点の錐結合
ユークリッド上の有限個の点\(\boldsymbol{x}_{1},\cdots ,\boldsymbol{x}_{k}\in \mathbb{R} ^{n}\)が与えられたとき、スカラー\(\lambda _{1},\cdots ,\lambda _{k}\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation*}\lambda _{1}\boldsymbol{x}_{1}+\cdots +\lambda _{k}\boldsymbol{x}_{k}
\end{equation*}という形で表される\(\mathbb{R} ^{n}\)の点を\(\boldsymbol{x}_{1},\cdots ,\boldsymbol{x}_{k}\)の線型結合(linear combination)と呼びます。特に、スカラー\(\lambda _{1},\cdots ,\lambda_{k}\in \mathbb{R} \)が以下の条件\begin{equation*}\forall i\in \left\{ 1,\cdots ,k\right\} :\lambda _{i}\geq 0
\end{equation*}を満たす場合には、つまり、すべてのスカラーが非負である場合には、線型結合のことを錐結合(conical combination)と呼びます。
\boldsymbol{y} &=&\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}
\end{eqnarray*}の錐結合は、\(\lambda _{1}\geq 0\)かつ\(\lambda _{2}\geq 0\)を満たすスカラー\(\lambda _{1},\lambda _{2}\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{eqnarray*}\lambda _{1}\boldsymbol{x}+\lambda _{2}\boldsymbol{y} &=&\lambda _{1}\left(
x_{1},x_{2}\right) +\lambda _{2}\left( y_{1},y_{2}\right) \quad \because
\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\text{の定義} \\
&=&\left( \lambda _{1}x_{1},\lambda _{1}x_{2}\right) +\left( \lambda
_{2}y_{1},\lambda _{2}y_{2}\right) \quad \because \text{ベクトルのスカラー倍の定義} \\
&=&\left( \lambda _{1}x_{1}+\lambda _{2}y_{1},\lambda _{1}x_{2}+\lambda
_{2}y_{2}\right) \quad \because \text{ベクトルの和の定義}
\end{eqnarray*}と表されます。また、3つの点\begin{eqnarray*}
\boldsymbol{x} &=&\left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2} \\
\boldsymbol{y} &=&\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2} \\
\boldsymbol{z} &=&\left( z_{1},z_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}
\end{eqnarray*}のアフィン結合は、\(\lambda _{1}\geq 0\)かつ\(\lambda _{2}\geq 0\)かつ\(\lambda _{3}\geq 0\)を満たすスカラー\(\lambda _{1},\lambda _{2},\lambda _{3}\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{eqnarray*}\lambda _{1}\boldsymbol{x}+\lambda _{2}\boldsymbol{y}+\lambda _{3}\boldsymbol{z} &=&\lambda _{1}\left( x_{1},x_{2}\right) +\lambda _{2}\left(
y_{1},y_{2}\right) +\lambda _{3}\left( z_{1},z_{2}\right) \quad \because
\boldsymbol{x},\boldsymbol{y},\boldsymbol{z}\text{の定義}
\\
&=&\left( \lambda _{1}x_{1},\lambda _{1}x_{2}\right) +\left( \lambda
_{2}y_{1},\lambda _{2}y_{2}\right) +\left( \lambda _{3}z_{1},\lambda
_{3}z_{2}\right) \quad \because \text{ベクトルのスカラー倍の定義} \\
&=&\left( \lambda _{1}x_{1}+\lambda _{2}y_{1}+\lambda _{3}z_{1},\lambda
_{1}x_{2}+\lambda _{2}y_{2}+\lambda _{3}z_{2}\right) \quad \because \text{ベクトルの和の定義}
\end{eqnarray*}と表されます。
凸錐
ユークリッド空間の部分集合\(C\subset \mathbb{R} ^{n}\)が与えられたとき、その2つの要素\(\boldsymbol{x}_{1},\boldsymbol{x}_{2}\in C\)を任意に選びます。このとき、これらの任意の錐結合が\(C\)の要素になることが保証されるならば、すなわち、\begin{equation*}\forall \boldsymbol{x}_{1}\in C,\ \forall \boldsymbol{x}_{2}\in C,\ \forall
\lambda _{1}\geq 0,\ \forall \lambda _{2}\geq 0:\lambda _{1}\boldsymbol{x}_{1}+\lambda _{2}\boldsymbol{x}_{2}\in C
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(C\)を凸錐(convex cone)と呼びます。
\end{equation*}が成り立つからです。
\end{equation*}は凸錐です(演習問題)。
\end{equation*}を構成すると、これは凸錐になります(演習問題)。
非空の凸錐\(C\subset \mathbb{R} ^{n}\)が与えられたとき、その要素\(\boldsymbol{x}\in C\)とゼロ\(0\in \mathbb{R} \)について、\begin{equation*}0\boldsymbol{x}+0\boldsymbol{x}\in C
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\boldsymbol{0}\in C
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、非空の凸錐はゼロベクトルを要素として持ちます。対偶より、集合\(C\subset \mathbb{R} ^{n}\)がゼロベクトルを要素としても持たない非空集合である場合、\(C\)は凸錐ではありません。
\end{equation*}について考えます。明らかに、\begin{equation*}
\boldsymbol{0}\not\in \mathbb{R} _{++}^{n}
\end{equation*}であるため、先の議論より\(\mathbb{R} _{++}^{n}\)は凸錐ではありません。
\end{equation*}を構成したとき、明らかに、\begin{equation*}
\boldsymbol{0}\not\in \left\{ \boldsymbol{x}\right\}
\end{equation*}であるため、先の議論より\(\left\{ \boldsymbol{x}\right\} \)は凸錐ではありません。
凸錐の幾何学的解釈
非空であるとともに1点集合\(\left\{ \boldsymbol{0}\right\} \)とは異なる凸錐\(C\subset \mathbb{R} ^{n}\)が与えられているものとします。線型独立な2つの異なるベクトル\(\boldsymbol{x}_{1},\boldsymbol{x}_{2}\in C\)を任意に選んだ上で、集合\begin{equation*}X=\left\{ \lambda _{1}\boldsymbol{x}_{1}+\lambda _{2}\boldsymbol{x}_{2}\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \lambda _{1},\lambda _{2}\geq 0\right\}
\end{equation*}を定義します。これは、原点\(\boldsymbol{0}\)を始点とするとともに点\(\boldsymbol{x}_{1}\)を通過する半直線\begin{equation}\left\{ \lambda _{1}\boldsymbol{x}_{1}\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \lambda _{1}\geq 0\right\} \quad \cdots (1)
\end{equation}と、原点\(\boldsymbol{0}\)を始点とするとともに点\(\boldsymbol{x}_{2}\)を通過する半直線\begin{equation}\left\{ \lambda _{2}\boldsymbol{x}_{2}\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \lambda _{2}\geq 0\right\} \quad \cdots (2)
\end{equation}によって挟まれた領域です(下図)。
凸錐の定義より、\begin{equation*}
X\subset C
\end{equation*}が成り立つことに注意してください。以上より、凸錐\(C\)に属する線型独立な2つの異なるベクトル\(\boldsymbol{x}_{1},\boldsymbol{x}_{2}\in C\)を任意に選んだとき、2つの半直線\(\left( 1\right) ,\left( 2\right) \)によって挟まれる領域(上図の青い領域)が必ず凸錐\(C\)の部分集合になることが明らかになりました。
凸錐の特徴づけ
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(C\)が凸錐である場合には、\(C\)の2つの点の任意の錐結合が\(C\)の要素になるだけでなく、\(C\)の任意個の点の任意の錐結合もまた\(C\)の要素になります。ただし、\(C\)の点の錐結合は\(C\)の有限個の点に対して定義される概念であることを踏まえると、これは、自然数\(k\)を任意に選んだ上で、さらに\(k\)個の点\(\boldsymbol{x}_{1},\cdots ,\boldsymbol{x}_{k}\in C\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}\forall i\in \left\{ 1,\cdots ,k\right\} :\lambda _{i}\geq 0
\end{equation*}を満たす任意のスカラー\(\lambda _{1},\cdots ,\lambda _{k}\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}\lambda _{1}\boldsymbol{x}_{1}+\cdots +\lambda _{k}\boldsymbol{x}_{k}\in C
\end{equation*}が成り立つという主張になります。\(C\)が凸錐である場合には以上の条件が成り立つということです(演習問題)。
逆に、任意の自然数\(k\)について、\(k\)個の任意の\(C\)の点の錐結合が\(C\)の要素である場合、その特殊ケースとして、\(2\)個の任意の\(C\)の点の錐結合は\(C\)の要素になりますが、これは\(C\)が凸錐であることの定義に他なりません。したがって以下を得ます。
ユークリッド空間の部分集合\(C\subset \mathbb{R} ^{n}\)が与えられたとき、自然数\(k\in \mathbb{N} \)を任意に選んだ上で、さらに\(k\)個の点\(\boldsymbol{x}_{1},\cdots ,\boldsymbol{x}_{k}\in C\)を任意に選ぶ。これらの点の任意の錐結合が\(C\)の要素であることは、\(C\)が凸錐であるための必要十分条件である。
凸集合であるような錐としての凸錐
集合\(C\subset \mathbb{R} ^{n}\)が以下の条件\begin{equation*}\forall \boldsymbol{x}\in C,\ \forall \lambda \geq 0:\lambda \boldsymbol{x}\in C
\end{equation*}を満たす場合には、すなわち、\(C\)が非負のスカラー倍について閉じている場合には、\(C\)を錐(cone)と呼びます。
集合\(C\subset \mathbb{R} ^{n}\)が凸集合であることは、\begin{equation*}\forall \boldsymbol{x}_{1}\in A,\ \forall \boldsymbol{x}_{2}\in A,\ \forall
\lambda \in \left[ 0,1\right] :\lambda \boldsymbol{x}_{1}+\left( 1-\lambda
\right) \boldsymbol{x}_{2}\in A
\end{equation*}が成り立つこととして定義されます。
集合\(C\subset \mathbb{R} ^{n}\)が錐かつ凸集合であることは、\(C\)が凸錐であるための必要十分条件です。
凸錐は凸集合であるような錐であることが明らかになりました。では、凸集合ではない錐や、錐ではない凸集合は存在するのでしょうか。存在します。
まずは、凸集合ではない錐を提示します。
\end{equation*}は錐ですが凸集合ではありません(演習問題)。
続いて、錐ではない凸集合を提示します。
\end{equation*}は凸集合ですが錐ではありません(演習問題)。錐ではないことは凸錐ではないことも意味するため、これは凸錐ではない凸集合の例でもあります。
部分空間は凸錐
実ベクトル空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間\(V\subset \mathbb{R} ^{n}\)が与えられているものとします。つまり、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ V\not=\phi \\
&&\left( b\right) \ \forall \boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\in V:\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y}\in V \\
&&\left( c\right) \ \forall \lambda \in \mathbb{R} ,\ \forall \boldsymbol{x}\in V:\lambda \boldsymbol{x}\in V
\end{eqnarray*}がすべて成り立つということです。部分空間\(V\)は凸錐です。
実ベクトル空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分空間\(V\subset \mathbb{R} ^{n}\)は凸錐である。
アフィン集合と凸錐の関係
集合\(C\subset \mathbb{R} ^{n}\)が凸錐であることは、\begin{equation*}\forall \boldsymbol{x}_{1}\in C,\ \forall \boldsymbol{x}_{2}\in C,\ \forall
\lambda _{1}\geq 0,\ \forall \lambda _{2}\geq 0:\lambda _{1}\boldsymbol{x}_{1}+\lambda _{2}\boldsymbol{x}_{2}\in C
\end{equation*}が成り立つことを意味する一方、\(C\)がアフィン集合であることは、\begin{equation*}\forall \boldsymbol{x}_{1}\in A,\ \forall \boldsymbol{x}_{2}\in A,\ \forall
\lambda \in \mathbb{R} :\lambda \boldsymbol{x}_{1}+\left( 1-\lambda \right) \boldsymbol{x}_{2}\in A
\end{equation*}が成り立つことを意味します。凸錐とアフィン集合はともに凸集合ですが、凸錐はアフィン集合であるとは限らず、アフィン集合は凸錐であるとは限りません。
まずは、アフィン集合ではない凸錐を提示します。
\end{equation*}を定義します。この集合\(C\)は凸錐ですがアフィン集合ではありません(演習問題)。
続いて、凸錐ではないアフィン集合を提示します。
L=\left\{ \left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y=1\right\}
\end{equation*}は\(\mathbb{R} ^{2}\)においてアフィン集合である一方で凸錐ではありません(演習問題)。
演習問題
\end{equation*}が凸錐であることを示してください。
\end{equation*}は錐である一方で凸集合ではないことを示してください。
\end{equation*}は凸集合である一方で錐ではないことを示してください。
\end{equation*}を定義します。この集合\(C\)は凸錐である一方でアフィン集合ではないことを示してください。
L=\left\{ \left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y=1\right\}
\end{equation*}は\(\mathbb{R} ^{2}\)においてアフィン集合である一方で凸錐ではないことを示してください。
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