写像の定義
集合\(A\)のそれぞれの要素に対して、集合\(B\)の要素を1つずつ定める規則のことを\(A\)から\(B\)への写像(mapping)と呼び、これを、\begin{equation*}f:A\rightarrow B
\end{equation*}で表記します。集合\(A\)を写像\(f\)の始集合(initial set)と呼び、集合\(B\)を写像\(f\)の終集合(final set)と呼びます。
写像\(f:A\rightarrow B\)が与えられたとき、始集合の要素\(a\in A\)を任意に選ぶと、写像\(f\)はそれに対して終集合\(B\)の要素を1つずつ定めます。これを写像\(f\)による要素\(a\)の像(image)と呼び、\begin{equation*}f\left( a\right)
\end{equation*}で表記します。\(f\left( a\right)\in B\)です。
\end{equation*}は写像になります。
A &=&\left\{ 1,2,3\right\} \\
B &=&\left\{ a,b,c\right\}
\end{eqnarray*}に対して、写像\(f:A\rightarrow B\)を以下の図で定義します。
図では\(1\)から\(c\)へ矢印が伸びていますが、これは\(f\)による\(1\)の像が\(c\)であること、すなわち、\begin{equation*}f\left( 1\right) =c
\end{equation*}であることを意味します。他の2本の矢印より、\begin{eqnarray*}
f\left( 2\right) &=&a \\
f\left( 3\right) &=&b
\end{eqnarray*}であることも読み取れます。
\end{equation*}を像として定める関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)は写像です。
\end{equation*}は写像です。また、それぞれの既婚女性\(w\in W\)に対して、その夫\(g\left( w\right) \in M\)を特定する規則\begin{equation*}g:W\rightarrow M
\end{equation*}もまた写像です。
写像\(f:A\rightarrow B\)は集合\(A\)のそれぞれの要素に対して集合\(B\)の要素を1つずつ定める規則でなければなりません。つまり、\begin{equation*}\forall a\in A,\ \exists !b\in B:b=f\left( a\right)
\end{equation*}を満たす\(f\)だけが\(A\)から\(B\)への写像として認められます。ただし、\(\exists !\)は「一意的に存在する」ことを表す記号です。
始集合\(A\)の少なくとも1つの要素\(a\)に対してその像\(f\left( a\right) \)が存在しない場合や、始集合\(A\)の少なくとも1つの要素\(a\)に対してその像\(f\left( a\right) \)が一意的に定まらない場合などには、\(f\)は\(A\)から\(B\)への写像ではありません。
\end{equation*}が写像であるためには、すべての入り口に対して出口が1つずつ定まっている必要があります。始集合\(A\)の中に出口に繋がっていない入り口が存在する場合や、始集合\(A\)の中に複数の出口に繋がっている入り口が存在する場合、\(f\)は写像ではありません。
A &=&\left\{ 1,2,3\right\} \\
B &=&\left\{ a,b,c\right\}
\end{eqnarray*}に対して、規則\(f:A\rightarrow B\)を以下の図で定義します。
始集合\(A\)の要素である\(2\)から伸びる矢印が存在しませんが、これは\(f\left( 2\right) \)が存在しないことを意味します。したがって、この規則\(f\)は\(A\)から\(B\)への写像ではありません。
A &=&\left\{ 1,2,3\right\} \\
B &=&\left\{ a,b,c\right\}
\end{eqnarray*}に対して、規則\(f:A\rightarrow B\)を以下の図で定義します。
始集合\(A\)の要素である\(2\)からは2本の矢印が伸びていますが、これは\(f\left( 2\right) \)が一意的に定まらないことを意味します。したがって、この規則\(f\)は\(A\)から\(B\)への写像ではありません。
\end{equation*}を像として定める規則\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)について考えます。\(0\)は始集合\(\mathbb{R} \)の要素ですが、実数をゼロで割ることはできないため、\begin{equation*}f\left( 0\right) =\frac{1}{0}
\end{equation*}は定義されず、したがってこの\(f\)は写像ではありません。一方、\(f\)の始集合を\(\mathbb{R} \)から\(\mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)へ縮小した上で、\begin{equation*}f:\mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}とすると、始集合の要素\(x\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)は非ゼロの実数であることが保証されるため、その像\begin{equation*}f\left( x\right) =\frac{1}{x}
\end{equation*}は必ず1つの実数として定まります。したがって\(f:\mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \rightarrow \mathbb{R} \)は写像です。
\end{equation*}を定める規則\(f:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} \)について考えます。非負の実数である\(1\in \mathbb{R} _{+}\)に対して、\begin{equation*}f\left( 1\right) =\sqrt{1}=\pm 1
\end{equation*}となります。つまり、\(f\)が\(1\)に対して定める実数は複数存在するため、この\(f\)は写像ではありません。このような\(f\)を多価関数(multivalued function)と呼びます。多価関数は写像ではありません。
\end{equation*}は写像です。一方、始集合\(M\)をすべての男性の集合、終集合\(W\)をすべての女性の集合とする場合、この規則\(f:M\rightarrow W\)はもはや写像ではありません。なぜなら未婚の男性\(m\in M\)に対してその妻\(f\left( m\right) \)が定まらないからです。また、一夫多妻制を採用する社会の場合にも\(f:M\rightarrow W\)は写像ではありません。なぜなら、複数の妻がいる男性\(m\in M\)に対してその妻\(f\left( m\right) \)は一意的に定まらないからです。
\end{equation*}は写像でしょうか。それぞれの国に対して首都は1つだけ定まるため、この\(f\)は写像としての要件を満たしているようですが、実はそうではありません。なぜなら、首都を持たない国が存在するからです。実際、バチカン市国は独立国家とみなされていますが、実際にはイタリアのローマ市内にある一地域であり、バチカン市国には首都が存在しません。つまり、バチカン市国を\(a\in A\)で表すとき、それに対する\(f\left( a\right) \)はそもそも存在しないため、この\(f\)は\(A\)から\(B\)への写像ではありません。
写像\(f:A\rightarrow B\)が与えられたとき、始集合に属する「異なる」要素\(a,a^{\prime }\in A\)を任意に選びそれらの像\(f\left( a\right) ,f\left( a^{\prime}\right) \in B\)をとると、それらは一致するとは限りませんし、逆に、一致しても構いません。どちらの場合でも写像の定義には抵触しないため、問題はありません。
繰り返しになりますが、写像\(f:A\rightarrow B\)は始集合のそれぞれの要素\(a\in A\)に対して終集合の要素である像\(f\left( a\right) \in B\)を1つずつ定めるものでなければなりません。一方、終集合の要素\(b\in B\)を任意に選ぶと、それに対して\(b=f\left(a\right) \)を満たす始集合の要素\(a\in A\)は存在するとは限りませんが、その場合にも写像の定義には抵触しないため、問題ありません。
\end{equation*}が与えられているものとします。異なる入り口\(a,a^{\prime }\in A\)を選んだ場合、そこから到達する出口\(f\left( a\right) ,f\left( a^{\prime}\right) \in B\)が1つずつ定まりますが、これらが同じ出口であっても、異なる出口であっても、どちらでも構いません。また、出口\(b\in B\)を選んだとき、その出口につながる入り口が存在しない場合でも、すなわち\(b=f\left(a\right) \)を満たす\(a\in A\)が存在しない場合でも、\(f\)は写像です。
A &=&\left\{ 1,2,3\right\} \\
B &=&\left\{ a,b,c\right\}
\end{eqnarray*}に対して、規則\(f:A\rightarrow B\)を以下の図で定義します。
終集合の要素である\(b\in B\)へ伸びる矢印が2本存在し、\begin{equation*}f\left( 1\right) =f\left( 3\right) =b
\end{equation*}が成立していますが、それでも\(f\)は写像です。また、終集合の要素である\(c\in B\)へ伸びる矢印が存在せず、したがって、\begin{equation*}c=f\left( x\right)
\end{equation*}を満たす始集合の要素\(x\in A\)が存在しませんが、それでも\(f\)は写像です。
\end{equation*}を定めるものとします。始集合の要素である実数\(1,2\in \mathbb{R} \)に対して、それらの像は、\begin{equation*}f\left( 1\right) =1\not=4=f\left( 2\right)
\end{equation*}となります。一方、始集合の要素である実数\(1,-1\in \mathbb{R} \)に注目すると、それらの像は、\begin{equation*}f\left( 1\right) =1=f\left( -1\right)
\end{equation*}となります。いずれにせよ、このような事態が起きていても写像として何も問題なく、この\(f\)は\(\mathbb{R} \)から\(\mathbb{R} \)への写像です。
写像\(f:A\rightarrow B\)の始集合\(A\)と終集合\(B\)は一致するとは限りませんし、逆に、一致していても構いません。どちらの場合でも写像の定義には抵触しないため、問題はありません。
\end{equation*}を満たす場合、つまり、入力した値をそのまま返す場合、このような写像\(f\)を集合\(A\)上の恒等写像(identity mapping on \(A\))と呼びます。
等しい写像
集合\(A,B,C,D\)に加えて2つの写像\begin{eqnarray*}f &:&A\rightarrow B \\
g &:&C\rightarrow D
\end{eqnarray*}が与えられたとき、以下の条件\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ A=C \\
&&\left( b\right) \ B=D \\
&&\left( c\right) \ \forall a\in A:f\left( a\right) =g\left( a\right)
\end{eqnarray*}がすべて成り立つ場合には、\(f\)と\(g\)は等しい(equal)といい、そのことを、\begin{equation*}f=g
\end{equation*}で表します。つまり、2つの写像\(f,g\)が等しいとは、それらの始集合どうし、終集合どうしがそれぞれ一致するとともに、始集合のそれぞれの要素に対して\(f\)が定める像と\(g\)が定める像が常に一致することを意味します。
g\left( x\right) &=&\left\vert x\right\vert
\end{eqnarray*}を定めるものとします。任意の\(x\in \mathbb{R} _{+}\)に対して、\begin{eqnarray*}g\left( x\right) &=&\left\vert x\right\vert \quad \because g\text{の定義} \\
&=&x\quad \because x\in \mathbb{R} _{+} \\
&=&f\left( x\right) \quad \because f\text{の定義}
\end{eqnarray*}が成り立つため\(f\)と\(g\)は等しい写像です。
逆に、2つの写像\(f:A\rightarrow B\)と\(g:C\rightarrow D\)に対して先の\(\left( a\right) ,\left( b\right) ,\left( c\right) \)の中の少なくとも1つの条件が成り立たない場合、\(f\)と\(g\)は異なる(not equal)といい、そのことを、\begin{equation*}
f\not=g
\end{equation*}で表記します。
g\left( x\right) &=&\left\vert x\right\vert
\end{eqnarray*}を定めるものとします。先とは異なり、\(f\)と\(g\)の始集合は\(\mathbb{R} _{+}\)ではなく\(\mathbb{R} \)である点に注意してください。\(f\)と\(g\)は始集合と終集合を共有しますが、始集合の要素である\(-1\)に注目すると、\begin{equation*}f\left( -1\right) =-1\not=1=g\left( -1\right)
\end{equation*}が成り立つため、\(f\)と\(g \)は異なる写像です。
\end{equation*}を定めるものとします。このとき、\(f\)の始集合を\(\mathbb{R} _{+}\)に制限して得られる写像を\(g:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} \)で表します。この写像はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} _{+}\)に対して、\begin{equation*}g\left( x\right) =f\left( x\right) =x^{2}
\end{equation*}を定める一方、そもそも\(f\)と\(g\)の始集合は異なるため、これらは異なる写像として区別されます。
演習問題
\end{equation*}を満たすものとして\(f:A\rightarrow B\)は定義されます。\(f\)は写像でしょうか。理由とともに答えてください。
\end{equation*}を満たすものとして\(f:A\rightarrow A\)は定義されます。\(f\)は写像でしょうか。理由とともに答えてください。
\end{equation*}を満たすものとして\(f:A\rightarrow A\)は定義されます。\(f\)は写像でしょうか。理由とともに答えてください。
\end{equation*}を満たすものとして\(f:A\rightarrow A\)は定義されます。\(f\)は写像でしょうか。理由とともに答えてください。
- \(f\left( \frac{p}{q}\right) =\frac{p+1}{p-2}\)
- \(f\left( \frac{p}{q}\right) =\frac{3p}{3q}\)
- \(f\left( \frac{p}{q}\right) =\frac{p+q}{q^{2}}\)
- \(f\left( \frac{p}{q}\right) =\frac{3p^{2}}{7q^{2}}-\frac{p}{q}\)
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