実数集合のヴィタリ被覆
実数空間\(\mathbb{R} \)とルベーグ可測集合族\(\mathfrak{M}_{\mu }\)およびルベーグ測度からなるルベーグ測度空間\(\left( \mathbb{R} ,\mathfrak{M}_{\mu },\mu \right) \)が与えられているものとします。
実数空間の部分集合\(X\subset \mathbb{R} \)与えられたとき、それに対して\(\mathbb{R} \)の部分集合族\(\mathcal{V}\)が以下の2つ条件を満たす場合には、\(\mathcal{V}\)を\(X\)のヴィタリ被覆(Vitali Cover of \(X\))と呼びます。
1つ目の条件は、\(\mathcal{V}\)の要素がいずれも正の長さを持つ有界閉区間であるということです。つまり、\begin{equation*}I\left( \left[ a,b\right] \right) =\left\{ \left[ a,b\right] \subset \mathbb{R} \ |\ a,b\in \mathbb{R} \wedge a<b\right\}
\end{equation*}について、\begin{equation*}
\mathcal{V}\subset I\left( \left[ a,b\right] \right)
\end{equation*}が成り立つということです。ちなみに、端点が等しい区間は空集合であるため、すなわち\(a=b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)について\(\left[ a,b\right] =\phi \)であるため、\begin{equation*}\phi \not\in \mathcal{V}
\end{equation*}であることに注意してください。つまり、空集合はヴィタリ被覆の要素ではありません。また、任意の区間はルベーグ可測であり、区間の測度は区間の長さと一致するため、\begin{equation*}
\forall I\in \mathcal{V}:0<\mu \left( I\right) <+\infty
\end{equation*}が成り立つことに注意してください。つまり、ヴィタリ被覆の要素の測度は有限な正の実数です。
2つ目の条件は、どれほど小さい正の実数\(\varepsilon >0\)を選んだ場合でも、集合\(X\)のそれぞれの要素\(x\)に対して、\(x\)を要素として持つとともに長さが\(\varepsilon \)よりも短い区間を\(\mathcal{V}\)の中からそれぞれ選ぶことができるということです。つまり、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \forall x\in X,\ \exists I\in \mathcal{V}:\left[
x\in I\wedge \mu \left( I\right) <\varepsilon \right]
\end{equation*}が成り立つということです。
改めて整理すると、\(\mathbb{R} \)の部分集合\(X\)が与えられたとき、\(\mathbb{R} \)の部分集合族\(\mathcal{V}\)が\(X\)のヴィタリ被覆であることとは、以下の2つの条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \mathcal{V}\subset I\left( \left[ a,b\right] \right) \\
&&\left( b\right) \ \forall \varepsilon >0,\ \forall x\in X,\ \exists I\in
\mathcal{V}:\left[ x\in I\wedge \mu \left( I\right) <\varepsilon \right]
\end{eqnarray*}をともに満たすこととして定義されます。ただし、\begin{equation*}
I\left( \left[ a,b\right] \right) =\left\{ \left[ a,b\right] \subset \mathbb{R} \ |\ a,b\in \mathbb{R} \wedge a<b\right\}
\end{equation*}です。
\(\mathbb{R} \)の部分集合\(X\)を任意に選んだとき、そのヴィタリ被覆は必ず存在します。以下の例より明らかです。
\end{equation*}は\(X\)のヴィタリ被覆です。実際、この集合族の要素はいずれも有界な閉区間であるとともに、その閉区間の長さは、\begin{eqnarray*}\mu \left( \left[ x-\frac{1}{n},x+\frac{1}{n}\right] \right) &=&\left( x+\frac{1}{n}\right) -\left( x-\frac{1}{n}\right) \\
&=&\frac{2}{n} \\
&>&0\quad \because n\in \mathbb{N} \end{eqnarray*}を満たします。さらに、\(\varepsilon >0\)と\(x\in X\)をそれぞれ任意に選んだとき、任意の\(n\in \mathbb{N} \)について、\begin{equation*}x\in \left[ x-\frac{1}{n},x+\frac{1}{n}\right] \end{equation*}成り立つ一方で、十分大きい\(n\in \mathbb{N} \)のもとでは、\begin{equation*}\mu \left( \left[ x-\frac{1}{n},x+\frac{1}{n}\right] \right) =\frac{2}{n}<\varepsilon
\end{equation*}が成り立つからです。
ヴィタリの被覆定理
\(\mathbb{R} \)の部分集合\(X\)を任意に選びます。ただし、その外測度が有限であるものとします。つまり、\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( X\right) <+\infty
\end{equation*}が成り立つということです。\(X\)はルベーグ可測集合であるとは限らないため、ここではルベーグ測度\(\mu \)ではなく外測度\(\mu ^{\ast }\)を採用しています。
先の例から明らかであるように、\(\mathbb{R} \)の部分集合はヴィタリ被覆を持つことが保証されます。そこで、\(X\)のヴィタリ被覆\(\mathcal{V}\)を任意に選びます。ヴィタリ被覆の定義より、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \mathcal{V}\subset I\left( \left[ a,b\right] \right) \\
&&\left( b\right) \ \forall \varepsilon >0,\ \forall x\in X,\ \exists I\in
\mathcal{V}:\left[ x\in I\wedge \mu \left( I\right) <\varepsilon \right]
\end{eqnarray*}がともに成り立つことに注意してください。
以上の状況のもとで正の実数\(\varepsilon >0\)を任意に選びます。このとき、ヴィタリ被覆\(\mathcal{V}\)の要素である互いに素な有限個の区間\(\left\{I_{1},I_{2},\cdots ,I_{n}\right\} \subset \mathcal{V}\)の中に、以下の条件\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( X\backslash \coprod\limits_{i=1}^{n}I_{i}\right)
<\varepsilon
\end{equation*}を満たすものが必ず存在します。つまり、\(X\)のヴィタリ被覆の中から有限個の互いに素な区間を上手く選んだ上で、選んだ区間の和集合と\(X\)の差集合をとることにより、その差集合の測度をいくらでも小さくすることができます。互いに素な区間を選んでいるため、それらの和集合\(\bigcup_{i=1}^{n}I_{i}\)を非交和\(\coprod_{i=1}^{n}I_{i}\)として記述していることに注意してください。これをヴィタリの被覆補題(Vitali covering lemma)と呼びます。
\end{equation*}を満たすものとする。\(X\)のヴィタリ被覆\(\mathcal{V}\)を任意に選ぶ。\(\varepsilon >0\)を任意に選んだとき、それに対して、以下の条件\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( X\backslash \coprod\limits_{i=1}^{n}I_{i}\right)
<\varepsilon
\end{equation*}を満たす互いに素な有限個の\(\mathcal{V}\)の要素からなる集合族\(\left\{ I_{1},I_{2},\cdots,I_{n}\right\} \subset \mathcal{V}\)が存在する。
演習問題
\end{equation*}が\(X\)のヴィタリ被覆であることを示してください。
\end{equation*}が\(X\)のヴィタリ被覆であることを示してください。
^{\ast }\left( O\right) \leq \mu ^{\ast }\left( X\right) +\varepsilon
\end{equation*}が成り立つことを示してください。
プレミアム会員専用コンテンツです
【ログイン】【会員登録】