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ベクトル値関数の微分

ベクトル値関数の片側微分を用いた微分可能性の判定

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ベクトル値関数の微分と片側微分の関係

ベクトル値関数微分片側微分の間にはどのような関係が成立するのでしょうか。ベクトル値関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)が定義域上の点\(a\in X\)において微分可能であることとは、\(f\)が点\(a\)において右側微分可能かつ左側微分可能であり、なおかつ左右の微分係数が一致することと必要十分です。しかも、\(f\)が点\(a\)において微分可能である場合、\(f\)の点\(a\)における微分係数、右側微分係数、左側微分係数がいずれも一致します。

命題(微分と片側微分の関係)
ベクトル値関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)が定義域上の点\(a\in X\)において右側微分可能かつ左側微分可能であり、なおかつ片側微分係数の間に、\begin{equation*}f^{\prime }\left( a+0\right) =f^{\prime }\left( a-0\right)
\end{equation*}という関係が成り立つことは、\(f\)が点\(a\)において微分可能であるための必要十分条件である。さらにこのとき、微分係数および片側微分係数の間には、\begin{equation*}f^{\prime }\left( a\right) =f^{\prime }\left( a+0\right) =f^{\prime }\left(
a-0\right)
\end{equation*}という関係が成り立つ。

証明

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片側微分を用いたベクトル値関数の微分可能性の判定

以上の命題より、ベクトル値関数の微分可能性に関する議論を片側微分可能性に関する議論に置き換えて考えることができます。つまり、ベクトル値関数\(f\)が点\(a\)において微分可能であることを示すためには、\(f\)が点\(a\)において右側微分可能かつ左側微分可能であるとともに、右側微分係数と左側微分係数が一致することを示せばよいということです。しかも、その片側微分係数は微分係数と一致することが保証されます。

例(微分可能性の判定)
関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =\left( x^{2}-x,x+1\right)
\end{equation*}を定めるものとします。点\(a\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}f^{\prime }\left( a+0\right) &=&\left( \left. \left( x^{2}-x\right)
_{+}^{\prime }\right\vert _{x=a},\left. \left( x+1\right) _{+}^{\prime
}\right\vert _{x=a}\right) \quad \because f\text{の定義} \\
&=&\left( \left. 2x-1\right\vert _{x=a},\left. 1\right\vert _{x=a}\right)
\quad \because \text{多項式関数の右側微分} \\
&=&\left( 2a-1,1\right)
\end{eqnarray*}である一方で、\begin{eqnarray*}
f^{\prime }\left( a-0\right) &=&\left( \left. \left( x^{2}-x\right)
_{-}^{\prime }\right\vert _{x=a},\left. \left( x+1\right) _{-}^{\prime
}\right\vert _{x=a}\right) \quad \because f\text{の定義} \\
&=&\left( \left. 2x-1\right\vert _{x=a},\left. 1\right\vert _{x=a}\right)
\quad \because \text{多項式関数の左側微分} \\
&=&\left( 2a-1,1\right)
\end{eqnarray*}であるため、\begin{equation*}
f^{\prime }\left( a+0\right) =f^{\prime }\left( a-0\right) =\left(
2a-1,1\right)
\end{equation*}を得ます。したがって先の命題より、\(f\)は点\(a\)において微分可能であり、しかも、\begin{equation*}f^{\prime }\left( a\right) =\left( 2a-1,1\right)
\end{equation*}が成り立ちます。

 

片側微分を用いたベクトル値関数の微分不可能性の判定

ベクトル値関数\(f\)が点\(a\)において右側微分可能かつ左側微分可能であるとともに左右の片側微分係数が一致する場合、そしてその場合にのみ、\(f\)は点\(a\)において微分可能であることが明らかになりました。したがって、\(f\)が点\(a\)において右側微分可能でない場合や左側微分可能でない場合には、\(f\)は点\(a\)において微分可能ではありません。

例(微分可能ではないことの判定)
関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =\left( \sqrt{\left\vert x\right\vert },\left\vert
x\right\vert \right)
\end{equation*}を定めるものとします。成分関数\begin{equation*}
f_{1}\left( x\right) =\sqrt{\left\vert x\right\vert }
\end{equation*}に注目すると、点\(0\)における平均変化率は、\(h>0\)の場合には、\begin{eqnarray*}\frac{f_{1}\left( 0+h\right) -f_{1}\left( 0\right) }{h} &=&\frac{\sqrt{\left\vert 0+h\right\vert }-\sqrt{\left\vert 0\right\vert }}{h}\quad
\because f_{1}\text{の定義} \\
&=&\frac{\sqrt{h}-\sqrt{0}}{h}\quad \because h>0 \\
&=&\frac{\sqrt{h}}{h} \\
&=&\frac{1}{\sqrt{h}}\quad \because h>0
\end{eqnarray*}となるため、点\(0\)における右側微分係数は、\begin{eqnarray*}\lim_{h\rightarrow 0+}\frac{f_{1}\left( 0+h\right) -f_{1}\left( 0\right) }{h}
&=&\lim_{h\rightarrow 0+}\frac{1}{\sqrt{h}} \\
&=&+\infty
\end{eqnarray*}であるため、\(f_{1}\)は点\(0\)において右側微分可能ではありません。したがって\(f\)もまた点\(0\)において右側微分可能ではありません。したがって、先の命題より\(f\)は点\(0\)において微分可能ではありません。

ベクトル値関数\(f\)が点\(a\)において右側微分可能かつ左側微分可能であるものの、左右の片側微分係数が一致しない場合にも、先の命題より、\(f\)は点\(a\)において微分可能ではないことが保証されます。

例(微分可能ではないことの判定)
関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =\left( \left\vert x\right\vert ,\left\vert x\right\vert
^{2}\right)
\end{equation*}を定めるものとします。成分関数\begin{equation*}
f_{1}\left( x\right) =\left\vert x\right\vert
\end{equation*}に注目すると、これは絶対値関数であるため、点\(0\)における右側微分係数は、\begin{equation*}f_{1}\left( 0+0\right) =1
\end{equation*}である一方で、点\(0\)における左側微分係数は、\begin{equation*}f_{1}\left( 0-0\right) =-1
\end{equation*}となります。つまり、点\(0\)において\(f_{1}\)の左右の微分係数は異なるため、点\(0\)において\(f\)の左右の微分係数もまた異なります。したがって、先の命題より\(f\)は点\(0\)において微分可能ではありません。

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