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固有値と固有ベクトル

固有多項式(特性多項式)を用いた固有値の特定方法

目次

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正方行列の固有値が与えられれば列固有ベクトルは特定できる

正方行列の固有値および列固有ベクトルの定義と、それらの概念と正方行列の対角化の関係について簡単に復習します。

正方行列\(A\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が与えられたとき、それに関する固有値問題は、\begin{equation*}\exists \lambda \in \mathbb{R} ,\ \exists x\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} :Ax=\lambda x
\end{equation*}と定義されます。また、固有値問題の解であるスカラーと非ゼロベクトルからなる組\begin{equation*}
\left( \lambda ,x\right) \in \mathbb{R} \times \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\}
\end{equation*}を\(A\)の固有対と呼びます。固有対\(\left( \lambda ,x\right) \)を構成するスカラー\(\lambda \)を正方行列\(A\)の固有値と呼び、固有値\(\lambda \)とともに固有対\(\left( \lambda ,x\right) \)を形成する非ゼロベクトル\(x\)を固有値\(\lambda \)に対応する列固有ベクトルと呼びます。

正方行列\(A\)が対角化可能である場合には、\(A\)を対角化することによって得られる対角行列\(\left[ A\right] _{v}\)の対角要素\(\lambda _{i}\)は必ず\(A\)の固有値であるとともに、\(A\)の対角化を実現する基底\(v\)の要素である基底ベクトル\(v_{i}\)は\(\lambda _{i}\)の列固有ベクトルであることを明らかにしました。

命題(正方行列は固有値と固有ベクトルによってのみ対角化される)
正方行列\(A\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が与えられたとき、実ベクトル空間\(\mathbb{R} ^{n}\)における何らかの基底\begin{equation*}v=\left\{ v_{1},v_{2},\cdots ,v_{n}\right\}
\end{equation*}のもとで、\begin{equation*}
\left[ A\right] _{v}=C_{v\rightarrow e}^{-1}AC_{v\rightarrow e}
\end{equation*}が対角行列になることは、\(A\)が対角化可能であるための必要十分条件である。そこで、\begin{equation*}\left[ A\right] _{v}=\mathrm{diag}\left( \lambda _{1},\lambda _{2},\cdots
,\lambda _{n}\right)
\end{equation*}と表記した場合、それぞれの\(i\in \left\{ 1,2,\cdots ,n\right\} \)について、\(\lambda _{i}\)は\(A\)の固有値であるとともに、\(v_{i}\)は\(\lambda _{i}\)に対応する列固有ベクトルとなる。

逆に、正方行列\(A\)の固有値と列固有ベクトルを特定できれば、それを用いることにより\(A\)を必ず対角化できることを示しました。

命題(任意の固有値と固有ベクトルは正方行列を対角化する)
正方行列\(A\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が与えられたとき、その固有値\(\lambda _{1},\lambda_{2},\cdots ,\lambda _{n}\in \mathbb{R} \)と、それぞれの固有値に対応する列固有ベクトル\(v_{1},v_{2},\cdots ,v_{n}\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)が与えられれば、\begin{equation*}\left[ A\right] _{v}=C_{v\rightarrow e}^{-1}AC_{v\rightarrow e}
\end{equation*}は対角行列になることが保証されるとともに、\begin{equation*}
\left[ A\right] _{v}=\mathrm{diag}\left( \lambda _{1},\lambda _{2},\cdots
,\lambda _{n}\right)
\end{equation*}が成り立つ。

したがって、正方行列\(A\)を対角化する際には、その固有値\(\lambda_{1},\lambda _{2},\cdots ,\lambda _{n}\)とそれらに対応する列固有ベクトル\(v_{1},v_{2},\cdots ,v_{n}\)を特定することが基本的な方針となります。ただし、実際には、固有値と列固有ベクトルを同時に求める必要はなく、固有値\(\lambda _{i}\)さえ特定できれば、それを用いることにより固有値\(\lambda _{i}\)に対応する列固有ベクトル\(v_{i}\)を特定できます。具体的には以下の通りです。

正方行列\(A\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)の固有値\(\lambda _{i}\in \mathbb{R} \)が具体的に与えられた状況を想定します。この固有値\(\lambda _{i}\)に対応する固有ベクトルは、固有方程式\begin{equation*}Ax=\lambda x
\end{equation*}に固有値\(\lambda =\lambda _{i}\)を代入することで得られる行列方程式\begin{equation*}Ax=\lambda _{i}x
\end{equation*}の非ゼロベクトル解\(x\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)です。これを変形すると、\begin{equation*}Ax-\lambda _{i}x=0
\end{equation*}を得ますが、成分を明示する形で表現すると、\begin{equation*}
\begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn}\end{pmatrix}\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
x_{2} \\
\vdots \\
x_{n}\end{array}\right) -\lambda _{i}\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
x_{2} \\
\vdots \\
x_{n}\end{array}\right) =\left(
\begin{array}{c}
0 \\
0 \\
\vdots \\
0\end{array}\right)
\end{equation*}となります。これは同次連立1次方程式\begin{equation*}
\left\{
\begin{array}{c}
\left( a_{11}-\lambda _{i}\right) x_{1}+a_{12}x_{2}+\cdots +a_{1n}x_{n}=0 \\
a_{11}x_{1}+\left( a_{12}-\lambda _{i}\right) x_{2}+\cdots +a_{1n}x_{n}=0 \\
\vdots \\
a_{11}x_{1}+a_{12}x_{2}+\cdots +\left( a_{1n}-\lambda _{i}\right) x_{n}=0\end{array}\right.
\end{equation*}と必要十分であるため、この同次連立1次方程式の非ゼロベクトル解は固有値\(\lambda _{i}\)に対応する固有ベクトルです。さらに、固有値\(\lambda _{i}\)に対応する固有ベクトルのスカラー倍もまた\(\lambda _{i}\)に対応する固有ベクトルになるため、結局、先の同次連立1位次方程式の解集合からゼロベクトルを除けば、固有値\(\lambda _{i}\)に対応するすべての固有ベクトルからなる集合が得られます。

正方行列の固有値が与えられれば、それに対応する固有ベクトルを特定できることが明らかになりました。では、正方行列の固有値をどのように特定すればよいのでしょうか。順番に考えます。

 

正方行列の固有値であるための必要十分条件

正方行列\(A\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が与えられているものとします。あるスカラー\(\lambda \in \mathbb{R} \)が\(A\)の固有値であることとは、それと固有対\(\left( \lambda ,x\right) \)を形成するような非ゼロベクトル\(x\)が存在すること、すなわち、\begin{equation}\exists x\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} :Ax=\lambda x \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つこととして定義されます。この行列方程式は、\begin{equation*}
Ax=\lambda I_{n}x
\end{equation*}と必要十分です。ただし、\(I_{n}\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)は単位行列です。さらにこれを変形すると、\begin{equation*}\left( A-\lambda I_{n}\right) x=0
\end{equation*}を得ますが、これは正方行列\begin{equation*}
A-\lambda I_{n}=\begin{pmatrix}
a_{11}-\lambda & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22}-\lambda & \cdots & a_{2n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn}-\lambda
\end{pmatrix}\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right)
\end{equation*}を係数行列とする変数\(x_{1},x_{2},\cdots ,x_{n}\)に関する同次連立1次方程式に他なりません。

以上の議論より、\(\left(1\right) \)は以下の命題\begin{equation*}\exists x\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} :\left( A-\lambda I_{n}\right) x=0
\end{equation*}と必要十分であるため、スカラー\(\lambda \)が正方行列\(A\)の固有値であることと、\(A-\lambda I_{n}\)を係数行列とする同次連立1次方程式が非ゼロベクトルの解を持つことは必要十分であることが明らかになりました。さらに、同次連立1次方程式が非ゼロベクトルの解を持つことと、係数行列の行列式がゼロであることは必要十分であるため、スカラー\(\lambda \)が正方行列\(A\)の固有値であることと、\begin{equation*}\det \left( A-\lambda I_{n}\right) =0
\end{equation*}が成り立つことは必要十分です。結論を命題としてまとめておきます。

命題(固有値であるための必要十分条件)
正方行列\(A\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が与えられたとき、スカラー\(\lambda \in \mathbb{R} \)について、\begin{equation*}\det \left( A-\lambda I_{n}\right) =0
\end{equation*}が成り立つことは、\(\lambda \)が\(A\)の固有値であるための必要十分条件である。
例(固有値であるための必要十分条件)
正方行列\begin{equation*}
A=\begin{pmatrix}
3 & 1 \\
0 & 2\end{pmatrix}\end{equation*}が与えられたとき、スカラー\(\lambda \in \mathbb{R} \)について、\begin{eqnarray*}A-\lambda I_{2} &=&\begin{pmatrix}
3 & 1 \\
0 & 2\end{pmatrix}-\lambda
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 1\end{pmatrix}
\\
&=&\begin{pmatrix}
3-\lambda & 1 \\
0 & 2-\lambda
\end{pmatrix}\end{eqnarray*}となるため、その行列式は、\begin{eqnarray*}
\det \left( \lambda I_{1}-A\right) &=&\det
\begin{pmatrix}
3-\lambda & 1 \\
0 & 2-\lambda
\end{pmatrix}
\\
&=&\left( 3-\lambda \right) \left( 2-\lambda \right) -1\cdot 0 \\
&=&\left( 3-\lambda \right) \left( 2-\lambda \right)
\end{eqnarray*}です。したがって、先の命題より、スカラー\(\lambda \in \mathbb{R} \)について、\begin{equation*}\left( 3-\lambda \right) \left( 2-\lambda \right) =0
\end{equation*}が成り立つことと、\(\lambda \)が\(A\)の固有値であることは必要十分です。これを解くと、\begin{equation*}\lambda =3,2
\end{equation*}を得るため、\(3\)と\(2\)が\(A\)の固有値であることが明らかになりました。

 

固有多項式の根としての固有値

正方行列\(A\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が与えられた状況を想定します。スカラー\(t\in \mathbb{R} \)を任意に選んだ上で、正方行列\begin{equation*}A-tI_{n}\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right)
\end{equation*}を定義した上で、その行列式\begin{equation*}
\det \left( A-tI_{n}\right) =\det
\begin{pmatrix}
a_{11}-t & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22}-t & \cdots & a_{2n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn}-t\end{pmatrix}\end{equation*}を計算すると、これは\(t\)に関する以下のような\(n\)次の多項式になることが保証されます。

命題(固有多項式はモニック多項式)
正方行列\(A\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)とスカラー\(t\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\begin{equation*}\det \left( A-tI_{n}\right)
\end{equation*}は\(t\)に関する\(n\)次の多項式になるとともに、\(t^{n}\)の係数は\(\left( -1\right) ^{n}\)となる。すなわち、この多項式は、\begin{equation*}\det \left( A-tI_{n}\right) =\left( -1\right) ^{n}t^{n}+\cdots
\end{equation*}という形状をしている。

証明

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このような事情を踏まえると、正方行列\(A\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が与えられたとき、それぞれのスカラー\(t\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}P_{A}\left( t\right) =\det \left( A-tI_{n}\right)
\end{equation*}を値として定める多項式関数\begin{equation*}
P_{A}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が定義可能です。これを正方行列\(A\)の固有多項式(characteristic polynomial of \(A\))や特性多項式などと呼びます。先の命題より、任意の\(t\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}P_{A}\left( t\right) =\left( -1\right) ^{n}t^{n}+\cdots
\end{equation*}であることに注意してください。

一般に、多項式関数\(P:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)が与えられたとき、そこから定義される方程式\begin{equation*}P\left( t\right) =0
\end{equation*}の解を\(P\)の根(root ofpolynomial \(P\))と呼びます。つまり、多項式関数\(P\)の根とは、関数\(P\left( t\right) \)に入力するとその結果がゼロになるような変数\(t\)の値のことです。

正方行列\(A\)の固有多項式\(P_{A}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)は多項式関数であるため、その根とは、方程式\begin{equation*}P_{A}\left( t\right) =0
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\det \left( A-tI_{n}\right) =0
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\left( -1\right) ^{n}t^{n}+\cdots =0
\end{equation*}を満たすスカラー\(t\)に相当します。

正方行列の固有値は固有多項式の根として特徴づけられます。

命題(固有多項式の根としての固有値)
正方行列\(A\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が与えられたとき、それぞれの\(t\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}P_{A}\left( t\right) =\det \left( A-tI_{n}\right)
\end{equation*}を値として定める関数\(P_{A}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)を定義する。このとき、スカラー\(\lambda \in \mathbb{R} \)が関数\(P_{A}\)の根であることは、すなわち、\begin{equation*}P_{A}\left( \lambda \right) =0
\end{equation*}が成り立つことは、\(\lambda \)が\(A\)の固有値であるための必要十分条件である。
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例(固有多項式の根としての固有値)
正方行列\begin{equation*}
A=\begin{pmatrix}
3 & 1 \\
0 & 2\end{pmatrix}\end{equation*}の固有多項式\(P_{A}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの\(t\in \mathbb{R} \)に対して定める値は、\begin{eqnarray*}P_{A}\left( t\right) &=&\det \left( A-tI_{2}\right) \quad \because \text{固有多項式の定義} \\
&=&\det \left(
\begin{pmatrix}
3 & 1 \\
0 & 2\end{pmatrix}-t\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 1\end{pmatrix}\right) \\
&=&\det
\begin{pmatrix}
3-t & 1 \\
0 & 2-t\end{pmatrix}
\\
&=&\left( 3-t\right) \left( 2-t\right) -1\cdot 0 \\
&=&\left( 3-t\right) \left( 2-t\right)
\end{eqnarray*}です。\(P_{A}\)の根は以下の方程式\begin{equation*}p_{A}\left( t\right) =0
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\left( 3-t\right) \left( 2-t\right) =0
\end{equation*}の解であるため、\begin{equation*}
t=3,2
\end{equation*}です。したがって、先の命題より、\(A\)の固有値は\(3\)と\(2\)です。

 

固有値の存在とその個数

正方行列\(A\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)の固有値は固有多項式\begin{eqnarray*}P_{A}\left( t\right) &=&\det \left( A-tI_{n}\right) \\
&=&\left( -1\right) ^{n}t^{n}+\cdots
\end{eqnarray*}の根と一致することが明らかになりました。以上の事実は、\(A\)の固有値は\(n\)次の方程式\begin{equation*}P_{A}\left( t\right) =0
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\left( -1\right) ^{n}t^{n}+\cdots =0
\end{equation*}の解であることを意味します。一般に、\(n\)次の方程式は複素数の範囲で重複度まで込めて\(n\)個の根を持ちます(代数学の基本定理)。以上より、\(n\)次の正方行列\(A\)は複素数の範囲で重複度まで込めて\(n\)個の固有値を持つことが明らかになりました。

命題(固有値の存在とその個数)
正方行列\(A\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)を任意に選んだとき、複素数を含めると、\(A\)の固有値は必ず存在する。しかも、その個数は重複度を含めて\(n\)個である。

正方行列\(A\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)は重根度を含めて\(n\)個の固有値を持つことが明らかになりました。そこで、\(A\)の固有値を\(\lambda _{1},\lambda _{2},\cdots ,\lambda _{n}\)で表記します。ただし、これらは複素数である可能性もあります。いずれにせよ、これらはいずれも固有多項式\(P_{A}\left( t\right) \)の根であるため、固有多項式を、\begin{eqnarray*}P_{A}\left( t\right) &=&\left( -1\right) ^{n}t^{n}+\cdots \\
&=&\left( -1\right) ^{n}\left( t-\lambda _{1}\right) \left( t-\lambda
_{2}\right) \times \cdots \times \left( t-\lambda _{n}\right)
\end{eqnarray*}と表現できます。ただし、固有値\(\lambda _{1},\lambda_{2},\cdots ,\lambda _{n}\)の中には重根が存在する可能性があるため、\(A\)の相異なる固有値を改めて\(\lambda_{1},\lambda _{2},\cdots ,\lambda _{m}\)で表記するのであれば、\(m\leq n\)であるとともに、固有方程式を、\begin{equation*}P_{A}\left( t\right) =\left( -1\right) ^{n}\left( t-\lambda _{1}\right)
^{r_{1}}\left( t-\lambda _{2}\right) ^{r_{2}}\times \cdots \times \left(
t-\lambda _{m}\right) ^{r_{m}}
\end{equation*}と表現できます。ただし、\(r_{i}\)は固有値\(\lambda _{i}\)の重複度を表す自然数です。

以下は固有値が異なる実数であるような場合です。

例(異なる実数の固有値を持つ正方行列)
正方行列\begin{equation*}
A=\begin{pmatrix}
3 & 1 \\
0 & 2\end{pmatrix}\end{equation*}の固有多項式\(P_{A}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの\(t\in \mathbb{R} \)に対して定める値は、\begin{eqnarray*}P_{A}\left( t\right) &=&\det \left( A-tI_{2}\right) \quad \because \text{固有多項式の定義} \\
&=&\det \left(
\begin{pmatrix}
3 & 1 \\
0 & 2\end{pmatrix}-t\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 1\end{pmatrix}\right) \\
&=&\det
\begin{pmatrix}
3-t & 1 \\
0 & 2-t\end{pmatrix}
\\
&=&\left( 3-t\right) \left( 2-t\right) -1\cdot 0 \\
&=&\left( 3-t\right) \left( 2-t\right)
\end{eqnarray*}であるため、\(A\)の固有値は\(3\)と\(2\)であり、それぞれの重複度は\(1\)です。

以下は固有値に重根が存在する場合です。

例(固有値に重根が存在する場合)
正方行列\begin{equation*}
A=\begin{pmatrix}
3 & 1 \\
-1 & 1\end{pmatrix}\end{equation*}の固有多項式\(P_{A}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの\(t\in \mathbb{R} \)に対して定める値は、\begin{eqnarray*}P_{A}\left( t\right) &=&\det \left( A-tI_{2}\right) \quad \because \text{固有多項式の定義} \\
&=&\det \left(
\begin{pmatrix}
3 & 1 \\
-1 & 1\end{pmatrix}-t\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 1\end{pmatrix}\right) \\
&=&\det
\begin{pmatrix}
3-t & 1 \\
-1 & 1-t\end{pmatrix}
\\
&=&t^{2}-4t+4 \\
&=&\left( t-2\right) ^{2}
\end{eqnarray*}であるため、\(A\)の固有値は\(2\)であり、その重複度は\(2\)です。

以下は固有値が複素数であるような場合です。

例(固有値が複素数である場合)
正方行列\begin{equation*}
A=\begin{pmatrix}
1 & -1 \\
1 & 1\end{pmatrix}\end{equation*}の固有多項式\(P_{A}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの\(t\in \mathbb{R} \)に対して定める値は、\begin{eqnarray*}P_{A}\left( t\right) &=&\det \left( A-tI_{2}\right) \quad \because \text{固有多項式の定義} \\
&=&\det \left(
\begin{pmatrix}
1 & -1 \\
1 & 1\end{pmatrix}-t\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 1\end{pmatrix}\right) \\
&=&\det
\begin{pmatrix}
1-t & -1 \\
1 & 1-t\end{pmatrix}
\\
&=&t^{2}-2t+2
\end{eqnarray*}であるため、その根は、\begin{eqnarray*}
t &=&\frac{2\pm \sqrt{4-8}}{2} \\
&=&\frac{2\pm \sqrt{-4}}{2} \\
&=&\frac{2\pm 2i}{2} \\
&=&1\pm i
\end{eqnarray*}です。\(A\)の固有値は\(1+i\)と\(1-i\)であり、それぞれの重複度は\(1\)です。

 

対角化は固有多項式を変化させない

正方行列を\(A\)何らかの基底\(v\)のもとで対角化して対角行列\(\left[ A\right] _{v}\)を得たとき、その前後において固有多項式は変化しません。

命題(対角化は固有値を変化させない)
正方行列\(A\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が与えられたとき、実ベクトル空間\(\mathbb{R} ^{n}\)における何らかの基底\begin{equation*}v=\left\{ v_{1},v_{2},\cdots ,v_{n}\right\}
\end{equation*}のもとで、\begin{equation*}
\left[ A\right] _{v}=C_{v\rightarrow e}^{-1}AC_{v\rightarrow e}
\end{equation*}が対角行列になるものとする。この場合、\(A\)の固有多項式\(P_{A}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)と\(\left[ A\right] _{v}\)の固有多項式\(P_{\left[ A\right] _{v}}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)は一致する。
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上の命題をもう少し一般化できます。

命題(相似な行列は同じ固有多項式を持つ)
2つの正方行列\(A,B\in M_{n,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が相似であるものとする。この場合、\(A\)の固有多項式\(P_{A}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)と\(B\)の固有多項式\(P_{B}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)は一致する。
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演習問題

問題(固有多項式を用いた固有値の特定)
以下の正方行列\begin{equation*}
A=\begin{pmatrix}
5 & 2 \\
2 & 1\end{pmatrix}\end{equation*}の固有値を求めるとともに、それぞれの重複度を明らかにしてください。

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問題(固有多項式を用いた固有値の特定)
以下の正方行列\begin{equation*}
A=\begin{pmatrix}
0 & 6 & 8 \\
\frac{1}{2} & 0 & 0 \\
0 & \frac{1}{2} & 0\end{pmatrix}\end{equation*}の固有値を求めるとともに、それぞれの重複度を明らかにしてください。

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質問とコメント

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関連知識

正方行列の固有値と固有ベクトルの定義

正方行列に関する固有値問題と呼ばれる問題を定義するとともに、その解に相当する固有値および固有ベクトルを定義します。固有値と固有ベクトルは正方行列の対角化と深い関係があります。

固有値の固有空間とその次元

正方行列の固有値に対応するすべての列固有ベクトルとゼロベクトルからなるベクトル集合を、その固有値の固有空間と呼びます。固有空間は実ベクトル空間の部分空間であるとともに、その次元は固有値の重複度以下になります。