距離空間の間の等長写像
非空な集合\(X\)と関数\(d:X\times X\rightarrow \mathbb{R} \)からなる組\(\left( X,d\right) \)が距離空間であることとは、関数\(d\)が以下の4つの公理\begin{eqnarray*}&&\left( M_{1}\right) \ \forall x,y\in X:d\left( x,y\right) \geq 0 \\
&&\left( M_{2}\right) \ \forall x,y\in X:\left[ d(x,y)=0\Leftrightarrow x=y\right] \\
&&\left( M_{3}\right) \ \forall x,y\in X:d(x,y)=d\left( y,x\right) \\
&&\left( M_{4}\right) \ \forall x,y,z\in X:d\left( x,z\right) \leq d\left(
x,y\right) +d\left( y,z\right)
\end{eqnarray*}を満たすこととして定義されます。この場合、\(d\)を距離関数と呼びます。
2つの距離空間\(\left( X,d_{X}\right),\left( Y,d_{Y}\right) \)に加えて、写像\begin{equation*}f:X\rightarrow Y
\end{equation*}が与えられているものとします。つまり、この写像\(f\)は一方の距離空間\(X\)上に存在する点\(x\in X\)を、もう一方の距離空間\(Y\)上の点\(f\left(x\right) \in Y\)へ変換します。
一方の距離空間\(X\)上に存在する2つの点\(a,b\in X\)を選べば、これらの距離は\(X\)上の距離関数\(d_{X}:X\times X\rightarrow \mathbb{R} \)のもとで、\begin{equation*}d_{X}\left( a,b\right) \in \mathbb{R} \end{equation*}と定まります。写像\(f\)は先の2つの点\(a,b\in X\)を、もう一方の距離空間\(Y\)上に存在する2つの点\(f\left( a\right) ,f\left( b\right) \in Y\)へ変換しますが、これらの距離は\(Y\)上の距離関数\(d_{Y}:Y\times Y\rightarrow \mathbb{R} \)のもとで、\begin{equation*}d_{Y}\left( f\left( a\right) ,f\left( b\right) \right) \in \mathbb{R} \end{equation*}と定まります。このとき、この2つの距離が必ず一致する場合には、すなわち、\begin{equation*}
\forall a,b\in X:d_{X}\left( a,b\right) =d_{Y}\left( f\left( a\right)
,f\left( b\right) \right)
\end{equation*}が成り立つ場合には、このような写像\(f:X\rightarrow Y\)を等長写像(isometric map)と呼びます。つまり、距離空間\(X,Y\)に対して\(X\)から\(Y\)への等長写像\(f\)が存在する場合には、\(X\)上に存在する2つの点\(a,b\)を任意に選んだ上で、\(f\)を通じてそれらの点を\(Y\)上の点である\(f\left( a\right) ,f\left( b\right) \)へ変換しても、変換の前後において、2つの点の間の距離は不変です。このような事情もあり、等長写像は距離を保つ写像(distance preserving map)とも呼ばれます。
x_{2}-y_{2}\right) ^{2}}
\end{equation*}と定める一方で、複素数空間における距離関数\(d_{2}:\mathbb{C} \times \mathbb{C} \rightarrow \mathbb{R} \)は2つの複素数\(z,w\in \mathbb{C} \)の間の距離を、\begin{eqnarray*}d_{2}\left( z,w\right) &=&\left\vert z-w\right\vert \\
&=&\left\vert \left( \mathrm{Re}\left( z\right) -\mathrm{Re}\left( w\right) ,\mathrm{Im}\left( z\right) -\mathrm{Im}\left( w\right) \right) \right\vert \\
&=&\sqrt{\left[ \mathrm{Re}\left( z\right) -\mathrm{Re}\left( w\right) \right] ^{2}+\left[ \mathrm{Im}\left( z\right) -\mathrm{Im}\left( w\right) \right] ^{2}}
\end{eqnarray*}と定めます。ただし、\(\mathrm{Re}\left( z\right) \)は複素数\(z\)の実部であり、\(\mathrm{Im}\left(z\right) \)は複素数\(z\)の虚部です。写像\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれのベクトル\(x\in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、以下の複素数\begin{equation*}f\left( x\right) =x_{1}+x_{2}i
\end{equation*}を像として定めるものとします。ベクトル\(x,y\in \mathbb{R} ^{2}\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}d_{1}\left( x,y\right) =\sqrt{\left( x_{1}-y_{1}\right) ^{2}+\left(
x_{2}-y_{2}\right) ^{2}}
\end{equation*}である一方で、\begin{eqnarray*}
d_{2}\left( f\left( x\right) ,f\left( y\right) \right) &=&\left\vert
f\left( x\right) -f\left( y\right) \right\vert \quad \because d_{2}\text{の定義} \\
&=&\left\vert \left( x_{1},x_{2}\right) -\left( y_{1},y_{2}\right)
\right\vert \quad \because f\text{の定義} \\
&=&\sqrt{\left( x_{1}-y_{1}\right) ^{2}+\left( x_{2}-y_{2}\right) ^{2}}
\end{eqnarray*}となるため、\begin{equation*}
d_{1}\left( x,y\right) =d_{2}\left( f\left( x\right) ,f\left( y\right)
\right)
\end{equation*}を得ます。以上より、\(f\)は等長写像であることが明らかになりました。
等長写像は単射
等長写像は単射です。
2つの距離空間\(\left( X,d_{X}\right),\left( Y,d_{Y}\right) \)に対して等長写像\(f:X\rightarrow Y\)が存在する場合、\(f\)は単射である。
\end{equation*}を定める写像\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{C} \)が等長写像であることは先に示した通りです。したがって、先の命題より\(f\)は単射であるはずです。実際、ベクトル\(x,y\in \mathbb{R} ^{2}\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}f\left( x\right) =f\left( y\right) &\Leftrightarrow
&x_{1}+x_{2}i=y_{1}+y_{2}i\quad \because f\text{の定義} \\
&\Rightarrow &x_{1}=y_{1}\wedge x_{2}=y_{2} \\
&\Rightarrow &x=y
\end{eqnarray*}が成り立つため\(f\)は単射です。以上の結果は先の命題の主張と整合的です。
等長な距離空間
2つの距離空間\(\left( X,d_{X}\right),\left( Y,d_{Y}\right) \)の間に全単射であるような等長写像\(f:X\rightarrow Y\)が存在する場合、\(\left( X,d_{X}\right) \)と\(\left( Y,d_{Y}\right) \)は距離空間として等長(isometric)であると言います。
\end{equation*}を定める写像\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{C} \)は等長写像であり、したがって単射であることは先に示した通りです。複素数\(z\in \mathbb{C} \)を任意に選んだとき、\begin{equation}\exists a,b\in \mathbb{R} :z=a+bi \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立ちます。そこで、ベクトル\(\left( a,b\right)\in \mathbb{R} ^{2}\)に注目すれば、\begin{eqnarray*}f\left( \left( a,b\right) \right) &=&a+bi\quad \because f\text{の定義} \\
&=&z\quad \because \left( 2\right)
\end{eqnarray*}を得ます。以上より、\begin{equation*}
\forall z\in \mathbb{C} ,\ \exists \left( a,b\right) \in \mathbb{R} ^{2}:f\left( \left( a,b\right) \right) =z
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。したがって\(f\)は全射です。\(f\)は単射かつ全射であるため全単射です。したがって\(\mathbb{R} ^{2}\)と\(\mathbb{C} \)は距離空間として等長です。
等長写像の逆写像
2つの距離空間\(\left( X,d_{X}\right),\left( Y,d_{Y}\right) \)が等長であるものとします。つまり、全単射であるような等長写像\begin{equation*}f:X\rightarrow Y
\end{equation*}が存在するということです。写像が全単射であることと、その写像の逆写像が存在することは必要十分であるとともに、逆写像もまた全単射になります。したがって、この場合には\(f\)の逆写像\begin{equation*}f^{-1}:Y\rightarrow X
\end{equation*}が存在するとともに、\(f^{-1}\)もまた全単射になります。逆写像の定義より、任意の\(\left(x,y\right) \in X\times Y\)について、以下の関係\begin{equation}y=f\left( x\right) \Leftrightarrow x=f^{-1}\left( y\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つことに注意してください。さて、\(c,d\in Y\)を任意に選んだとき、\(f\)は全単射であるため、\begin{eqnarray}\exists a &\in &X:c=f\left( a\right) \quad \cdots (2) \\
\exists b &\in &X:d=f\left( b\right) \quad \cdots (3)
\end{eqnarray}が成り立ちます。すると\(\left( 1\right) \)より、\begin{eqnarray}a &=&f^{-1}\left( c\right) \quad \cdots (4) \\
b &=&f^{-1}\left( d\right) \quad \cdots (5)
\end{eqnarray}もまた成り立ちます。このとき、\begin{eqnarray*}
d_{Y}\left( c,d\right) &=&d_{Y}\left( f\left( a\right) ,f\left( d\right)
\right) \quad \because \left( 2\right) ,\left( 3\right) \\
&=&d_{X}\left( a,b\right) \quad \because f\text{は等長写像} \\
&=&d_{X}\left( f^{-1}\left( c\right) ,f^{-1}\left( d\right) \right) \quad
\because \left( 4\right) ,\left( 5\right)
\end{eqnarray*}を得ます。以上より、\begin{equation*}
\forall c,d\in Y:d_{Y}\left( c,d\right) =d_{X}\left( f^{-1}\left( c\right)
,f^{-1}\left( d\right) \right)
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。つまり、距離空間\(\left(X,d_{X}\right) ,\left( Y,d_{Y}\right) \)が等長である場合、等長写像\(f:X\rightarrow Y\)の逆写像\(f^{-1}:Y\rightarrow X\)もまた等長写像になるということです。
\end{equation*}を定める写像\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{C} \)は等長写像であり、なおかつ全単射です。等長写像の定義より、\begin{equation*}\forall x,y\in \mathbb{R} ^{2}:d_{1}\left( x,y\right) =d_{2}\left( f\left( x\right) ,f\left( y\right)
\right)
\end{equation*}が成り立つことに注意してください。つまり、\(\mathbb{R} ^{2}\)上に存在する2つの点を\(f\)を用いて\(\mathbb{C} \)上の点へ変換しても、その前後において、2つの点の間の距離は変わりません。他方で、逆写像\(f^{-1}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの複素数\(z\in \mathbb{C} \)に対して、以下のベクトル\begin{equation*}f^{-1}\left( z\right) =\left( \mathrm{Re}\left( z\right) ,\mathrm{Im}\left(
z\right) \right)
\end{equation*}を定めます。これもまた等長写像であり、\begin{equation*}
\forall z,w\in \mathbb{C} :d_{2}\left( z,w\right) =d_{1}\left( f^{-1}\left( z\right) ,f^{-1}\left(
w\right) \right)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(\mathbb{C} \)上に存在する2つの点を\(f^{-1}\)を用いて\(\mathbb{R} ^{2}\)上の点へ変換しても、その前後において、2つの点の間の距離は変わりません。
等長写像から生成される等長な距離空間
2つの距離空間\(\left( X,d_{X}\right),\left( Y,d_{Y}\right) \)に対して等長写像\begin{equation*}f:X\rightarrow Y
\end{equation*}が存在する状況を想定します。ただし、\(f\)は全射であるとは限らないものとします。つまり、\(X\)と\(Y\)は距離空間として等長であるとは限らない状況を想定するということです。
写像の終集合を値域に制限すれば全射になるため、等長写像\(f:X\rightarrow Y\)の終集合を値域\begin{equation*}f\left( X\right) =\left\{ f\left( x\right) \in Y\ |\ x\in X\right\}
\end{equation*}に制限して、\begin{equation}
f:X\rightarrow f\left( X\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}とすれば全射になります。また、先に示したように等長写像は単射であるため\(\left(1\right) \)は単射であり、したがって全単射でもあります。つまり、等長写像が全射であるとは限らない場合でも、その終集合を値域に制限すれば必ず全単射になるということです。そこで、距離空間\(\left( Y,d_{Y}\right) \)の部分距離空間\begin{equation*}\left( f\left( X\right) ,d_{Y}\right)
\end{equation*}に注目すれば、先の議論より\(\left( 1\right) \)は全単射であるため、\(\left(X,d_{Y}\right) \)と\(\left( f\left( X\right) ,d_{Y}\right) \)は距離空間として等長になります。
演習問題
\end{equation*}に注目した上で、部分空間\(\left( A,d_{1}\right) \)をとります。つまり、これは\(x\)軸です。この距離空間\(\left( A,d_{1}\right) \)は実数空間\(\left( \mathbb{R} ,d_{2}\right) \)と等長であることを示してください。ただし、\(\mathbb{R} ^{3}\)上の距離関数\(d_{1}:\mathbb{R} ^{3}\times \mathbb{R} ^{3}\rightarrow \mathbb{R} \)は2つのベクトル\(x,y\in \mathbb{R} ^{3}\)の間の距離を、\begin{equation*}d_{1}\left( x,y\right) =\sqrt{\left( x_{1}-y_{1}\right) ^{2}+\left(
x_{2}-y_{2}\right) ^{2}+\left( x_{3}-y_{3}\right) ^{2}}
\end{equation*}と定める一方で、\(\mathbb{R} \)上の距離関数\(d_{2}:\mathbb{R} \times \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)は2つの実数\(x,y\in \mathbb{R} \)の間の距離を、\begin{equation*}d_{2}\left( x,y\right) =\left\vert x-y\right\vert
\end{equation*}と定めるものとします。
\end{equation*}に注目した上で、部分空間\(\left( A,d_{1}\right) \)をとります。つまり、これは\(xy\)平面です。この距離空間\(\left( A,d_{1}\right) \)は2次元ユークリッド空間\(\left( \mathbb{R} ^{2},d_{2}\right) \)と等長であることを示してください。
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