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ベクトル空間

ベクトル加法の性質

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ベクトル加法の結合律の一般化

公理によってベクトル空間という概念を定義した以上、ベクトル空間に関する主張はすべてベクトル空間の公理系から導く必要があります。ここではベクトル加法に関する基本的な性質をベクトル空間の公理系から導きます。

3つのベクトル\(x,y,z\in V\)を任意に選んだとき、ベクトル加法の結合律より、\begin{equation*}(x+y)+z=x+(y+z)
\end{equation*}が成り立ちます。これは3つのベクトル\(x,y,z\)のベクトル和をとるとき、隣り合う\(x,y\)と\(y,z\)のどちらに対して先にベクトル加法を作用させる場合でも、最終的に得られるベクトル和は等しいことを意味します。そこで、以上の2つのベクトル和を区別せずに、\begin{equation*}x+y+z
\end{equation*}で表記します。

4つのベクトル\(x,y,z,w\in V\)を任意に選んだ場合、隣り合うどの2つのベクトルに対して先にベクトル加法を作用させるかにより最終的に様々なベクトル和が得られますが、ベクトル加法に関する結合律を繰り返し適用することにより、\begin{eqnarray*}\left( \left( x+y\right) +z\right) +w &=&\left( x+\left( y+z\right) \right)
+w\quad \because \text{結合律} \\
&=&x+\left( \left( y+z\right) +w\right) \quad \because \text{結合律} \\
&=&x+\left( y+\left( z+w\right) \right) \quad \because \text{結合律}
\end{eqnarray*}が成立するため、結局、ベクトル加法を作用させる順番に関わらず、最終的に得られるベクトル和は同じであることが保証されます。そこで、以上の4つのベクトル和を区別せずに、\begin{equation*}
x+y+z+w
\end{equation*}で表記します。

任意の有限個のベクトルのベクトル和についても同様の議論が成立します。つまり、有限\(m\)個のベクトル\(x_{1},\cdots ,x_{m}\in V\)の相対的な順番を変えないままベクトル和をとるとき、ベクトル加法を作用させる順番とは関係なく最終的に得られるベクトル和は等しいため、それらのベクトル和を区別せずに、\begin{equation*}x_{1}+\cdots +x_{m}
\end{equation*}で表記します。証明ではベクトルの個数\(m\)に関する強数学的帰納法を用います。

命題(ベクトル加法の結合律の一般化)
有限\(m\)個のベクトル\(x_{1},\cdots ,x_{m}\in V\)を任意に選んだ上で、これらの相対的な順番を変えないままベクトル和をとるとき、ベクトル加法を作用させる順番とは関係なく最終的に得られるベクトル和は等しい。
証明

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ちなみに、ベクトル加法が結合律に加えて交換律を満たすことも踏まえると、有限\(m\)個のベクトル\(x_{1},\cdots,x_{m}\in V\)を任意に選んだとき、加法を適用する順番とは関係なく、また、これらのベクトルの順番を自由に入れ替えてもなお、最終的に得られるベクトル和が等しいことが保証されます。

 

逆ベクトルの逆ベクトル

ベクトル\(x\in V\)を任意に選んだとき、逆ベクトルの定義より、その逆ベクトル\(-x\)に相当するベクトルが存在します。\(-x\)はベクトルであるため、やはり逆ベクトルの定義より、さらにその逆ベクトル\(-\left( -x\right) \)が存在しますが、実はこれはもとのベクトル\(x\)と一致します。つまり、任意のベクトル\(x\)に対して、その逆ベクトルの逆ベクトルは\(x\)と一致するということです。

命題(逆ベクトルの逆ベクトル)
体\(K\)上のベクトル空間\(V\)において、ベクトル\(x\in V\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}-\left( -x\right) =x
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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ベクトル加法に関する簡約法則

ベクトル空間はベクトル加法について閉じているため、ベクトル\(x\in V\)に対してベクトル\(y,z\in V\)をそれぞれ加えることで得られる\(x+y\)と\(x+z\)はともにベクトルです。仮にこの2つのベクトル和が等しければ、\(x\)にそれぞれ加えた\(y\)と\(z\)が等しくなります。これをベクトル加法に関する簡約法則(cancellation law)と呼びます。これは直感的に自明な主張ですが、公理主義のもとではこれもまたベクトル空間の公理系から証明する必要があります。

命題(ベクトル加法の簡約法則)
体\(K\)上のベクトル空間\(V\)において、ベクトル\(x,y,z\in V\)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}x+y=x+z\Rightarrow y=z
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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ベクトル加法に関する簡約法則はベクトル空間の公理系から導かれた命題であるため、議論の前提として利用することができます。ベクトル加法に関する簡約法則からは様々な有用な命題を導くことができます。

 

ゼロベクトルの逆ベクトル

ゼロベクトル\(0\)はベクトルであるため、逆ベクトルの定義より\(-0\)もまたベクトルですが、ベクトル加法に関する簡約法則を利用すると、これが\(0\)と一致することが示されます。つまり、ゼロベクトル\(0\)の逆ベクトルは\(0\)と一致するということです。

命題(ゼロベクトルの逆ベクトル)
体\(K\)上のベクトル空間\(V\)において、ゼロベクトル\(0\)について、\begin{equation*}-0=0
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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ゼロベクトルの一意性

ベクトル加法に関する簡約法則を利用すると、ゼロベクトル\(0\)が一意的であることが示されます。

命題(ゼロベクトルの一意性)
体\(K\)上のベクトル空間\(V\)において、ゼロベクトルは一意的である。
証明

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逆ベクトルの一意性

ベクトル\(x\in V\)を任意に選んだとき、逆ベクトルの定義より、その逆ベクトル\(-x\)に相当するベクトルが存在しますが、ベクトル加法に関する簡約法則を利用すると、これが一意的であることが示されます。つまり、それぞれのベクトルに対して、その逆ベクトルは1つずつしか存在しないということです。

命題(逆ベクトルの一意性)
体\(K\)上のベクトル空間\(V\)において、ベクトル\(x\in V\)を任意に選んだとき、その逆ベクトル\(-x\in V\)は一意的である。
証明

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ベクトル減法の定義

ベクトル\(x,y\in V\)を任意に選んだ上で、ベクトルを値として取る変数\(z\in V\)に関する方程式\begin{equation}y+z=x \quad \cdots (1)
\end{equation}を考えます。\(y\)はベクトルであるため、その逆ベクトル\(-y\)に相当するベクトルが存在します。また、ベクトル空間\(V\)はベクトル加法について閉じているため\(x+\left( -z\right) \)もまたベクトルです。しかも、これは\(\left( 1\right) \)の唯一の解です。

命題(ベクトル減法の根拠)
体\(K\)上のベクトル空間\(V\)において、ベクトル\(x,y\in V\)を任意に選んだとき、方程式\(y+z=x\)は一意的な解\(z=x+\left( -y\right) \in V\)を持つ。
証明

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上の命題より、ベクトル加法\(+\)が与えられたとき、ベクトルを成分とするそれぞれの順序対\(\left( x,y\right) \)に対して、方程式\(y+z=x\)の一意的な解に相当するベクトル\(x+\left( -y\right) \)を定める\(V\)上の二項演算が定義可能です。これをベクトル減法(vector subtraction)と呼び、その演算子を\(-\)で表します。さらに、ベクトル減法\(-\)がベクトルの順序対\(\left( x,y\right) \)に対して定めるベクトル\(x+\left( -y\right) \)を、\begin{equation*}x-y
\end{equation*}で表記し、これを\(x\)と\(y\)のベクトル差(vectordifference)と呼びます。また、\(\left( x,y\right) \)に対して\(-\)を適用することを、\(x\)から\(y\)を引く(subtract)と言います。

 

ゼロベクトルとのベクトル減法

ゼロベクトル\(0\)はベクトルであるため、これと任意のベクトル\(x\)とのベクトル差をとることができますが、それについては、\begin{eqnarray*}x-0 &=&x \\
0-x &=&-x
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。つまり、ベクトルからゼロベクトルを引いても変化は起こらず、ゼロベクトルからベクトルを引くとそのベクトルの逆ベクトルが得られます。

命題(ゼロベクトルとのベクトル減法)
体\(K\)上のベクトル空間\(V\)において、ベクトル\(x\in V\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ x-0=x \\
&&\left( b\right) \ 0-x=-x
\end{eqnarray*}がともに成り立つ。

証明

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ベクトル和やベクトル差の逆ベクトル

ベクトル空間\(V\)はベクトル加法とベクトル減法について閉じているため、ベクトル\(x,y\)を任意に選んだとき、それらのベクトル和\(x+y\)やベクトル差\(x-y\)もまたベクトルであるため、それらの逆ベクトルが存在します。これについては、\begin{eqnarray*}-\left( x+y\right) &=&-x-y \\
-\left( x-y\right) &=&y-x
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。つまり、ベクトル和やベクトル差の逆ベクトルはいずれもベクトル減法を用いて表現できます。

命題(ベクトル和やベクトル差の逆ベクトル)
体\(K\)上のベクトル空間\(V\)において、ベクトル\(x,y\in V\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ -\left( x+y\right) =-x-y