えることはありません。これを優加法性(superadditivity)の仮定と呼びます。また、特性関数\(v\)が優加法性を満たすような提携型ゲーム\(G\)を優加法性ゲーム(superadditive game)と呼びます。
\end{equation*}であり、特性関数\(v:2^{I}\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの提携に対して定める提携値は、\begin{gather*}v\left( I\right) =1 \\
v\left( \left\{ 1,2\right\} \right) =v\left( \left\{ 2,3\right\} \right)
=v\left( \left\{ 1,3\right\} \right) =\alpha \\
v\left( \left\{ 1\right\} \right) =v\left( \left\{ 2\right\} \right)
=v\left( \left\{ 3\right\} \right) =v\left( \phi \right) =0
\end{gather*}であるものとします。ただし、\(\alpha \in \left( 0,1\right) \)です。この特性関数\(v\)は正規化、非負性、優加法性の仮定をいずれも満たします。
優加法ゲームは単調ゲームである
特性関数\(v:2^{I}\rightarrow \mathbb{R} \)が非負性と優加法性を満たす場合、\(v\)は単調性を満たします。つまり、\begin{equation*}\forall C,D\in 2^{I}:\left[ C\subset D\Rightarrow v\left( C\right) \leq
v\left( D\right) \right]
\end{equation*}が成り立つということです。
単調ゲームは優加法ゲームであるとは限らない
非負性を認める場合、優加法性を満たす特性関数は単調性を満たすことが明らかになりましたが、その逆は成立するとは限りません。つまり、単調性を満たす特性関数は優加法性を満たすとは限らないということです。以下の例より明らかです。
\end{equation*}を定めるものとします。ただし、\(\left\vert C\right\vert \)は提携\(C\)に属するプレイヤーの人数です。対数関数\(\ln \left( x\right) \)は非負値をとるため\(v\)は非負性を満たします。\(v\)は単調性を満たす一方で優加法性を満たしません(演習問題)。
優加法性を満たさない提携型ゲーム
多くの協力ゲームは優加法性を満たしますが、優加法性を満たさない協力ゲームも存在します。以下が具体例です。
v\left( \left\{ 2\right\} \right) &=&1 \\
v\left( \left\{ 1,2\right\} \right) &=&0
\end{eqnarray*}が成り立つ状況が起こり得ます。2つの提携\(\left\{ 1\right\} ,\left\{ 2\right\} \in 2^{I}\)は互いに素であるとともに、\begin{equation*}v\left( \left\{ 1,2\right\} \right) =0<2=v\left( \left\{ 1\right\} \right)
+v\left( \left\{ 2\right\} \right)
\end{equation*}が成立します。したがって、特性関数\(v\)は優加法性を満たしません。
優加法ゲームのもとでの全体提携の提携値
特性関数が非負性と優加法性の仮定を満たす場合、全体提携のもとで提携値は最大化されます。
\end{equation*}が成り立つ。
優加法ゲームでは、全体提携のもとで提携値は最大化されることが明らかになりました。したがって、優加法ゲームにおいてプレイヤーたちは複雑な提携を形成する必要はなく、全体提携\(I\)を形成することが最適になります。つまり、優加法ゲームにおける結果\(\left( \mathcal{C},v\right) \)を構成する提携構造は、\begin{equation*}\mathcal{C}=\left\{ I\right\}
\end{equation*}であり、利得ベクトル\(a\)は以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i\in I:a_{i}\geq 0 \\
&&\left( b\right) \ \sum_{i\in I}a_{i}=V\left( I\right)
\end{eqnarray*}を満たすことが予想されます。優加法ゲームでは全体提携\(I\)のみが形成され、全体提携の提携値を全員で分け合うことになるため、利得ベクトル\(a\)の選択だけが分析課題となります。
演習問題
\end{equation*}であり、特性関数\(v:2^{I}\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの提携に対して定める提携値は、\begin{gather*}v\left( I\right) =105 \\
v\left( \left\{ 1,2\right\} \right) =90 \\
v\left( \left\{ 2,3\right\} \right) =80 \\
v\left( \left\{ 1,3\right\} \right) =70 \\
v\left( \left\{ 1\right\} \right) =v\left( \left\{ 2\right\} \right)
=v\left( \left\{ 3\right\} \right) =v\left( \phi \right) =0
\end{gather*}を満たすものとします。\(G\)は優加法ゲームでしょうか。議論してください。
\end{equation*}であり、特性関数\(v:2^{I}\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの提携に対して定める提携値が、\begin{equation*}v\left( C\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
0 & \left( if\ \left\vert C\right\vert \leq 1\right) \\
a & \left( if\ \left\vert C\right\vert =2\right) \\
b & \left( if\ \left\vert C\right\vert =3\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を満たすものとします。ただし、\(a,b\in \mathbb{R} \)は定数であり、\begin{equation*}0<a<b
\end{equation*}を満たすものとします。\(G\)が優加法ゲームであることを示してください。
\end{equation*}を定めるものとします。ただし、\(\left\vert C\right\vert \)は提携\(C\)に属するプレイヤーの人数です。\(v\)は単調性を満たす一方で優加法性を満たさないことを示してください。
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