全単射と逆写像の関係
写像\(f:A\rightarrow B\)が全単射である場合、終集合のそれぞれの要素\(b\in B\)に対して\(b=f\left( a\right) \)を満たす定義域の要素\(a\in A\)が1つずつ存在するため、\(f\)による\(b\)の逆像\(f^{-1}\left( b\right)\subset A\)が1点集合であることが保証されます。したがって、全単射の逆写像は必ず存在します。
実は、上の命題の逆もまた成立します。つまり、ある写像の逆写像が存在するとき、その写像が全単射であることが保証されます。
以上の2つの命題より、写像が逆写像を持つことと、その写像が全単射であることが必要十分であることが明らかになりました。
写像\(f:A\rightarrow B\)が全単射であることは、\(f\)の逆写像\(f^{-1}:B\rightarrow A\)が存在するための必要十分条件である。
\end{equation*}を像として定めるものとします。定義域の異なる要素\(1,-1\in \mathbb{R} \)について、\begin{equation*}f\left( 1\right) =f\left( -1\right) =1
\end{equation*}となるため\(f\)は単射ではなく、ゆえに全単射でもありません。したがって上の命題より逆写像\(f^{-1}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)は存在しません。実際、\(f\)による終集合の要素\(1\in \mathbb{R} \)の逆像は、\begin{eqnarray*}f^{-1}\left( 1\right) &=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ f\left( x\right) =1\right\} \quad \because \text{逆像の定義} \\
&=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ x^{2}=1\right\} \quad \because f\text{の定義} \\
&=&\{1,-1\}
\end{eqnarray*}ですが、これは1点集合ではないため逆写像\(f^{-1}\)は存在しません。ちなみに、\(f\)は全射でもありません。実際、例えば、終集合の要素\(-1\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =-1
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
x^{2}=-1
\end{equation*}を満たす点\(x\)は\(f\)の定義域\(\mathbb{R} \)上に存在しないからです。
\end{equation*}を像として定めるものとします。先の例とは異なり、\(f\)の定義域と終集合がともに\(\mathbb{R} \)から\(\mathbb{R} _{+}\)へ制限されている点に注意してください。この\(f\)は全単射であるため(確認してください)、先の命題より逆写像\(f^{-1}:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が存在します。実際、\(f\)による終集合のそれぞれの要素\(y\in \mathbb{R} _{+}\)の逆像は、\begin{eqnarray*}f^{-1}\left( y\right) &=&\left\{ x\in \mathbb{R} _{+}\ |\ f\left( x\right) =y\right\} \quad \because \text{逆像の定義} \\
&=&\left\{ x\in \mathbb{R} _{+}\ |\ x^{2}=y\right\} \quad \because f\text{の定義} \\
&=&\{\sqrt{y}\}\quad \because x,y\in \mathbb{R} _{+}
\end{eqnarray*}ですが、これは1点集合であるため、それぞれの\(y\in \mathbb{R} _{+}\)に対して、\begin{equation*}f^{-1}\left( y\right) =\sqrt{y}
\end{equation*}を像として定める逆写像\(f^{-1}:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が存在します。
逆写像・左逆写像・右逆写像の関係
写像\(f:A\rightarrow B\)が全単射であることは、\(f\)が単射かつ全射であることとして定義されます。また、\(f\)が全単射であることと逆写像\(f^{-1}\)が存在することは必要十分条件であり、\(f\)が単射であることと\(f\)の左逆写像が存在することは必要十分であり、\(f\)が全射であることと\(f\)の右逆写像が存在することは必要十分です。したがって以下を得ます。
さらに、写像の逆写像が存在する場合、それは左逆写像および右逆写像と一致します。
逆に、写像\(f\)の右逆写像と左逆像がともに存在するとき、両者は一致するとともに\(f\)の逆写像になります。
\left( f\circ g\right) &:&B\rightarrow B
\end{eqnarray*}がいずれも定義可能であり、これらがともに恒等写像であることを示すことに成功すれば、すなわち、\begin{eqnarray*}
\forall a &\in &A:\left( g\circ f\right) \left( x\right) =x \\
\forall b &\in &B:\left( f\circ g\right) \left( y\right) =y
\end{eqnarray*}がともに成り立つことを示せば、\(g\)は\(f\)の左逆写像かつ右逆写像であることを示したため、先の命題より、\(g\)が\(f\)の逆写像であることを示したことになります。
逆写像は全単射
写像\(f:A\rightarrow B\)の逆写像\(f^{-1}:B\rightarrow A\)が存在するものとします。この場合、さらにその逆写像\(\left( f^{-1}\right) ^{-1}:A\rightarrow B\)が存在して、\begin{equation*}\left( f^{-1}\right) ^{-1}=f
\end{equation*}という関係が成り立ちます。また、写像の逆写像が存在することは、その写像が全単射であることと必要十分であるため、\(f^{-1}\)の逆写像\(\left( f^{-1}\right) ^{-1}\)が存在することは\(f^{-1}\)が全単射であることと必要十分です。\(\left(f^{-1}\right) ^{-1}\)は\(f\)と一致するため\(\left( f^{-1}\right) ^{-1}\)は存在します。したがって\(f^{-1}\)は全単射です。
写像\(f:A\rightarrow B\)の逆写像\(f^{-1}:B\rightarrow A\)が存在する場合、\(f^{-1}\)は全単射である。
2つの写像\(f:A\rightarrow B\)と\(g:B\rightarrow C\)がともに全単射であるとき、それらの合成写像\(g\circ f:A\rightarrow C\)もまた全単射です。写像が全単射であることと、その写像の逆写像が存在することは必要十分であるため、このとき、以下の逆写像\begin{eqnarray*}f^{-1} &:&B\rightarrow A \\
g^{-1} &:&C\rightarrow B \\
\left( g\circ f\right) ^{-1} &:&C\rightarrow A
\end{eqnarray*}がいずれも存在します。\(g^{-1}\)の終集合と\(f^{-1}\)の定義域はともに\(B\)で一致するため、合成写像\begin{equation*}f^{-1}\circ g^{-1}:C\rightarrow A
\end{equation*}が定義可能ですですが、実はこれは\(\left( g\circ f\right) ^{-1}\)と一致します。つまり、全単射どうしの合成写像の逆写像はそれらの逆写像の合成写像と一致するということです。
\end{equation*}という関係が成り立つ。
演習問題
\left( b\right) \ f\circ g &=&I_{B}
\end{eqnarray*}がともに成り立つことは、\(f^{-1}=g\)かつ\(g^{-1}=f\)が成り立つための必要十分条件であることを証明してください。
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